氷姫 - 精霊から頂いた加護が最強すぎるので、魔術師になって無双しようと思う -

花京院 光

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第一章「迷宮都市フェーベル編」

第二十一話「氷姫の居ない時間」

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 さっきから妙に剣士と視線が合う。ギルドの男達が若い剣士に言い寄ろうとしているが、火の微精霊が男達の頬に体当たりをして接近を許さない。

「随分ガーゴイルに好かれているんですね」
「ええ、この子とはもう一年以上の付き合いになるんです」
「確か、精霊の加護を受けているですよね」
「はい、氷の精霊・エミリアから加護を授かっています」
「そうですか……。実は私も精霊の加護を持っているんです」
「本当ですか!?」
「大地の精霊・シャルロッテ。私の家族の様な存在です」
「大地の精霊ですか。確か石や土を自在に操る力があるんですよね」
「ええ。私が守らなければならないのに、私は彼女を失ってしまいました……」
「精霊を失ったとはどういう事ですか?」

 若い剣士がエールを一気に飲み干すと、俺は彼女にエールを注いだ。それから彼女も俺にエールを注いでくれると、俺達は席を離れて、ギルドの隅に置かれてあるテーブルに移動した。ギルドの中央には巨大な石のテーブルが置かれており、冒険者達が大いに盛り上がっているから声が聞こえづらいのだ。

「私はクリステル・オックスと申します。レオン・シュタイナー様。あなたも私と同様に精霊を失ったと聞きました」
「はい、精霊を誘拐されたんです」
「この手紙を受け取ったんですか?」

 クリステルさんが見覚えのある手紙を俺に差し出すと、ティナが愕然とした表情を浮かべて俺の肩に飛び乗った。

「これって、僕達の手紙と同じものだよね」
「そうみたいだね……。まさか、他にも精霊を誘拐しているという事だろうか」
「ああ。間違いないよ。レオン、誘拐されたのはエミリアだけじゃないんだ!」

 精霊狩りと魔族はクリステルさんから大地の精霊・シャルロッテさんを奪った。エミリアだけではなく、他にも多くの精霊が誘拐されている可能性がある。手紙の内容は全く同じ「精霊を返して欲しければ死霊の精霊を殺し、精霊石を砦に持ってこい」という内容だ。クリステルさんは王都ローゼンハインで大地の精霊と共に暮らしていたのだとか。

「私は死霊の精霊を殺してでもシャルロッテを取り戻したいです。私にはシャルロッテが必要なんです。彼女の居ない生活にはもう耐えられません。私が生まれた時から共に暮らしていたのですから……」
「死霊の精霊を殺すつもりなんですか?」
「はい、それ以外にシャルロッテを救う方法はないでしょう」
「考えを改めて下さい。精霊を救うために精霊を殺してどうするんですか? 精霊から力を頂いている俺達が精霊を殺す……? そんなのはどう考えても間違っています!」
「ええ、私も自分の考えが間違っていると理解しています。それでも私はシャルロッテが必要なんです。私の家族ですから……。死霊の精霊を殺してシャルロッテが戻ってくるなら、私は躊躇なく死霊の精霊を殺します」

 俺は彼女の「精霊を殺す」という言葉に頭に血が上り、両手から氷の魔力が流れた。テーブルは一瞬で凍りつき、室内には再び鋭い冷気が充満した。感情の高ぶりと共に魔力が溢れ出ているのだ。

「クリステルさん! 精霊の加護を授かった時の喜びを忘れたんですか? 俺達は精霊に生かされているんです。勘違いしないで下さい。人間は精霊の加護が無ければ魔物に立ち向かう事すら出来ないんです。人間を救うために生まれた精霊を、加護を授かる事によって何とか生きている人間が命を奪う!? そんな行為は他人が許しても俺が許しません!」
「レオン様……」
「クリステルさん。エミリアは人間を氷漬けにした精霊として悪名高い存在でした。村では氷の精霊に近づけば命を落とすとまで言われていたんです。ですが、実際のエミリアはパンを食べるだけでも感動し、手を握るだけでも喜んでくれる様な、誰よりも純粋な女の子だったんです。『一緒に料理をするのが夢だった』とも言っていました。全ての精霊は人間を守るために生まれるんです。自分の精霊を生かすために死霊の精霊を殺すなんて間違っています!」
「ですが……! 死霊の精霊は冒険者を何十人も殺している悪質な精霊なんです! そんな精霊を殺すのがどうして悪だと言うんですか?」
「クリステルさんは迫害されている精霊の気持ちを理解しようとしていない! ダンジョン内で最も闇の魔力が強い空間で生まれ、スケルトンやリビングデッドに囲まれて育てば、どんな性格の精霊に育つかは理解出来る筈です。誰も好んで墓地で暮らしたい精霊なんて居ませんよ。生まれた時から精霊と微精霊の加護を授かっていた、恵まれた環境で育ったあなたには理解出来ないかもしれませんが、どんな精霊にも見向きされなかった俺には死霊の精霊の気持ちが分かるんです!」
「それではどうするんですか!? シャルロッテが殺されるのを待てというんですか?」
「俺に力を貸して下さい! 俺がきっと死霊の精霊の加護を得てみせます。死霊の精霊の心を開いてみせます!」

 クリステルさんは俺をじっと見つめ、不意に優しい笑みを浮かべた。他人とこんなに腹を割って話したのは初めてかもしれない。それからクリステルさんはゆっくりと立ち上がると、深々と頭を下げた。

「レオン様、私の身勝手な考えで死霊の精霊を殺して仕舞うところでした。私を叱ってくれてありがとうござます。喜んであなたの剣になります。シャルロッテを開放するまで、私をあなたの仲間にして下さい。きっと役に立ってみせます」
「クリステルさん、やっと理解してくれたんですね……!」
「はい。シャルロッテを守るためなら何をしても良いと勘違いしていました……」
「気持ちはわかりますが、俺達人間は精霊に生かされいてるんです。精霊を守りながら生きるのが人間の務め。加護を持つ者の生き方なんです」
「レオン様……」

 クリステルさんが俺に手を差し伸べると、俺は彼女と固い握手を交わした……。
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