レッドストーン - 魔王から頂いた加護が最強過ぎるので、冒険者になって無双してもいいだろうか -

花京院 光

文字の大きさ
25 / 64
第一章「王国編」

第二十五話「王の祝福」

しおりを挟む
 目を覚ますと、俺の隣には幸せそうに眠るフローラが居た。フローラの頬に口づけをし、美しい銀色の髪を撫でる。近くで見ると普段よりも随分美しく見える。レッドストーンを手に入れて目が見える様になったら、フローラは更に前向きに生きられるだろう。これからレッドドラゴンに関する情報を集め、レッドストーンを探しに行こうか。

 暫くフローラの頭を撫でていると、彼女は口元に笑みを浮かべて俺の手を握った。透き通るような声で朝の挨拶をし、何度も口づけをしてから、フローラは服を着て部屋を出た。今日は国王陛下から勲章を頂く事になっている。

 魔装を身に付けて魔剣を背負い、髪を整えてから部屋を出た。それから俺は兵士に案内され、朝食会場で朝食を頂いた。城の食事だからといって、特別高級な物が並んでいる訳ではなく、見慣れた料理が抜群の味で作られていた。

 フローラは既に着替えを済ませたのか、今日は銀色のドレスに身を包んでいる。やはりフローラは王女だからか、ドレスも随分着慣れている様だ。

「お待たせ、似合うかしら? 王女らしい服装なんて久しぶりだわ」
「とても良く似合うよ。本当に美しい……」
「何だか照れるわね。ラインハルト。昨日の事、夢じゃないよね。私はずっとラインハルトと一緒に居ても良いんだよね」
「ああ。勿論だよ。俺はフローラを守りながら生きる」

 フローラの頬に口づけをすると、城の若い兵士が頬を赤らめた。それから国王陛下が民の前に出て、暗殺者襲撃事件の真相を語り、アンドレア王妃毒殺事件の真犯人を公表した。次に俺の名が呼ばれると、俺は城に集まった群衆の前で、騎士に与えられるアイゼンシュタイン騎士団勲章を頂き、そしてアイゼンシュタイン十字章という、王国防衛の功績を称える勲章を頂いた。どちらも白金で出来ている豪華な勲章で、陛下は俺の左の胸に二つの勲章を付けてくれた。

 勲章の授与の際、陛下がイェーガーの名を口にした時は場が静まり返ったが、陛下が第一王女と第三王女が生きているのは俺のお陰だと力説すると、群衆からは熱狂的な歓声が沸き起こった。陛下がアンドレア王妃毒殺事件の真犯人を追い詰めたのは俺だと説明すると、市民達は心から喜んだ。どうやら王妃様は国民から随分愛されていたみたいだ。

 そして式の最後に、今までアイゼンシュタインの民に隠すように育てられたフローラが、国王陛下によって紹介された。第一王女のエレオノーレさんや、第二王女のヘルガは、幼い頃から群衆の前に立ってきたが、第三王女の存在は隠されていたのだとか。

 フローラは冒険者ギルド・レッドストーンのマスターとして、町で暮らしていた訳だから、フローラの姿を見て、レッドストーンのマスターだと気が付く者も多かった。フローラは恥ずかしそうに民に対して頭を下げると、群衆からは爆発的は拍手が上がった。第二王女のヘルガの犯行に心を痛める人も多いみたいだが、新たな王女を見られて喜ぶ人も多い。

 俺は魔王の息子として生まれ、魔王の加護を受けて第七代魔王になった訳だが、そんな俺が身分を明かせば、人々からは石を投げられ、暴動が起こるのではないかと思ったが、俺が想像していた反応とは大違いだった。実際に自分の足でアイゼンシュタインを隅々まで回り、来る日も来る日も夜警を続け、多くの人々と言葉を交わし、魔物から市民を守り続けたからだろう。誰も俺を魔王だと罵る者は居なかった。

 俺は魔王の家系に生まれたが、魔王として生きるつもりはなかった。冒険者になるために、フローラやギルドを守るために命を賭けた甲斐があった。陛下も昨日言っておられた通り、俺は生まれ変わったのだ。この世界に第七代魔王は存在しない。俺はアイゼンシュタインの騎士、ラインハルト・フォン・イェーガーだ。

 式が幕を閉じると、陛下はヘルガと暗殺者に対する処遇を決定した。二人はアイゼンシュタインの地下にある監獄で終身刑を科される事になった。フローラはヘルガが投獄されると聞いて涙を流したが、エレオノーレさんは『いい気味だわ』と呟いた。同じ姉妹でもかなり性格が違うのだな。それからエレオノーレさんは俺に近づいてくると、跪いて頭を垂れた。

「ラインハルト……昨日は魔王だと罵り、攻撃してすまなかった。私を守るために全身に矢を浴びたのにも拘らず、私はラインハルトを一瞬でも疑ってしまった……」

 攻撃とは随分軽い表現ではないだろうか。ロングソードで太ももを何度も貫かれ、俺は自分の死を意識した。気が飛びそうになる程の激痛に悶え、執拗に下半身を刺された。怒り狂ったエレオノーレさんが何度も俺の足を刺し、フローラが雷の魔法でエレオノーレさんを吹き飛ばしてくれたのだ。

 フローラがあの時魔法を使用していなかったら、俺は確実に命を落としていただろう。そして、エレオノーレさんの判断の誤りにより、暗殺者とビスマルク、ヘルガによってフローラとヘンリエッテさん、エレオノーレさんは命を落としていただろう。俺は昨日の痛みを思い出すと、全身から汗が吹き出て、気分が悪くなった。

「気にしないで下さい。フローラが助かったのですから、俺はそれだけで満足です」
「本当に申し訳ないと思っている……ラインハルト。どんな罰でも受けよう! 剣で私を突き殺しても良い!」
「エレオノーレさん。身分を偽っていた俺が間違っていたんです。エレオノーレさんの反応は当たり前だと思います」
「そんな……! ラインハルトはどこまで寛大なのだ? 自分の足を何度も剣で刺され、大量の血を流しても、怒りもしないのか……」
「エレオノーレさんが居たから暗殺者に殺されずに済んだと、フローラとヘンリエッテさんを取り返す事が出来たと思っています。私に協力して下さった事を心より感謝致します」

 俺はエレオノーレさんの手をとって立たせると、深々と頭を下げてお礼を述べた。エレオノーレさんは大粒の涙を流し、国王陛下を抱きしめると、陛下はエレオノーレさんの頭を撫でた。

「まぁ……私も初めてイェーガー殿の正体を知った時はかなり同様したよ。エレオレノーレ、相手をレベルや身分だけで判断する悪い癖はまだ直っていないようだね。その分、フローラはイェーガー殿の正体を知っても、彼を守るために立ち上がったと聞いた」

 俺はフローラが陛下から褒められると、自分の事の様に喜びを感じた。俺の初めて恋人が陛下から賞賛されているのだ。俺はフローラの手を握り、交際を始めた事を陛下に報告した。陛下は何度も俺の肩を叩き、満面の笑みを浮かべて『フローラを頼む』と言ってくれた。立派な勲章を頂いた瞬間よりも、比較にならない程の幸福を感じる。

「昨日も言ったが、私はイェーガー殿の事を自分の息子の様に想っている。実際に会ったのは昨日が初めてだったが、最近では兵士からイェーガー殿に関する報告を聞く事が何よりの楽しみだった。また私の代わりに民を救ってくれたと、何度思った事か。イェーガー殿、これからもフローラを頼む……」
「はい! お任せ下さい。陛下」

 それから俺達は陛下に案内されて大広間に入ると、大広間には大きなテーブルがいくつも並んでおり、テーブルの上には豪華な料理が所狭しと並んでいた。ロビンとダリウス、ヘンリエッテさんも招待されていたのか、彼等は俺の姿を見ると嬉しそうに近づいてきた。小さなダリウスを肩の上に乗せ、ロビンの頭を撫でた。二人は俺がアイゼンシュタインを離れた時、衛兵と共に市民を誘導して避難させてくれた。

「ラインハルト、僕達が弱かったから、フローラとヘンリエッテさんを守れなかった。僕はもっと強くなりたいよ……!」
「うん。俺達が付いていたのに、暗殺者から二人を守れなかった」

 二人は後悔する様に語ると、陛下は柔和な笑みを浮かべ、二人の頭を撫でた。陛下が直々に感謝の言葉を送ると、二人は涙を流して陛下を抱きしめた。国王陛下は魔物からも好かれる不思議なお方だ。本当にアイゼンシュタインに来て良かった……。

 それから魔術師ギルド・ユグドラシルのメンバーが大広間に姿を表し、今回、市民を守るために行動した各ギルドのメンバー達が集まった。俺はユグドラシルのフリートさんに、ダリウスとロビンを治療し、タウロスを援護してくれた事に対する感謝の言葉を述べた。

「無事で何よりですよ。まさか、ラインハルト様が魔王の家系の生まれだとは思いませんでした。しかし、私はラインハルト様の『ソニックブロー』を見て確信しました。この方は必ず偉大な冒険者になると。遥か昔の時代の勇者にしか使用出来なかった、最高の攻撃魔法の使い手なのですから。これからもラインハルト様の活躍に期待していますよ」
「ありがとうございます! フリートさん、まだユグドラシルに遊びに行きますね」
「はい! いつでもいらして下さい。いつかレッドストーンと共同でクエストを行うのも良いかもしれませんね。そして、ブラッドソード・被害者の会、会長のとしてお礼を申し上げます。ブラッドソードを討伐して下さり、誠にありがとうございます。これはクエストの報酬です」
「フリートさん、お金は今回の襲撃事件で命を落とした方の遺族に配ってくれませんか。私はブラッドソードを壊滅させると誓っておきながら、市民を守る事が出来ませんでした。そんな私にクエストの報酬を受ける権利はありません」

 フリートさんは金貨が詰まった袋を床に落とすと、呆然とした表情で俺を見つめた。

「七十万ゴールドですよ? ラインハルト様。これ程までの大金を受け取らないというのですか……?」
「はい。私はお金以上に大切な存在を手に入れる事が出来ました。それに、今お金が必要なのは私ではなく、暗殺者に家族を殺された遺族です。どうかそのお金は遺族の方達に配って下さい」
「そうですか……やはりラインハルト様は私が見込んだお方です。それでは、明日にでも遺族の家を回り、お金を配る事にしましょう。私がもう少し早くラインハルト様と出会っていたら……あなたの隣には私が立っていたかもしれなかったのに……」

 彼女は小声で呟き、俺の手を握るフローラに微笑むと、宴の席に付いた。俺は宴の前にタウロスを召喚した。彼はユグドラシルのメンバーから好かれているのか、若い魔術師達は、タウロスを抱きしめて喜んでいる。巨大な従魔の登場に、城の兵士達は腰を抜かした。初めてタウロスを見れば誰でも腰を抜かす。俺もタウロスを見た時は、確実に殺されると思ったからな。

「私達も座りましょうか」
「そうだね」

 俺達はヘンリエッテさんの向かいの席に座り、俺の隣の席にはフローラが座り、肩の上にダリウスを乗せた。隣の席にロビンを座らせ、足元にはいつもの様にヴォルフが座っている。最高の仲間達に祝福されながら、大広間での宴が始まった……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。 しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。 絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。 一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。 これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

処理中です...