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第三章「迷宮都市アイゼンシュタイン編」
第六十四話「狩りの時間」
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雪が降り積もった森林地帯をエルザの肩に乗って進む。故郷のギーレン村では冬はここまで雪が積もる事がないので、美しい雪景色が非常に新鮮だ。雪はエルザの膝下まで積もっているが、俺が小さな炎を飛ばして道を作った。
ファイアボールを応用した魔法で雪を一気に溶かすと、エルザは初めて俺の魔法を見て愕然とした表情を浮かべた。俺はガーゴイルになりきっているのだから、あまりにも威力が高い魔法を見せる訳にはいかない。
「ユリウスさんって魔法が得意なんですね!」
「ああ、練習しているところだよ」
「私、生まれつき三種類の属性を持っているんですが、まだまだ自由に使えないんです」
「鍛錬を積めばすぐに自在に扱える様になるよ」
「本当ですか? ユリウスさんは何だか他のガーゴイルとは違うみたいです。とても賢いですし、魔法も上手ですし」
「……」
「本当に出会えて良かったです! ずっと一緒に居たいです!」
一瞬正体がバレたかと思ったが、エルザはまだ俺の正体には気が付いていない様だ。エレオノーレ様やヴォルフ師匠、カーフェン先生なら俺がガーゴイルの姿をしていてもすぐに見抜けるだろう。こんなに魔力が高いガーゴイルは存在しないからだ。エルザが俺の正体を見抜けないのはまだ魔力が未熟だからだろう。
「そろそろ廃村ですね。一時間も歩いたので疲れてしまいました」
「少し休憩しようか」
「そうですね、それでは十分だけ休みます」
俺達は森で開けた場所を探し、エルザがアイスウォールの魔法を応用して氷の家を作ってくれた。家の中で寒さを凌ぎながら、聖者の袋からパンを取り出して食べた。
「ユリウスさんって色々な魔法道具を持っているんですね」
「ああ、魔法道具を集めるのが趣味なんだよ」
「それなら、いつか私が作った魔法道具をプレゼントしたいです」
「楽しみにしているね」
「はい! そろそろ出発しましょうか!」
氷の家を出るとすぐに廃村に到着した。すっかり雪が積もった朽ち果てた村には、無数のファイアゴブリンやスライム、スケルトンなどの魔物が徘徊している。メテオストライクを落とせば全ての魔物を一撃で仕留められるが、それではエルザのためにならない。
俺はエルザが自分自信の努力によって人生を切り開ける様になって欲しいのだ。天性の才能を持って生まれたが、まだ精神的にも魔力的にも未熟な彼女を傍で見ていたい。そして将来は冒険者ギルド・ファルケンハイン最高の魔術師としてファルケンハイン王国の防衛に携わって欲しいとも思っている。
『ユリウス、アイゼンシュタインの街はどう? 何をして過ごしているの?』
『今は新米冒険者を育てているところだよ。この街は問題が山積みみたいだけど、市民達は楽しそうに暮らしているよ』
『例の弟子の事?』
『いや、弟子以外にもう一人、魔法の才能を秘めた少女を育てる事にしたんだ』
『女の子なのね。くれぐれも浮気はしないように……』
『何を言ってるんだい? 俺が愛しているのはヴィクトリアだけだよ』
『そうよね……離れているからユリウスが心配でたまらないわ……』
『そんなに心配しなくても大丈夫だよ。それより、召喚獣は探せたの?』
『ええ、間もなく召喚契約を結ぶところよ。とっておきの魔物を見つけたんだから』
『ヴィクトリアの召喚獣か、ちょっと想像出来ないけど、最高の魔物なんだろうね』
『王女である私に適した魔物だと思うわ。種類は内緒にしておくね。きっとその方が再会した時に驚けると思うから』
ヴィクトリアが可愛らしく笑い声を上げると、脳内に響く彼女の声にときめいた。何度聞いても彼女の声は俺の心を捉えて放さない。ヴィクトリアに対する愛は日に日に増すばかりで、彼女が俺の人生で最初で最後の恋人だと確信している。
「ユリウスさん、危なくなったらすぐに逃げましょうね」
「ああ、無理はしない様に」
「はい。それでは行きます」
エルザが廃村に入った瞬間、入り口付近にたむろしていたスケルトンの群れが一斉に彼女を睨みつけた。俺も人間と共に行動しているから敵だと認識されている様だ。
錆びついたメイスやショートソードを持ったスケルトンの群れがゆっくりと近づいてくると、俺はエルザの肩の上から飛び上がり、スケルトンの群れの中央に降りた。
スケルトンが俺に対して武器を振り下ろした瞬間、俺は敵の攻撃を瞬時に回避してエルザに攻撃の機会を作った。
「アイスショット!」
エルザがスケルトンに杖を向けて魔法を唱えると、小さな氷の塊が高速で飛び、スケルトンの頭骨に直撃した。スケルトンの頭蓋骨が砕けると、俺は一気に飛び上がって両手をスケルトンの群れに向けた。
「ファイアボルト!」
炎の矢を一本ずつスケルトンに向けて放つ。本来なら百本以上もの炎の矢を同時に作り出す事が出来るが、そんな芸当は一般のガーゴイルには出来ないので、あくまでも普通のガーゴイルに見える様に戦う事にしている。
俺とエルザは次々と魔法を撃ち、すぐにスケルトンの群れを殲滅した。エルザは魔力が枯渇したのか、満足気に微笑みながら膝を着くと、俺は彼女の目の前に着地してマナポーションを渡した。
「ユリウスさんはまだ魔力に余裕があるんですか?」
「ああ、俺はまだまだ平気だよ」
「凄いですね。私、もう魔力を使い切ってしまいました!」
「マナポーションで魔力を回復させたら狩りを再開しようか」
スケルトンの中には魔石持ちの個体が三体も居た。この魔石でガチャを回しても良いと思うが、エルザは素材があれば魔法道具が作れるのだから、彼女の魔法道具作りの素材として保管しておこう。
エルザがマナポーションを一気に飲んで魔力を回復させると、俺は廃屋に飛び乗った。朽ち果てた村には無数の魔物が徘徊しているが、どれもエルザが余裕を持って狩れる魔物だから危険はないだろう。エドヴィンさんが討伐を依頼したファイアゴブリンは村で最も大きい屋敷の周囲を徘徊している。
まるで屋敷を守る様にファイアゴブリン達が巣食っている事が気になるが、いざとなればメテオストライクを落とせば全ての魔物を消滅させる事が出来るのだから心配はないだろう。
「お待たせしました! 魔力が回復したので狩りを続けましょう!」
「そうだね」
かつては立派な公園だったであろう、石畳が敷かれた広い空間に入ると、スライムの群れが一斉に俺達を取り囲んだ。まさかSランクの称号を得てからスライム狩りを率先して行う事になるとは思わなかった。
「ユリウスさん! スライムは火属性のユリウスさんには不利なので気を付けて下さい!」
「わかったよ」
七体のスライムが徐々に近づいてくると、エルザがスライムに杖を向けた。
「ウォーターボール!」
瞬間、杖の先端から水の魔力が発生し、直径一メートルを超える水の球が飛び出すと、小さなスライムを一撃で吹き飛ばした。水属性と氷属性の魔法はなかなか威力が高い様だ。俺はスライムの前に着地すると、右の拳に炎を纏わせ、全力でスライムを殴り上げた。
爆発的な炎がスライムの体を消滅させると、スライムの群れが怯えながら後ずさりを始めた。エルザは逃げ出したスライムに対してアイスショットの魔法を連発してスライムの群れを狩ると、興奮しながら俺を抱き上げた。
「ユリウスさん! さっきの一撃は何ですか!? どうしてこんなに強いんですか?」
「拳に炎を纏わせたんだよ」
「エンチャント状態の拳でスライムを消滅させるなんて、ユリウスさんは本当に最強のガーゴイルになれるかもしれませんね!」
「ありがとう」
筋力は低いが魔力を込めれば物理攻撃の威力も上昇する。ガーゴイルの肉体ではあまり無理は出来ないな。
「お嬢さん、こんなところでどうしたの?」
公園の外から若い男の声が聞こえた。この廃村で暮らしている者だろうか、体内に闇属性を秘めた髭面の男が近づいてきた。服は汚れ切っており、腰に巻いたベルトにはナイフをいくつも差している。目は血走っており、髪は乱れているが筋肉は大きく発達している。
「魔物討伐をしているんです……」
「へぇ、一人なんだ」
男がゆっくりとエルザに近づくと、エルザは震えながら杖を握りしめた。男がナイフを引き抜くと、俺は瞬時にエルザの肩に飛び乗った。この男は廃村で冒険者を殺めようとしているのだろうか。
「エルザに近づくな」
「なんだ、言葉が理解出来るガーゴイルとは珍しいな」
「下がれ。それ以上近づくと体を燃やすぞ」
右手を男に向けて炎を作り上げる。男は俺の魔法を見て嘲笑うと、ナイフに黒い魔力を纏わせて切りかかってきた。マジックバックからユニコーンの杖を取り出して男の一撃を受ける。
この強烈な攻撃は一体なんなんだ? ガーゴイル状態で筋力が大幅に落ちているとしても、常人では考えられない力を感じる。まさかこの俺が力で押されているのか。男のナイフが俺の頬を切り裂くと、俺は手加減して勝てる相手ではないと悟った。
「ユリウスさん! 大丈夫ですか!?」
「ああ……!」
エルザは涙を流しながら俺を見つめ、俺に杖を向けてヒールの魔法を唱えると、頬の傷が一瞬で塞がった。
「お前は何者なんだ!?」
「冒険者殺しさ。若い女を専門的に狩っている。以前から目を付けていた魔法道具屋のエルザ・シュヴァルツ。今日狩れると思うと嬉しくて仕方がなかった!」
「完全に狂ってるな……」
「まずはガーゴイルから殺してやろう! その後にエルザを殺す!」
男がナイフの連撃を放つと、俺は長すぎるユニコーンの杖で男の攻撃を何とか防いだ。ガーゴイルの体ではこの杖は長すぎるし、魔石砲だけでは男の攻撃を受ける事は出来ない。
いっそ人間に戻ろうか。いや、まだエルザは他人に心得を開ける状態ではない。なんとかガーゴイルのまま冒険者殺しを仕留めるしかない。
男が左手でナイフを引き抜き、左右のナイフで超高速の連撃を放つと、俺は遂にユニコーンの杖を落とした。男のナイフが俺の胸を連続で切り裂くと、俺は変化を解除しなければ勝利はあり得ないと悟った。
胸部に激痛が走り、死を予感した瞬間、廃村の付近から爆発的な魔力の動きを感じた。強烈な風属性の魔力が上空に発生すると、風の魔力の中から巨大な槍が男にめがけて落下を始めた。
「ゲイルランス!」
公園の入り口には全身の風の魔力を纏わせた、冒険者ギルド・レグルスのギルドマスター、ドミニク・ヴァルターが立っていた。ヴァルターの魔法が男の隣に落ちると、男は怯えながらゆっくりと後退を始めた。
「何者か知らんがアイゼンシュタインの冒険者に手を出すとはいい度胸だな。冒険者ギルド・レグルスのギルドマスター、ドミニク・ヴァルターが成敗してやる」
「待て! 俺はまだ何をしていない! 許してくれ!」
「もう二度と冒険者を狙うなよ。今度悪さしたらぶち殺してやるからな!」
ヴァルターが男を見逃すと、男はすぐに廃村から立ち去った。俺には男を追う気力がない。それにしても、ヴァルターはなぜ男を逃がしたのだろうか。あの様な男は野放しにして良い者ではない。
「助けて下さってありがとうございます……」
「こんな場所に冒険者を狙う者が居たとはな、すぐにここを離れよう!」
ヴァルターがエルザに手を差し伸べると、エルザは俺に杖を向けてヒールの魔法を唱えた。傷は癒えたが胸を切り裂かれた痛みは忘れられない。こんなにまともに敵の攻撃を受けたのは随分久しぶりだ。
エドヴィンさんがエルザの実力なら問題なく廃村で狩りを出来ると判断し、廃村での狩りを決めた訳だが、まさか廃村にこれ程悪質な人間が潜んでいたとは想像すらしなかった。エドヴィンさんが指示を間違えたとは到底思えない。冒険者殺しを名乗る男の存在はエドヴィンさんも関知していなかったのだろう。
ヴァルターは笑みを浮かべながらエルザの手を握り、エルザは自分を助けてくれたヴァルターに一目ぼれしたのだろうか、恍惚とした表情でヴァルターを見つめた。胸の傷は癒えたが、ナイフには闇属性の魔力が纏っていたのか、全身にけだるさを感じる。
「街まで一緒に帰ろう」
「はい!」
次第に意識が朦朧としてくると、俺はエルザの腕の中で目を瞑った……。
ファイアボールを応用した魔法で雪を一気に溶かすと、エルザは初めて俺の魔法を見て愕然とした表情を浮かべた。俺はガーゴイルになりきっているのだから、あまりにも威力が高い魔法を見せる訳にはいかない。
「ユリウスさんって魔法が得意なんですね!」
「ああ、練習しているところだよ」
「私、生まれつき三種類の属性を持っているんですが、まだまだ自由に使えないんです」
「鍛錬を積めばすぐに自在に扱える様になるよ」
「本当ですか? ユリウスさんは何だか他のガーゴイルとは違うみたいです。とても賢いですし、魔法も上手ですし」
「……」
「本当に出会えて良かったです! ずっと一緒に居たいです!」
一瞬正体がバレたかと思ったが、エルザはまだ俺の正体には気が付いていない様だ。エレオノーレ様やヴォルフ師匠、カーフェン先生なら俺がガーゴイルの姿をしていてもすぐに見抜けるだろう。こんなに魔力が高いガーゴイルは存在しないからだ。エルザが俺の正体を見抜けないのはまだ魔力が未熟だからだろう。
「そろそろ廃村ですね。一時間も歩いたので疲れてしまいました」
「少し休憩しようか」
「そうですね、それでは十分だけ休みます」
俺達は森で開けた場所を探し、エルザがアイスウォールの魔法を応用して氷の家を作ってくれた。家の中で寒さを凌ぎながら、聖者の袋からパンを取り出して食べた。
「ユリウスさんって色々な魔法道具を持っているんですね」
「ああ、魔法道具を集めるのが趣味なんだよ」
「それなら、いつか私が作った魔法道具をプレゼントしたいです」
「楽しみにしているね」
「はい! そろそろ出発しましょうか!」
氷の家を出るとすぐに廃村に到着した。すっかり雪が積もった朽ち果てた村には、無数のファイアゴブリンやスライム、スケルトンなどの魔物が徘徊している。メテオストライクを落とせば全ての魔物を一撃で仕留められるが、それではエルザのためにならない。
俺はエルザが自分自信の努力によって人生を切り開ける様になって欲しいのだ。天性の才能を持って生まれたが、まだ精神的にも魔力的にも未熟な彼女を傍で見ていたい。そして将来は冒険者ギルド・ファルケンハイン最高の魔術師としてファルケンハイン王国の防衛に携わって欲しいとも思っている。
『ユリウス、アイゼンシュタインの街はどう? 何をして過ごしているの?』
『今は新米冒険者を育てているところだよ。この街は問題が山積みみたいだけど、市民達は楽しそうに暮らしているよ』
『例の弟子の事?』
『いや、弟子以外にもう一人、魔法の才能を秘めた少女を育てる事にしたんだ』
『女の子なのね。くれぐれも浮気はしないように……』
『何を言ってるんだい? 俺が愛しているのはヴィクトリアだけだよ』
『そうよね……離れているからユリウスが心配でたまらないわ……』
『そんなに心配しなくても大丈夫だよ。それより、召喚獣は探せたの?』
『ええ、間もなく召喚契約を結ぶところよ。とっておきの魔物を見つけたんだから』
『ヴィクトリアの召喚獣か、ちょっと想像出来ないけど、最高の魔物なんだろうね』
『王女である私に適した魔物だと思うわ。種類は内緒にしておくね。きっとその方が再会した時に驚けると思うから』
ヴィクトリアが可愛らしく笑い声を上げると、脳内に響く彼女の声にときめいた。何度聞いても彼女の声は俺の心を捉えて放さない。ヴィクトリアに対する愛は日に日に増すばかりで、彼女が俺の人生で最初で最後の恋人だと確信している。
「ユリウスさん、危なくなったらすぐに逃げましょうね」
「ああ、無理はしない様に」
「はい。それでは行きます」
エルザが廃村に入った瞬間、入り口付近にたむろしていたスケルトンの群れが一斉に彼女を睨みつけた。俺も人間と共に行動しているから敵だと認識されている様だ。
錆びついたメイスやショートソードを持ったスケルトンの群れがゆっくりと近づいてくると、俺はエルザの肩の上から飛び上がり、スケルトンの群れの中央に降りた。
スケルトンが俺に対して武器を振り下ろした瞬間、俺は敵の攻撃を瞬時に回避してエルザに攻撃の機会を作った。
「アイスショット!」
エルザがスケルトンに杖を向けて魔法を唱えると、小さな氷の塊が高速で飛び、スケルトンの頭骨に直撃した。スケルトンの頭蓋骨が砕けると、俺は一気に飛び上がって両手をスケルトンの群れに向けた。
「ファイアボルト!」
炎の矢を一本ずつスケルトンに向けて放つ。本来なら百本以上もの炎の矢を同時に作り出す事が出来るが、そんな芸当は一般のガーゴイルには出来ないので、あくまでも普通のガーゴイルに見える様に戦う事にしている。
俺とエルザは次々と魔法を撃ち、すぐにスケルトンの群れを殲滅した。エルザは魔力が枯渇したのか、満足気に微笑みながら膝を着くと、俺は彼女の目の前に着地してマナポーションを渡した。
「ユリウスさんはまだ魔力に余裕があるんですか?」
「ああ、俺はまだまだ平気だよ」
「凄いですね。私、もう魔力を使い切ってしまいました!」
「マナポーションで魔力を回復させたら狩りを再開しようか」
スケルトンの中には魔石持ちの個体が三体も居た。この魔石でガチャを回しても良いと思うが、エルザは素材があれば魔法道具が作れるのだから、彼女の魔法道具作りの素材として保管しておこう。
エルザがマナポーションを一気に飲んで魔力を回復させると、俺は廃屋に飛び乗った。朽ち果てた村には無数の魔物が徘徊しているが、どれもエルザが余裕を持って狩れる魔物だから危険はないだろう。エドヴィンさんが討伐を依頼したファイアゴブリンは村で最も大きい屋敷の周囲を徘徊している。
まるで屋敷を守る様にファイアゴブリン達が巣食っている事が気になるが、いざとなればメテオストライクを落とせば全ての魔物を消滅させる事が出来るのだから心配はないだろう。
「お待たせしました! 魔力が回復したので狩りを続けましょう!」
「そうだね」
かつては立派な公園だったであろう、石畳が敷かれた広い空間に入ると、スライムの群れが一斉に俺達を取り囲んだ。まさかSランクの称号を得てからスライム狩りを率先して行う事になるとは思わなかった。
「ユリウスさん! スライムは火属性のユリウスさんには不利なので気を付けて下さい!」
「わかったよ」
七体のスライムが徐々に近づいてくると、エルザがスライムに杖を向けた。
「ウォーターボール!」
瞬間、杖の先端から水の魔力が発生し、直径一メートルを超える水の球が飛び出すと、小さなスライムを一撃で吹き飛ばした。水属性と氷属性の魔法はなかなか威力が高い様だ。俺はスライムの前に着地すると、右の拳に炎を纏わせ、全力でスライムを殴り上げた。
爆発的な炎がスライムの体を消滅させると、スライムの群れが怯えながら後ずさりを始めた。エルザは逃げ出したスライムに対してアイスショットの魔法を連発してスライムの群れを狩ると、興奮しながら俺を抱き上げた。
「ユリウスさん! さっきの一撃は何ですか!? どうしてこんなに強いんですか?」
「拳に炎を纏わせたんだよ」
「エンチャント状態の拳でスライムを消滅させるなんて、ユリウスさんは本当に最強のガーゴイルになれるかもしれませんね!」
「ありがとう」
筋力は低いが魔力を込めれば物理攻撃の威力も上昇する。ガーゴイルの肉体ではあまり無理は出来ないな。
「お嬢さん、こんなところでどうしたの?」
公園の外から若い男の声が聞こえた。この廃村で暮らしている者だろうか、体内に闇属性を秘めた髭面の男が近づいてきた。服は汚れ切っており、腰に巻いたベルトにはナイフをいくつも差している。目は血走っており、髪は乱れているが筋肉は大きく発達している。
「魔物討伐をしているんです……」
「へぇ、一人なんだ」
男がゆっくりとエルザに近づくと、エルザは震えながら杖を握りしめた。男がナイフを引き抜くと、俺は瞬時にエルザの肩に飛び乗った。この男は廃村で冒険者を殺めようとしているのだろうか。
「エルザに近づくな」
「なんだ、言葉が理解出来るガーゴイルとは珍しいな」
「下がれ。それ以上近づくと体を燃やすぞ」
右手を男に向けて炎を作り上げる。男は俺の魔法を見て嘲笑うと、ナイフに黒い魔力を纏わせて切りかかってきた。マジックバックからユニコーンの杖を取り出して男の一撃を受ける。
この強烈な攻撃は一体なんなんだ? ガーゴイル状態で筋力が大幅に落ちているとしても、常人では考えられない力を感じる。まさかこの俺が力で押されているのか。男のナイフが俺の頬を切り裂くと、俺は手加減して勝てる相手ではないと悟った。
「ユリウスさん! 大丈夫ですか!?」
「ああ……!」
エルザは涙を流しながら俺を見つめ、俺に杖を向けてヒールの魔法を唱えると、頬の傷が一瞬で塞がった。
「お前は何者なんだ!?」
「冒険者殺しさ。若い女を専門的に狩っている。以前から目を付けていた魔法道具屋のエルザ・シュヴァルツ。今日狩れると思うと嬉しくて仕方がなかった!」
「完全に狂ってるな……」
「まずはガーゴイルから殺してやろう! その後にエルザを殺す!」
男がナイフの連撃を放つと、俺は長すぎるユニコーンの杖で男の攻撃を何とか防いだ。ガーゴイルの体ではこの杖は長すぎるし、魔石砲だけでは男の攻撃を受ける事は出来ない。
いっそ人間に戻ろうか。いや、まだエルザは他人に心得を開ける状態ではない。なんとかガーゴイルのまま冒険者殺しを仕留めるしかない。
男が左手でナイフを引き抜き、左右のナイフで超高速の連撃を放つと、俺は遂にユニコーンの杖を落とした。男のナイフが俺の胸を連続で切り裂くと、俺は変化を解除しなければ勝利はあり得ないと悟った。
胸部に激痛が走り、死を予感した瞬間、廃村の付近から爆発的な魔力の動きを感じた。強烈な風属性の魔力が上空に発生すると、風の魔力の中から巨大な槍が男にめがけて落下を始めた。
「ゲイルランス!」
公園の入り口には全身の風の魔力を纏わせた、冒険者ギルド・レグルスのギルドマスター、ドミニク・ヴァルターが立っていた。ヴァルターの魔法が男の隣に落ちると、男は怯えながらゆっくりと後退を始めた。
「何者か知らんがアイゼンシュタインの冒険者に手を出すとはいい度胸だな。冒険者ギルド・レグルスのギルドマスター、ドミニク・ヴァルターが成敗してやる」
「待て! 俺はまだ何をしていない! 許してくれ!」
「もう二度と冒険者を狙うなよ。今度悪さしたらぶち殺してやるからな!」
ヴァルターが男を見逃すと、男はすぐに廃村から立ち去った。俺には男を追う気力がない。それにしても、ヴァルターはなぜ男を逃がしたのだろうか。あの様な男は野放しにして良い者ではない。
「助けて下さってありがとうございます……」
「こんな場所に冒険者を狙う者が居たとはな、すぐにここを離れよう!」
ヴァルターがエルザに手を差し伸べると、エルザは俺に杖を向けてヒールの魔法を唱えた。傷は癒えたが胸を切り裂かれた痛みは忘れられない。こんなにまともに敵の攻撃を受けたのは随分久しぶりだ。
エドヴィンさんがエルザの実力なら問題なく廃村で狩りを出来ると判断し、廃村での狩りを決めた訳だが、まさか廃村にこれ程悪質な人間が潜んでいたとは想像すらしなかった。エドヴィンさんが指示を間違えたとは到底思えない。冒険者殺しを名乗る男の存在はエドヴィンさんも関知していなかったのだろう。
ヴァルターは笑みを浮かべながらエルザの手を握り、エルザは自分を助けてくれたヴァルターに一目ぼれしたのだろうか、恍惚とした表情でヴァルターを見つめた。胸の傷は癒えたが、ナイフには闇属性の魔力が纏っていたのか、全身にけだるさを感じる。
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前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した
記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた
村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く
ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた
そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた
私は捨てられたので村をすてる
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
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