レッドストーン - 魔王から頂いた加護が最強過ぎるので、冒険者になって無双してもいいだろうか -

花京院 光

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第一章「王国編」

第五話「行商人と魔王」

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 森の中が寒くなってきたので、ファイアの魔法を宙に浮かべて暖を取る。ヘンリエッテさんは葡萄酒をもう一杯飲むと、乾燥肉を齧りながら話を続けた。

「去年の三月。私はシュルスクという果実を大量に購入したのだけど、シュルスクを購入した翌日、アイゼンシュタイン王国の王妃様が毒殺されたの……」
「毒殺ですか? それが果実と何か関係があるのですか?」
「大いにあるのよ。シュルスクの果実から作られたお酒に毒が入っていたらしく、王妃様は果実酒を飲んで命を落としたの。犯人は直ぐに捕まったのだけど、それからというもの、アイゼンシュタイン王国ではシュルスクの価値が暴落。借金をして購入した果実が一夜にしてゴミになってしまった……」
「それは大変でしたね……」
「ええ。借金は何とか返済出来たのだけど、今まで築き上げてきた信用も全て失い、再スタートをしたという訳」

 人生を再スタートしたヘンリエッテさんと、魔王の加護を受け、新たに人生を歩み始めた俺の出会いは偶然だろうか。何だかヘンリエッテさんとは良い友達になれそうだ。

「実は、アイグナーの近くにブラックウルフが生息するという情報を冒険者から聞いたの。ブラックウルフの毛皮は高値で取引されているから、ブラックウルフを狩ろうと思っていたのだけど、その前にスケルトンと遭遇してしまったの……」
「ブラックウルフ、魔獣クラスの魔物ですね」
「そう。魔獣の中でも比較的弱い魔物だけど、生息数が少ない。多分、この辺りに居ると思うのだけど、ブラックウルフを見つける前にスケルトンに殺されるところだったわ」
「気をつけて下さいよ。これからは一人で森に入らないで下さい。どんな魔物が潜んでいるか分かりませんからね」
「そうね。ところでラインハルト。あなたは倒した魔物を魔石化する力を持っているの? スケルトンが魔石化した様に見えたけど……」

 魔王の加護で討伐した魔物を魔石化出来るという事は話せない。どうにかして誤魔化すしかないだろう。

「はい。俺は魔王と同じ力を持っています。以前魔王に関する書物を読んで、魔物を魔石化する力を身に付けたんです」
「本当? それは凄い事だわ……ドロップ率が低い召喚石や魔法石を入手出来れば、お金なんてすぐに稼げるわね。アイゼンシュタイン王国にも、討伐した魔物を魔石化出来る賢者が居たみたいだけど、百年以上も前に命を落としているわ」
「俺と魔王以外にも魔物を魔石化出来る人が居たんですね」
「あまり聞いた事がないけど、古い時代の賢者は魔物を魔石化する力を持っていたのだとか。今の時代で魔物を魔石化出来る人は居ないでしょうね。ラインハルトは賢者の素質があるのかしら」

 魔王以外にも魔物を魔石化出来る力を持つ者が居たのか。自分自身を賢者と名乗る事も出来るのだろうか。魔王と賢者とは、技術的に近い存在だったのではないだろうか。

「ヘンリエッテさん。もし良かったら、ブラックウルフの討伐を手伝いましょうか?」
「本当? それは嬉しいわ! まさか自分がスケルトンも狩れない程、弱いとは思わなかったから……」
「女性を一人森に残したまま、旅を続ける訳にはいきませんからね」
「ラインハルトは優しいのね。それじゃ明日からブラックウルフを探しましょう!」
「はい! 今日はここでゆっくり休んで、明日の朝から狩りを始めましょう」

 やはり冒険の旅は面白い。新たな出会いや、外の生活を知る事が新鮮だ。暫くはヘンリエッテさんと共に行動しよう。彼女はアイグナーの周辺でブラックウルフを狩り、毛皮を集めてからアイゼンシュタインに向かう予定だったのだとか。狩りを手伝う代わりに、馬車でアイゼンシュタインまで乗せて貰う事にした。

「そろそろ休みましょうか。葡萄酒を飲みすぎたわ」
「そうですね。俺は見張りをしていますから、ヘンリエッテさんは先に休んで下さい」
「私を守ってくれてありがとう。おやすみ。ラインハルト」
「おやすみなさい。ヘンリエッテさん」

 ヘンリエッテさんはロビンとダリウスを抱きしめながら、馬車の荷台で眠りに就いた。素敵な仲間と出会えて、今日も良い一日だったな。

 それから俺は木の上に登り、辺りを警戒しながら朝を待つ事にした。夜の森には魔物の呻き声が聞こえるが、不思議と怖くはない。信頼できる仲間が居るからだろう。ダリウスとロビンはまだまだ強くなる。アイゼンシュタインで新たな生活を始めるのが楽しみだ。ヘンリエッテさんさえ良ければ、冒険者ギルドで俺の代わりにクエストを受けて貰い、パーティーとして仕事をするのも良いかもしれないな。

 きっと魔王の俺を受け入れてくれるギルドは存在しないだろう。ステータスに表示されている魔王の文字を、他の職業に書き換える事が出来れば、ギルドでの登録も出来るだろう。まぁこの問題は後で考えれば良い。今は見張りに集中しなければならないからな。

 俺は眠気を堪えながら乾燥肉を齧り、朝まで見張りを続けた。早朝にダリウスが目を覚ますと、ダリウスは見張りを代わると言ってくれたので、俺はヘンリエッテさんの馬車の隣に毛布を敷いて横になった。地面はごつごつしていて寝づらいが、流石にヘンリエッテさんの隣に寝るのは恥ずかしいので、地面で眠る事にした。暫く目を瞑って横になっていると、森の中から強烈な魔力が流れてきた……。

 肌に強い魔力を感じて目を覚ますと、俺は急いでヘンリエッテさんとロビンを起こした。ダリウスは既に槍を構えて辺りを警戒している。この辺りに強い魔力を持つ魔物が潜んでいるのだろう。ヘンリエッテさんは剣を抜いて俺の背後に隠れた。

 深い森の奥からは、体長が三メートルを超える巨体の魔物が姿を現した。幻獣・ミノタウロスだ。赤い皮膚に筋骨隆々の肉体。頭部からは二本の角が生えており、手には巨大な斧を持っている。ロビンとダリウスは悲鳴を上げて逃げ出し、ヘンリエッテさんは力なく地面に座り込んだ。

 幻獣は一体で町一つを崩壊させる力を持つ強力な魔物。ゴブリンやガーゴイルの様な、魔獣クラスの魔物を遥かに上回る力を持ち、熟練の冒険者でも束になって挑まなければ討伐は不可能。幻獣の更に上に幻魔獣クラスの魔物が存在するが、幻魔獣は一体で国一つを滅ぼすと言われている。

 体から感じる魔力は父より弱いが、それでも相当な強さだ。日常的に父と剣を交えていなければ、この場で立っている事すら出来なかっただろう。ミノタウロスは静かに俺を見つめると、斧を地面に突き立てて跪いた。

「魔王と同じ魔力を持つ人間よ。俺をお前の獣魔にしてくれないか……?」
「え……? なんですって?」
「お前は魔王ではないのか? 俺はかつての魔王、ヴィンフリート・イェーガーの従魔だった。彼は幼い俺をここまで育ててくれた。彼の死後、俺はこの森に身を隠して生きてきた……」

 第五代魔王、ヴィンフリート・イェーガーは、無数の魔物を従えて大陸を支配していた。大陸支配時のレベルは90。大陸の支配から二ヶ月後、勇者に殺害されたと父から聞いた事がある。俺の祖父に当たる人物だ。

 従魔の契約をするには、契約の魔法陣を書けば良い。父と共に何度も練習してきた魔法陣だ。『ラインハルト。強い魔物と出会ったら、殺さずに従魔にするんだぞ』父が何度も俺に言った言葉だ。幻獣を仲間に出来るとは運が良いな。早速従魔になって貰おうか。

 俺はミノタウロスの提案を受け入れ、契約の魔法陣によってミノタウロスを自分の従魔にした。体の大きいミノタウロスを連れて旅をする事は出来ないから、ミノタウロスは魔石の中で過ごす事になった。彼も魔石の中に居る方が安全だと言い、俺は空の魔石にミノタウロスを封印した。

「ラインハルト……? 幻獣を従魔にしてしまったの?」
「はい! ミノタウロスを仲間に出来るなんて、運が良かったですよ」
「運の良さだけでは幻獣を従魔にする事は出来ないわよ。ラインハルト、あなたは一体何者なの? 知能が高い幻獣が自ら頭を下げるなんて、絶対にありえないわ」
「ミノタウロスがどうして俺を選んだのか、理由は分かりませんが、きっと俺を魔王と勘違いしたのでしょう」
「そんな勘違いをする程、幻獣という生き物は馬鹿ではないと思うの。きっと幻獣はラインハルトには敵わないと思ったのね……あなたは将来、最強の冒険者になるわ。だって、ミノタウロスを従魔にしてしまうのだから!」

 ついに正体がバレたかと思ったが、ヘンリエッテさんは都合の良い勘違いをしてくれた。ミノタウロスは俺の中に魔王の力を感じたのだろう。幻獣のミノタウロスが居れば、より安全に冒険の旅が出来るに違いない。きっと最高の戦力になってくれるだろう。

「ラインハルトは本当に凄いわね。十七歳で幻獣を従魔にしてしまうなんて。私達、きっと最高のパーティーになるわ」
「俺は別に凄くありませんよ……」

 自分の正体を明かせば、きっとヘンリエッテさんは逃げ出してしまうだろう。嘘をついてでも、今は彼女と共に居たい。自分の身分を隠さなければ、他人と共に時を過ごす事すら出来ないのか……。早めに転職をして、新たな職業を手に入れなければならないな。

 それから俺は二時間ほど仮眠をし、ブラックウルフ狩りを行う事にした……。
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