レッドストーン - 魔王から頂いた加護が最強過ぎるので、冒険者になって無双してもいいだろうか -

花京院 光

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第一章「王国編」

第六話「魔物討伐」

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 二時間ほど仮眠をしてから目を覚ますと、ダリウスは既にブラックウルフの居所を見つけたようだ。どうやら俺が眠っていた間にブラックウルフを探していたらしい。

「ダリウス。ブラックウルフの棲家まで案内を頼むよ」

 ダリウスは槍を構えて頷くと、翼を広げて飛び上がった。俺とロビンはヘンリエッテさんの馬車に乗せて貰い、ダリウスを追いながら移動を始めた。

「ラインハルト。王国に行ったら冒険者になるつもり?」
「そうですね。これから冒険者として生きていくつもりです」
「これまでは何をしていたの?」
「父と二人で暮らしていましたよ。戦い方は全て父から教わったんです」
「きっとラインハルトのお父さんは強い冒険者なのね」

 父は第六代魔王です、と言う訳にもいかないから、俺は話題を変える事にした。

「ヘンリエッテさんはこれからも行商人として生きていくんですか?」
「そうね。いつかはアイゼンシュタインで自分の店を持ちたいわ。行商の旅をするのも面白いけど、店を構えて落ち着いて暮らすのも良いと思うの」
「そうなんですね。どんな店を構えるつもりなんですか?」
「冒険者向けの道具屋が良いわね。小さな店を建てて王国でのんびりと暮らす。それから恋人を作って、早めに結婚したいわ。そろそろ私も歳だからね……」
「恋人ですか。俺はまだ人生で一度も恋愛をした事がないんです。俺もいつか女性と交際してみたいですよ」
「きっと素敵な恋人が出来るわよ。もし私が三十を過ぎても結婚出来なかったら、ラインハルトと結婚しちゃおうかな……」

 ヘンリエッテさんは頬を赤らめて俺を見つめると、俺は恥ずかしくて目を逸らしてしまった。一体ヘンリエッテさんは何歳なのだろうか。こんなに素敵な女性と結婚出来るなら幸せだろう。勿論、俺と結婚したいなどというのは冗談だろうが……。王国での生活が落ち着いたら、恋人を作るのも良いかもしれないな。

「ラインハルト! ブラックウルフの棲家に着いたよ!」
「本当かい?」
「うん。この先に居るよ」

 ダリウスが指差す先には小さな洞窟があった。どうやらブラックウルフは洞窟を棲家にしているらしい。敵の正確な数も戦力も分からない訳だから、ミノタウロスの力を借りようか。彼は体の大きさの関係上、洞窟に入る事は出来ない。敵を誘き出して洞窟の外で戦った方が良さそうだな。

 ミノタウロスの召喚石を左手で持ち、右手を地面に向ける。召喚石に魔力を込めて召喚の魔法を唱えると、ミノタウロスが姿を現した。彼は巨大な斧を持ち上げると、辺りを見渡した。

「ラインハルト。敵は何処だ?」
「敵は洞窟の中のブラックウルフなんだけど、狩りを手伝って貰ってもいいかな?」
「当たり前だ。俺はラインハルトの従魔だからな」
「ありがとう。それじゃ俺が敵を誘き出すから、洞窟の近くで待機していてくれるかな?」
「うむ。承知した」

 彼は小さく頷くと、付近の茂みに身を隠した。俺がブラックウルフを洞窟から誘き出しても、洞窟の目の前に幻獣のミノタウロスが居れば、ブラックウルフはたちまち洞窟に逃げてしまうだろう。外で戦闘を行った方が有利に戦える事は間違いない。ロビンの土の魔法を応用して、洞窟の入り口を塞いでもらおうか。

「ロビン。俺が洞窟に入ってブラックウルフを誘き出すから、敵が全て出てきたら洞窟の入り口をアースウォールの魔法で塞いでくれるかな?」
「任せてよ。俺もラインハルトの召喚獣なんだ。必ず役に立ってみせる」
「ああ。頼りにしているよ」

 ロビンの小さな頭を撫でると、彼は無邪気に微笑みながら俺を見上げた。気の良い仲間が居て幸せを感じる。魔物の特性を活かせる冒険者になろう。ヘンリエッテさんはどうやら風の魔法が使えるらしく、彼女には遠距離から風属性魔法で攻撃をして貰う事にした。ダリウスには状況に合わせて、上空からブラックウルフに攻撃を仕掛けて貰う。

 魔剣を抜いて薄暗い洞窟に入る。光が入らない洞窟を照らすために、左手でファイアの魔法を使用する。小さな炎を宙に浮かせて洞窟を進むと、洞窟の奥から魔物の気配がした。敵はこちらに気が付いているのだろうか。洞窟の奥からは冷たい魔力が流れてきた。これがブラックウルフの魔力だろうか。

 ゆっくりと洞窟を進むと、俺は小さな魔物を見つけた。毛の白い魔物で、幼い狼の様だ。体はダリウスよりも小さく、弱々しい魔力を辺りに放っている。ブラックウルフの亜種だろうか? 小さな魔物は静かに立ち上がると、俺に背を向けて洞窟の奥に進んだ。どうやら人間を襲う魔物ではないらしい。

 それから暫くして、洞窟内で魔物の悲鳴が聞こえた。急いで通路を進むと、白い毛の魔物が腹部から血を流して倒れていた。ブラックウルフと敵対する種族の魔物なのだろうか。涙を流しながら俺を見上げている。

 通路の奥からは無数の魔物が姿を現した。黒い毛に覆われた狼系の魔物で、赤い目をしている。体はロビンよりも大きく、敵の数は二十体以上。急いで洞窟を出なければならないな。白い毛をした幼い狼は、弱々しい鳴き声を上げて俺を見つめている。この魔物をここに放置しておけば、たちまち命を落としてしまうだろう。連れて帰って育ててみようか。

 急いで小さな狼を抱き上げると、一体のブラックウルフが攻撃を仕掛けてきた。鋭い爪の一撃を俺の足に放つと、魔装は一撃で砕け散った。右足から大量の血が流れ、激痛が走る。まさか、魔獣クラスの魔物に魔装を破壊されてしまうとは……。

 魔装とは使用者の魔力によって防御力が変わる特殊な防具。砕けた魔装は徐々に再生し、再び足を覆ったが、右足に力が入らない。気がつくとブラックウルフの群れが俺を取り囲んでおり、白い毛の狼は心配そうに俺を見上げている。俺がこの子を助けなければならないんだ……。

 痛みに耐えながら魔剣をブラックウルフに向ける。絶体絶命とはこの事を言うのだろう。背後からブラックウルフの攻撃を受け、俺の背中には激痛が走った。父との戦闘訓練で、一対一の戦い方はマスターしたつもりだったが、攻撃速度が早い複数の敵とは戦った事がなかった。勿論、先代の魔王、ヴォルフガングの方が、攻撃速度はブラックウルフよりも遥かに早い。

 剣で敵を捉えようとしても、瞬時に回避され、背後から敵の攻撃を受ける。急いで振り返り、垂直斬りを放ってブラックウルフを叩き切ると、再び背後から攻撃を受ける。

 俺なら勝てると信じ、痛みを堪えながら、敵の攻撃を魔剣で防ぐ。前方からの攻撃を防げば背後から背中を切り裂かれ。背後の敵に意識を集中させると、複数のブラックウルフが次々と下半身を狙って攻撃を仕掛けてくる。

 まさかブラックウルフ相手に苦戦するとは……。左手で幼い狼を持っているからか、片手では満足に戦えない。この魔物を捨てて逃げ出せば確実に助かるだろう。両手で剣を持てば、魔力を込めた水平斬りで一気に敵を蹴散らせる……。

 だが、俺は幼い狼を見捨てるつもりはない。俺が助けると決めたのだ。命に代えてでも助けてみせる。魔剣を仕舞い、右手に火の魔力を集める。敵が攻撃を仕掛けて来た瞬間に強い炎を放ち、ブラックウルフの体を焼いた。逃げ出すなら今が絶好の機会だ。

 突然の炎にブラックウルフが狼狽した瞬間、俺は出口を目指して走り出した。きっと直ぐに追い付かれてしまうだろうが、少しでも出口に近づければ、仲間がこの幼い狼を助けてくれるはずだ。

 魔王になるために教育を受けてきた俺が、たった二十体の魔物に囲まれて命の危機を感じている。俺はまだまだ弱いな……。

 右足と背中の激痛を堪えながら、幼い狼を抱えて出口を目指す。敵がいくら攻撃を仕掛けて来ようが、俺の精神力で必ず出口に辿り着いてみせる。

 体中にブラックウルフが噛み付いており、意識を失いそうな程の激痛に耐えながら、地面を這いつくばって洞窟の入り口を目指した。やがて光が見えてくると、ロビンとダリウスが慌てて駆けつけてきた。

「この子を頼むよ……」

 幼い狼をダリウスに渡すと、ダリウスは全身から血を流す俺を見下ろし、大粒の涙を流した。洞窟からは無数のブラックウルフが飛び出すと、ロビンは冷静に洞窟を土の魔法で塞いだ。敵の数は十七体程。結局三体しかブラックウルフを倒せなかった。

 ミノタウロスは鬼の様な形相を浮かべ、巨大な斧を握り締めると、怒り狂ってブラックウルフを叩き切った。一撃で三体のブラックウルフを切ると、爆発的な咆哮を上げて、次々とブラックウルフを切り刻んだ。

「ブラックウルフ……俺のラインハルトに手を出すとは……! 死んで償え!」

 ミノタウロスは怒り狂ってブラックウルフを切り刻み、ダリウスは上空から槍の攻撃でミノタウロスを援護した。ヘンリエッテさんは俺を抱きしめると、鞄からポーションを取り出して飲ませてくれた。

 ヘンリエッテさんが涙を流しながら俺を見つめている。やはりヘンリエッテさんは美しいな……。ポーションの効果で全身の痛みが少しずつ和らぐと、ヘンリエッテさんは剣を構えてブラックウルフに切りかかった。右手で剣の攻撃を、左手からは風の塊を飛ばして戦っている。攻撃の威力は低いが攻撃速度は非常に早い。

 ロビンは幼い狼を俺の足元に置くと、ミノタウロスを援護しながら戦い始めた。俺はもう動けそうにない……。ここまで逃げて来るだけで限界だった。狼を抱きしめながら仲間を戦いを見ていると、俺の意識は次第に遠のいた……。
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