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第一章「冒険者編」
第十五話「貴族の屋敷」
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予想外のシャルロッテ脱退に戸惑いながらも、俺とローラはヴェロニカ様の屋敷を探して歩き出した。ギルド区と商業区の中間に位置する中央区にフロイデンベルグ公爵様の屋敷があるのだとか。
中央区は背の高い美しい木造の屋敷が多く、白を基調とした、いかにも貴族が暮らしていそうな高級な住宅が並んでいる。ここにはやはり貴族が多く暮らしているのか、豪華な金の装飾が施された馬車が走っている。
馬車一台で小さな家なら購入出来そうな程、高価な馬車が当たり前の様に走っているのだ。防具すら身に着けていない俺が居て良い場所ではない。中央区を巡回する町の衛兵が俺達の前に立つと、あからさまに警戒して剣の柄に手を掛けた。
「君達。何処に向かっているんだね?」
「フロイデンベルグ公爵様の屋敷です」
「正式に招待されているのかね?」
「はい。地図なら頂きましたが……」
俺はヴェロニカ様のサインが入った地図を衛兵に見せると、怪訝そうな表情を浮かべてから、すぐに用事を済ませる様にと言った。明らかに中央区に似合わない服装をしているからだろうか。衛兵は俺達が視界から消えるまで剣の柄から手を離す事は無かった。
衛兵の鋭い視線を感じながらも、俺達は急いでヴェロニカ様の屋敷に向かった。暫く歩くと、巨大な二階建ての美しい屋敷が見えた。鋼鉄で作られているのだろうか、背の高い門があり、門の隣には衛兵の詰所がある。
俺達は衛兵に地図を見せると、衛兵は杖を地図に向けて魔法を唱えた。ヴェロニカ様が書いたサインが本物か確かめているのだろう。やはり公爵様の屋敷だから、警備は厳重という訳だ。
それから衛兵が執事のアンネさんを呼んでくると、アンネさんは柔和な笑みを浮かべ、俺達を屋敷に案内してくれた。屋敷の中は驚くほど天井が高く、美しい刺繍が施されたカーペットが敷かれている。
所々にモンスターの風貌をした石像が置かれており、石像は侵入者を発見すると自動的に襲いかかる魔法が掛けられているのだとか。許可のない人間が屋敷内に入れば、たちまち中央区を巡回する衛兵と石像が侵入者を見つけ出し、一瞬で命を奪うとの説明を聞いた。
「ヴェロニカお嬢様はカーティス様の訪問を心待ちにしていたんですよ。何度もカーティス様の話をしていました」
「そうだったんですね」
「はい。ヴェロニカお嬢様はなかなか他人に心を開く事はないのですが、カーティス様の事を『私のために可愛い物を集める天使』だと言っていましたよ。これからもいつでも遊びに来て下さいね」
「はい。時間がある時には必ず。まさかヴェロニカ様がユグドラシルのギルドマスターだとは思いませんでしたよ」
「そうでしょうね。公爵様がヴェロニカ様に世の中を知る様にと、一年ほど前にギルドマスターに就任させたのです。若干十二歳のギルドマスターが就任したからか、ユグドラシルの冒険者達の中にはヴェロニカお嬢様を信用していない者も多いのですよ」
「一年前というと、ヴェロニカ様は十三歳なんですね」
「はい。先月十三歳の誕生日を迎えました。身長が低いので幼く見られる事を気にしているみたいですよ」
「ですが……。ヴェロニカ様がギルドの前で俺を守ってくれた時、彼女の背中が随分大きく見えました」
「年齢の割りには様々な試練を乗り越えていますからね。ああ見えてもレベルは50を超えているんですよ」
十三歳のヴェロニカ様のレベルが50? レベル50といえば俺の父や母よりも遥かに高レベルだ。アンネさんの説明によると、ヴェロニカ様は幼い頃から魔法の訓練を受けていたらしく、闇属性以外の魔法は一通り使う事が出来るだ。しかし、モンスターとの戦闘は得意ではなく、屋敷の中で永遠と魔法を練習する事が趣味なのだとか。
「ヴェロニカ様は魔法の練習が趣味なんですね」
「はい! 将来は必ず大魔術師になるでしょう」
「大魔術師というと、レベル70以上、五種類以上の属性を使用出来る者に与えられる称号ですね」
「はい。二十歳を迎える前にレベル70を超えてみせると言っているんですよ」
「ヴェロニカ様は本当優れた魔術師なんですね。闇属性以外の全ての属性を使いこなしてしまうとは……」
「実力はあるのですが、まだ幼いからか、ギルドメンバーからは信頼されていないみたいです。しかし、カーティス様はこうして尋ねて来て下さった。ヴェロニカお嬢様を訪ねてくる人間は、彼女の地位を手に入れるために近づく貴族くらいですから……」
「やはり公爵様のご令嬢にお近づきになりたいと考える者も居るのでしょうね」
「それは随分多いですよ。そろそろヴェロニカお嬢様の部屋ですが、今のままでは少し服装に難があるので、こちらの部屋で一度着替えて下さい」
「ローラは大丈夫ですか?」
「はい。ローラ様は今のままでも結構です」
流石に普段着ではヴェロニカ様と会う事は失礼なのか、俺はアンネさんから執事達が着る燕尾服を渡されると、すぐに服を着替えた。執事と同じ服装をするという事に若干の恥ずかしさを感じる。燕尾服は意外と着心地も良く、汚れ切った普段着よりは遥かにこの屋敷に合った服装だ。
「ギルベルト! 格好良い!」
「長い黒髪と燕尾服の黒が良く似合っていますね。このまま屋敷で執事をしてみてはいかがですか?」
「俺は冒険者なので……」
「そうですね。よろしければそちらの服は差し上げます」
「頂いても良いのですか?」
「はい。もし他の貴族の屋敷に行く事があれば、服装には十分気を付けて下さいね。ヴェロニカ様のサイン入りの地図が無ければ、たちまち衛兵に捕らえられていたでしょう」
「気をつけます……」
アンネさんに優しく注意されると、俺は何だか恥ずかしくなって仕舞った。美しい赤髪を綺麗に纏め、シワひとつ無い燕尾服を着こなす背の高いアンネさんは、執事としても女性としても美しいのだ。今度中央区に入る事があれば、燕尾服を着て入る事にしよう。そうすれば町を巡回する衛兵に呼び止められる事も無いだろう。
それから俺達はゆっくりと屋敷を歩くと、遂にヴェロニカ様の部屋の前に辿り着いた。一体どれだけ広いのだろうか。屋敷内を二十分は歩いた気がするのだが……。
「失礼します。ヴェロニカお嬢様、カーティス様とローラ様がお見えです」
「ギルベルトじゃないか! やっと私に会いに来てくれたのだな!」
部屋に入ると、まるで道具屋の様に様々なアイテムが丁寧に並べられており、部屋の壁沿いには天井まで届きそうな本棚が置かれている。アンネさんの説明によると、ここは魔法の練習をする時に使う部屋らしい。
寝室は別にあり、ここにはヴェロニカ様が買い集めたマジックアイテムや、魔法関連の本を仕舞ってあるらしい。この部屋に居る時間が最も長く、普段は部屋に籠もって魔法を練習しているのだとか。
部屋には深紅色のソファが置かれており、ソファの上にはホワイトベアのぬいぐるみと着ぐるみが置かれている。ヴェロニカ様は嬉しそうに俺を手を握ると、彼女の優しい魔力が俺の体に流れてきた。何と澄んだ美しい魔力なのだろうか。
「その燕尾服、良く似合っているぞ! ギルベルトは私の執事になるために訪れてきてくれたのだろう?」
「ありがとうございます、ヴェロニカ様。ですが、俺は執事になるために来た訳ではありません。約束通り魔石ガチャをお見せするために来ました」
「そうか、執事になりたいのならいつでも歓迎するからな! アンネや、紅茶とビスケットを持って来ておくれ」
「かしこまりました。ヴェロニカお嬢様」
アンネさんは美しい姿勢で一例すると、物音一つ立てずに部屋を出た。歩き方から姿勢まで全てが美しく、理想的な女性だ。
「おいおい、私を前にしてアンネに見とれるとは。私に会いに来たのか、アンネに会いに来たのか、一体どっちなのだ?」
「勿論、ヴェロニカ様に会いに来ました」
「そうかそうか。わざわざ私に会いに来てくれてありがとう。そちらの子はローラと言ったかな?」
「はい。ゴールデンスライムのローラです」
「なんだと? ギルベルト。私をからかっているのか? どうしてこの子がゴールデンスライムなのだ。?化の魔法でも使っているのか?」
『僕が説明しようか』
「ああ。頼むよ」
ガチャは指環から元に姿に戻ると、ヴェロニカ様は目を輝かせてガチャを抱き上げた。ガチャは満更でも無さそうな表情を浮かべてヴェロニカ様を見上げている。それからヴェロニカ様はガチャをソファに乗せると、ガチャの隣に腰を掛けた。
俺とローラは二人の前に置かれているソファに座った。ガチャは錬金術師のジェラルド・ベルギウスに作られてからの生活を語り、魔石ガチャやモンスター封印の力についてヴェロニカ様に説明した……。
中央区は背の高い美しい木造の屋敷が多く、白を基調とした、いかにも貴族が暮らしていそうな高級な住宅が並んでいる。ここにはやはり貴族が多く暮らしているのか、豪華な金の装飾が施された馬車が走っている。
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「君達。何処に向かっているんだね?」
「フロイデンベルグ公爵様の屋敷です」
「正式に招待されているのかね?」
「はい。地図なら頂きましたが……」
俺はヴェロニカ様のサインが入った地図を衛兵に見せると、怪訝そうな表情を浮かべてから、すぐに用事を済ませる様にと言った。明らかに中央区に似合わない服装をしているからだろうか。衛兵は俺達が視界から消えるまで剣の柄から手を離す事は無かった。
衛兵の鋭い視線を感じながらも、俺達は急いでヴェロニカ様の屋敷に向かった。暫く歩くと、巨大な二階建ての美しい屋敷が見えた。鋼鉄で作られているのだろうか、背の高い門があり、門の隣には衛兵の詰所がある。
俺達は衛兵に地図を見せると、衛兵は杖を地図に向けて魔法を唱えた。ヴェロニカ様が書いたサインが本物か確かめているのだろう。やはり公爵様の屋敷だから、警備は厳重という訳だ。
それから衛兵が執事のアンネさんを呼んでくると、アンネさんは柔和な笑みを浮かべ、俺達を屋敷に案内してくれた。屋敷の中は驚くほど天井が高く、美しい刺繍が施されたカーペットが敷かれている。
所々にモンスターの風貌をした石像が置かれており、石像は侵入者を発見すると自動的に襲いかかる魔法が掛けられているのだとか。許可のない人間が屋敷内に入れば、たちまち中央区を巡回する衛兵と石像が侵入者を見つけ出し、一瞬で命を奪うとの説明を聞いた。
「ヴェロニカお嬢様はカーティス様の訪問を心待ちにしていたんですよ。何度もカーティス様の話をしていました」
「そうだったんですね」
「はい。ヴェロニカお嬢様はなかなか他人に心を開く事はないのですが、カーティス様の事を『私のために可愛い物を集める天使』だと言っていましたよ。これからもいつでも遊びに来て下さいね」
「はい。時間がある時には必ず。まさかヴェロニカ様がユグドラシルのギルドマスターだとは思いませんでしたよ」
「そうでしょうね。公爵様がヴェロニカ様に世の中を知る様にと、一年ほど前にギルドマスターに就任させたのです。若干十二歳のギルドマスターが就任したからか、ユグドラシルの冒険者達の中にはヴェロニカお嬢様を信用していない者も多いのですよ」
「一年前というと、ヴェロニカ様は十三歳なんですね」
「はい。先月十三歳の誕生日を迎えました。身長が低いので幼く見られる事を気にしているみたいですよ」
「ですが……。ヴェロニカ様がギルドの前で俺を守ってくれた時、彼女の背中が随分大きく見えました」
「年齢の割りには様々な試練を乗り越えていますからね。ああ見えてもレベルは50を超えているんですよ」
十三歳のヴェロニカ様のレベルが50? レベル50といえば俺の父や母よりも遥かに高レベルだ。アンネさんの説明によると、ヴェロニカ様は幼い頃から魔法の訓練を受けていたらしく、闇属性以外の魔法は一通り使う事が出来るだ。しかし、モンスターとの戦闘は得意ではなく、屋敷の中で永遠と魔法を練習する事が趣味なのだとか。
「ヴェロニカ様は魔法の練習が趣味なんですね」
「はい! 将来は必ず大魔術師になるでしょう」
「大魔術師というと、レベル70以上、五種類以上の属性を使用出来る者に与えられる称号ですね」
「はい。二十歳を迎える前にレベル70を超えてみせると言っているんですよ」
「ヴェロニカ様は本当優れた魔術師なんですね。闇属性以外の全ての属性を使いこなしてしまうとは……」
「実力はあるのですが、まだ幼いからか、ギルドメンバーからは信頼されていないみたいです。しかし、カーティス様はこうして尋ねて来て下さった。ヴェロニカお嬢様を訪ねてくる人間は、彼女の地位を手に入れるために近づく貴族くらいですから……」
「やはり公爵様のご令嬢にお近づきになりたいと考える者も居るのでしょうね」
「それは随分多いですよ。そろそろヴェロニカお嬢様の部屋ですが、今のままでは少し服装に難があるので、こちらの部屋で一度着替えて下さい」
「ローラは大丈夫ですか?」
「はい。ローラ様は今のままでも結構です」
流石に普段着ではヴェロニカ様と会う事は失礼なのか、俺はアンネさんから執事達が着る燕尾服を渡されると、すぐに服を着替えた。執事と同じ服装をするという事に若干の恥ずかしさを感じる。燕尾服は意外と着心地も良く、汚れ切った普段着よりは遥かにこの屋敷に合った服装だ。
「ギルベルト! 格好良い!」
「長い黒髪と燕尾服の黒が良く似合っていますね。このまま屋敷で執事をしてみてはいかがですか?」
「俺は冒険者なので……」
「そうですね。よろしければそちらの服は差し上げます」
「頂いても良いのですか?」
「はい。もし他の貴族の屋敷に行く事があれば、服装には十分気を付けて下さいね。ヴェロニカ様のサイン入りの地図が無ければ、たちまち衛兵に捕らえられていたでしょう」
「気をつけます……」
アンネさんに優しく注意されると、俺は何だか恥ずかしくなって仕舞った。美しい赤髪を綺麗に纏め、シワひとつ無い燕尾服を着こなす背の高いアンネさんは、執事としても女性としても美しいのだ。今度中央区に入る事があれば、燕尾服を着て入る事にしよう。そうすれば町を巡回する衛兵に呼び止められる事も無いだろう。
それから俺達はゆっくりと屋敷を歩くと、遂にヴェロニカ様の部屋の前に辿り着いた。一体どれだけ広いのだろうか。屋敷内を二十分は歩いた気がするのだが……。
「失礼します。ヴェロニカお嬢様、カーティス様とローラ様がお見えです」
「ギルベルトじゃないか! やっと私に会いに来てくれたのだな!」
部屋に入ると、まるで道具屋の様に様々なアイテムが丁寧に並べられており、部屋の壁沿いには天井まで届きそうな本棚が置かれている。アンネさんの説明によると、ここは魔法の練習をする時に使う部屋らしい。
寝室は別にあり、ここにはヴェロニカ様が買い集めたマジックアイテムや、魔法関連の本を仕舞ってあるらしい。この部屋に居る時間が最も長く、普段は部屋に籠もって魔法を練習しているのだとか。
部屋には深紅色のソファが置かれており、ソファの上にはホワイトベアのぬいぐるみと着ぐるみが置かれている。ヴェロニカ様は嬉しそうに俺を手を握ると、彼女の優しい魔力が俺の体に流れてきた。何と澄んだ美しい魔力なのだろうか。
「その燕尾服、良く似合っているぞ! ギルベルトは私の執事になるために訪れてきてくれたのだろう?」
「ありがとうございます、ヴェロニカ様。ですが、俺は執事になるために来た訳ではありません。約束通り魔石ガチャをお見せするために来ました」
「そうか、執事になりたいのならいつでも歓迎するからな! アンネや、紅茶とビスケットを持って来ておくれ」
「かしこまりました。ヴェロニカお嬢様」
アンネさんは美しい姿勢で一例すると、物音一つ立てずに部屋を出た。歩き方から姿勢まで全てが美しく、理想的な女性だ。
「おいおい、私を前にしてアンネに見とれるとは。私に会いに来たのか、アンネに会いに来たのか、一体どっちなのだ?」
「勿論、ヴェロニカ様に会いに来ました」
「そうかそうか。わざわざ私に会いに来てくれてありがとう。そちらの子はローラと言ったかな?」
「はい。ゴールデンスライムのローラです」
「なんだと? ギルベルト。私をからかっているのか? どうしてこの子がゴールデンスライムなのだ。?化の魔法でも使っているのか?」
『僕が説明しようか』
「ああ。頼むよ」
ガチャは指環から元に姿に戻ると、ヴェロニカ様は目を輝かせてガチャを抱き上げた。ガチャは満更でも無さそうな表情を浮かべてヴェロニカ様を見上げている。それからヴェロニカ様はガチャをソファに乗せると、ガチャの隣に腰を掛けた。
俺とローラは二人の前に置かれているソファに座った。ガチャは錬金術師のジェラルド・ベルギウスに作られてからの生活を語り、魔石ガチャやモンスター封印の力についてヴェロニカ様に説明した……。
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