召喚物語 - 召喚魔法を極めた村人の成り上がり -

花京院 光

文字の大きさ
111 / 188
第三章「魔王討伐編」

第百十一話「ゲルストナーの覚悟」

しおりを挟む
〈ゲルストナー視点〉

 そろそろ行動を始めるべきだろうか。潜伏生活を始めて十日が経った。食料を切り詰め、町を徘徊する幻獣や魔獣を倒すための作戦を練っているが、俺達だけで複数体の幻獣を相手に出来るとは思えない。

 自分達が幻獣を倒している光景が全く想像出来ない。こちらには幻獣のユニコーン、幻魔獣のキングが居るが、ユニコーンは基本的に戦闘に参加しない。攻撃手段を持たない、回復魔法に特化した幻獣だ。キングは強力な攻撃魔法を使いこなす幻魔獣だが、戦い方は一撃必殺。膨大な魔力から作られた最強の魔法を作り出せるが、直ぐに魔力を使い果たしてしまう。

 キングと幻獣が一対一で戦えば、間違いなくキングが勝つだろうが、敵が複数の場合は不利だ。魔力が枯渇してしまえば、俺達は幻獣を倒す手段を失う。キングの魔法だけが頼りだ。

 それにしても、王国軍は何をしているんだ? 戦力不足にも程がある。魔王軍の魔物を駆逐する事すら出来ず、民を見捨てて逃げ出す者も居る。軍隊だとしても所詮は人間。命を懸けて民を守る事よりも、自分の命を優先して逃げ出す。幻獣相手に戦いを挑める者の方が異常だが、力の無い者を見捨てる人間にはなりたくないな。

 どうにかしてこの状況を変えなければならない。サシャが居ればどうするだろうか。きっと自ら囮になり、街中を走り回って幻獣の注意を引く。敵を一箇所に集めてから、メテオストームを落とし、魔物の群れを蹴散らすだろう。そんな芸当はこの大陸でサシャ・ボリンガーにしか出来ない。

 せめてもう一体、強力な召喚獣が居れば、幻獣を相手にしても対等にやりあえるかもしれない。キングの魔法は魔力の消費が多すぎる。魔法攻撃ではなく、力で敵をねじ伏せられる様な魔物が居れば良いだが。

 二日前に、キングが町中でサンダーボルトを使い、サイクロプスを仕留めた。一つ目の魔物で、巨人族に分類されている。異常なまでに発達した筋肉に、獰猛な性格。とても並の冒険者が相手に出来る魔物では無いが、キングは魔法一発で敵の命を奪った。

 サンダーボルトは一撃必殺の最強の攻撃魔法。しかし、魔法使用時の爆発音が大きすぎる。キングはサイクロプスを仕留めると、サイクロプスの目玉を回収して、急いで地下室に戻ってきた。

 手元にあるのはサイクロプスの目玉だけだ。サシャなら、この素材から召喚して仲間を増やしただろうが、一人で幻獣を召喚出来る、天才的な召喚士など、サシャ以外には存在しない。絶望的だな……。

「ゲルストナー。地下に隠れ続けていても、いつかは魔王の手下に見つかるわ」
「確かにな。このまま町を捨てて逃げるしかないのだろうか」
「私は貴方達騎士団の判断に従うわ。どのみち、私一人では幻獣を相手にする事は出来ないのだから」

 クラウディアは思い詰めた表情で俺を見つめた。王国から国防を任されているクラウディアでさえ、一人で幻獣を倒す事は不可能。高レベルの冒険者パーティーでも居ない限り、この状況を変える事は出来ないだろう。俺達がクラウディアに力を貸す事も出来るが、俺は仲間を死なせるつもりはない。

「ゲルストナー。逃げ出すにしても、早くした方がいいの」
「それはそうだな。しかし、民を守る騎士団としても、この町を捨てて逃げ出す事はいかがなものか……」
「それはそうですが、この状況ですから、無謀な戦いを挑むよりは逃げた方が良いのかもしれませんよ」

 キングは決心した様な表情でサイクロプスの目玉を持った。

「ショウカン」
「え? サイクロプスを召喚するのか?」
「ウン……クリスタル」

 キングはクリスタルに素材を渡すと、クリスタルは唖然とした表情でキングを見つめた。まさか、クリスタルが幻獣を召喚出来ると思っているのだろうか?

「ゲルストナー。幻獣を召喚するには、私達の魔力では足りないでしょう。アルテミシア城に行けたら、陛下や魔術師の力を借りられるかもしれません」
「避難している人達の魔力を全て借りれば、もしかすると幻獣を召喚出来るかもしれんな……」

 悩み続けていても状況は変わらない。こちらには幻獣の素材があるんだ。サイクロプスが生まれれば、キングと協力して戦況を変えられるかもしれない。挑戦してみる価値はあるだろう。逃げずに戦うか……。

「私、師匠みたいに召喚出来るかな。もし失敗したら、貴重な魔力を失う事になる……」
「ダイジョウブ……キングイッショ」
「クリスタル。あたし達が付いているから大丈夫なの」
「そうですね……前向きに考える事にします。召喚を成功させるしかないのですから」

 キングはクリスタルの肩を抱いた。騎士団でサシャの次に魔力が高いキングが召喚の際に魔力を注げば、幻獣をも召喚出来るかもしれない。それに、クリスタルとてサシャの弟子。旅の間に魔力を鍛え続けてきたのだ。クリスタルの召喚能力を信じるしかないだろう。

「俺達は今からアルテミシア城に向かう! 一人でも多くの市民を救助しながら、城内に逃げ込む。それからクリスタルを代表として幻獣のサイクロプスを召喚する! いいな!」

 ここから城まではそう遠い距離ではない。俺達なら出来るだろう。そう信じて作戦を実行するしかない……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...