召喚物語 - 召喚魔法を極めた村人の成り上がり -

花京院 光

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第四章「騎士団編」

第百四十四話「弟子の卒業」

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「大臣、それでは案内をお願いします」
「かしこまりました。談話室にご案内致します」

 俺達は大臣に連れられて、客室と同じ階にある談話室に案内された。

「ここはいつでも自由に使って頂いて結構です。盗聴防止の魔法を掛けているので、安心してご利用頂けます。それではごゆっくりどうぞ……」

 大臣は気を利かせて、予め談話室にゴブレットと葡萄酒を用意しておいてくれた。それに、今日はチーズと上等な燻製肉もある。気の利く男だ。

 談話室には座り心地の良いソファが四つ、それにテーブルが二つ置いてあり、暖炉には魔法の火が灯っている。ここは会議をする場所というよりも、団欒を楽しむ場所といった感じだ。落ち着いた雰囲気の部屋で、室内には大きな本棚が二つあり、童話や小説などが並べられている。

「皆、座ってくつろいでくれ。今後の事について話がしたいんだ」

 俺はゴブレットに葡萄酒を注いで仲間に配った。

「どうしたんですか、師匠。急に改まって……」

 クリスタルはソファに座って俺が渡した葡萄酒を口に含んだ。

「こうして皆と落ち着いて話す機会が今まで無かったと思ってさ。魔王討伐や復興で忙しかったから……」
「そうだな。俺達はちと働きすぎかもしれん。シャーロット、俺にも葡萄酒をおくれ」
「わかったわ。ゲルストナー」

 ゲルストナーがシャーロットに頼むと、シャーロットは手際よくゴブレットに葡萄酒を注いで渡した。アイリーンはソファに寝そべりながら乾燥肉に食らい付いている。獣人らしいな……。

「今回、皆に集まってもらったのは。まずは魔王討伐についてお礼をしたいと思ったからなんだ。皆、よく無事でいてくれた……ありがとう!」
 俺が仲間に頭を下げると、ルナが俺の手を握った。

「当たり前でしょう。私はサシャの仲間なの。サシャがする事が私のしたい事」
「そうよ。私はサシャの物。体も心もサシャの物なのよ……」

 クーデルカはいつも俺に忠実だ。

「サシャ……ガンバッタ!」

 キングは俺の傍に座って声を掛けてくれた。

「皆が居たから魔王に勝つ事が出来た。俺は皆に出会えて幸せだと思う。いつもありがとう」

 俺は仲間の顔を見ていると、無性に胸が熱くなった。

「サシャ。私はあなたの精霊よ。いつも一緒に居る」
「そうだね、シルフ。俺達はいつも一緒だ」

 そうだ、報酬の分配をしなければならない。

「今回貰った報酬はみんなで平等に分けようと思う」

 俺の召喚獣の分はもちろん俺が管理する。アイリーン、ゲルストナー、クリスタルに関しては報酬は平等に分配する。

「お金があっても特に使い道も無いの……あたしはいらないの」
「そうだな……金に対する執着はない。サシャが使ってくれ。実際に魔王を倒したのはサシャなのだからな」
「師匠。私も同感です。今は特にお金は必要ありませんし……」
「それじゃ、本拠地作りのためにお金を使わせて貰うよ。余ったお金は本拠地が出来たら本分配する事にする」

 それなら、本拠地を構えた時に報酬を分配しよう。今お金を分けたところで、宝箱一杯に詰まっている金貨を保管しておく場所もない。報酬は本拠地が完成したら安全な場所に保管する事にしよう。

「それから、クリスタル。ちょっとこっちにおいで」

 俺はクリスタルを隣の席に座らせた。

「食事の時にも話したけど、俺はこれからエミリア王女に魔法を教える事になったんだ。それで考えたんだけど……クリスタルには今日で弟子を卒業してもらう事にしたよ。クリスタルは陛下から大召喚士の称号まで貰ったのだからね……今までよく頑張ったよ」

 俺がクリスタルに伝えると、クリスタルは嬉しそうに頷いた。

「師匠。いつか無理やり卒業させられるんじゃないかって思っていたの。それが今日だったんですね……」
「そうだよクリスタル。『自分自身の力を他人のために使う事』これが俺と最初にした約束だったね。この約束は常に忘れない事。それに、弟子を卒業したととしても、俺とクリスタルの関係は変わらない。今までと同じ仲間さ」
「はい……師匠。いえ、サシャ……私を仲間に入れてくれてありがとうございます。サシャが師匠だったから、私はここまで頑張れました」

 クリスタルは目に大粒の涙を浮かべた。

「おいで……クリスタル」

 俺はクリスタルを抱きしめた。彼女が泣き止むまで……。しばらくクリスタルを抱きしめていると、気持ちが落ち着いた様だ。

「そうです。私達の関係は変わりません! サシャはいつまでも私が尊敬する師匠です! 私はこれからもボリンガー騎士団の召喚士として頑張ります!」
「その言葉が聞きたかったよ。クリスタル、実は卒業祝いを用意しているんだよ」
「本当ですか? 楽しみだな……!」

 そう言って俺はマジックバッグから「聖者のロッド」を取り出した。リボンで結ばれた小さな箱を渡すと、クリスタルは目を輝かせた。

「師匠が私に贈り物を……なんだろう!」

 クリスタルは丁寧にリボンを解いて箱を開けた。箱を開けると、談話室には聖者のロッドが持つ心地の良い魔力が流れ出した。一番に最初に口を開いたのはゲルストナーだった。

「こいつは凄い! どこで手に入れたんだ?」

 鑑定好きのゲルストナーの血が騒いだのか、珍しいアイテムを手に入れた時はいつも嬉しそうに鑑定をしたがる。

「これはエドガーの兄の店で買ったんだよ。一目見て、この杖は普通の魔法の杖とは比べ物にならない程、上等な物だと思ったんだよ。クリスタルには丁度いいと思ってさ」

 杖の先端には美しく輝くクリスタルが付いている。クリスタルにクリスタルの杖。決して冗談で選んだ訳ではない。

「サシャ……素敵な杖をありがとう! 強い魔力を感じるわ。それに、体中の魔力が増幅されるような感覚……」
「これは本当に優れた杖の様だな……ちょっといいか」

 と言ってゲルストナーは杖を手に取った。杖に鑑定の魔法を掛けると、彼は愕然とした表情を浮かべた。彼の鑑定は非常に詳しく物を分析する力がある。確かゲルストナーは以前、「鑑定は全ての物、全ての生物に有効だ。鑑定は物質の持つ魔力を分析する力。魔法が使える者なら誰でも使える」と言っていた。きっとエミリアの「対象に触れれば性質が分かる」という力も、鑑定の魔法の応用に違いない。

 俺自身、鑑定の魔法の練習をした事はないが、強い魔力を持つ武器や防具等に触れれば、物の性質は理解できる。ゲルストナーの様に、鑑定を使い慣れている者は、物体の放つ僅かな魔力から物体の性質を暴く。これは彼が長年、育成士として魔物の素材の鑑定をし続けてきた結果だろう。

「この杖はかつて聖者が使っていた物なのだろうか、神聖な魔力を感じる。まるでサシャの魔力にそっくりだな……」

 ゲルストナーの鑑定の結果は意外だった。聖者が使っていた杖か、通りで心地の良い魔力を感じるはずだ。

「素敵な杖ね……」

 クーデルカはゴブレットを片手にクリスタルの杖を眺めている。

「師匠……本当に嬉しいわ。大切にしますね!」

 クリスタルに喜んでもらえて何よりだ。これから騎士団の今後の予定について少しだけ話さなければならないな……。 
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