召喚物語 - 召喚魔法を極めた村人の成り上がり -

花京院 光

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第一章「冒険者編」

第二十八話「砦の探索」

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 朽ち果てた砦からは禍々しい魔力が辺りに流れており、近くに居るだけで気分が悪くなりそうだ。強力な魔力が砦から侵入者を拒む様に流れている。

「この魔力の感じは魔族だろうか。それに、闇属性の魔物も潜んでいるのだろう。俺は魔物育成に携わって長いが、これ程までに禍々しい魔力は初めてかもしれん……」
「そうね、この魔力の強さは尋常じゃない気がするの」

 ゲルストナーとアイリーンが不安そうな表情を浮かべて砦を見つめた。この砦には高レベルの魔物が潜んでいるのだろうか。キングとルナは平気なそうな表情を浮かべているという事は、幻魔獣程の魔物ではないと言う事だろう。

「サシャ」
「どうしたんだい? キング」
「トリデ……」
「砦に入った方が良いと思うかい?」
「ウン……」

 キングは静かに頷くと、ルナは翼を開いて上空に飛び上がった。砦に潜む魔物と戦いたくて仕方がないといった様子だ。キングは慎重な性格だが、ルナは好戦的だ。きっと戦闘を好む種族の魔物だからだろう。ルナに続いてアイリーンも馬車から飛び上がった。跳躍力は人間とは比較にならない程高く、軽やかに着地すると、槍を構えて微笑んだ。

「俺達も行くか……」
「そうだね。ユニコーンは森で待機していてくれるかな?」

 ユニコーンを森で待たせ。俺達は砦の攻略を始めた。ルナとキングが興味を示す程の魔物が潜んでいるのだ。強い魔物を倒して素材を回収すれば、新しく召喚して仲間にする事も出来る。それから武器と防具を点検し、キングを連れて砦に向かった。

 砦は石造りの二階建ての建物で、周囲には木製の柵が建っているが、何者かに柵を破壊されている。仲間達と陣形の確認をし、ゲルストナーを先頭にして砦に踏み込んだ。

 乱雑に置かれた家具には埃が被っており、かつては人が住んでいた雰囲気だ。一階は大広間になっており、長いテーブルの上には動物の死骸が置かれている。死骸には巨大な爪で引っ掻いた様な痕が付いている。この動物を殺めた魔物がこの砦の中に居るのだろう。敵が強ければ強いほど冒険者として戦い甲斐がある。きっとこの砦に潜む魔物は、元々住んでいた人間を殺めてこの場所を占拠したのだろう。

 人間を襲う魔物を倒す。それが冒険者としての仕事だ。ここで俺達が倒さなければ、砦から出てきた魔物が付近に暮らす人間を襲う可能性もある。それに、俺自身は自分の力を試したい。村を出てから毎日死ぬ気で訓練をしてきたんだ。レベルでは測れない自分自身の強さを知りたい。いつか必ず、俺はこの大陸で最高の冒険者になるんだ……。

 大広間を抜けると、二階に続く階段と地下に続く階段を見つけた。二階を先に探索してみたが、魔物の気配は無く、汚れきった寝室や書斎があるだけだった。地下を探索しよう。これから先はいつ魔物に襲われるかも分からない。右手でグラディウスを抜き、注意深く地下に続く階段を降りる。

 苔むした石の階段を一歩ずつ降りるごとに、力強い魔力を肌に感じる。恐ろしいな……明らかに自分よりも格上の敵が居る。毎日魔法の訓練をしているからだろうか、魔力の強さや性質が手に取るように分かる。

 階段を降りるとそこは牢獄になっていた。錆びついた金属製の牢が並んでおり、牢の中には白骨化した人間の骨があった。どうやら人間が監禁されていたみたいだ。ゲルストナーが骨に対して鑑定の魔法を唱えると、宙に魔法の文字が浮かんだ。

「どうやらこの骨は人間の貴族の物の様だ。ここに監禁されて殺されたのだろう」
「貴族がどうしてこんな場所に?」
「それは分からないが、この先に居る魔物が関係している事は確かだろう」
「そうか……皆、慎重に進むように」
「ルナが居るから大丈夫だよ。先に進もう」

 ルナはレイピアを握り、周囲を警戒している。いつでも攻撃を仕掛けられる様に準備しているのだろう。パーティーで最高の反応速度を持つハーピーは頼りになる。道中で魔物と出くわしても、敵の出現と共にルナの剣技が炸裂する。

 更に地下を進むと、人間の死体を見つけた。真新しい死体の胸部には深々と爪の痕が付いている。ゲルストナーが死体を確認すると、傷跡から魔物を推測した。

「一階の動物の死骸も、この人間の死体にも共通の傷が付いている。攻撃の際に強い闇の魔力を込めたのだろう。こんな芸当が出来るのは幻獣クラスの魔物に違いない。もしかするとブラックドラゴンと同等、それ以上の力を持つ魔物かもしれん」
「ブラックドラゴンと同等? そんな相手と戦うのか……」
「狼系の魔物だろうな。幻獣のブラックライカンだろうか……」

 ゲルストナーが呟いた瞬間、アイリーンが槍を構えた。地下の暗闇の中からは巨体の魔物が姿を現した。全身が黒い毛で覆われており、赤く血走った目が俺達を睨みつけている。体長二メートル程の巨大な狼だ。敵はゲルストナーに標的を定めたのか、一気に距離を詰めてゲルストナーに体当たりを放った。

 敵がゲルストナーの体をいとも簡単に吹き飛ばすと、ゲルストナーは壁に激突した。頭部からは血が滴り落ちている。ルナはゲルストナーを守るかの様に敵の前に立ちはだかり、鬼のような形相を浮かべてレイピアを振り下ろした。

 突風の様な強烈な魔力が炸裂すると、レイピアの先からは三日月状の魔力の刃が飛び出し、敵の胴体を切り裂いた。敵が深手を負って逃げ出そうとした瞬間、俺は敵の背後にアースウォールを作り、魔力を込めたグラディウスで水平斬りを放った。

『スラッシュ!』

 グラディウスで狼の首を捕らえ、そのまま力ずくで剣を水平に振る。筋力に魔力と武器の性能が上乗せされた水平斬りは、一撃で狼の首を飛ばした。俺の剣技はここまで強くなっていたのか……直ぐにゲルストナーに駆け寄ると、彼は力なく微笑んだ。鞄からヒールポーションを取り出してゲルストナーに飲ませると、頭部の傷は塞がったが、随分血を流してしまったみたいだ。

「全く……不甲斐ない姿を見せてしまった……だが、俺はもう大丈夫だ。先を進もう」
「ゲルストナー。無理はしなくても良いよ。ここから先は俺達で攻略する。ゲルストナーはユニコーンと合流して休んでいてくれよ」
「そうだな……それなら俺は一足先に戻るとしよう。久々に戦いの最中に死を意識した。皆、気を抜くなよ。この魔物はブラックウルフ。魔獣クラスの魔物が通路を守っていると言うことは、やはりこの先には幻獣クラスの魔物が潜んでいるだろう……」

 ゲルストナーは疲れきった表情を浮かべて砦を後にした……。
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