魔石物語 - 魔石ガチャとモンスター娘のハーレムパーティーで成り上がり -

花京院 光

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第一章「冒険者編」

第二十三話「族長との対話」

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 族長は葡萄酒を豪快に飲み、ブラックウルフの肉に喰らいついた。食事姿は非常に豪快で、葡萄酒を一気に飲み干すと、すぐにゴブレットを俺に差し出した。俺は聖者のゴブレットに魔力を込め、再び葡萄酒を族長のゴブレットに注ぐと、族長は目を輝かせた。

 暫くブラックウルフの肉を齧りながら葡萄酒を何杯も飲むと、すっかり機嫌が良くなったのか、部屋にレッサーミノタウロスの戦士達を呼んで、戦士達にも葡萄酒を振る舞うようにと俺に言った。

 戦士達は空のゴブレットを持ち、不満げに族長を見つめていたが、俺が戦士達に葡萄酒を注いで回ると、戦士達はたちまち機嫌を良くしたのか、豪快に葡萄酒を飲み始めた。人間では考えられない様な大量の葡萄酒を一気に飲み干すから、俺は次々と葡萄酒を注いで回った。

 戦士達の気分が良くなり、宴の場が盛り上がった頃、俺は族長に地図を見せ、この場所なら安全に暮らす事が出来ると提案した。ヘルゲンの冒険者の数や、冒険者達がレッサーミノタウロスを殺すために行動を始めている事を力説すると、族長は暫く悩んだあと、俺の肩に手を置いた。

「我々に葡萄酒を振る舞う人間が存在したとはな。遥か昔の時代、ミノタウロス族と人間と共存していた。いつからか人間が積極的にモンスター討伐をする様になってからは、ミノタウロス族を害のあるモンスターだと判断する者も増えた。しかし、こうして再び我々と人間が交流する事が出来た」
「俺達は中立の立場に居るモンスターとは交流出来るのではないかと考えているんです。ですから、今日こうしてここに来ました。バシリウス様、人間と戦闘を行えば大勢のレッサーミノタウロスが命を落とす事になるでしょう。人間に対する恨みを晴らすためにヘルゲンを襲撃するのではなく、仲間を守るためにこの場を離れて下さい」
「うむ。ギルベルトの言う通りかもしれんな。仲間を殺された怒りに任せてヘルゲンを襲撃しても、人間を全滅させる事は不可能だろう。それに、ギルベルトやローラの様な我々に友好的な人間も存在するのだから、人間を殺して回る事に意味はないという事か」
「はい。いつか必ず俺達がレッサーミノタウロス達の仇を討ちますので、今回は手を引いて下さい。族長として、仲間を守るために最善の決断をして下さい」
「よかろう。ギルベルトの忠告を受け入れ、我々は棲家を手放し、人間から離れた土地で生活をする事にしようではないか!」

 バシリウス様がゴブレットを掲げると、すっかり酔が回った戦士達は大いに盛り上がった。廃村付近の棲家から、フロイデンベルグ公爵の領地までの移動に付き合うという条件で、バシリウス様は俺の提案を受け入れてくれたのだ。

「これから二十分後に出発する! 移動に必要な荷物だけを持ち、すぐに支度を済ませる事。貴重品があればギルベルトに保管を頼むが良い。彼は不思議な鞄の力によって制限なく荷物を運ぶ事が出来るからな」

 族長が一族を集めて指示をすると、レッサーミノタウロスはすぐに支度を始めた。レッサーミノタウロス達は貴重品を次々と俺の元に持ってくると、俺は全てマジックバッグに仕舞い、移動の支度の手伝いをした。

 バシリウス様は冒険者達と正面からやりあう事は不可能だと判断したのか、それとも葡萄酒とブラックウルフの肉ですっかり機嫌を良くしたからか、俺の提案を受け入れてくれた。これで冒険者から見つからずに一族の棲家からフロイデンベルグ公爵様の領地に移動出来るだろう。

 移動の支度はすぐに終わり、レッサーミノタウロスの戦士は棍棒やロングボウを持ち、棲家を出て女子供を守りながら、夜の森を歩き始めた。族長は友好の印だと言って大きな魔石を差し出した。これは幻獣・ミノタウロスの魔石で、自分の妻の物なのだとか。幻獣クラスのモンスターの魔石でガチャを回せば、一体どれだけ高価なマジックアイテムを入手出来るのだろうか。

 何度もお礼を述べてから、ルビーの様に輝く魔石をマジックバッグに仕舞い、ローラの手を握って戦士達の後から歩き始めた。バシリウス様は棲家に油をまいて火を付けた。これで暫くの間冒険者達がこの洞窟に入る事は不可能だろう。

 冒険者ギルド・ユグドラシルのメンバーは、まさかレッサーミノタウロスの集団が自分達を欺いて逃亡しているとは思わないだろう。火が消えた頃、洞窟内にレッサーミノタウロスの死体が一つも無い事に気が付き、急いで辺りの捜索をする筈だ。

 そして敵が逃げ出したと知れば、それ以上深追いする事は無い。冒険者達の目的は、あくまでもレッサーミノタウロスの報復を恐れて、先手を討つという事なのだから。敵が逃亡していると知ればすぐに魔法都市ヘルゲンに戻るだろう。

 冒険者達はレッサーミノタウロスの逃亡をギルドマスターのヴェロニカ様に報告し、真実を知るヴェロニカ様は俺達が無事逃亡したと知るだろう。俺の計画は完璧という訳だ。

 バシリウス様が好戦的な性格をしていなかったから、今回の計画を上手く運ぶ事が出来たが、もしヘルゲンを襲うと決断していたら、俺は冒険者としてヘルゲンを守るために、レッサーミノタウロス達と剣を交える事になっていただろう。

「ギルベルト。お前さんのお陰で我々は仲間を失わずに済んだ。今朝、エリカが血相を変えて一族の棲家に戻って来た時、私はすぐに槍を持ち、人間を滅ぼそうかと本気で考えたものだ。だが冷静に考えてみれば、我々の様な少数の戦士が魔法都市を攻めたところで、全ての人間を殺せる訳でもないと悟った」
「気持ちは理解出来ます。仲間を殺されて引き下がるのは難しい事でしょう」
「まさにその通り。いつまで経っても同胞を殺された怒りは収まらず、腸が煮えくり返る思いだった。しかし、ギルベルトの様な人間も居ると知って、私は生かすべき人間も居るのではないかと考えた。全ての人間が悪ではないと。幻獣と呼ばれる私は幼い頃から非常に強い力を持っていた。生まれつき火と雷の魔法を自在に使用出来たのだ。私の力を持ってすれば、人間の百人や二百人は軽く倒せるだろう。しかし、ヘルゲンと全面的に戦争を始めれば、レッサーミノタウロスの戦士達を守り切る事は出来ない」

 バシリウス様は右手に六メートル程の巨大なランスを持ち、左手には直径四メートル程のラウンドシールドを持っている。鉄の玉を投げて攻撃を仕掛けたとしても、巨大なラウンドシールドなら軽く攻撃を弾く事が出来るだろう。まさに歴戦の戦士といった風貌だ。

 全身の筋肉はレッサーミノタウロスの戦士よりも遥かに大きく、身長よりも長いランスと、壁の様な厚いラウンドシールを持つ姿は何とも逞しい。これが幻獣クラスの生物なのか。人間の俺が対等に会話出来ている事が奇跡の様だ。俺はバシリウス様を前にすると生物としても弱さを実感する。バシリウス様からすれば、俺の様な人間は盾で弾くだけで命を奪えるのだからな……。

「他にも大勢のミノタウロスが居るなら、俺はヘルゲンを襲う事に決めていただろう。しかし、既にこの辺りにはミノタウロスは私しか居ない。私の妻はミノタウロスだったが、三年前に病によって命を落とした」
「そうだったんですね……」
「うむ。他種族と争わずに長く生き続けたいものだな……」
「これからはより安全に暮らせるでしょう。土地の提供者は魔法都市ヘルゲンでも地位のある方なので、人間達が勝手に立ち入る事はないと思います」
「平和に暮らしたいものだが、モンスターと呼ばれる我々と人間の争いが終わる事は決してない。人間は大陸に暮らす他種族を認めず、容易く命を奪ってしまう。二人の冒険者がレッサーミノタウロスの戦士の命を簡単に奪った様に。自分達が支配者だと勘違いしておる」
「俺もそうなりたくなかったので、この様に話し合いに来た次第です。俺とローラは他種族とも共存出来る人生を選択するつもりですから」
「ギルベルトは誠に賢く、素直で信頼出来る男だ。それに、ローラと言ったかな。体から溢れんばかりの魔力を感じる。他者を癒やす魔法に特化した人間なのだろう?」

 バシリウス様がローラを見下ろすと、ローラは楽しそうに微笑んで頷いた。

 レッサーミノタウロスの戦士達が松明で辺りを照らしながら進んでいる。背の高い彼等は、人間の俺達よりも歩幅が広いから、驚異的な速度で森を進んでいる。身長は四メートル近いのだが、足音は殆ど聞こえず、動作は羽根の様に軽い。ローラはすぐに体力の限界を迎えたので、俺はローラを背負ってバシリウス様と共に森を進んでいる。

 彼は思いの他口数が多く、俺達に様々な質問を投げかけてくる。俺は冒険者になった話や、ローラとの出会い等を語り、バシリウス様は他のモンスターから一族を守り続けてきた歴史を語ってくれた。ミノタウロスは非常に寿命が長いのか、彼は現在二百五十歳なのだとか。

 ちなみにラルフは二十五歳で、エリカは十八歳らしい。エリカは俺達の背後から恥ずかしそうに付いて来ている。俺が顔を合わせれば、すぐに視線を反らし、ゆっくりと後方から付いて来るのだ。不思議な女性だが、何だか良い友達になれそうだ。

「今日の移動はここまでにしようか。ラルフは朝まで見張りを頼む」
「お任せ下さい。バシリウス様」

 何度も休憩をしながら、五時間ほど森を進むと、俺はついに体力の限界を迎えた。レッサーミノタウロスの戦士達は疲れた様子も見せないが、戦士ではない女や子供のレッサーミノタウロスは疲れ果てて地面に座り込んで仕舞った。

「ギルベルト。暫く休むと良い。私は二時間ほど仮眠を取る事にしよう」
「わかりました」

 ローラは既に体力が尽きたのか、眠気に耐えられなくなったのか、俺の背中で気持ち良さそうに眠っている。俺はローラを地面に降ろし、体に毛布を掛けて、彼女の体を後ろから抱きしめた。

 俺は無防備の状態で眠れるほど夜の森を信じていないので、眠る前に乾燥肉とパンを齧り、たっぷりと水を飲んでから、右手に鉄の玉を持った。モンスター襲撃があればいつでも対応出来る様に警戒しながら、俺はバシリウス様のすぐ隣で眠りに就いた……。
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