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第1章 呪われました!
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しおりを挟む「女が好きな男でも男に欲情するもんなんですか?」
「人による、としか言えないな」
オムライスをつつきながら、平田はにこっと笑ってみせる。
「何、誠一郎くん、男相手にえっちな気分になったの?」
「お、俺じゃなくて友達が……!」
「ふうん」
誤ったか。
手嶋には他にこんなことを聞ける相手が思いつかなかったのだが、人選を間違えたかもしれない。
「そのお友達は、女の子が好きなのに、男に欲情したんだ?」
「…………たぶん」
「元々バイだった可能性は?」
「それは……」
考えたこともなかった。
だが、呪われる前の逢崎を見て、こいつは男も性欲の対象になる、とは誰も思わないだろう。
「その子は悩んでるの?」
「……へ?」
「女の子が好きなのに男に欲情しちゃったーどうしよう……って、悩んでるの?」
「いや……」
悩むどころか、男に対して欲情した自覚が逢崎にあるかどうかさえ定かではなかった。
「悩んでるのは……俺です」
このままでは、逢崎はまずいところまで行ってしまうんじゃないか。戻ってこれなくなるんじゃないか。女を口説いてこそ逢崎なんじゃないのか。
…………男に欲情する逢崎は逢崎じゃないのか?
手嶋は、逢崎が逢崎でなくなることを恐れていた。
「友達が、なんか、変わっていってる気がして……それが……」
「人は変わるよ」
平田は出来の悪い生徒に言い聞かす教師の顔をした。
「置かれた環境によって、人はどうとでも変わる。変わらない人なんていない。きみのお友達は、最近、環境が変わらなかったかい」
「……変わっ、た」
ある日を境に、逢崎は男しかいない地獄に突き落とされた。
「変わることは、悪いことかな?」
「良い方向に変わるなら、悪くないと思います」
「きみのお友達は、悪い方向に変わってるの?」
わからなかった。
「ただいま~」
「おかえりマスター。どこ行ってたの?」
「ちょっと買い出しついでに煙草休憩してきたのよ」
マスターが店に帰ってきて、平田との話が終わる。
手嶋はぎゅっと、心臓の上でエプロンを掴んだ。
ここが、絞られたような感じがした。
逢崎は、悪い方向に変わってるんだろうか?
肯定も否定もできない。
では、良い方向に?
これも、どちらとも言えない。
変わってしまった人間は、元に戻ることはできるんだろうか?
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