召喚物語 - 召喚魔法を極めた村人の成り上がり -

花京院 光

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第四章「騎士団編」

第百四十三話「サシャの新装備」

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 暫く店内で待っていると、エイブラハムが新たに作り直した俺の装備を持ってきた。デュラハンの大剣は片手でも扱いやすいブロードソードに、魔族のクリスはマインゴーシュという武器に作り直されていた。

「サシャ、マインゴーシュは二刀流の際に、利き手ではない方の手で持つ武器だ。敵の攻撃を受け流せるように、柄には通常の剣より大きめのガードが付いている」

 新しい武器は「デュラハンのブロードソード」と「魔族のマインゴーシュ」だ。俺は三本の剣を左腰に提げた。剣を三本も装備しているにも関わらず、不思議と重さは全く感じない。これはデュラハンの魔装の効果だろうか。それとも、剣に重量が軽くなる魔法が掛かっているのだろうか。

 マインゴーシュを鞘から抜いてみみると、以前使っていたショートソードよりも短く、攻撃を受け流すためだけの武器の様だ。デュラハンのブロードソードに関しては、重量は三分の一程度になり、以前の様な重量感は全く無くなった。剣が軽いからか、剣を振ってみると、以前よりも遥かに早い速度で剣を動かす事が出来た。やはり、自分の体や筋肉の強さに合った武器を使わなければならないのだろう。剣の鞘にはアルテミス王国の紋章が刻まれている。

「紋章を刻むのは勇者として地位を証明するためだ。今回の作り直しに関する費用は要らないよ。魔王を倒し、弟のエドガーの命を救ってくれたのだからな。話は全て町の者から聞いたぞ」
「ありがとう! 新しくなった剣は最高だよ。体の一部の様に感じる。それから、あそこに飾ってあるロッドを買いたいのだけど」

 俺はクリスタルにプレゼントするためのロッドを指差した。

「サシャは目が高いな! あのロッドを選ぶとは……贈り物なのか? プレゼント用に包む事も出来るぞ」

 エイブラハムは巨体に似合わず仕事は細かい様だ。ロッドの代金を払うと、エイブラハムはロッドを小さな箱に仕舞い、綺麗なリボンを結び付けてくれた。これで完璧だろう。俺は受け取ったロッドをマジックバッグの中に仕舞った。

「サシャ! 今度一緒に飲みに行こう。冒険の話を聞かせてくれ!」
「勿論。是非一緒に飲もう!」

 俺はエイブラハムと握手を交わして鍛冶屋を出た。エイブラハムの店を出ると、仲間達と合流して、夕方まで町の復興のために働いた。俺はクリスタルと共に、城壁の修復を担当した。城壁に使われている石を近くの採石場から運んだり、実際に石を切り出して積み上げたりした。石を切るのも勇者剣を使えば簡単だ。硬い石もバターの様に簡単に切れる。夕方まで復興作業を続けると、城の兵士が今日の作業の終わりを告げた。

「皆さん、お疲れ様でした。お食事のご用意が出来てます」

 俺達はしばらくの間、城での滞在を許可されている。これも国王の感謝の気持ちだろうか、それとも戦力を城の防衛のために集めおきたいからだろうか。魔王の手下は既に王国を攻撃する事もなくなった。アルテミス王国近辺に潜んでいた魔王の手下は暗殺ギルドの連中がほとんど狩り尽くしたのだとか。

 俺は復興の作業で疲れ果てた仲間と共に、城の大広間に向かった。大広間は既に食事の準備が整っており、国王と大臣、エミリアとクラウディアが席に着いて待っていた。ゲルストナーは迷う事なく、クラウディアの隣の席に座った。クラウディアがゲルストナーを見る目は明らかに他の人を見る目とは違う。きっとクラウディアはゲルストナーの事が好きなのだろう。

 エミリアは俺を見つけるや否や、自分の隣の席に手招きした。そんな様子を国王は微笑みながら見ている。国王は俺と目が合うと無邪気にウィンクをした。随分気さくな王様だな。

 エミリアの席の後ろの壁には、俺が作った盾が立て掛けられている。肌身離さず持っているのか。俺は肩の上にシルフを乗せたまま、エミリアの隣の席に座った。騎士団のメンバーは、国王と同じテーブルに着いた。俺達が席に着くと大臣が立ち上がって話し始めた。

「ボリンガー騎士団の皆様には、町の復興の目安として二カ月間、城の中での滞在が許可されています。宜しければ自由に城の中の設備もご使用下さい」

 俺達は今日から二カ月間、城で生活するという事か。エミリアとの距離が近い事は良い事だ。今日はこれから仲間に魔王討伐の報酬の分配と、クリスタルの卒業、それから騎士団の今後について話し合うつもりだ。食後、どこかに集まって話す事にしよう……。

「サシャ。それでは頂きましょう。新しい師匠との出会いに乾杯」

 エミリアが葡萄酒が注がれたゴブレットを掲げた。

「サシャ、新しい師匠って……?」

 隣の席に座っているルナが不思議そうな表情で俺に聞いた。

「あぁ、実はエミリアに魔法を教える事になったんだよ」
「そうなんだ! それは良い事だね! 私も教えて欲しい!」

 むしろ俺はルナからハーピーの固有魔法を教わりたい。

「ルナも知ってると思うけど、俺が使える魔法は少ないよ」
「うんん、そんな事無いよ。私はサシャのグランドクロスを覚えたいな」

 デュラハンから授かった秘技、グランドクロス。現在、グランドクロスを使えるのはパーティーの中では俺とシルフしかいない。もし、ルナがグランドクロスを使えるようになれば、無敵の剣士になるのではないだろうか。ルナの剣の腕は俺よりも遥かに良い。何と言ってもルナは生前のヘルフリートと互角に打ち合っていたからな。ヘルフリートか……。会いたいな。

「サシャ。どうかしたの? サシャは小食なのかな?」
「ああ……ちょっとね。友人の事を思い出していたんだ」

 ヘルフリートの事を思い出すと今でも寂しくなる。だが、俺の体にはヘルフリートの力が流れている。彼が残してくれた力を使って、俺はより良い世界を作ろう……この手で……。

「エミリア、明日も一緒に散歩をしようか」

 俺がエミリアを誘うと、満面の笑みで微笑んだ。

「うん! お父様! 良いでしょう? 私、サシャとお友達になったのよ!」
「ああ。勇者殿が一緒なら外出も安心だな! 今日は兵を付けたが、明日からの外出の際は二人で出かけても良いからね。勇者殿、エミリアをよろしく頼むよ」
「はい、お任せ下さい!」

 陛下とは予めエミリアと友達になる事、エミリアの魔法の先生になる事を話してある。

「サシャ、明日は私も一緒に行きたいな」

 シルフも一緒に来る様だ。今日は陛下との内密な話があったからシルフと触れ合う時間が少なかったが、明日はもう少し一緒に居られそうだ。それから……今日の話し合いの場所を探そう。どこか城の中に自由に使える部屋が無いか、大臣に聞いてみる事にした。

「実は食後に騎士団のメンバーで会議をしたいのですが、使っても良い場所はありませんか?」
「ええ、勿論ございますよ。私が食後にご案内します」
「ありがとうございます」

 場所の確保は出来た。クリスタルに卒業の件を伝えたらどんな顔をするだろうか。悲しまないだろうか。心配だな……。だが、彼女ならきっと大丈夫だろう。アルテミシア防衛後の彼女は以前よりも遥かに成長している。元々、彼女とは歳も三歳しか違わない。もう一人立ちしてもいい年齢だろう。それに、今の彼女には立派な召喚獣が二体も居る。サイクロプスもガーゴイルもクリスタルに完璧に懐いているし、強力に育っている。

「サシャ。私は先に休むわね。明日の朝、私の部屋まで迎えに来て頂戴ね」
「わかったよ。お休みエミリア」

 エミリアは壁に立てかけて置いた盾を大事そうに抱えて自室に戻った。俺達は早速、今後の騎士団の活動について話し合う事にした。
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