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第一章「迷宮都市ベーレント編」
第二十四話「獣人の新居」
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宴の最中に村長が有識者を連れて俺に挨拶をしに来た。ケットシー達は何度も頭を下げ、ベヒモスの討伐に対する礼を述べた後、村長が俺の前に跪いて首を垂れた。
「シュタイン様! 私達はもはやこの地で生き延びる力はありません。どうか私達もラース大陸に連れて行ってくれませんか!?」
「それは構いませんが……エレオノーレ様、転移の魔法陣でケットシーの皆さんも一緒にラース大陸に移動しても構いませんか?」
「うむ、良いぞ。しかし、これだけ大勢のケットシー族が住める場所は少ないだろうな。ケットシーは希少な種族だから、奴隷商達に狙われる事にもなるだろう」
俺はヴィクトリアにケットシーの移住について相談すると、ヴィクトリアは父と一緒に居たのか、父がギーレン村でケットシーを受け入れると言った。父は既にユニコーンの角を手に入れた様だ。俺が魔大陸で試験を終えて迷宮都市ベーレントに帰還するまで待っているらしい。
父が防衛するギーレン村ならケットシー達も安全に過ごせるだろう。奴隷商達もSランクの称号を持つ者が防衛する村に手は出さない筈だ。ギーレン村は小さな農村だが、父の魔法道具が普及しているので、冒険者達のレベルもランクも比較的高い。
「それでは皆さん、明日ラース大陸に転移します。俺の父、Sランクの魔法道具屋、ギルベルト・シュタインが防衛するギーレン村での生活を保障します」
「本当ですか……!? シュタイン様! もうデュラハンやタイタンに怯えて暮らす必要もないんですね!?」
「はい! ギーレン村の周囲にはEランクとDランクの魔物しか生息していないので、今よりも遥かに安全に暮らせます。それに、何かあっても俺の父が居るので大丈夫です」
Sランクの称号を持つ者は百万人に一人程度。大抵の高ランクの者は王都イスターツで国防に携わっている。父の様に最高ランクの称号を持ちながら、ギーレン村の様な小さな農村で暮らす者は極めて少ない。
こうしてケットシー族の新たな居場所も決まり、俺達は深夜まで酒を飲み、ベヒモスの肉を食べて魔大陸の旅立ちを祝った……。
〈翌朝〉
ケットシー達は朝から忙しそうに旅立ちの支度をしている。と言っても、度重なる魔物の襲撃によって貴重品等の大半は略奪されているから、荷物は殆どない。ケットシー達は着古した服や家族との思い出の品を持ち、エレオノーレ様はラース大陸に転移するための魔法陣を書いた。
ボリスはベヒモスの角を魔法陣の中に入れ、パラディン達はベヒモスの素材を担いだ。俺はララにもベヒモスの肉を食べさせたかったので、ベヒモスの肉を回収し、魔石を持って魔法陣に乗った。
サンダーボルトの魔法を秘めるAランクの魔石については俺の魔石砲の弾倉に入れておく事にした。魔石を換金するよりも俺が攻撃魔法として使った方がこれからの魔物討伐もより安全なものになるだろうと考えたのだ。その代わり、ボリスはベヒモスの角という、強力な武器に作り替える事が出来る希少な素材を自分の物にした。
最後にエレオノーレ様が魔法陣に飛び乗ると、魔法陣が銀色の魔力を放出して輝き、次の瞬間ラース大陸、迷宮都市ベーレント、冒険者ギルド・アルタイルの前に転移していた。
市民達は突如街中に現れた大勢のケットシーを見て驚き、衛兵達が一斉に駆けつけてきた。それでもベーレントで最高ランクのエレオノーレ様が居るから騒動にはならなかった。
『ヴィクトリア、今アルタイルの前に居るよ!』
『本当? 私もギルドの中に居るの』
脳内にヴィクトリアの声が響くと、ギルドの扉が開き、マスターのロイさんと父、ララとヴィクトリアが飛び出してきた。ララは大粒の涙を流しながら俺に飛びつき、俺は三週間ぶりに幼いララを抱きしめた。
ふわふわした金色の体毛が心地良く、ララは俺と離れていた間随分寂しかったのか、何度も俺の顔に頬ずりをした。容姿は人間に近いが、やはりフェンリルの子なのだろう。暫く頬ずりをすると満足げに微笑んでから、地面に降りた。
「ユリウス、会いたかった……ララ、ちゃんとヴィクトリアを守ったよ!」
「俺も会いたかったよ、ララ。俺の代わりにヴィクトリアを守ってくれてありがとう」
ロイさんはエレオノーレ様と固い握手を交わし、父はユニコーンの角を頭上高く掲げて微笑んだ。市民達はボリスが持っているベヒモスの素材に気が付いたのか、街には熱狂的な歓声が上がった。
深紫色のローブを着た美しい姫殿下が近づいてくると、彼女は目に涙を浮かべながら俺を見つめた。ヴィクトリアと共に居た時間は少ないが、毎日何回も話していたからか、既にかけがえのない存在になっている。ヴィクトリアは魔大陸で奮闘する俺をいつも励ましてくれ、時には王家に伝わる歌等を歌ってくれた。
「ユリウス、私はあなたを誇りに思うわ。私の守護者がAランクのヒュドラを討伐し、生命の危機に晒されているケットシー族を守り抜くなんて! 迷宮都市ベーレントの皆様! 私はファルケンハイン王国第一王女、ヴィクトリア・フォン・ファルケンハインです。この度、私の守護者がAランクのベヒモスの討伐に成功し、魔大陸から帰還しました! ユリウス・シュタインとボリス・フォン・イェーガー、封魔師のエレオノーレ・フォン・クラインに盛大な拍手をお願いします!」
ヴィクトリアが市民に対して呼びかけると、周囲から歓声と拍手が沸き起こった。他人から称賛されたくて努力をした訳ではないが、こうして祝福をされるのもたまには良いかもしれない。
「ユリウス・シュタインって確かまだ十五歳だったよな? 魔大陸でベヒモス討伐って、Bランクの冒険者集団でも不可能だぞ!?」
「アルタイルの冒険者が魔大陸でベヒモスの討伐に成功した! 十五歳でAランクの討伐だぞ!? 流石ユリウスだ!」
「ああ! ユリウスは必ず最高の冒険者になると思っていた! 魔大陸を生き延びてケットシーを救うなんて!」
俺は瞬く間に市民に囲まれ、ヴィクトリアは何度も俺の行動を称賛してくれた。確かに俺は命懸けでケットシーを救う義理はなかった。もしかしたら俺もベヒモスに殺されていたかもしれないのだ。
それでも封魔剣舞は獣人が作り上げた剣術。これから封魔師になる者が獣人を見捨てる事なんて出来ない。
毎日の睡眠時間を二時間まで削り、徹底的に肉体を鍛え、ケットシー達を守るために要塞の周囲に潜む魔物を狩り続け、命懸けでベヒモスを討伐した甲斐もあったというものだ。他人から称賛されたくてケットシーを守った訳ではない。それが正しいと思ったから、自分の正義に従って行動したまでだ。
父は俺がベヒモスの討伐をした事を初めて知ったのか、口を開けたまま呆然と俺を見つめた。俺は父の前に進むと、冷凍したベヒモスの心臓を渡した。父はやっと事態を飲み込んだのか、ベヒモスの心臓とユニコーンの角を市民達に見せた。
「私はSランク、魔法道具屋のギルベルト・シュタインです。この度、私の息子とイェーガー伯爵家のボリス君がベヒモスの討伐に成功しました。実は彼らが命を賭けて魔大陸でベヒモスを討伐したのは、ファルケンハイン王国、サラ・フォン・ファルケンハイン王妃様をはじめとする、ヒュドラの呪いに苦しむ方を救うためなのです! 若き冒険者達の勇気ある行動にもう一度拍手をお願いします!」
父が大げさに俺達を褒めてくれると、市民達は俺達の行動の真意に知り、まずます熱狂的な拍手を送ってくれた。こうして自分の努力が称賛されるのは気分が良いが、ヒュドラの呪いを解くにはまだ素材が足りない。
「お父様、それではケットシーの皆様をお願いします」
「ああ! 任せておけ。ユニコーンの角もこの通り手に入った。それから、これはユニコーンのたてがみを使って作った杖だ。きっと来年あたりに必要になるだろう」
「え? 俺が杖をですか?」
「うむ、これからもユリウスの活躍に期待しているぞ!」
父がミスリル製の美しい杖をくれると、俺は訳が分からず杖を帯に差した。どこからどう見ても前衛職に見えない俺の装備にこの杖は似合わない。
帯にはミスリル製の刀と小太刀、杖を差し、右の腰にはホルスターに入った魔石砲と聖騎士の角笛、縄で結んだ聖者のゴブレットと聖者の袋を提げ、手には騎士のガントレットを嵌め、羽根付きグリーヴを履いている。
明らかに剣士にしか見えない俺がミスリル製の四十センチ程の杖を持っているのだ。少し滑稽だが、この杖はきっと将来必要になるのだろう。
父は既に馬車を用意していたのか、冒険者ギルド前に次々と馬車が停まると、ケットシー達が一斉に乗り込んだ。ケットシー達は俺とボリス、エレオノーレ様に何度もお礼を言い、父が先頭の馬車の御者台に乗ると、ベルトに差していた杖を引き抜いて頭上高く掲げた。
杖の先端からは色とりどりの魔力の球が飛び、空中で炸裂すると、ベーレントの街が父の魔法に照らされて幻想的に輝いた。これは父がお祝い事の際に上げる花火で、闇属性以外の全属性を一度に放出して炸裂させるものだ。
父の魔法によって再び街に歓声が沸き起こると、俺は久しぶりにギルドに入った。ギルドメンバー達が俺とボリス、エレオノーレ様のヒュドラ討伐を祝福してくれると、ロイさんが俺の肩に手を置いた。
「今朝、王都ベーレントのギルド協会から連絡があって、ユリウスとボリスにBランクの称号を授ける事が決まった。国王陛下もギルド協会の会長も二人の勇気ある行動を評価している! Cランクの冒険者がたった二人でケットシー族を守り抜き、魔大陸にのみ生息するベヒモスを討伐したのだからな! 二人は今日から遂にギルドマスタークラスの冒険者という訳だ」
「ギルドマスタークラスですか?」
「うむ。Bランクを超えるとギルドを設立出来るんだよ。ユリウスにはもうこのアルタイルは小さすぎるかな。まさか十五歳で魔大陸を生き延びるとは……! 全ての魔物がCランク以上なんて、考えただけでも寒気がするよ」
「確かに恐ろしい場所でしたよ。死のダンジョンの支配者が辺り一面に居るんですから」
「デュラハンが!? それは恐ろしいどころではないだろう……」
「はい、何十体ものデュラハンやブラックベア、タイタンやアラクネを狩り続けましたよ。魔大陸では生きる事に必死でした。Bランクの称号を頂けるなんて光栄です! ありがとうございます、ロイさん!」
「うむ。君達は正しい事をした。私はユリウスを誇りに思うよ」
通常ならCランクの冒険者がBランクの称号を得るにはBランクの討伐クエストを五回達成しなければならない。だが今回は無数のCランクの魔物を狩りながら三百人ものケットシー族を守り抜き、Aランクのベヒモスの討伐に成功した事から、俺達の行動が評価されてBランクの称号を得る事となった。
ギルドカードはBランクを証明する銀製の物に代わり、ヴィクトリアは何度も俺を称賛してくれた。ちなみにAランクのギルドカードは金製、Sランクのギルドカードはミスリル製だ。美しい銀のカードの上には俺のステータスが魔法の文字で輝いている。
『Lv.64 Bランク 魔法道具屋 ユリウス・シュタイン』
属性:【火】
剣技:雷光閃 円月閃
魔法:ファイア
召喚獣:Cランク・パラディン×3
魔石砲:ファイアボルト アースウォール ブラッドクロス フレイム ウィンドエッジ サンダーボルト
討伐履歴:Aランク・ベヒモス
ちなみにギルドカードの裏側には装備まで表示されている。これはBランク以上のギルドカードが持つ力なのだとか。武具や道具を身に着けた状態でギルドカードに触れれば名称を確認する事が出来る。鑑定の魔法が自動的に掛かるという訳だ。
装備:錬金術師の指環 守護者の指環 聖騎士の角笛 魔石砲 ホルスター 刀 小太刀 帯 騎士のガントレット 羽根付きグリーヴ シルバーメイル シルバーフォールド 聖者の袋 聖者のゴブレット
ギルドカードには討伐履歴の項目も追加されている。これはAランク以上の魔物を討伐すると追加される項目らしい。冒険者としての実力を証明するためのギルドカードだから、ランクとレベル以外にも様々な項目がある。
「ユリウス、早速修行を始めるぞ!」
ヴィクトリアやララとの再会の喜びを噛み締めたかったが、まずは封魔石宝流を継承しなければならない。今日から半年間の修行に耐えれば、討伐した魔物を魔石化する力を得る事が出来る。
思えば封魔師を目指したのも、より効率良く魔石ガチャを引くためだった。魔石化の力があれば魔物との戦闘で魔石を大量に集める事が出来るからだ。
浮かれていた気持ちを静め、エレオノーレ様の修行に耐えるために気持ちを切り替えた。エレオノーレ様は自分自身の寿命を削ってまで俺に技を教えてくれるのだから、本気で修行に臨まなければ失礼だろう。
「ユリウス、私も今日からエレオノーレ様の屋敷で暮らす事になったわ。守護者として私の生活を支えて頂戴ね」
「僕もだよユリウス。これからもずっと一緒に居たい」
「ああ、ヴィクトリア、ボリス。一緒に暮らそう。勿論ララも一緒に」
「うん!」
ララは俺の背中に飛びつき、ヴィクトリアは微笑みながら俺の手を握り、ボリスは俺の肩に手を置いた。最高の仲間達と共に、半年間の修行を行うエレオノーレ様の屋敷に向かって歩き始めた……。
「シュタイン様! 私達はもはやこの地で生き延びる力はありません。どうか私達もラース大陸に連れて行ってくれませんか!?」
「それは構いませんが……エレオノーレ様、転移の魔法陣でケットシーの皆さんも一緒にラース大陸に移動しても構いませんか?」
「うむ、良いぞ。しかし、これだけ大勢のケットシー族が住める場所は少ないだろうな。ケットシーは希少な種族だから、奴隷商達に狙われる事にもなるだろう」
俺はヴィクトリアにケットシーの移住について相談すると、ヴィクトリアは父と一緒に居たのか、父がギーレン村でケットシーを受け入れると言った。父は既にユニコーンの角を手に入れた様だ。俺が魔大陸で試験を終えて迷宮都市ベーレントに帰還するまで待っているらしい。
父が防衛するギーレン村ならケットシー達も安全に過ごせるだろう。奴隷商達もSランクの称号を持つ者が防衛する村に手は出さない筈だ。ギーレン村は小さな農村だが、父の魔法道具が普及しているので、冒険者達のレベルもランクも比較的高い。
「それでは皆さん、明日ラース大陸に転移します。俺の父、Sランクの魔法道具屋、ギルベルト・シュタインが防衛するギーレン村での生活を保障します」
「本当ですか……!? シュタイン様! もうデュラハンやタイタンに怯えて暮らす必要もないんですね!?」
「はい! ギーレン村の周囲にはEランクとDランクの魔物しか生息していないので、今よりも遥かに安全に暮らせます。それに、何かあっても俺の父が居るので大丈夫です」
Sランクの称号を持つ者は百万人に一人程度。大抵の高ランクの者は王都イスターツで国防に携わっている。父の様に最高ランクの称号を持ちながら、ギーレン村の様な小さな農村で暮らす者は極めて少ない。
こうしてケットシー族の新たな居場所も決まり、俺達は深夜まで酒を飲み、ベヒモスの肉を食べて魔大陸の旅立ちを祝った……。
〈翌朝〉
ケットシー達は朝から忙しそうに旅立ちの支度をしている。と言っても、度重なる魔物の襲撃によって貴重品等の大半は略奪されているから、荷物は殆どない。ケットシー達は着古した服や家族との思い出の品を持ち、エレオノーレ様はラース大陸に転移するための魔法陣を書いた。
ボリスはベヒモスの角を魔法陣の中に入れ、パラディン達はベヒモスの素材を担いだ。俺はララにもベヒモスの肉を食べさせたかったので、ベヒモスの肉を回収し、魔石を持って魔法陣に乗った。
サンダーボルトの魔法を秘めるAランクの魔石については俺の魔石砲の弾倉に入れておく事にした。魔石を換金するよりも俺が攻撃魔法として使った方がこれからの魔物討伐もより安全なものになるだろうと考えたのだ。その代わり、ボリスはベヒモスの角という、強力な武器に作り替える事が出来る希少な素材を自分の物にした。
最後にエレオノーレ様が魔法陣に飛び乗ると、魔法陣が銀色の魔力を放出して輝き、次の瞬間ラース大陸、迷宮都市ベーレント、冒険者ギルド・アルタイルの前に転移していた。
市民達は突如街中に現れた大勢のケットシーを見て驚き、衛兵達が一斉に駆けつけてきた。それでもベーレントで最高ランクのエレオノーレ様が居るから騒動にはならなかった。
『ヴィクトリア、今アルタイルの前に居るよ!』
『本当? 私もギルドの中に居るの』
脳内にヴィクトリアの声が響くと、ギルドの扉が開き、マスターのロイさんと父、ララとヴィクトリアが飛び出してきた。ララは大粒の涙を流しながら俺に飛びつき、俺は三週間ぶりに幼いララを抱きしめた。
ふわふわした金色の体毛が心地良く、ララは俺と離れていた間随分寂しかったのか、何度も俺の顔に頬ずりをした。容姿は人間に近いが、やはりフェンリルの子なのだろう。暫く頬ずりをすると満足げに微笑んでから、地面に降りた。
「ユリウス、会いたかった……ララ、ちゃんとヴィクトリアを守ったよ!」
「俺も会いたかったよ、ララ。俺の代わりにヴィクトリアを守ってくれてありがとう」
ロイさんはエレオノーレ様と固い握手を交わし、父はユニコーンの角を頭上高く掲げて微笑んだ。市民達はボリスが持っているベヒモスの素材に気が付いたのか、街には熱狂的な歓声が上がった。
深紫色のローブを着た美しい姫殿下が近づいてくると、彼女は目に涙を浮かべながら俺を見つめた。ヴィクトリアと共に居た時間は少ないが、毎日何回も話していたからか、既にかけがえのない存在になっている。ヴィクトリアは魔大陸で奮闘する俺をいつも励ましてくれ、時には王家に伝わる歌等を歌ってくれた。
「ユリウス、私はあなたを誇りに思うわ。私の守護者がAランクのヒュドラを討伐し、生命の危機に晒されているケットシー族を守り抜くなんて! 迷宮都市ベーレントの皆様! 私はファルケンハイン王国第一王女、ヴィクトリア・フォン・ファルケンハインです。この度、私の守護者がAランクのベヒモスの討伐に成功し、魔大陸から帰還しました! ユリウス・シュタインとボリス・フォン・イェーガー、封魔師のエレオノーレ・フォン・クラインに盛大な拍手をお願いします!」
ヴィクトリアが市民に対して呼びかけると、周囲から歓声と拍手が沸き起こった。他人から称賛されたくて努力をした訳ではないが、こうして祝福をされるのもたまには良いかもしれない。
「ユリウス・シュタインって確かまだ十五歳だったよな? 魔大陸でベヒモス討伐って、Bランクの冒険者集団でも不可能だぞ!?」
「アルタイルの冒険者が魔大陸でベヒモスの討伐に成功した! 十五歳でAランクの討伐だぞ!? 流石ユリウスだ!」
「ああ! ユリウスは必ず最高の冒険者になると思っていた! 魔大陸を生き延びてケットシーを救うなんて!」
俺は瞬く間に市民に囲まれ、ヴィクトリアは何度も俺の行動を称賛してくれた。確かに俺は命懸けでケットシーを救う義理はなかった。もしかしたら俺もベヒモスに殺されていたかもしれないのだ。
それでも封魔剣舞は獣人が作り上げた剣術。これから封魔師になる者が獣人を見捨てる事なんて出来ない。
毎日の睡眠時間を二時間まで削り、徹底的に肉体を鍛え、ケットシー達を守るために要塞の周囲に潜む魔物を狩り続け、命懸けでベヒモスを討伐した甲斐もあったというものだ。他人から称賛されたくてケットシーを守った訳ではない。それが正しいと思ったから、自分の正義に従って行動したまでだ。
父は俺がベヒモスの討伐をした事を初めて知ったのか、口を開けたまま呆然と俺を見つめた。俺は父の前に進むと、冷凍したベヒモスの心臓を渡した。父はやっと事態を飲み込んだのか、ベヒモスの心臓とユニコーンの角を市民達に見せた。
「私はSランク、魔法道具屋のギルベルト・シュタインです。この度、私の息子とイェーガー伯爵家のボリス君がベヒモスの討伐に成功しました。実は彼らが命を賭けて魔大陸でベヒモスを討伐したのは、ファルケンハイン王国、サラ・フォン・ファルケンハイン王妃様をはじめとする、ヒュドラの呪いに苦しむ方を救うためなのです! 若き冒険者達の勇気ある行動にもう一度拍手をお願いします!」
父が大げさに俺達を褒めてくれると、市民達は俺達の行動の真意に知り、まずます熱狂的な拍手を送ってくれた。こうして自分の努力が称賛されるのは気分が良いが、ヒュドラの呪いを解くにはまだ素材が足りない。
「お父様、それではケットシーの皆様をお願いします」
「ああ! 任せておけ。ユニコーンの角もこの通り手に入った。それから、これはユニコーンのたてがみを使って作った杖だ。きっと来年あたりに必要になるだろう」
「え? 俺が杖をですか?」
「うむ、これからもユリウスの活躍に期待しているぞ!」
父がミスリル製の美しい杖をくれると、俺は訳が分からず杖を帯に差した。どこからどう見ても前衛職に見えない俺の装備にこの杖は似合わない。
帯にはミスリル製の刀と小太刀、杖を差し、右の腰にはホルスターに入った魔石砲と聖騎士の角笛、縄で結んだ聖者のゴブレットと聖者の袋を提げ、手には騎士のガントレットを嵌め、羽根付きグリーヴを履いている。
明らかに剣士にしか見えない俺がミスリル製の四十センチ程の杖を持っているのだ。少し滑稽だが、この杖はきっと将来必要になるのだろう。
父は既に馬車を用意していたのか、冒険者ギルド前に次々と馬車が停まると、ケットシー達が一斉に乗り込んだ。ケットシー達は俺とボリス、エレオノーレ様に何度もお礼を言い、父が先頭の馬車の御者台に乗ると、ベルトに差していた杖を引き抜いて頭上高く掲げた。
杖の先端からは色とりどりの魔力の球が飛び、空中で炸裂すると、ベーレントの街が父の魔法に照らされて幻想的に輝いた。これは父がお祝い事の際に上げる花火で、闇属性以外の全属性を一度に放出して炸裂させるものだ。
父の魔法によって再び街に歓声が沸き起こると、俺は久しぶりにギルドに入った。ギルドメンバー達が俺とボリス、エレオノーレ様のヒュドラ討伐を祝福してくれると、ロイさんが俺の肩に手を置いた。
「今朝、王都ベーレントのギルド協会から連絡があって、ユリウスとボリスにBランクの称号を授ける事が決まった。国王陛下もギルド協会の会長も二人の勇気ある行動を評価している! Cランクの冒険者がたった二人でケットシー族を守り抜き、魔大陸にのみ生息するベヒモスを討伐したのだからな! 二人は今日から遂にギルドマスタークラスの冒険者という訳だ」
「ギルドマスタークラスですか?」
「うむ。Bランクを超えるとギルドを設立出来るんだよ。ユリウスにはもうこのアルタイルは小さすぎるかな。まさか十五歳で魔大陸を生き延びるとは……! 全ての魔物がCランク以上なんて、考えただけでも寒気がするよ」
「確かに恐ろしい場所でしたよ。死のダンジョンの支配者が辺り一面に居るんですから」
「デュラハンが!? それは恐ろしいどころではないだろう……」
「はい、何十体ものデュラハンやブラックベア、タイタンやアラクネを狩り続けましたよ。魔大陸では生きる事に必死でした。Bランクの称号を頂けるなんて光栄です! ありがとうございます、ロイさん!」
「うむ。君達は正しい事をした。私はユリウスを誇りに思うよ」
通常ならCランクの冒険者がBランクの称号を得るにはBランクの討伐クエストを五回達成しなければならない。だが今回は無数のCランクの魔物を狩りながら三百人ものケットシー族を守り抜き、Aランクのベヒモスの討伐に成功した事から、俺達の行動が評価されてBランクの称号を得る事となった。
ギルドカードはBランクを証明する銀製の物に代わり、ヴィクトリアは何度も俺を称賛してくれた。ちなみにAランクのギルドカードは金製、Sランクのギルドカードはミスリル製だ。美しい銀のカードの上には俺のステータスが魔法の文字で輝いている。
『Lv.64 Bランク 魔法道具屋 ユリウス・シュタイン』
属性:【火】
剣技:雷光閃 円月閃
魔法:ファイア
召喚獣:Cランク・パラディン×3
魔石砲:ファイアボルト アースウォール ブラッドクロス フレイム ウィンドエッジ サンダーボルト
討伐履歴:Aランク・ベヒモス
ちなみにギルドカードの裏側には装備まで表示されている。これはBランク以上のギルドカードが持つ力なのだとか。武具や道具を身に着けた状態でギルドカードに触れれば名称を確認する事が出来る。鑑定の魔法が自動的に掛かるという訳だ。
装備:錬金術師の指環 守護者の指環 聖騎士の角笛 魔石砲 ホルスター 刀 小太刀 帯 騎士のガントレット 羽根付きグリーヴ シルバーメイル シルバーフォールド 聖者の袋 聖者のゴブレット
ギルドカードには討伐履歴の項目も追加されている。これはAランク以上の魔物を討伐すると追加される項目らしい。冒険者としての実力を証明するためのギルドカードだから、ランクとレベル以外にも様々な項目がある。
「ユリウス、早速修行を始めるぞ!」
ヴィクトリアやララとの再会の喜びを噛み締めたかったが、まずは封魔石宝流を継承しなければならない。今日から半年間の修行に耐えれば、討伐した魔物を魔石化する力を得る事が出来る。
思えば封魔師を目指したのも、より効率良く魔石ガチャを引くためだった。魔石化の力があれば魔物との戦闘で魔石を大量に集める事が出来るからだ。
浮かれていた気持ちを静め、エレオノーレ様の修行に耐えるために気持ちを切り替えた。エレオノーレ様は自分自身の寿命を削ってまで俺に技を教えてくれるのだから、本気で修行に臨まなければ失礼だろう。
「ユリウス、私も今日からエレオノーレ様の屋敷で暮らす事になったわ。守護者として私の生活を支えて頂戴ね」
「僕もだよユリウス。これからもずっと一緒に居たい」
「ああ、ヴィクトリア、ボリス。一緒に暮らそう。勿論ララも一緒に」
「うん!」
ララは俺の背中に飛びつき、ヴィクトリアは微笑みながら俺の手を握り、ボリスは俺の肩に手を置いた。最高の仲間達と共に、半年間の修行を行うエレオノーレ様の屋敷に向かって歩き始めた……。
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父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
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この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます
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私の名前はファム
前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した
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村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く
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私は捨てられたので村をすてる
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
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かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
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人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
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記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
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ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
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これは、追放された“地味なおっさん”が、
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