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第一章「剣鬼の誕生」
第十八話「剣鬼と悪魔」
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悲鳴が聞こえた方に急いで走ると、そこには悍ましい魔物がキャサリン達を襲っていた。体長は二メートル程、黒い皮膚に、頭部からは二本の白い角が生えている。まるで人間が巨大化した様な容姿をしており、背中には巨大な翼が生えている。
デーモンか……? まさか、ヴェルナーから程近い西の森にデーモンが居る筈がない。それに、魔物の手には冷気が纏わりついている。デーモンは闇属性だったが、目の前に居るデーモンに良く似た魔物は氷属性の使い手だ。
「レッサーデーモンが何故ここに居るんだ!」
ヴィルヘルムさんが怒鳴ると、キャサリンは目に大粒の涙を浮かべて俺達を振り返った。瞬間、レッサーデーモンが右手を振り上げてキャサリンを見下ろした。脳裏にエルザの姿が浮かんだ。彼女も無防備の状態でデーモンの攻撃を受けた。俺の体は無意識に動き、ロングソードでデーモンの爪を受け止めた。
レッサーデーモンという魔物が存在していたとは知らなかった。名前から察するに、デーモンの亜種である事は間違いないだろう。レッサーデーモンは血走った目で俺を見下ろし、力づくで爪を振り下ろした。俺の剣ではレッサーデーモンの一撃を受け止める事が出来ず、刃物の様な爪はまるで紙を裂く様に魔装を切り裂いた。胸部に焼ける様な痛みを感じる……。
胸からは大量の血が流れ出し、意識は朦朧とし、激痛のあまり立っている事もままならない。瞬間、ヴィルヘルムさんが鬼の様な形相を浮かべてレッサーデーモンに殴りかかった。ヴィルヘルムさんの拳がレッサーデーモンの腹部を捉えると、冷気が炸裂してレッサーデーモンの体を吹き飛ばした。しかし、魔術師の物理攻撃だからか、レッサーデーモンには殆どダメージが通っていない様だ。
ティファニーはレッサーデーモンを見つめながら震え、銀の杖を握り締めながら、力なく地面に座り込んだ。生物的に人間が狩られる側に居ると意識しているのだろうか、レッサーデーモンの爪は人間を仕留めるには十分すぎるほど鋭利で、体内にはヴィルヘルムさん等比較にならない程の爆発的な魔力を秘めている。
ヴィルヘルムさんは瞬時にレッサーデーモンに両手を向けると、アイスショットの魔法を連発した。レッサーデーモンはヴィルヘルムさんを憐れむ様な目で見下ろすと、あくびをしながら氷の塊を弾いた。実力があまりにもかけ離れている。
俺はヴェルナー付近の森に生息する魔物の種類は全て把握している。ヴィルヘルムさんを圧倒出来る力を持つ魔物は存在しない筈。レッサーデーモンの様な人間に近い容姿の魔物を見かけた事もない。これ程までに強烈な魔力を持つ魔物が森に生息していれば、間違いなくアーセナルで討伐隊を組み、早急に駆除していただろう。
「一体何故悪魔が居るんだ!」
「そいつが召喚したんだ!」
ヴィルヘルムさんが怒鳴ると、レザーメイルを身に付けた少年がキャサリンを指差した。普段着のまま森に入った少年はレッサーデーモンの攻撃を受けたのか、上腕から大量の血を流して意識を失っている。このままではたちまち全滅してしまう……。
胸部に出来ていた傷は既に塞がったが、血を流したから気分は優れない。敵の一撃は俺の戦意を削ぐには十分過ぎる程、強烈な攻撃だった。恐怖を堪えながらロングソードを握り締めてヴィルヘルムさんの前に立ち、左手をレッサーデーモンに向けて火の魔力を放出した。
初めて森に入ってから何百回と使用した攻撃魔法、ファイアボールを飛ばすと、炎の球は爆発的な魔力を散らしてレッサーデーモンの体を捉えた。レッサーデーモンは直撃を防ぐために体の表面に氷を纏わせていたのか、辺りには氷が飛び散り、無傷のレッサーデーモンは俺を馬鹿にする様に笑みを浮かべると、翼を開いて飛び上がった。
意気消沈したキャサリンは口を開きながら呆然とレッサーデーモンを見上げている。圧倒的な悪魔の強さに動く事すら出来ないのだろう。この場でまともに動けるのは俺とヴィルヘルムさんだけだ。ヴィルヘルムさんは俺の背後に立ち、アイスジャベリンの魔法を連発してレッサーデーモンに攻撃を仕掛けた。
レッサーデーモンは上空を旋回しながら、ヴィルヘルムさんの魔法を回避している。高速で宙を舞う悪魔に攻撃を直撃させるのは至難の業だ。
「ティファニー! 何を狼狽えている! 仲間を死なせたいのか? 早く攻撃魔法を放て!」
「え……? はっ……はい!」
ティファニーはヴィルヘルムさんの言葉を聞いて驚き、杖を握り締めて立ち上がった。怯えながら上空を見上げ、レッサーデーモンに対してウィンドショットを放つと、ティファニーの魔法がレッサーデーモンの顔面をかすめた。ティファニーは怯えながら何度も魔法を放ち、レッサーデーモンに攻撃を続けた。
レッサーデーモンは地上からの攻撃に苛立ちを感じたのか、口から冷気を吐き出すと、強烈な冷気が上空を覆った。瞬間、冷気の中には鋭利な氷柱が生まれた。無数の氷柱が一斉に落下を始めると、俺は炎を放出して氷柱を溶かし、敵の攻撃を無効化した。
レッサーデーモンの放った氷柱は木々を軽々と貫き、大地に大きなくぼみを作った。刃物の様に鋭利な氷柱が次々と地面に降り注いでいるのだ。これがレッサーデーモンの力なのか。魔法を相殺するだけでも精一杯だ……。
「お前が召喚したんだからなんとかしろよ!」
「だって……私達を襲うと思わなかったんだもん!」
「そんな事は知らないぞ! お前が呼び出した魔物だろうが!」
少年とキャサリンが口論を始めると、ヴィルヘルムさんがキャサリンの頬を叩いた。
「しっかりしろ! 口論している場合ではない! 全員で協力して敵を仕留めるぞ!」
「そんな……! 勝てる訳ない……!」
「こちらには剣鬼が居る。クラウスのために攻撃の機会を作れ! 死にたくなかったら全力で魔法を打ち込め!」
「わかったわ……! やってやる……! 私は国家魔術師になるんだから……!」
それからヴィルヘルムさんは少年の胸ぐらを掴むと、男ならしっかりしろと怒鳴りつけた。少年は涙を流しながらも、勇気を振り絞ってショートソードを握り締めた。
キャサリンがレッサーデーモンの冷気を吹き飛ばす様に、巨大な竜巻を作り上げると、上空に発生していた冷気が消え去った。レッサーデーモンは魔法を消された事に腹を立てたのか、キャサリンに目掛けて急降下を始めた。
このままではキャサリンが殺されてしまう……。瞬間、ティファニーがキャサリンの前に立ち、涙を流しながらレッサーデーモンの顔面に杖を向けて風の魔力を放出した。圧縮された風の魔力がレッサーデーモンの顔面に直撃すると、レッサーデーモンは口から血を流し、激昂して両手を振り上げた。
俺は瞬時にティファニーの前に立ち、全力でロングソードを振り下ろし、レッサーデーモンの顔面を叩き切った。ヴィルヘルムさんはいつの間にレッサーデーモンの背後に回っていたのか、敵の背中に向けて氷の槍を放つと、槍はレッサーデーモンを胸を貫いた。
レッサーデーモンは悍ましい呻き声を上げてヴィルヘルムさんを睨みつけると、俺は瞬時に跳躍し、両手をレッサーデーモンに向けた。全ての魔力を放出して炎の球を作り上げ、全力でレッサーデーモンの頭部に放つ。
「ファイアボール!」
巨大な炎の球がレッサーデーモンの頭部に直撃すると、辺りに炎が炸裂してレッサーデーモンの体を燃やした。敵は火を消すために逃げ出そうとしたが、俺は敵の腹部に深々と剣を突き立てた。ここでレッサーデーモンを逃がせば、近隣の村や町を襲い、人間を殺めて回るだろう。俺達が確実に仕留めなければならないんだ……。
それから一心不乱にレッサーデーモンを切り続けると、敵は全身から血を流して命を落とした。デーモンの亜種、レッサーデーモンか……。何と強い力を持った魔物だろうか。俺は敵の心臓付近に埋まっていた魔石を引き抜くと、綺麗に拭いてヴィルヘルムさんに渡した。この魔石は氷属性を持つヴィルヘルムさんが使用するべきだろう。
ティファニーは腕から血を流す少年に対して、ヒールポーションで傷を癒やした。暫くすると少年は意識を取り戻し、既に事切れたレッサーデーモンを見て涙を流した。
「キャサリン・ブライトナー! 悪魔を召喚するとはどういう事だ? ギルドに戻って説明して貰おうか!」
「……」
ヴィルヘルムさんがキャサリンを睨みつけると、彼女は大粒の涙を流して俯いた。俺達が居なければ、キャサリン達は確実に命を落としてだろう。俺も敵の攻撃を受けて大量の血を流してしまった。とてもこれからダンジョンで魔物狩りを行える状態ではない。
「ヴィルヘルムさん、落ち着いて下さい。敵は既に死んでいますから。一旦町に戻りましょう」
「どうして落ち着いて居られるんだ。全く、悪魔を召喚するとは! 一歩間違えればお前達は死んでいたんだぞ!」
「全部こいつが悪いんだ!」
「そうだ! キャサリンが、『悪魔を召喚したらティファニーに勝てる』からって言ったから信じたんだ! 俺達は悪くない!」
「黙れ! 召喚を止めなかったお前達も悪い! 冒険者の真似事をするなら他人に迷惑をかけるな! ここにクラウスが居なかったら俺達全員が命を落としてんだぞ!」
ヴィルヘルムさんが怒鳴ると、少年達はバツが悪そうに俯いた。確かに悪魔の召喚を止めなかった彼等にも責任はある。しかし、レッサーデーモンの様な強力な魔物をどうやって召喚したのだろうか……?
俺は死んだレッサーデーモンの前に立つと、無性に腹が立ってきた。またしても悪魔が俺の体に傷を付けた。それに、レッサーデーモンは俺よりも遥かに強かった。毎日死ぬ気で鍛えているのに、俺達全員が力を合わせなければ対等にやりあう事すら出来なかった。
悪魔め……。いつか必ず復讐してやる……! エルザを傷つけ、レーヴェの村人達を殺した忌まわしき魔物を殲滅してやる。人間を襲う悪質な魔物は全て俺の剣で切り裂いてやる。もう二度と愛する者を傷つけさせないんだ……。
レッサーデーモンとの戦闘で頭に血が上ったからか、俺の思考は随分暴力的になっている様だ。俺は一体どうしてしまったのだろうか。肉体の成長と共に、精神まで好戦的になっているのは気のせいだろうか。憎しみに任せて敵と戦ってはいけない……。悪魔の血が俺の精神を蝕んでしまう……。
俺はレッサーデーモンの爪と角を切り取った。強い氷の魔力を感じるから、ギルドに持ち込めば買い取って貰えるだろう。それから敵の肉を切り取ると、火で炙ってから齧った。忌々しい仇の肉を喰らい、全身に敵の力を取り込む。俺を人間から悪魔に変えたデーモンの亜種。いつか必ずデーモンを仕留めてみせる……。
「戻ろうか……」
俺は小さく呟くと、仲間達を先導して森を歩き始めた……。
デーモンか……? まさか、ヴェルナーから程近い西の森にデーモンが居る筈がない。それに、魔物の手には冷気が纏わりついている。デーモンは闇属性だったが、目の前に居るデーモンに良く似た魔物は氷属性の使い手だ。
「レッサーデーモンが何故ここに居るんだ!」
ヴィルヘルムさんが怒鳴ると、キャサリンは目に大粒の涙を浮かべて俺達を振り返った。瞬間、レッサーデーモンが右手を振り上げてキャサリンを見下ろした。脳裏にエルザの姿が浮かんだ。彼女も無防備の状態でデーモンの攻撃を受けた。俺の体は無意識に動き、ロングソードでデーモンの爪を受け止めた。
レッサーデーモンという魔物が存在していたとは知らなかった。名前から察するに、デーモンの亜種である事は間違いないだろう。レッサーデーモンは血走った目で俺を見下ろし、力づくで爪を振り下ろした。俺の剣ではレッサーデーモンの一撃を受け止める事が出来ず、刃物の様な爪はまるで紙を裂く様に魔装を切り裂いた。胸部に焼ける様な痛みを感じる……。
胸からは大量の血が流れ出し、意識は朦朧とし、激痛のあまり立っている事もままならない。瞬間、ヴィルヘルムさんが鬼の様な形相を浮かべてレッサーデーモンに殴りかかった。ヴィルヘルムさんの拳がレッサーデーモンの腹部を捉えると、冷気が炸裂してレッサーデーモンの体を吹き飛ばした。しかし、魔術師の物理攻撃だからか、レッサーデーモンには殆どダメージが通っていない様だ。
ティファニーはレッサーデーモンを見つめながら震え、銀の杖を握り締めながら、力なく地面に座り込んだ。生物的に人間が狩られる側に居ると意識しているのだろうか、レッサーデーモンの爪は人間を仕留めるには十分すぎるほど鋭利で、体内にはヴィルヘルムさん等比較にならない程の爆発的な魔力を秘めている。
ヴィルヘルムさんは瞬時にレッサーデーモンに両手を向けると、アイスショットの魔法を連発した。レッサーデーモンはヴィルヘルムさんを憐れむ様な目で見下ろすと、あくびをしながら氷の塊を弾いた。実力があまりにもかけ離れている。
俺はヴェルナー付近の森に生息する魔物の種類は全て把握している。ヴィルヘルムさんを圧倒出来る力を持つ魔物は存在しない筈。レッサーデーモンの様な人間に近い容姿の魔物を見かけた事もない。これ程までに強烈な魔力を持つ魔物が森に生息していれば、間違いなくアーセナルで討伐隊を組み、早急に駆除していただろう。
「一体何故悪魔が居るんだ!」
「そいつが召喚したんだ!」
ヴィルヘルムさんが怒鳴ると、レザーメイルを身に付けた少年がキャサリンを指差した。普段着のまま森に入った少年はレッサーデーモンの攻撃を受けたのか、上腕から大量の血を流して意識を失っている。このままではたちまち全滅してしまう……。
胸部に出来ていた傷は既に塞がったが、血を流したから気分は優れない。敵の一撃は俺の戦意を削ぐには十分過ぎる程、強烈な攻撃だった。恐怖を堪えながらロングソードを握り締めてヴィルヘルムさんの前に立ち、左手をレッサーデーモンに向けて火の魔力を放出した。
初めて森に入ってから何百回と使用した攻撃魔法、ファイアボールを飛ばすと、炎の球は爆発的な魔力を散らしてレッサーデーモンの体を捉えた。レッサーデーモンは直撃を防ぐために体の表面に氷を纏わせていたのか、辺りには氷が飛び散り、無傷のレッサーデーモンは俺を馬鹿にする様に笑みを浮かべると、翼を開いて飛び上がった。
意気消沈したキャサリンは口を開きながら呆然とレッサーデーモンを見上げている。圧倒的な悪魔の強さに動く事すら出来ないのだろう。この場でまともに動けるのは俺とヴィルヘルムさんだけだ。ヴィルヘルムさんは俺の背後に立ち、アイスジャベリンの魔法を連発してレッサーデーモンに攻撃を仕掛けた。
レッサーデーモンは上空を旋回しながら、ヴィルヘルムさんの魔法を回避している。高速で宙を舞う悪魔に攻撃を直撃させるのは至難の業だ。
「ティファニー! 何を狼狽えている! 仲間を死なせたいのか? 早く攻撃魔法を放て!」
「え……? はっ……はい!」
ティファニーはヴィルヘルムさんの言葉を聞いて驚き、杖を握り締めて立ち上がった。怯えながら上空を見上げ、レッサーデーモンに対してウィンドショットを放つと、ティファニーの魔法がレッサーデーモンの顔面をかすめた。ティファニーは怯えながら何度も魔法を放ち、レッサーデーモンに攻撃を続けた。
レッサーデーモンは地上からの攻撃に苛立ちを感じたのか、口から冷気を吐き出すと、強烈な冷気が上空を覆った。瞬間、冷気の中には鋭利な氷柱が生まれた。無数の氷柱が一斉に落下を始めると、俺は炎を放出して氷柱を溶かし、敵の攻撃を無効化した。
レッサーデーモンの放った氷柱は木々を軽々と貫き、大地に大きなくぼみを作った。刃物の様に鋭利な氷柱が次々と地面に降り注いでいるのだ。これがレッサーデーモンの力なのか。魔法を相殺するだけでも精一杯だ……。
「お前が召喚したんだからなんとかしろよ!」
「だって……私達を襲うと思わなかったんだもん!」
「そんな事は知らないぞ! お前が呼び出した魔物だろうが!」
少年とキャサリンが口論を始めると、ヴィルヘルムさんがキャサリンの頬を叩いた。
「しっかりしろ! 口論している場合ではない! 全員で協力して敵を仕留めるぞ!」
「そんな……! 勝てる訳ない……!」
「こちらには剣鬼が居る。クラウスのために攻撃の機会を作れ! 死にたくなかったら全力で魔法を打ち込め!」
「わかったわ……! やってやる……! 私は国家魔術師になるんだから……!」
それからヴィルヘルムさんは少年の胸ぐらを掴むと、男ならしっかりしろと怒鳴りつけた。少年は涙を流しながらも、勇気を振り絞ってショートソードを握り締めた。
キャサリンがレッサーデーモンの冷気を吹き飛ばす様に、巨大な竜巻を作り上げると、上空に発生していた冷気が消え去った。レッサーデーモンは魔法を消された事に腹を立てたのか、キャサリンに目掛けて急降下を始めた。
このままではキャサリンが殺されてしまう……。瞬間、ティファニーがキャサリンの前に立ち、涙を流しながらレッサーデーモンの顔面に杖を向けて風の魔力を放出した。圧縮された風の魔力がレッサーデーモンの顔面に直撃すると、レッサーデーモンは口から血を流し、激昂して両手を振り上げた。
俺は瞬時にティファニーの前に立ち、全力でロングソードを振り下ろし、レッサーデーモンの顔面を叩き切った。ヴィルヘルムさんはいつの間にレッサーデーモンの背後に回っていたのか、敵の背中に向けて氷の槍を放つと、槍はレッサーデーモンを胸を貫いた。
レッサーデーモンは悍ましい呻き声を上げてヴィルヘルムさんを睨みつけると、俺は瞬時に跳躍し、両手をレッサーデーモンに向けた。全ての魔力を放出して炎の球を作り上げ、全力でレッサーデーモンの頭部に放つ。
「ファイアボール!」
巨大な炎の球がレッサーデーモンの頭部に直撃すると、辺りに炎が炸裂してレッサーデーモンの体を燃やした。敵は火を消すために逃げ出そうとしたが、俺は敵の腹部に深々と剣を突き立てた。ここでレッサーデーモンを逃がせば、近隣の村や町を襲い、人間を殺めて回るだろう。俺達が確実に仕留めなければならないんだ……。
それから一心不乱にレッサーデーモンを切り続けると、敵は全身から血を流して命を落とした。デーモンの亜種、レッサーデーモンか……。何と強い力を持った魔物だろうか。俺は敵の心臓付近に埋まっていた魔石を引き抜くと、綺麗に拭いてヴィルヘルムさんに渡した。この魔石は氷属性を持つヴィルヘルムさんが使用するべきだろう。
ティファニーは腕から血を流す少年に対して、ヒールポーションで傷を癒やした。暫くすると少年は意識を取り戻し、既に事切れたレッサーデーモンを見て涙を流した。
「キャサリン・ブライトナー! 悪魔を召喚するとはどういう事だ? ギルドに戻って説明して貰おうか!」
「……」
ヴィルヘルムさんがキャサリンを睨みつけると、彼女は大粒の涙を流して俯いた。俺達が居なければ、キャサリン達は確実に命を落としてだろう。俺も敵の攻撃を受けて大量の血を流してしまった。とてもこれからダンジョンで魔物狩りを行える状態ではない。
「ヴィルヘルムさん、落ち着いて下さい。敵は既に死んでいますから。一旦町に戻りましょう」
「どうして落ち着いて居られるんだ。全く、悪魔を召喚するとは! 一歩間違えればお前達は死んでいたんだぞ!」
「全部こいつが悪いんだ!」
「そうだ! キャサリンが、『悪魔を召喚したらティファニーに勝てる』からって言ったから信じたんだ! 俺達は悪くない!」
「黙れ! 召喚を止めなかったお前達も悪い! 冒険者の真似事をするなら他人に迷惑をかけるな! ここにクラウスが居なかったら俺達全員が命を落としてんだぞ!」
ヴィルヘルムさんが怒鳴ると、少年達はバツが悪そうに俯いた。確かに悪魔の召喚を止めなかった彼等にも責任はある。しかし、レッサーデーモンの様な強力な魔物をどうやって召喚したのだろうか……?
俺は死んだレッサーデーモンの前に立つと、無性に腹が立ってきた。またしても悪魔が俺の体に傷を付けた。それに、レッサーデーモンは俺よりも遥かに強かった。毎日死ぬ気で鍛えているのに、俺達全員が力を合わせなければ対等にやりあう事すら出来なかった。
悪魔め……。いつか必ず復讐してやる……! エルザを傷つけ、レーヴェの村人達を殺した忌まわしき魔物を殲滅してやる。人間を襲う悪質な魔物は全て俺の剣で切り裂いてやる。もう二度と愛する者を傷つけさせないんだ……。
レッサーデーモンとの戦闘で頭に血が上ったからか、俺の思考は随分暴力的になっている様だ。俺は一体どうしてしまったのだろうか。肉体の成長と共に、精神まで好戦的になっているのは気のせいだろうか。憎しみに任せて敵と戦ってはいけない……。悪魔の血が俺の精神を蝕んでしまう……。
俺はレッサーデーモンの爪と角を切り取った。強い氷の魔力を感じるから、ギルドに持ち込めば買い取って貰えるだろう。それから敵の肉を切り取ると、火で炙ってから齧った。忌々しい仇の肉を喰らい、全身に敵の力を取り込む。俺を人間から悪魔に変えたデーモンの亜種。いつか必ずデーモンを仕留めてみせる……。
「戻ろうか……」
俺は小さく呟くと、仲間達を先導して森を歩き始めた……。
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