召喚物語 - 召喚魔法を極めた村人の成り上がり -

花京院 光

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第三章「魔王討伐編」

第百十二話「騎士団の力」

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〈ゲルストナー視点〉

「敵が多いな。なんとか交戦せずに城内に逃げ込まなければならない……」
「そうね、注意を払って城を目指しましょう」
「皆、不要な戦闘は避けろ!」
「分かりました!」

 地上はまるで地獄の様だ。腐敗が始まった魔物の死体と人間の死体が散乱しており、町には邪悪な魔物が練り歩いている。不必要な戦闘を避けなければ、幻獣の召喚に必要な魔力を失ってしまう。

 こういう時はアイリーンが大いに活躍する。彼女は遥か遠くに居る魔物の気配まで察知出来るからだ。アイリーンを先頭にし、俺達はクリスタルを守る様に町を進んでいる。廃墟と化した家の中で息を潜めている人達を救出しながら、アルテミシア城を目指す。

 町の至る所には、オーガやタイタンの様な、幻獣の中でも体が大きく、獰猛な魔物が徘徊している。幻獣だけならともかく、スケルトンやゴブリン、スライムの様な低級の魔物も蔓延っている。戦闘が始まれば、騒音で周囲の魔物を一気に引きつけてしまうだろう。

 幻獣の監視の目を掻い潜りながら町を進む。緊張で脂汗が吹き出し、剣を握る手は震えている。戦士として、何度も命を賭けた戦いを乗り越えたきたが、今より危険な状況に足を踏み込んだ事は無い。ほんの少しのミス、少しの騒音でも立てれば、たちまち幻獣に包囲され、集中攻撃を受けるだろう。

 暫く町を進むと、アルテミシア城が見えてきた。城の周りには巨大な魔法陣が展開されている。これは城を守るために書かれたものだろう。

 城の衛兵が駆けつけてきた。衛兵はクラウディアに状況を説明すると、クラウディアは愕然とした表情を浮かべた。衛兵の話では、王国軍の兵士の大半は既に命を落とし、クラウディア以外の聖戦士も命を落としたのだとか。

 他にも三名の聖戦士がアルテミシアに滞在していたらしく、残る聖戦士はサシャと共に魔王討伐に向かっている。王国を守る最高戦力も、クラウディア以外に居ないという訳か。クラウディアの実力はまだ不明だが、衛兵の態度を見る限り、聖戦士とはかなり高位な職業なのではないだろうか。

「急いで魔法を使える人を集めて頂戴。幻獣を召喚するわよ!」
「幻獣ですか? はい、直ちに!」

 若い衛兵は大急ぎで城を回り、魔法の心得がある者を集めてきた。中にはアルテミシアも民も含まれている。人数は四十人ほど。これだけの人数で幻獣を召喚出来るのだろうか。全てはキングの魔力とクリスタルの魔法能力に掛かっている。俺も自分自身の魔力をクリスタルに分けよう。

「クラウディア様! 魔法を使える者を連れて参りました!」
「ご苦労様。皆さん、私は聖戦士のクラウディア・ファッシュです。これから幻獣のサイクロプスを召喚します」
「クラウディア。無事だったか……サイクロプスだって?」
「はい! 陛下。町に滞在していた、ボリンガー騎士団の若き召喚士が、幻獣の召喚に挑戦します!」

 立派な身なりをした四十代程の男性が城の奥から出てきた。彼がアルテミス王国の国王なのだろう。プレートメイルには王国の紋章が入っている。

 クラウディアはこれからサイクロプスの目玉を使って幻獣のサイクロプスの召喚をする旨を伝えた。魔法が使える者達の実力がどれ程かは分からないが、魔力の高いキングが居ればきっと召喚は成功するに違いない。

「クリスタル、準備が出来たぞ」
「分かりました……」
「大丈夫だ、心配するな。これだけの人数が居ればきっと召喚出来る!」
「そうですね、やってみます!」

 大広間に集まった人達の視線が、一斉にクリスタルに注がれた……。


〈クリスタル視点〉

 私が幻獣の召喚なんて、本当に出来るのかな? ゲルストナーの話では、サイクロプスは幻獣の中でも高位な魔物。巨人族の中でも力が強く、獰猛な性格で人間を襲う悪質な魔物。

 この召喚に失敗すれば、城内に居る魔法職の人達の魔力を無駄にしてしまう。大勢の人達の命が掛かっているんだ。絶対に失敗する訳にはいかない。きっと成功するはず。私は師匠から召喚魔法の許可を得ているのだから。

 幻獣のサイクロプスが居れば、キングとユニコーンと連携し、町を占拠する魔物を駆逐出来るはず。サイクロプスが盾になり、キングが魔法で敵を倒す。ユニコーンが居れば傷を癒やす事も出来るのだから、サイクロプスは無敵の盾になるでしょう。

 やるしかないんだ。私の召喚魔法に王国の存亡が。人間の命が掛かっているんだ。私は師匠からアルテミシアを任されている。私達の力で、魔王軍からアルテミシアを奪還してみせる。

「皆さん! 私は幻魔獣の召喚士、サシャ・ボリンガーの弟子。クリスタル・ニコルズです! これから私は幻獣のサイクロプスの召喚をします! 皆さんの魔力を私に下さい!」

 私が集まった人達に伝えると、キングは私の右肩に手を置き、魔力を注いでくれた。体中にキングの魔力が入ってくる。体には人生で感じた事も無い程の魔力が流れてきている。今なら最高の召喚魔法が使える気がする……。

 続いてゲルストナーが私の左肩に手を置いた。穏やかな魔力が流れてくる。大広間に集まった人達は、私に両手を向けて、自身の魔力を分け与えてくれた。私の体を魔力の器とし、幻獣の召喚に望む!

 頂いた魔力を両手から放出し、素材と召喚書に注ぐ。師匠の言葉によれば、「魔法は想像が重要。完成形をはっきりと想像する事が、強力な魔法を作り上げる秘訣」なのだとか。私は師匠の教えの通り、サイクロプスの完成形を頭に思い描いた。キングの様に民を守る神聖な魔物。ゲルストナーの様に、自ら率先して敵の攻撃を受け、師匠の様に強力な攻撃で次々と敵をなぎ倒す最強の戦力。新たに生まれる魔物を想像しつつ、全ての魔力を放出させる。

『サイクロプス・召喚!』

 魔法を唱えると、召喚書と素材は辺りに爆発的な光を放った。これは師匠がフィッツ町でユニコーンを召喚した時の様な感じ。大広間全体に穏やかな光が流れると、強烈な魔力が漂い始めた。

 暫くすると、光の中からは一つ目の魔物が姿を現した。薄紫色の皮膚、筋肉は異常なまでに発達しており、目は澄んだ青色。見た目の恐ろしさとは裏腹に、表情は穏やかだ。彼はしゃがみ込むと、私の頭を撫でた。

 少し恐ろしいけれど、私の事を主として認識しているみたい。私はサイクロプスの手に口づけをすると、自然と涙が溢れた。私が幻獣を召喚したんだ。これで魔王軍と有利に戦える様になるわ。

「幻獣が生まれたぞ! サシャ・ボリンガーの弟子が、サイクロプスの召喚に成功した!」
「皆さん! 魔力を分けて下さってありがとうございます! ボリンガー騎士団は、全力を尽くしてアルテミシアの奪還に臨みます!」
「うむ。よくやったぞ。クリスタル」

 ゲルストナーは私を抱きしめてくれた。それから陛下は微笑んでウィンクをしてくれた。直ぐに戦場に戻らなければならないわ。生まれたばかりのサイクロプスには申し訳ないけど、私達は再び町に戻る事になる。

「サイクロプス! 私は召喚士のクリスタル・ニコルズ。あなたはアルテミス王国を守るために生まれてきた。私達の戦いに力を貸してくれる?」
「……」

 サイクロプスは柔和な笑みを浮かべ、小さく頷いた。どうやら言葉を理解している様だ。私はサイクロプスのために装備を作る事にした。私には師匠から教わった土の魔法がある。師匠の土の魔法は、硬質化させれば、ルナのウィンドカッターを防ぐ事もでき、アイアンメイデンの様な強力な攻撃魔法にもなる。私はサイクロプスの体に杖を向け、魔力を放出した。

 サイクロプスの巨体を覆うように、丈夫な土の鎧を作り上げ、極限まで硬質化させた土の棍棒を持たせた。強度は弱いだろうけど、土はいくらでも作り出す事が出来る。装備が壊れればまた作れば良い。

 サイクロプスは満足気に装備を触ると、真っ先に城を出た。ついに魔王軍との戦闘が始まる……。
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