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第一章「冒険者編」
第三十七話「ヴェロニカの想い」
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フェスカやゴルツとの戦いにも勝利し、レッサーミノタウロス達を守りきる事が出来た。これが冒険者としての生活なのか……。やはり田舎を出て冒険者になるためにヘルゲンを訪れたのは正解だった様だ。
ローラは手づかみで肉料理を食べ始めたので、俺はローラの手を綺麗に拭いてから、フォークを持たせてゆっくり食事をする様にと言った。ローラは可愛らしく頷くと、巨大なステーキにフォークを突き刺し、そのまま口に放り込んだ。幸せそうにステーキを食べたあと、葡萄酒を一気に飲み干すと、アンネさんが慌てて制止した。
「ローラ様。お酒はゆっくり飲んで頂かないと、すぐに酔いが回ってしまいますよ」
「アンネさん。ローラは信じられない程お酒が強いので大丈夫なんですよ」
「そうですか……」
アンネさんは信じられないといった表情で俺を見つめたが、ヴェロニカ様が『まぁまぁ、宴なのだから良いではないか』と言うと、アンネさんは渋々引き下がった。普通の大人なら誰もがアンネさんと同じ反応をするだろうが、俺はローラの酒豪ぶりを知っているので、ローラには好きなだけ葡萄酒を飲ませる事にしている。
「ギルベルト。旅は楽しかったか?」
「はい、ヴェロニカ様。本当に良い旅でした。素敵な仲間とも出会えましたし、フロイデンベルグ公爵様の領地も美しい場所だったので、暫く町作りをしていました」
「町作りだと? 全く、ギルベルトはいつも私を驚かせてくれるのだな。こんな男はギルベルトが初めてだ……」
「冒険者になってから、自分の今までの生活がどれだけつまらなかったのか実感しましたよ。冒険者は自分の意思で人生を切り開く事が出来る素敵な職業なんだなって思いました。レッサーミノタウロスを保護出来たのはヴェロニカ様が根回しをして下さったお陰です。色々とありがとうございました」
「なぁに、気にする事はない。ギルベルトは私が守ってやらないとすぐに命を落としそうだしな!」
「確かにそうですね。ヘルゲンに来てから、何度も死ぬ思いをしました。ローラやシャルロッテ、ヴェロニカ様が居なかったら、俺は今頃命を落としていたでしょう」
俺は葡萄酒を一気に飲み干すと、ヴェロニカ様が俺のゴブレットに葡萄酒を注いでくれた。まさか貴族と共に食事をし、お酒を注いで貰える日が来るとは……。公爵家の一人娘のヴェロニカ様は、平民の俺達に平等に接してくれる。時折彼女が貴族だという事を忘れてしまう。
「ヴェロニカお嬢様。平民相手にお酒を注ぐのはどうかと思いますが」
「全くアンネはうるさいな。ギルベルトは特別なのだからだ良いのだ」
「俺が特別……?」
「そうだ。まだ話をしていなかったな。ギルベルトにはギルド区に土地を与える事にしたぞ。ギルベルトと別れてから暫く考えたのだが、ガチャの力があれば商売が出来るのではないかと思ってな。私が土地を提供するから、道具屋を開いてみるのはどうだろうか?」
「僕は金儲けの道具じゃないんだぞ。お嬢さん。少し勘違いをしているんじゃないかな?」
「ガチャよ、目的は金を稼ぐ事ではないぞ。道具屋を開く理由は、魔石ガチャが作り上げた良質なアイテムを販売し、ヘルゲンに暮らす冒険者の生活を支えるためだ。ヘルゲンには強力なマジックアイテムを扱う店が少ないからな。私はいつか店を持ちたいと思っていたのだ」
「俺が土地を頂けるのですか……?」
「うむ。ギルド区はフロイデンベルグ公爵家の領地だからな。既にこの話は私の父であるガブリエル・フォン・フロイデンベルグ公爵に話をつけてある。これが土地の権利書だ」
俺が道具屋を経営する事になるのか? 土地があればローラの魔法で店を建てる事は容易いだろう。それに、安宿を借りて寝泊まりする必要もなくなる。毎日宿代の心配をする事も無く、道具屋でアイテムを販売して生計を立てられるという訳か。
一階を道具屋にして、二階を俺とローラ、エリカの自宅にすれば良いのではないだろうか。勿論、シャルロッテが望むなら、彼女も共に暮らして貰う。
「本当に頂いても宜しいのですか?」
「勿論良いとも。ギルド区に良質なマジックアイテムを扱う道具屋が出来れば、他の町からも冒険者が移住してくるかもしれないからな。冒険者が増えればヘルゲンの防衛力が上がる。それに、私はギルベルトと商売がしたいのだ」
「ヴェロニカ様も一緒に……?」
「うむ。私とギルベルト、二人で道具屋の経営をしようではないか」
「冒険者を助ける事を目的としているのなら僕も賛成だな。ギルベルト、どうするんだい?」
「それではありがたく頂戴して、ヴェロニカ様と共に道具屋を経営する事にします」
「うむ。よい返事だ」
ヴェロニカ様が可愛らしく微笑むと、俺は彼女と握手を交わした。道具屋作りか……。これからまた面白くなりそうだな。俺はシャルロッテに一緒に暮らさないかと提案したら、彼女は二つ返事で了承した。
「私が目を放したら他の女を連れ込みそうだし……」
「おやおや、シャルロッテはギルベルトを監視したいのかな?」
「もう、全く馬鹿なガチャね! そんな事ある訳ないじゃない! 宿代を節約するためなんだから! 勘違いしないでよね!」
「素直になりなよ、シャルロッテ。ギルベルトと一緒に居たいんだろう?」
「そうよ! 私も一緒に居たい! 私もギルベルトの仲間なんだから!」
「へぇ……。仲間だからねぇ……」
ガチャはとことんシャルロッテをからかい、俺はそんな二人のやり取りを聞きながら、ローラに肉を切って差し出した。それから葡萄酒のお代わりを注ぐと、既にローラが十五杯も葡萄酒を飲んでいる事に気がついた。これだけお酒を飲んでもローラは少しも酔っていない。
「ギルベルト、少し二人で話がしたい」
「わかりました、ヴェロニカ様」
俺はローラをエリカに任せると、ヴェロニカ様に連れられて中庭に来た。中庭に吹く涼しい風が酒で火照った体を冷やし、何ともいえない幸福感を覚えた。仲間との楽しい食事に道具屋としての新たな人生。俺の人生はこれから新しく始まるのだ。
考えてみれば、ヴェロニカ様はいつも俺に可能性を与えてくれた。俺達が安全に生きられる将来を作ってくれているのだ。十三歳だというのにも拘らず、二歳年上の俺の生活まで面倒を見てくれるなんて。なんと偉大な女性だろうか。
「ギルベルト。私の事はヴェロニカって呼んでくれないか?」
「そんな。貴族を呼び捨てにするなんて出来ませんよ」
「ギルベルトは特別だから……。私は生まれて初めて父以外の男を信用しているのかもしれない。貴族として生まれた私には、幼い頃から言い寄ってくる貴族が多かった。私は男の下心というものが手に取る様に分かるんだ」
「……」
「魔法都市ヘルゲンに領地を持つフロイデンベルグ家に取り入ろうとする者は本当に多いの。幼い頃から様々な贈り物を貰ってきたわ。高価な宝石や魔法の杖、美しいドレスに馬。それから首飾りや希少なモンスターの魔石。どんな高価な贈り物にも下心があった。私に取り入ろうとする男が多かったから、私は父親以外の男を信じられなくなった……」
「そうだったんですね」
「だけどギルベルトは純粋な気持ちでぬいぐるみをくれた。それに、ホワイトベアの着ぐるみだってくれた。高価な物で私の気を引こうとするのではなく、純粋に私の事を思ってプレゼントをくれたんだって、すぐにわかったぞ」
「気に入って頂けたなら嬉しいですよ」
ヴェロニカ様は静かに俺の手を握り、ゆっくりと俺を見上げた。普段は無邪気な女の子といった感じだが、二人きりの時は随分落ち着いており、何とも女らしい雰囲気がある。身長が低いから少女の様に見えるが、考えは非常に成熟しており、俺の将来まで考えて根回し出来る程の知能を持っている。
どうして俺とヴェロニカ様ではこんなに人間としての差があるのだろうか。早く胸を張ってヴェロニカ様の隣に立てる冒険者になりたいものだ。
「ギルベルトの周りには素敵な女の子が沢山居るが、もう少し私の事も見てくれないか……?」
「え……? ヴェロニカ様?」
「もう、本当に恥ずかしい……! なんて事を言ってしまったのかしら……。兎に角、ギルベルトは私が守ると決めているの。あなたは必ず偉大な冒険者になる。私が大人になるまで、もう少し待っていてくれないか……?」
「どういう意味ですか……?」
「全く、ギルベルトは本当に鈍感なんだから。冒険者としては優秀なのに、どうしてこうも頭が悪いのだ! 兎に角、勝手に彼女を作るなって事! わかった?」
「はい……。ヴェロニカ様」
「様も禁止! 私はヴェロニカなの!」
「ヴェロニカ」
俺が名前を呼ぶと、ヴェロニカは満面の笑みを浮かべて俺を見つめた。それからすぐに立ち上がると、俺の手を握って大広間に向かって歩き始めた……。
ローラは手づかみで肉料理を食べ始めたので、俺はローラの手を綺麗に拭いてから、フォークを持たせてゆっくり食事をする様にと言った。ローラは可愛らしく頷くと、巨大なステーキにフォークを突き刺し、そのまま口に放り込んだ。幸せそうにステーキを食べたあと、葡萄酒を一気に飲み干すと、アンネさんが慌てて制止した。
「ローラ様。お酒はゆっくり飲んで頂かないと、すぐに酔いが回ってしまいますよ」
「アンネさん。ローラは信じられない程お酒が強いので大丈夫なんですよ」
「そうですか……」
アンネさんは信じられないといった表情で俺を見つめたが、ヴェロニカ様が『まぁまぁ、宴なのだから良いではないか』と言うと、アンネさんは渋々引き下がった。普通の大人なら誰もがアンネさんと同じ反応をするだろうが、俺はローラの酒豪ぶりを知っているので、ローラには好きなだけ葡萄酒を飲ませる事にしている。
「ギルベルト。旅は楽しかったか?」
「はい、ヴェロニカ様。本当に良い旅でした。素敵な仲間とも出会えましたし、フロイデンベルグ公爵様の領地も美しい場所だったので、暫く町作りをしていました」
「町作りだと? 全く、ギルベルトはいつも私を驚かせてくれるのだな。こんな男はギルベルトが初めてだ……」
「冒険者になってから、自分の今までの生活がどれだけつまらなかったのか実感しましたよ。冒険者は自分の意思で人生を切り開く事が出来る素敵な職業なんだなって思いました。レッサーミノタウロスを保護出来たのはヴェロニカ様が根回しをして下さったお陰です。色々とありがとうございました」
「なぁに、気にする事はない。ギルベルトは私が守ってやらないとすぐに命を落としそうだしな!」
「確かにそうですね。ヘルゲンに来てから、何度も死ぬ思いをしました。ローラやシャルロッテ、ヴェロニカ様が居なかったら、俺は今頃命を落としていたでしょう」
俺は葡萄酒を一気に飲み干すと、ヴェロニカ様が俺のゴブレットに葡萄酒を注いでくれた。まさか貴族と共に食事をし、お酒を注いで貰える日が来るとは……。公爵家の一人娘のヴェロニカ様は、平民の俺達に平等に接してくれる。時折彼女が貴族だという事を忘れてしまう。
「ヴェロニカお嬢様。平民相手にお酒を注ぐのはどうかと思いますが」
「全くアンネはうるさいな。ギルベルトは特別なのだからだ良いのだ」
「俺が特別……?」
「そうだ。まだ話をしていなかったな。ギルベルトにはギルド区に土地を与える事にしたぞ。ギルベルトと別れてから暫く考えたのだが、ガチャの力があれば商売が出来るのではないかと思ってな。私が土地を提供するから、道具屋を開いてみるのはどうだろうか?」
「僕は金儲けの道具じゃないんだぞ。お嬢さん。少し勘違いをしているんじゃないかな?」
「ガチャよ、目的は金を稼ぐ事ではないぞ。道具屋を開く理由は、魔石ガチャが作り上げた良質なアイテムを販売し、ヘルゲンに暮らす冒険者の生活を支えるためだ。ヘルゲンには強力なマジックアイテムを扱う店が少ないからな。私はいつか店を持ちたいと思っていたのだ」
「俺が土地を頂けるのですか……?」
「うむ。ギルド区はフロイデンベルグ公爵家の領地だからな。既にこの話は私の父であるガブリエル・フォン・フロイデンベルグ公爵に話をつけてある。これが土地の権利書だ」
俺が道具屋を経営する事になるのか? 土地があればローラの魔法で店を建てる事は容易いだろう。それに、安宿を借りて寝泊まりする必要もなくなる。毎日宿代の心配をする事も無く、道具屋でアイテムを販売して生計を立てられるという訳か。
一階を道具屋にして、二階を俺とローラ、エリカの自宅にすれば良いのではないだろうか。勿論、シャルロッテが望むなら、彼女も共に暮らして貰う。
「本当に頂いても宜しいのですか?」
「勿論良いとも。ギルド区に良質なマジックアイテムを扱う道具屋が出来れば、他の町からも冒険者が移住してくるかもしれないからな。冒険者が増えればヘルゲンの防衛力が上がる。それに、私はギルベルトと商売がしたいのだ」
「ヴェロニカ様も一緒に……?」
「うむ。私とギルベルト、二人で道具屋の経営をしようではないか」
「冒険者を助ける事を目的としているのなら僕も賛成だな。ギルベルト、どうするんだい?」
「それではありがたく頂戴して、ヴェロニカ様と共に道具屋を経営する事にします」
「うむ。よい返事だ」
ヴェロニカ様が可愛らしく微笑むと、俺は彼女と握手を交わした。道具屋作りか……。これからまた面白くなりそうだな。俺はシャルロッテに一緒に暮らさないかと提案したら、彼女は二つ返事で了承した。
「私が目を放したら他の女を連れ込みそうだし……」
「おやおや、シャルロッテはギルベルトを監視したいのかな?」
「もう、全く馬鹿なガチャね! そんな事ある訳ないじゃない! 宿代を節約するためなんだから! 勘違いしないでよね!」
「素直になりなよ、シャルロッテ。ギルベルトと一緒に居たいんだろう?」
「そうよ! 私も一緒に居たい! 私もギルベルトの仲間なんだから!」
「へぇ……。仲間だからねぇ……」
ガチャはとことんシャルロッテをからかい、俺はそんな二人のやり取りを聞きながら、ローラに肉を切って差し出した。それから葡萄酒のお代わりを注ぐと、既にローラが十五杯も葡萄酒を飲んでいる事に気がついた。これだけお酒を飲んでもローラは少しも酔っていない。
「ギルベルト、少し二人で話がしたい」
「わかりました、ヴェロニカ様」
俺はローラをエリカに任せると、ヴェロニカ様に連れられて中庭に来た。中庭に吹く涼しい風が酒で火照った体を冷やし、何ともいえない幸福感を覚えた。仲間との楽しい食事に道具屋としての新たな人生。俺の人生はこれから新しく始まるのだ。
考えてみれば、ヴェロニカ様はいつも俺に可能性を与えてくれた。俺達が安全に生きられる将来を作ってくれているのだ。十三歳だというのにも拘らず、二歳年上の俺の生活まで面倒を見てくれるなんて。なんと偉大な女性だろうか。
「ギルベルト。私の事はヴェロニカって呼んでくれないか?」
「そんな。貴族を呼び捨てにするなんて出来ませんよ」
「ギルベルトは特別だから……。私は生まれて初めて父以外の男を信用しているのかもしれない。貴族として生まれた私には、幼い頃から言い寄ってくる貴族が多かった。私は男の下心というものが手に取る様に分かるんだ」
「……」
「魔法都市ヘルゲンに領地を持つフロイデンベルグ家に取り入ろうとする者は本当に多いの。幼い頃から様々な贈り物を貰ってきたわ。高価な宝石や魔法の杖、美しいドレスに馬。それから首飾りや希少なモンスターの魔石。どんな高価な贈り物にも下心があった。私に取り入ろうとする男が多かったから、私は父親以外の男を信じられなくなった……」
「そうだったんですね」
「だけどギルベルトは純粋な気持ちでぬいぐるみをくれた。それに、ホワイトベアの着ぐるみだってくれた。高価な物で私の気を引こうとするのではなく、純粋に私の事を思ってプレゼントをくれたんだって、すぐにわかったぞ」
「気に入って頂けたなら嬉しいですよ」
ヴェロニカ様は静かに俺の手を握り、ゆっくりと俺を見上げた。普段は無邪気な女の子といった感じだが、二人きりの時は随分落ち着いており、何とも女らしい雰囲気がある。身長が低いから少女の様に見えるが、考えは非常に成熟しており、俺の将来まで考えて根回し出来る程の知能を持っている。
どうして俺とヴェロニカ様ではこんなに人間としての差があるのだろうか。早く胸を張ってヴェロニカ様の隣に立てる冒険者になりたいものだ。
「ギルベルトの周りには素敵な女の子が沢山居るが、もう少し私の事も見てくれないか……?」
「え……? ヴェロニカ様?」
「もう、本当に恥ずかしい……! なんて事を言ってしまったのかしら……。兎に角、ギルベルトは私が守ると決めているの。あなたは必ず偉大な冒険者になる。私が大人になるまで、もう少し待っていてくれないか……?」
「どういう意味ですか……?」
「全く、ギルベルトは本当に鈍感なんだから。冒険者としては優秀なのに、どうしてこうも頭が悪いのだ! 兎に角、勝手に彼女を作るなって事! わかった?」
「はい……。ヴェロニカ様」
「様も禁止! 私はヴェロニカなの!」
「ヴェロニカ」
俺が名前を呼ぶと、ヴェロニカは満面の笑みを浮かべて俺を見つめた。それからすぐに立ち上がると、俺の手を握って大広間に向かって歩き始めた……。
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