氷姫 - 精霊から頂いた加護が最強すぎるので、魔術師になって無双しようと思う -

花京院 光

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第一章「迷宮都市フェーベル編」

第一話「持たざる者」

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 全ての人間がこの世に生を受けると同時に授かる精霊の加護。人間の存在を脅かす魔物に対抗するために、人間は精霊から加護を受け、精霊と共に暮らし、共に成長する。

 極稀に精霊の加護を持たない人間が生まれる。その割合は百万人に一人と言われている。無属性のレオン。それが加護を持たない俺のあだ名だ。

 人間は精霊から加護を授かり、属性の力を得る。精霊によって属性は異なり、川や海で生まれた精霊は水の力を。火の中で生まれた精霊は火の力を。荒れ狂う風の中から生まれた精霊は風の力を持つ。

 土地が持つ魔力から生まれた精霊は、自分自身の力を授けるに値する人間を見つけ出し、加護を与えて暮らすのだ。大陸の誕生と当時に人間、魔物、精霊が生まれた。

 俺が暮らすシュルツ村は栄養豊かな土地にあるからか、地属性の精霊が多く暮らしている。俺の母も地属性の精霊の持ち主だ。

 精霊は三種類あり、微精霊、精霊、大精霊と、魔力の強さによって種類が異なる。通常の人間は一人一体、微精霊を持つ。精霊は微精霊よりも魔力が強く、人間に近い容姿をした生物だ。大精霊は精霊を上回る魔力を持ち、一体で一国を防衛出来る力を持つと言われている。

「レオン、今日も精霊を探しに行くのか?」
「そうだよ、父さん。俺は魔術師を目指しているんだ。精霊の加護が無ければ魔法は習得出来ないから、なんとしても精霊から加護を授からなければならないんだ」
「くれぐれも迷いの森には入らない様にな。氷の精霊や高レベルの魔物が潜んでいるから、加護を持たない者には危険すぎる」
「わかってるよ。迷いの森には入らない」

 俺は冒険者として村の防衛に携わりながら暮らす父と、魔術師の母の間に生まれた。十四歳のレオン・シュタイナー。加護無し、すなわち無属性の人間だ。幼い頃から魔術師に憧れていたが、加護を持たない者は魔法を習得出来ない。

 同世代の子供達は全て微精霊を持っている。父は火の微精霊を、母は地の微精霊を持つ。人間は自分自身に加護を授けてくれた微精霊を守りながら暮らす。父の肩の上には小さな火の微精霊が乗っており、楽しげにゆらゆらと揺れながら俺に手を振っている。

 父は火の微精霊から受けた火の加護を使い、火属性の魔法を習得した。炎の球を飛ばすファイアショットの魔法や、炎の矢を放つファイアボルトの魔法は魔物を軽々と退ける威力がある。

 母は地の微精霊から地の加護を授かり、土を操って攻撃魔法や防御魔法を作り出す事が出来る。俺が暮らすシュルツ村の大半の村人は地の微精霊を持っており、地の加護によって良質の土を生み出し、農業に携わりながら暮らしている。

 俺は今日も森に入り、人間と契約を結んでいない微精霊が居ないか探すつもりだ。通常の人間は生まれた瞬間に微精霊の加護を授かるが、俺の様に加護を持たない人間は、精霊と自由に契約を結ぶ事が出来る。

 といっても、十四歳までどんな精霊にも見向きもされなかった俺が精霊を加護を受けられる確率は極めて低い。それでも俺は魔術師を目指したいので、加護を授けてくれる精霊をどうにかして見つけ出すつもりだ。

 父から剣を借りて家を出る。父が若い頃に使っていたショートソードと木製のラウンドシールドを持ち、鞄と財布を持って村の市場に向かって歩き始めた。

 小さな木造の住宅が点在するのどかな村は今日も平和で、地の微精霊を連れた村人達がのんびりと土をいじりながら暮らしている。

 地の微精霊は茶色の球の様な風貌をしており、微精霊は全て直径十センチ程の体をした魔力の塊だ。微精霊はどの個体も同じ容姿をしているが、精霊は全て容姿が異なる。迷いの森に暮らす氷の精霊は微精霊を遥かに上回る魔力と魔法能力を持つ。

 氷姫と呼ばれる氷の精霊は、三年前にシュルツ村の付近に姿を現した。暫くは人間と共に暮らしていたが、加護を受けようと近付いてくる人間があまりにも多く、しつこく言い寄った人間を氷り漬けにした過去を持つ。

 精霊の加護を授かる事が出来れば、微精霊の加護を持つ者よりも遥かに強力な魔法を操る事が出来るのだ。魔術師を目指す者なら、誰もが精霊の加護を授かりたいと思うのだろう。精霊の加護を持つ者は十万人に一人。加護を授かった者の大半は精霊魔術師として国防に携わっている。

 精霊は自分自身の力を授ける価値があると判断した人間に加護を授け、人間は加護を授かる対価として、精霊に魔力を提供し、一生涯精霊を守りながら暮らす決まりがある。にもかかわらず、一部の人間の中は精霊を無理矢理拘束して、加護を得ようとする者が居る。

「精霊狩り」と呼ばれるならず者が氷の精霊の加護を目当てに迷いの森に入り、何人も返り討ちにされているのだ。シュルツ村の南口を出て一時間程進んだ場所には魔物と微精霊が暮らす迷いの森がある。

 村の市場をゆっくりと見物しながら、今日の朝食を選ぶ。毎日早朝に家を出てシュルツ村付近の森に入り、魔物を討伐してお金を稼ぐのが俺の日課だ。勿論、微精霊探しも並行して取り組んでいる。

 人間や精霊と敵対する魔物は生息数が非常に多く、シュルツ村の周辺にやスライムやゴブリン、スケルトンといった低級の魔物が多く湧く。これらの魔物は魔獣クラスに分類され、魔物の中でも知能が低く、魔力も弱い魔物は微精霊を持たない俺でも狩る事が出来るが、一度に複数体相手にする事は難しい。

 一対一なら弱い魔物を狩る事が出来るのだ。生まれつき加護を持たない俺は魔法を習得出来ない代わりに、剣の技術を磨いてきた。幼い頃から父から剣技を教わり、体力作りをしながら、いつか魔術師になる日を夢見て魔法や魔物の性質なんかも学んできた。

 他人が当たり前の様に使える魔法も、俺は絶対に使う事は出来ない。精霊の加護を持たない無属性の俺は、一切の魔法が使えないのだ。

 市場でパンや乾燥肉を見ていると、前方から金髪を長く伸ばした男が近付いてきた。背後には二人の子分を従え、手には銀の美しい杖を持っている。シュルツ村で唯一、二種類の微精霊から加護を受けた男、アレックス・グリム。

「これはこれは、無属性のレオン・シュタイナーじゃないか! まだ微精霊の加護も受けていないのか? 赤ん坊だって加護を授かってるのに、この村で加護すら持たないのはお前だけなんだよな」

 グリムが火の微精霊と地の微精霊を見せびらかす様に宙に浮かべると、俺は微精霊の持つ魔力に圧倒されて尻餅をついた。このグリムという忌々しい男は俺の隣人であり、幼い頃から加護を持たない俺をからかう事が生き甲斐の様な奴だ。金の糸で刺繍が施されたローブを着込み、高価な杖を持っている姿が一流の魔術師の様にも見える。

 グリム家は優秀な魔術師を多く輩出してきた名家。シュルツ村で最も魔法能力が高い一家としても有名で、アレックス・グリムは将来大魔術師になると期待されている若き魔術師なのだ。

「一体いつになったら加護を授かるんだ? 確かお前は魔術師を目指しているんだよな? 魔法も使えないの」
「うるさい……! お前には関係ないだろう!」
「確かに関係ないな。まぁ、せいぜい森で死なない様に気をつけるんだな。俺なら魔法一発で魔物を蹴散らせるが、お前は弱いから一対一じゃないと魔物と戦えないんだろう?」
「黙れグリム。俺はいつかお前を越える魔術師なる」
「加護すら持ってないのにか? それは何の冗談だ? 全く、朝から面白い冗談を言ってくれるからお前の事は好きなんだよ。いつも俺を楽しませてくれるからな」

 グリムは長く伸びた金色の髪をかき上げ、気味の悪い笑みを浮かべながら俺を見下ろすと、俺に杖を向けてからかった。この男に会うと俺はいつも劣等感を感じる。どうしてこんな男が二種類もの微精霊から加護を受けているのか理解出来ないのだ。

 俺はグリムを無視し、市場でパンと乾燥肉、ヒールポーションを購入してから村を出た……。

 何としてもグリムを見返したい。会う度に俺を見下し、微精霊を見せつけるのだ。今日は北の森に入るつもりだったが、少しでも強い魔物を狩りたい気分だったので、迷いの森に入る事にした。

 魔物を狩り、魔物が体内に秘める魔石を回収して村の冒険者ギルドに持ち込むと、いくらかで買い取ってくれるのだ。勿論、グリムもシュルツ村周辺の魔物を狩り、魔石を持ち込んでお金を稼いでいる。

 グリムは昨日ゴブリンを十体も討伐してギルドに魔石を持ち込んだ。それなら俺は十一体のゴブリンを討伐しよう。ちなみに俺は昨日三体しかゴブリンを狩れなかった。三体目のゴブリンに腕を切り裂かれ、満足に剣を握る事すら出来なかったからだ。勿論、ヒールポーションを飲んで傷を癒やしたから、怪我は完治している。

「俺だって魔法が使えたらグリムより多く魔物を狩れるんだ……」

 今日こそ微精霊から加護を受けてみせると心に誓い、村の南口から出て迷いの森に向かった……。
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