レッドストーン - 魔王から頂いた加護が最強過ぎるので、冒険者になって無双してもいいだろうか -

花京院 光

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第一章「王国編」

第七話「幻魔獣」

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「ラインハルト! 大丈夫か?」

 ミノタウロスが心配そうに俺を見つめている。一体どれだけの時間、眠っていたのだろうか。仲間達は既にブラックウルフを狩り終えたのか、ヘンリエッテさんとロビンがブラックウルフを毛皮を剥いでいる。ロビンはブラックウルフの肉を切り、今晩の夕食を作っているみたいだ。

 ヘンリエッテさんのポーションを飲んだお陰で傷は塞がっているが、ブラックウルフに全身を噛まれたからだろうか、体が鉛の様に重い。

「ラインハルト。あまり無理をするなよ」
「ああ。心配させてしまったね。ミノタウロス」
「全身をブラックウルフに噛まれてまで魔物を助けるとは……ラインハルトはまるでヴィンフリートの様な男だな」
「確か……ヴィンフリート・イェーガーは召喚獣を守りながら命を落としたんだよね」
「うむ。俺達を守りながら勇者に斬り殺されたのだ。ラインハルトの中にヴィンフリートの様な力を感じるのは何故だろうか……」

 ミノタウロスにはいつか俺自身が魔王だという事を話そう。幼い狼は俺の顔を舐めると、嬉しそうに俺の膝の上に飛び乗った。体は小さいが強い氷の魔力を感じる。この魔物は愛情を込めて育てれば必ず強くなるだろう。

「ホワイトウルフだろうか? ブラックウルフと敵対する聖属性の魔物」
「聖属性? 俺は氷属性だと思ったんだけど」
「氷属性の狼というと、シルバーウルフだろうか。しかし、シルバーウルフは人間に懐くような魔物ではない」

 従魔の契約をし、『イェーガーの指環』でステータスを確認すれば、この魔物の正体を確認する事が出来る。俺は早速契約の魔法陣を描き、白い毛の狼を魔法陣の中に入れた。従魔の契約をしてから、指環に意識を集中させる。

『LV.15 フェンリル』
 力…140 魔力…150 敏捷…140 耐久…130
 装備:なし
 装飾品:なし
 魔法:アイス アイスストーム

「まさか……! 幻魔獣のフェンリルか?」
「幻魔獣? 一体で国一つを滅ぼす力を持つという?」
「うむ。氷の魔法に特化した幻魔獣だ。まさか自分よりも高位な魔物と出会うとはな」
「幻獣のミノタウロスよりも高位な魔物か。やはりこの子は並の魔物では無かった。どうりで強い力を感じる訳だ」
「しっかりと栄養を与えて育てれば、最強の魔物になるだろうな。魔王、ヴィンフリート・イェーガーでも幻魔獣を従魔にする事は出来なかった。この魔物の力を借りれば、大陸を支配する事も出来るだろう。ラインハルトよ、お前は魔物の力で何を成し遂げる?」
「俺はただ、静かに暮らしたいだけなんだ。勿論、大陸の支配をするつもりはない」

 ミノタウロスは俺の言葉を聞くと、柔和な笑みを浮かべ、俺の頭を撫でてくれた。魔物達を守りながら冒険者として生きる。それが俺の目標だ。しっかりとフェンリルを育てて、最強の魔物になって貰おう。そして俺達の力で大陸を守りながら生きていくんだ。

「ラインハルト。怪我は大丈夫?」
「はい、ヘンリエッテさん。俺を守ってくれてありがとうございました」
「気にしなくて良いのよ。私だってラインハルトに命を助けて貰ったからね。それに、こんなに沢山ブラックウルフの毛皮も手に入ったし! これはラインハルトの分よ」

 ヘンリエッテさんは大量の毛皮を俺の目の前に置くと、満面の笑みを浮かべた。果たしてこの毛皮はいくらで売れるのだろうか。お金は勿論必要だが、別にブラックウルフの毛皮が欲しくて洞窟に入った訳ではない。俺はただ、彼女を手伝いたくて洞窟に入っただけだ。やはり俺が心配した通り、ヘンリエッテさん一人でブラックウルフの狩りに挑んでいれば、たちまち命を落としていただろう。ブラックウルフの狩りに同行して正解だったという訳だ。

「報酬は山分け。冒険者の基本でしょう?」
「別に……毛皮が欲しくて洞窟に入った訳ではありませんよ」
「まさか、あんなに大怪我をして手に入れた毛皮を受け取らないつもり?」
「はい。ヘンリエッテさんが適切な値段で売り捌いて下さい」
「そんな……! それじゃ、どうして私と一緒に来てくれたの?」
「森は一人では危険ですからね。仲間を守りたいと思った……それだけですよ」
「ありがとう、ラインハルト。無償で私に協力してくれる人なんて、今まで一人も居なかった……」

 ヘンリエッテさんは天使の様な笑みを浮かべると、俺を抱きしめてくれた。彼女とは良い仲間になれそうだ。これからはヘンリエッテさんと共に王国まで旅をし、この世界の事を色々教えて貰おう。

「ラインハルト。やっぱり二十八まで結婚出来なかったら、私と結婚してくれるかな?」
「なんですかそれ……ヘンリエッテさんは一体何歳なんですか?」
「私は……二十五歳よ。ラインハルトからすればオバサンでしょう?」
「そんな事ありませんよ。とても美しい女性だなと思っていました」
「馬鹿。面と向かってそんな事言うなんて……恥ずかしいわ……」

 ヘンリエッテさんは顔を真赤にして俯いた。彼女は二十五歳だったのか。俺よりも八歳年上という訳か。結婚は冗談だと思うが、こんなに素敵な女性があと三年も恋人が出来ないとは思えない。まぁ、期待せずにのんびりと待つとしよう。

「ラインハルト! 晩御飯が出来たよ!」
「ありがとう、ダリウス。助かるよ」
「怪我はもう大丈夫?」
「ああ、もう平気だよ。みんな、俺を助けてくれてありがとう」

 俺は仲間に頭を下げると、仲間達は俺を抱きしめてくれた。良い仲間に恵まれて幸せだな。早速夕食を頂くとしよう。洞窟から少し離れた場所で、小さな炎を浮かべて夜の森を照らし、ダリウスが作ってくれた肉料理を頂く。

 幼いフェンリルを膝の上に乗せてブラックウルフの肉を与える。フェンリルが美味しそうに肉を食べると、俺は何ともいえない幸福感を覚えた。自分の手で魔物を育て、地域を守る最強のフェンリルになって貰おう。

「沢山食べるんだよ」
「……」

 フェンリルは静かに頷くと、彼は美味しそうにブラックウルフの肉を平らげた。ダリウスはミノタウロスのためにブラックウルフのステーキを焼き、ミノタウロスは豪快にステーキに齧り付いている。ミノタウロスという魔物は食事姿も戦い方も全てが豪快なんだな。極限までに発達した筋肉が炎に照らされている。どうしたらミノタウロスの様に強くなれるのだろうか。彼のステータスも確認しておこう。

『LV.50 ミノタウロス』
 力…500 魔力…250 敏捷…400 耐久…480
 装備:ヘヴィアックス
 装飾品:なし
 魔法:なし

 どうやら魔法は使用出来ないみたいだが、力が五百を超えている。耐久の数値もかなり高い。これが成長した幻獣の強さなのか。道理でブラックウルフを簡単に倒せる訳だ。

「ラインハルト、その指環って随分珍しい物じゃない? ギルドカードと同じ仕組みになってるのかな?」
「ギルドカード? これは父から貰った指環なんですよ。腕の良い魔法道具屋に作らせた物らしいです」
「そうなんだ。ギルドカードはギルドで発行されるカードで、カードに触れるとステータスを確認出来るのよ。身分証にもなるから、ラインハルトも王国に着いたらギルドで登録してみたら?」
「ギルドでの登録って、ステータスや職業を登録するんですよね」
「そうね。悪質な称号を持っている人はギルドでは登録出来ないわ。ギルドで登録をするには、ステータスと称号の確認をしなければならないの。ステータスが低ければ登録出来ないギルドもあるわね。加入の条件はギルドによって異なるけど、ラインハルトなら大抵のギルドには登録出来るでしょう。幻獣と幻魔獣を従える冒険者。どんなギルドもラインハルトを欲しがるに違いないわ」

 やはり登録時には自分のステータスを見せる事になるのか。職業に関しては、登録後に自由に設定出来るらしい。もう一度ステータスを見てみるか。

『LV.26 幻魔獣の契約者 ラインハルト・イェーガー』
 力…260 魔力…145 敏捷…210 耐久…240

「幻魔獣の契約者? まさか……」
「ラインハルト……それって凄く特殊な称号じゃない? きっとフェンリルを従魔にした事によって称号を得たのね」

 ギルドカードに表示されていた『魔王』の文字は、職業ではなく、称号を表していたのか。冷静に考えれば、魔王が職業な訳がない。新たな称号を得られたのは運が良かった。これで無事に冒険者登録出来るという訳か。やはりフェンリルを助けたのは正解だった。

 俺は幼いフェンリルを抱き上げ、モフモフした柔らかい頬に口づけをすると、彼は嬉しそうに俺の胸に顔を埋めた。これで他人から魔王だとバレる可能性が無くなったという訳だ。

「ラインハルト。俺は魔石の中に戻ろう。またいつでも呼び出してくれ」
「ありがとう。ミノタウロス」

 魔石を左手で持ち、ミノタウロスの体に右手を触れて、ミノタウロスを封印した。ミノタウロスを封印した魔石を鞄に仕舞うと、フェンリルがもっと肉を食べたいとねだったので、俺は彼が満足するまで肉を与え続けた。

「ラインハルト。今日は私が見張りをするわ。だから先に寝ても良いからね」
「そうですか……今日は体力的に厳しいので、先に休ませて頂きますね」
「僕はヘンリエッテと一緒に起きてるよ」
「それじゃダリウス。ヘンリエッテさんを頼むよ」

 俺はロビンとフェンリルを抱きしめながら、馬車の近くで横になり、眠りに就いた……。
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