召喚物語 - 召喚魔法を極めた村人の成り上がり -

花京院 光

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第一章「冒険者編」

第八話「スケルトンの王」

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「コレ……」
「これが欲しいのかい? だって中身が分からないんだから、もしかしたら俺達の敵になる魔物が生まれるかもしれないじゃないか」
「ダイジョウブ」
「キングがそう言うなら良いんだけど……」

 キングが指差す先には紫色の卵があった。何の卵かは分からないが、幻魔獣のキングが選んだ卵だ。低級の魔物の卵ではないだろう。自分よりも劣る存在の卵を欲しいと言う訳が無いと思ったので、俺はこの卵を購入する事にした。しかし、手持ちのお金が足りない。

「俺達はこの卵が欲しいのですが、お金がないんです……何かアイテムと交換してくれませんか?」
「それじゃ……そのガントレットと交換でどうかね?」
「このガントレットは大切な物なのでお譲りする事は出来ません。ですがこの指環なら……」

 俺はガントレットを外し、指に嵌めていた指環を抜いた。霊力のシルバーリングを店主に渡すと、店主は目を輝かせて指環を受け取った。指環の相場は分からないが、キングが初めて欲しがった卵だ。キングには狩りを手伝って貰っているから、この卵はキングのために買ってあげよう。

 俺は紫色の卵を手に取った。卵は人の体温よりも少し暖かい。優しい風の様な魔力を感じる。俺達の支えになってくれる魔物が生まれてくれれば良いのだが。卵をキングに渡すと、目の中の青い炎が嬉しそうに揺れた。卵を大切そうに抱えると、俺とキングは店を後にした。

「他にも色々な卵があったけど、その卵で良かったのかい?」
「ウン……」
「そうか。それじゃ宿に戻ろうか」
「アリガト……サシャ」
「良いんだよ。この卵はきっと特別な物なんだろうね」

 明日も早朝に起きて廃坑に行こう。お金を稼がなければ生きていけない。それに、キングの魔法も見てみたい。お金を稼いだら装備を買い足し、防御力を上げなければならない。卵を孵化させる方法も調べなければならないな。魔物に関する本や、幻魔獣に関する本も買いたい。

 宿に戻った俺達は、ベッドに横になると、俺とキングは卵を間に挟むようにして眠りに就いた……。

 今は朝の六時。早朝に目を覚ました俺は、武器や防具の手入れをしてから、心地良さそうに眠るキングを起こした。今日も廃坑で狩りを行う。キングの魔法を見せて貰うつもりだ。仲間に魔法の使い手が居れば、更に効率良く狩りが出来るだろう。

 紫色の卵を抱えて、俺とキングは一階の食堂に降りた。パンとミルク、それからチーズと乾燥肉を食べると、直ぐに出発する事にした。狩りには卵を持っていく事にした。キングが少しでも一緒に居たいと言ったからだ。きっと自分が選んだ卵だから可愛いのだろう。町を出て深い森に入り、廃坑を目指した……。


〈廃坑〉

 町外れの廃坑入口に着いた。流石に卵を持ちながら戦闘は行えないので、付近の茂みの中に置いておいた。今日の目的はスケルトンのドロップアイテムを集める事だ。アイテムを集め、ロンダルクさんに買い取って貰い、装備を充実させる事が当面の目標だ。その前に、まずはキングの魔法を見せて貰う事にしよう。

「キング、廃坑で狩りを行う前に、魔法を見せて貰っても良いかな?」

 確か、キングが使用出来る魔法は、ヘルファイアとサンダーボルトだ。まずはヘルファイアを見せて貰う事にした。キングは廃坑付近の廃屋に右手を向けると、意識を集中させて魔力を集めた。瞬間、熱風のような強烈な魔力が炸裂し、辺りの気温を一気に上昇させた。

『ヘルファイア!』

 キングが魔法を唱えると、彼の右手からは巨大な炎が放出された。キングの炎は廃屋をいとも簡単に燃やし尽くした。「燃やす」という表現よりも「消し去る」という表現の方が適切かもしれない。彼の魔法は、瓦礫一つ残さずに廃屋を消し去ったのだ。驚異的な威力だ。近くに居るだけで強烈な熱風を感じた。これが幻魔獣の力か。

「キング。君は本当に強いんだね! 俺も早く君に追いつけるように強くならないとね」
「サシャ……」

 キングは恥ずかしそうに俺を見つめながら、俺の服の袖を掴んだ。小さくて可愛らしいが、魔法は信じられないほど凶悪だ。どんな魔物でも一撃で消し去る事が出来るのではないだろうか。木造の廃屋を一瞬で消滅させられるのだからな。自分の強さを知っているのに、俺の様な駆け出しの冒険者と共に居てくれるなんて、やはりキングは最高の仲間だ。

 しかし……世の中は広いんだな。ヘルファイアの様な強力な魔法が存在するとは、想像した事も無かった。まるで空想の世界の魔法。現実ではないような桁違いの破壊力。魔法を作り上げる速度も、威力も一流だ。

 続いてサンダーボルトを見せて貰う事にした。キングはメイスを頭上高く掲げると、上空には雷雲が集まり始めた。天候すらも一瞬で変化させられる魔法なのか。キングがメイスを振り下ろした瞬間、雷雲の中から一筋の雷撃が爆音を立てて放たれた。

 爆発的な魔力を周囲に撒き散らし、目にも留まらぬ速度で廃屋を捕らえると、地面を揺るがす程の衝撃と、魔力の爆発を体に感じた。俺はキングの魔法を目の当たりにして、自分の死を悟った。幻魔獣の魔法の前では、俺の様な人間はあまりにもちっぽけだ。幻魔獣が一体で国を一つ滅ぼという話も、今なら理解出来る。

 サンダーボルトは精確に廃屋を消し去っていた。不思議な事に、周囲に被害は無く、狙った場所に雷撃を落とせるみたいだ。スケルトンはメイスを振り回すだけの魔物だと思っていたが、キングは違う。高度な魔法を使用し、人間の言葉を理解する。きっと知能だって俺よりも高いのだろう。武器を使った戦闘よりも、後方から魔法支援をして貰った方が、キングの力を活かす事が出来るかもしれない。

「凄い魔法だったよ! これからも俺を支えてくれるかな?」
「サシャ……」

 キングの小さな体を抱きしめ、白骨の頭を撫でる。骨のなのに少しだけ暖かいのは気のせいだろうか。キングがこれ程までに強力な魔法の使い手だったとは、想像すら出来なかったが、キングの力を借りれば、俺達は直ぐに冒険者として成り上がる事が出来るだろう……。
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