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13.忍び寄る魔の手
しおりを挟む好きか嫌いかならそりゃ圧倒的に大好きである。
なんせ蘭太には自分よりでかいイケメン成人男性(三十路)が、大変かわいらしく見えてしまっているので。
だって! だって、蘭太の作った拙い素人手作り料理を、鼻水垂らして泣くほど喜んで貪り食うんだぞ!? 自分の恋人の手料理だって普通ここまで喜ばない。いや、蘭太は恋人いたことないから知らんけど。
「あんなに喜ばれたら嬉しいし、都築さんのこと、かわいく見えてもしょうがなくない……?」
思考の海に揺蕩いながらも、蘭太の手は慣れた手つきでおにぎりを握っていく。
都築はかわいい。うん、かわいい。
かわいいって思う気持ちと、好きって思う気持ちは、似てる。
かわいいは、好きってこと。
わあ~かわいい~大っ嫌~い!
とは、ならないだろ普通。
だから、かわいいは、イコール好き。
でも、これは恋愛感情?
セックスできる好きなのか?
昨夜はお互い、雰囲気に流されたのでは?
「唇……柔らかかったな……」
ていうかあれ、ファーストキスだな?
「何ぶつぶつ言ってる」
黒井が背後から手元を覗き込んできて、蘭太の肩はびくっと跳ねた。
「おっ! かえりなさいっ」
「ただいま」
考えるのは一旦やめにして、朝食作りに集中し、起きてきた都築を交えて三人で食卓を囲んだ。
「すまん。取り逃がした」
先程帰宅したばかりの黒井が、白井の捕獲に失敗したことを報告する。
「白井はもうあの公園には現れないだろうねえ」
「振り出しに戻ったってことですか」
「いや、そう遠くないうちに向こうから姿を見せるさ」
都築の真剣な瞳が、まっすぐ蘭太を射抜く。
「私の大事なものを奪いにね」
「蘭太くん、私はきみのことが好きみたいだ」
黒井が日課の散歩に出かけた二人きりの事務所で、都築はそう切り出した。
「きみとセックスがしたいって意味だよ」
彼は、一晩のうちに自分の感情としっかり向き合って結論を出していたらしい。
「僕も都築さんのことは好きです」
真剣に考えてくれたはずだから、真剣に答えたかった。
「でも、セックスできるかどうかは……はっきり言い切れません。僕には恋愛経験がなくて、正直、戸惑ってます」
「そうか……」
「でも! 好きなのは好きなんです。ほんとです」
「うん。ゆっくり考えて、答えが出たら、教えてほしい」
「……はい」
会話が途切れて、なんとも言えない雰囲気が漂った時、事務所の電話が鳴った。
「はい。祓い屋都築です」
電話を終え、いざ出掛けようというタイミングで、別の依頼人が事務所を訪ねてきてしまった。その男があまりに切羽詰まった様子で、こちらの話も聞かず喚き立てるものだから、蘭太はそっと都築の背を押した。
「この人の話は僕が聞いておきます。都築さんは電話をくれた依頼人さんの方へ行ってください」
「……大丈夫?」
「話を聞くくらいできますよ。大丈夫です。それにもうすぐ黒井さんも帰ってくるだろうし」
それでもまだ心配な様子だったが、いざとなったら黒井さんにつまみ出させますと蘭太が笑ってみせれば、都築は蘭太の丸い頭をひと撫でしてから事務所を後にした。
「お待たせしました。どうぞ、こちらにお掛けください」
応接ソファに誘導して、向き合ってみたはいいものの。
男の話は支離滅裂で要領を得ない。はっきり言って、何を言いたいのかさっぱりだ。そして最終的には、とにかく現場に来てほしいと言って聞かない。
「行くだけ行ってみるか……」
不明瞭な話の途中で帰ってきていた黒井に指示をあおぐように目を向ければ、ため息まじりにGOサインが出た。
「どこへ行くんだ」
あやしむ黒井と並んで、数歩先を行く男の後を追う。男はふらふらと当て所なく進んでいるように見えた。しかしやがて、寂れたゲームセンターにふらっと入る。後に続くと、寂れた雰囲気からは想像もつかないほど人が詰まっていた。
「これはーーここ、『はざまの住人』の溜まり場になってやがる」
「え、じゃあ、この人達ーー」
「全員、『はざまの住人』だ」
「ここです! ここ、ここ! ここで怪奇現象が起きまくってるんですよ! ひはは!」
蘭太達をここまで案内した男は、まさか自分の周りにその怪奇現象の原因達がぞろぞろ屯しているとは夢にも思わないのだろう。興奮した様子で両腕を広げ、くるくる回っている。
「あれ? 黒井? おまえ、黒井だろ」
屯している『はざまの住人』の中から、金髪の青年が黒井を指差しながら歩み寄ってくる。
「ああ、おまえか……」
「なんだよ、久しぶりに会った相手にその反応かよ」
どうやら旧知の仲らしい。
「そういやおまえ白井捜してんだよな?」
「だったらなんだ」
「いやいや、実は最近白井見たって奴がいてよ」
「白井を?」
「ああ。こっち。あいつだよ、あいつ」
金髪に先導され、『はざまの住人』の群れを割って進む黒井の後に続こうとしてーー
蘭太は、背後から意識を奪われた。
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