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第一章「迷宮都市ベーレント編」
第二十五話「修練の日々」
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迷宮都市ベーレントに帰還した日からエレオノーレ様の修行が始まった。まずは肉体を鍛えるために、朝の四時に起床してからベーレント付近の森に入り、ゴブリンやスライム等の低級の魔物を狩りながら森を走り、体力づくりに励んだ。
羽根付きグリーヴを装備した状態で毎日ベーレントの周囲を高速で走り、魔物を狩り続けているからか、ベーレントの周囲には日に日に魔物の数が減り、市民達は街が平和になったと感謝の言葉を掛けてくれた。
朝の激しすぎる二時間のランニングを終えると、屋敷に戻ってボリス相手に木剣で稽古をする。エレオノーレ様は他流剣術との戦いも良い稽古になると言って、毎日必ず一時間はボリスと打ち合う事にしているのだ。
それから屋敷の階段をララを担いだまま何回も往復し、ララを背中に乗せた状態で腕立て伏せをする。そうして徹底的に筋肉を追い込んでから、大量のスパゲッティや肉やチーズ、牛乳などの高タンパク質な栄養を摂取して傷ついた筋肉を回復させる。
十二時まで筋力トレーニングを続けてから、エレオノーレ様から直々に封魔石宝流の剣術を学ぶ。まずは雷光閃と円月閃。それから垂直切りである一閃。隙の無い魔力を込めた突きである疾風閃。刀から刃を飛ばす裂空斬。奥義の流星斬。
これらをすべて取り入れた舞である封魔剣舞を永遠と踊り続ける。踊りながら剣の型を何度も指摘して貰い、深夜まで永遠と剣を振り続ける。
ララとボリスとヴィクトリアは三人で魔物討伐をしたり、魔法の稽古をしたりして屋敷で暮らしている。ボリスも朝のランニングに付き合ってくれるが、午後の稽古は俺とエレオノーレ様が二人きりで行う。
封魔石宝流の剣技をすべて取り入れた封魔剣舞を踊り続けると、自然と体が技を覚えた。毎日の睡眠時間は三時間、多くても四時間までと決められ。厳しすぎるエレオノーレ様の稽古に半年間も耐えた俺の肉体は爆発的に成長した。
身長は百七十五センチから変わっていないが、体重が八十キロまで増えた。勿論無駄な脂肪は一切ない。腹筋も綺麗に割れ、胸筋は大きく盛り上がり、腕は太く、足は森を駆け抜けても一切疲労を感じない程に成長した。
俺が封魔石宝流を継承するにあたって最も苦労したのが裂空斬だった。裂空斬は刀から魔力の刃を飛ばす技で、何度練習してもうまく魔力を飛ばせなかった。垂直切りである一閃や、突きを放つ疾風閃はすぐに覚える事が出来た。
封魔石宝流奥義である流星斬は七連撃を放つ技で、エレオノーレ様程の攻撃速度はないが、ボリスでは防ぐ事すら出来ない速度で七連撃を放てる様になった。
封魔剣舞の中で唯一の魔法陣である封魔陣。これは魔物を魔石化する力を持つ魔法陣で、正統継承者のみが使用出来る秘技だ。この魔法陣を極めた者だけが魔物を魔石化する力を得る。
封魔陣の中に魔物をおびき寄せ、魔物を殺めた時、魔石と化す。それが魔石化の仕組みだった。封魔刀はあらかじめ魔法陣を書く手間を省くためのもの。
封魔陣を一日何百回も書き続けると、封魔刀で魔物を切った際に自動的に魔法陣が発動する様になる。そして魔物は瞬時に魔石に変わるのだ。封魔石宝流の封魔刀である石宝刀は封魔陣を極めた者以外、魔石化の力を発動させる事は出来ないのだ。
ボリスは円月閃から派生させた円月四連斬を練習し続け、エレオノーレ様が最高の剣技だとボリスにお墨付きを与える程、彼の技は隙の無い四連撃へと昇華した。
俺とヴィクトリアは念話で話す習慣があったからか、屋敷で一緒に居ても離れればすぐに念話で話し、稽古以外のほぼすべての時間を共に居る関係になった。相変わらず俺はエレオノーレ様の身の回りの世話をしているが、ヴィクトリアは召使の様に俺に命令するエレオノーレ様の事をあまり良く思っていない。
エレオノーレ様は「ヴィクトリアが私に嫉妬している」と言ってたが、男の俺にはよく分からない。十歳のララは半年経っても身長は百三十センチから変わらず、徐々に脂肪がついてすっかり健康を取り戻した。毎日眠る時はララの体毛に顔をうずめ、一日の疲れを癒している。
魔法は一度も練習していないが、剣に魔力を込めて訓練をしているからか、この半年間で魔力は急激に成長した。レベルは既に85を超え、ボリスのレベル60を大きく引き離している。
ちなみにヴィクトリアのレベルは55、ララは58、エレオノーレ様はレベル150から変わっていない。父はレベル110だ。流石にSランクの称号を持つ人達と比べると俺のレベルは低いが。それでも俺はギルドマスターのロイさんのレベル75を上回っている。
ロイさんの話によると、俺は迷宮都市ベーレントで二番目に魔力が高いらしい。勿論一番はエレオノーレ様だ。いつか追い付きたいと思っているが、魔力が成熟し始めてからはなかなか成長を感じられなくなっている。
街では俺がいつ新たな冒険者ギルドを設立するのかと噂になっているが、俺はベーレントでギルドを設立するつもりはない。ギーレン村で生活を始めたケットシー達は毎週末にエレオノーレ様の屋敷を訪ねてきて、ギーレン村で取れた野菜や果物を置いていく。きっと彼等なりの恩返しなのだろう。
魔大陸で初めて出会ったケットシーであるレベッカ・ヘンゼルも頻繁に訪ねてきてくれる。ララは同じ獣人であるレベッカの事を好いており、二人は姉妹の様に仲が良くなった。
ヴィクトリアはこの半年間でフェニックスに関する情報を調べ続けたが、まだ手掛かりはない。わかっているのは、フェニックスが今年中に復活するという事だけだ。フェニックスは百年に一度復活する。その期間は僅か一年間。それから再び命を落とし、また百年後に復活する。
エレオノーレ様の体は日に日に衰え、元気な内に俺に全てを教える事が出来て良かったと言っている。毎日のお酒の量も徐々に減り、食欲も減りつつあるが、魔力だけは一切衰えていない。
ラース暦1501年、一月二十八日。俺は遂にエレオノーレ様の修行を終え、正式に封魔石宝流の継承者となった。エレオノーレ様が大切にしていた石宝刀を授かり、代わりにエレオノーレ様は俺が使い続けた刀と小太刀が欲しいと言った。
父が俺に授けてくれたユニコーンの杖の使い道はまだ分からない、それでも父は今年中に杖が必要にと言っていた。ユニコーンのたてがみとミスリルから出来た杖は握っているだけで心地良い魔力を感じる。ユニコーンの高い回復能力を秘める杖は希少価値があり、回復魔法に特化した魔術師の憧れの魔法道具だ。
エレオノーレ様は全てをやり遂げた様に満足した笑みを浮かべ、俺を抱きしめてくれた。彼女の豊かな胸が俺の胸板に当たり、なんとも言えない嬉しさを感じるが、これでエレオノーレ様の修行が終わったのだ。
「ユリウス、よくこの半年間の試験に耐えたな。私はお前を誇りに思うよ」
「エレオノーレ様、今日で弟子は卒業しましたが、俺はいつまでもエレオノーレ様の近くに居たいと思います」
「気持ちは嬉しいが、お前達三人は春から魔法学校に入学する事になる」
「え? 魔法学校ですか?」
「そうだ。王都イスターツにあるローゼンクロイツ魔法学校。十二月に行われる魔法祭でフェニックスが復活するのだ。全校生徒が魔法技術を競い合う魔法祭の優勝者がフェニックスから涙を授かる事が出来る」
「フェニックスが魔法学校で復活ですか……それで父が俺にユニコーンの杖をくれたんですね」
「うむ。シュタイン殿からこの話を聞いた時は耳を疑ったが、ユリウス程の男なら魔法学校でも頂点を取れるだろう。封魔石宝流継承者、ユリウス・シュタイン。今日でお前は卒業だ。お前の卒業と共に、私は人生を暫く休む事にする」
エレオノーレ様はお気に入りの真紅色の帯を外すと、俺の漆黒の帯と交換して欲しいと言った。それからエレオノーレ様は俺の刀と小太刀を腰に差すと、ララに目配せをして頷いた。
「人生を休む……? 一体何を言ってるんですか……?」
「ユリウス、私はお前の強さに賭ける事にした。お前がヒュドラの呪いを解く術を得た時、またこの屋敷に戻って来い。それまでは暫くお別れだ。お前ならどんな障害が立ちはだかっても乗り越える事が出来る。精神力も肉体の強さも申し分ない。封魔剣舞で人生を切り開け。お前と過ごした時間、間違いなく私の人生で最高のものだった。ありがとう、ユリウス。そしてボリス、ユリウスとヴィクトリアを支える様に」
「はい……」
「ヴィクトリア、ユリウスを頼むぞ」
「はい、エレオノーレ様……」
「ララ。それでは頼む」
ララは大粒の涙を流しながらエレオノーレ様を見上げると、ララは涙をぬぐってからエレオノーレ様に両手を向けた。
「ララ! 何をしているんだ!」
「これがエレオノーレ様とユリウスのためなの!」
ララの手からは鋭い冷気が発生し、瞬く間にエレオノーレ様の全身を包むと、エレオノーレ様は優しい笑みを俺に見せ、静かに目を瞑った。
「コールドスリープ……!」
瞬間、ララの氷属性の魔力が炸裂してエレオノーレ様の体を覆った。分厚い氷の壁がエレオノーレ様を包むと、彼女は氷の中で静かに眠った……。
「なんだよこれ……? なんでエレオノーレ様が氷漬けになってるんだよ!」
「ユリウス……ララが居るから大丈夫……」
「エレオノーレ様は俺を信じて自ら氷漬けになる事を選択したのか……? 呪いの進行を防ぐために……!?」
「そうだよ、生命の活動が止まれば呪いの進行も遅れるって言ってた……」
幼いララが俺を見上げて涙を流した。エレオノーレ様を封印したララが一番悲しいだろう。俺はララを抱きしめると、暫くエレオノーレ様の深い愛を感じていた。俺を信じて氷の中で待っていてくれるのだ。それなら俺は最強の魔術師になって、魔法祭で優勝してみせる……。
今年の四月からローゼンクロイツ魔法学校に入学し、十二月に行われる魔法祭で優勝すればエレオノーレ様や王妃様を救えるのだ。それなら俺は徹底的に魔法を学び、最高の魔術師になってみせる。
「ファイアの魔法しか使えないユリウスが魔法学校に入学するのか……もしかしたら入学試験で落ちるかもしれないな」
「そうね、合格すら出来ないかも。ローゼンクロイツ魔法学校はラース大陸で最高の魔法教育機関だから。入学試験では三種類以上の魔法を披露し、試験を通過しなければならないの。定員は僅か九十人」
「これから入学試験まで魔法の練習をするよ。その前に、まずはミノタウロスを狩ろう!」
大広間の中央には氷の中で笑みを浮かべるエレオノーレ様の像があり、日光が氷漬けになったエレオノーレ様に当たって幻想的に輝いている。今朝は一段と髪を丁寧に結び、珍しくお気に入りのドレスを着ていたと思ったら、美しい姿のまま氷の中で眠るためだったのか。
エレオノーレ様がくれた帯はまだ温かく、いつまでも彼女を見つめていたいが、俺は行動しなければならないのだ。俺を信じて自らを氷に閉じ込めた師匠のために。まずはミノタウロスの素材を回収するために、これから火のダンジョンの攻略に挑む。魔法学校入学についてはミノタウロスの牙を回収してから考えよう。
大広間に佇むエレオノーレ様を残し、俺達は荷物を持って宿に移動した。今度この屋敷に戻るのは彼女を開放する時だ。屋敷の鍵を懐に仕舞うと、エレオノーレ様が居ない寂しさと、彼女の純粋な愛が心の中で渦巻いて何とも言えない気持ちになった。
封魔石宝流継承者になったのにもかかわらず、気分はいまいち盛り上がらない。この微妙な気持ちを全て火のダンジョン攻略にぶつける。久しぶりに自分のレベルに近い魔物と戦えるのだ。
まずはフェニックスの涙以外の素材を集め、ギーレン村の父に送ろう。素材さえあれば父がヒュドラの呪いを解くポーションを製作出来る。勿論、エレオノーレ様の分だけではなく、呪いに苦しむ全ての人に分けられるだけ作ると言っていた。
「火のダンジョンに挑戦しようか!」
「ユリウス、大丈夫? その……今日は休んでも良いのよ?」
「大丈夫。一日も早く素材を揃えたいからね。それに、魔法が一種類しか使えない俺が魔法学校に入学しなきゃならないんだ。早めに魔法の練習を始めたいし」
「そうね、ユリウスならすぐに三種類の魔法を習得出来るでしょう」
ヴィクトリアは紫色の美しい瞳で俺を見つめ、手入れされた長い髪をなびかせ、俺の手を握った。彼女の髪は黒に近い紫色をしており、腰まで伸びた髪がなんとも言えず美しい。容姿はまるで人形の様に整っており、王女としての美しさと国民を想う優しさに毎日支えられている。
ララはエレオノーレ様を一時的に失って悲しんでいるのだろう、俺は小さなララをおんぶし、ヴィクトリアの手を握りながら冒険者ギルド・アルタイルに向かって歩き始めた。
羽根付きグリーヴを装備した状態で毎日ベーレントの周囲を高速で走り、魔物を狩り続けているからか、ベーレントの周囲には日に日に魔物の数が減り、市民達は街が平和になったと感謝の言葉を掛けてくれた。
朝の激しすぎる二時間のランニングを終えると、屋敷に戻ってボリス相手に木剣で稽古をする。エレオノーレ様は他流剣術との戦いも良い稽古になると言って、毎日必ず一時間はボリスと打ち合う事にしているのだ。
それから屋敷の階段をララを担いだまま何回も往復し、ララを背中に乗せた状態で腕立て伏せをする。そうして徹底的に筋肉を追い込んでから、大量のスパゲッティや肉やチーズ、牛乳などの高タンパク質な栄養を摂取して傷ついた筋肉を回復させる。
十二時まで筋力トレーニングを続けてから、エレオノーレ様から直々に封魔石宝流の剣術を学ぶ。まずは雷光閃と円月閃。それから垂直切りである一閃。隙の無い魔力を込めた突きである疾風閃。刀から刃を飛ばす裂空斬。奥義の流星斬。
これらをすべて取り入れた舞である封魔剣舞を永遠と踊り続ける。踊りながら剣の型を何度も指摘して貰い、深夜まで永遠と剣を振り続ける。
ララとボリスとヴィクトリアは三人で魔物討伐をしたり、魔法の稽古をしたりして屋敷で暮らしている。ボリスも朝のランニングに付き合ってくれるが、午後の稽古は俺とエレオノーレ様が二人きりで行う。
封魔石宝流の剣技をすべて取り入れた封魔剣舞を踊り続けると、自然と体が技を覚えた。毎日の睡眠時間は三時間、多くても四時間までと決められ。厳しすぎるエレオノーレ様の稽古に半年間も耐えた俺の肉体は爆発的に成長した。
身長は百七十五センチから変わっていないが、体重が八十キロまで増えた。勿論無駄な脂肪は一切ない。腹筋も綺麗に割れ、胸筋は大きく盛り上がり、腕は太く、足は森を駆け抜けても一切疲労を感じない程に成長した。
俺が封魔石宝流を継承するにあたって最も苦労したのが裂空斬だった。裂空斬は刀から魔力の刃を飛ばす技で、何度練習してもうまく魔力を飛ばせなかった。垂直切りである一閃や、突きを放つ疾風閃はすぐに覚える事が出来た。
封魔石宝流奥義である流星斬は七連撃を放つ技で、エレオノーレ様程の攻撃速度はないが、ボリスでは防ぐ事すら出来ない速度で七連撃を放てる様になった。
封魔剣舞の中で唯一の魔法陣である封魔陣。これは魔物を魔石化する力を持つ魔法陣で、正統継承者のみが使用出来る秘技だ。この魔法陣を極めた者だけが魔物を魔石化する力を得る。
封魔陣の中に魔物をおびき寄せ、魔物を殺めた時、魔石と化す。それが魔石化の仕組みだった。封魔刀はあらかじめ魔法陣を書く手間を省くためのもの。
封魔陣を一日何百回も書き続けると、封魔刀で魔物を切った際に自動的に魔法陣が発動する様になる。そして魔物は瞬時に魔石に変わるのだ。封魔石宝流の封魔刀である石宝刀は封魔陣を極めた者以外、魔石化の力を発動させる事は出来ないのだ。
ボリスは円月閃から派生させた円月四連斬を練習し続け、エレオノーレ様が最高の剣技だとボリスにお墨付きを与える程、彼の技は隙の無い四連撃へと昇華した。
俺とヴィクトリアは念話で話す習慣があったからか、屋敷で一緒に居ても離れればすぐに念話で話し、稽古以外のほぼすべての時間を共に居る関係になった。相変わらず俺はエレオノーレ様の身の回りの世話をしているが、ヴィクトリアは召使の様に俺に命令するエレオノーレ様の事をあまり良く思っていない。
エレオノーレ様は「ヴィクトリアが私に嫉妬している」と言ってたが、男の俺にはよく分からない。十歳のララは半年経っても身長は百三十センチから変わらず、徐々に脂肪がついてすっかり健康を取り戻した。毎日眠る時はララの体毛に顔をうずめ、一日の疲れを癒している。
魔法は一度も練習していないが、剣に魔力を込めて訓練をしているからか、この半年間で魔力は急激に成長した。レベルは既に85を超え、ボリスのレベル60を大きく引き離している。
ちなみにヴィクトリアのレベルは55、ララは58、エレオノーレ様はレベル150から変わっていない。父はレベル110だ。流石にSランクの称号を持つ人達と比べると俺のレベルは低いが。それでも俺はギルドマスターのロイさんのレベル75を上回っている。
ロイさんの話によると、俺は迷宮都市ベーレントで二番目に魔力が高いらしい。勿論一番はエレオノーレ様だ。いつか追い付きたいと思っているが、魔力が成熟し始めてからはなかなか成長を感じられなくなっている。
街では俺がいつ新たな冒険者ギルドを設立するのかと噂になっているが、俺はベーレントでギルドを設立するつもりはない。ギーレン村で生活を始めたケットシー達は毎週末にエレオノーレ様の屋敷を訪ねてきて、ギーレン村で取れた野菜や果物を置いていく。きっと彼等なりの恩返しなのだろう。
魔大陸で初めて出会ったケットシーであるレベッカ・ヘンゼルも頻繁に訪ねてきてくれる。ララは同じ獣人であるレベッカの事を好いており、二人は姉妹の様に仲が良くなった。
ヴィクトリアはこの半年間でフェニックスに関する情報を調べ続けたが、まだ手掛かりはない。わかっているのは、フェニックスが今年中に復活するという事だけだ。フェニックスは百年に一度復活する。その期間は僅か一年間。それから再び命を落とし、また百年後に復活する。
エレオノーレ様の体は日に日に衰え、元気な内に俺に全てを教える事が出来て良かったと言っている。毎日のお酒の量も徐々に減り、食欲も減りつつあるが、魔力だけは一切衰えていない。
ラース暦1501年、一月二十八日。俺は遂にエレオノーレ様の修行を終え、正式に封魔石宝流の継承者となった。エレオノーレ様が大切にしていた石宝刀を授かり、代わりにエレオノーレ様は俺が使い続けた刀と小太刀が欲しいと言った。
父が俺に授けてくれたユニコーンの杖の使い道はまだ分からない、それでも父は今年中に杖が必要にと言っていた。ユニコーンのたてがみとミスリルから出来た杖は握っているだけで心地良い魔力を感じる。ユニコーンの高い回復能力を秘める杖は希少価値があり、回復魔法に特化した魔術師の憧れの魔法道具だ。
エレオノーレ様は全てをやり遂げた様に満足した笑みを浮かべ、俺を抱きしめてくれた。彼女の豊かな胸が俺の胸板に当たり、なんとも言えない嬉しさを感じるが、これでエレオノーレ様の修行が終わったのだ。
「ユリウス、よくこの半年間の試験に耐えたな。私はお前を誇りに思うよ」
「エレオノーレ様、今日で弟子は卒業しましたが、俺はいつまでもエレオノーレ様の近くに居たいと思います」
「気持ちは嬉しいが、お前達三人は春から魔法学校に入学する事になる」
「え? 魔法学校ですか?」
「そうだ。王都イスターツにあるローゼンクロイツ魔法学校。十二月に行われる魔法祭でフェニックスが復活するのだ。全校生徒が魔法技術を競い合う魔法祭の優勝者がフェニックスから涙を授かる事が出来る」
「フェニックスが魔法学校で復活ですか……それで父が俺にユニコーンの杖をくれたんですね」
「うむ。シュタイン殿からこの話を聞いた時は耳を疑ったが、ユリウス程の男なら魔法学校でも頂点を取れるだろう。封魔石宝流継承者、ユリウス・シュタイン。今日でお前は卒業だ。お前の卒業と共に、私は人生を暫く休む事にする」
エレオノーレ様はお気に入りの真紅色の帯を外すと、俺の漆黒の帯と交換して欲しいと言った。それからエレオノーレ様は俺の刀と小太刀を腰に差すと、ララに目配せをして頷いた。
「人生を休む……? 一体何を言ってるんですか……?」
「ユリウス、私はお前の強さに賭ける事にした。お前がヒュドラの呪いを解く術を得た時、またこの屋敷に戻って来い。それまでは暫くお別れだ。お前ならどんな障害が立ちはだかっても乗り越える事が出来る。精神力も肉体の強さも申し分ない。封魔剣舞で人生を切り開け。お前と過ごした時間、間違いなく私の人生で最高のものだった。ありがとう、ユリウス。そしてボリス、ユリウスとヴィクトリアを支える様に」
「はい……」
「ヴィクトリア、ユリウスを頼むぞ」
「はい、エレオノーレ様……」
「ララ。それでは頼む」
ララは大粒の涙を流しながらエレオノーレ様を見上げると、ララは涙をぬぐってからエレオノーレ様に両手を向けた。
「ララ! 何をしているんだ!」
「これがエレオノーレ様とユリウスのためなの!」
ララの手からは鋭い冷気が発生し、瞬く間にエレオノーレ様の全身を包むと、エレオノーレ様は優しい笑みを俺に見せ、静かに目を瞑った。
「コールドスリープ……!」
瞬間、ララの氷属性の魔力が炸裂してエレオノーレ様の体を覆った。分厚い氷の壁がエレオノーレ様を包むと、彼女は氷の中で静かに眠った……。
「なんだよこれ……? なんでエレオノーレ様が氷漬けになってるんだよ!」
「ユリウス……ララが居るから大丈夫……」
「エレオノーレ様は俺を信じて自ら氷漬けになる事を選択したのか……? 呪いの進行を防ぐために……!?」
「そうだよ、生命の活動が止まれば呪いの進行も遅れるって言ってた……」
幼いララが俺を見上げて涙を流した。エレオノーレ様を封印したララが一番悲しいだろう。俺はララを抱きしめると、暫くエレオノーレ様の深い愛を感じていた。俺を信じて氷の中で待っていてくれるのだ。それなら俺は最強の魔術師になって、魔法祭で優勝してみせる……。
今年の四月からローゼンクロイツ魔法学校に入学し、十二月に行われる魔法祭で優勝すればエレオノーレ様や王妃様を救えるのだ。それなら俺は徹底的に魔法を学び、最高の魔術師になってみせる。
「ファイアの魔法しか使えないユリウスが魔法学校に入学するのか……もしかしたら入学試験で落ちるかもしれないな」
「そうね、合格すら出来ないかも。ローゼンクロイツ魔法学校はラース大陸で最高の魔法教育機関だから。入学試験では三種類以上の魔法を披露し、試験を通過しなければならないの。定員は僅か九十人」
「これから入学試験まで魔法の練習をするよ。その前に、まずはミノタウロスを狩ろう!」
大広間の中央には氷の中で笑みを浮かべるエレオノーレ様の像があり、日光が氷漬けになったエレオノーレ様に当たって幻想的に輝いている。今朝は一段と髪を丁寧に結び、珍しくお気に入りのドレスを着ていたと思ったら、美しい姿のまま氷の中で眠るためだったのか。
エレオノーレ様がくれた帯はまだ温かく、いつまでも彼女を見つめていたいが、俺は行動しなければならないのだ。俺を信じて自らを氷に閉じ込めた師匠のために。まずはミノタウロスの素材を回収するために、これから火のダンジョンの攻略に挑む。魔法学校入学についてはミノタウロスの牙を回収してから考えよう。
大広間に佇むエレオノーレ様を残し、俺達は荷物を持って宿に移動した。今度この屋敷に戻るのは彼女を開放する時だ。屋敷の鍵を懐に仕舞うと、エレオノーレ様が居ない寂しさと、彼女の純粋な愛が心の中で渦巻いて何とも言えない気持ちになった。
封魔石宝流継承者になったのにもかかわらず、気分はいまいち盛り上がらない。この微妙な気持ちを全て火のダンジョン攻略にぶつける。久しぶりに自分のレベルに近い魔物と戦えるのだ。
まずはフェニックスの涙以外の素材を集め、ギーレン村の父に送ろう。素材さえあれば父がヒュドラの呪いを解くポーションを製作出来る。勿論、エレオノーレ様の分だけではなく、呪いに苦しむ全ての人に分けられるだけ作ると言っていた。
「火のダンジョンに挑戦しようか!」
「ユリウス、大丈夫? その……今日は休んでも良いのよ?」
「大丈夫。一日も早く素材を揃えたいからね。それに、魔法が一種類しか使えない俺が魔法学校に入学しなきゃならないんだ。早めに魔法の練習を始めたいし」
「そうね、ユリウスならすぐに三種類の魔法を習得出来るでしょう」
ヴィクトリアは紫色の美しい瞳で俺を見つめ、手入れされた長い髪をなびかせ、俺の手を握った。彼女の髪は黒に近い紫色をしており、腰まで伸びた髪がなんとも言えず美しい。容姿はまるで人形の様に整っており、王女としての美しさと国民を想う優しさに毎日支えられている。
ララはエレオノーレ様を一時的に失って悲しんでいるのだろう、俺は小さなララをおんぶし、ヴィクトリアの手を握りながら冒険者ギルド・アルタイルに向かって歩き始めた。
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勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
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かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。
……笑えない。
人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!?
気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕!
ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」
これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
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ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます
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追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
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