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第一章「王国編」
第二十六話「宴」
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国王陛下が乾杯の音頭を取ると、盛大な宴が始まった。アンドレア王妃毒殺事件の真犯人が判明したからか、城の兵士の表情も明るい。陛下は第二王女が市民を殺める犯罪を行った事について、心を痛めている様だが、それ以上にフローラを国民の前で紹介出来た事を喜んでいる。
盲目の第三王女、フローラは世間に隠すように育てられ、フローラ自身も内気だったからか、国民の前に出る事は無かった。冒険者ギルド・レッドストーンを設立するまで、城の中で幽閉される様に育てられ、町への外出も許可されなかった。あまりにも過保護な教育方法だとは思うが、考えてみれば俺の父と殆ど変わらない。
第六代魔王、ヴォルフガング・イェーガーは、大陸の支配から一週間後、勇者と剣を交えた際に大怪我を負い、ハース大陸の最南部に位置する森林に逃げ込んだ。その後、自力で魔王城を建て、細々と暮らしていた時に母と出会った。俺が生まれてすぐに母は病で命を落とし、俺は父と共に魔王城で暮らし始めた。
父も俺を魔王城の外に出す事はなかった。狭い魔王城の中で父の昔話を聞いたり、剣の稽古をして過ごしていた。俺とフローラの大きく異る点は、父は俺を魔王にするために戦い方を教えてくれたが、陛下はフローラを気遣うあまり、本人が希望する魔法の練習さえも許可しなかった。
「フローラがエレオノーレを魔法で吹き飛ばしたというのは本当か? イェーガー殿」
「はい、陛下。それは見事な攻撃魔法でした。一撃でエレオノーレさんを吹き飛ばしたのですから」
「フローラが魔法を学び始めたと聞いた時、私は腰を抜かしたよ。目が見えないフローラは魔法を相手に当てる事は出来ないと思っていた。しかし、回復魔法と攻撃魔法に適正を持っていたとは……」
「陛下。フローラの魔法能力は非常に高いです。たとえ目が見えないとしても、確実に相手を捉える事が出来ます」
「どうだろうか、フローラ。一度私に魔法を見せてくれないか?」
「え? 今この場で魔法を披露するのですか?」
「うむ。イェーガー殿、フローラの魔法を受けてみてくれるかな?」
陛下はシュルスクの果実酒を飲みながら微笑むと、ユグドラシルのメンバーがフローラを励ました。城を出るまで魔法の使用を許可されなかったフローラが実力を披露する機会が来たのだ、きっと緊張しているのだろう。俺は立ち上がって大広間の隅まで移動し、魔剣を抜いた。流石に武器も持たずにフローラの強烈な攻撃魔法を受け止める事は出来ない。
フローラはゆっくりと大広間の隅に移動すると、城の兵士達が集まってきた。彼女は右手に魔力を込めると、強い雷が発生した。目も見えないのに魔法を当てられるのかと、フローラを疑う声も聞こえる。だが俺はフローラの強さを知っている。フローラが魔法を外す事はない。誰よりも早く魔物を見つけ出し、的確に雷撃を放つ圧倒的な魔法のセンスを持っている。
魔剣に魔力を込めて構える、フローラの攻撃を受けるのは初めてかもしれないな。フローラは優しく微笑むと、右手に爆発的な雷の魔力を溜めた。もしかして本気で魔法を撃つつもりなのだろうか? きっと国王陛下に自分の力を知って貰いたいのだろう。
フローラが右手を俺に向けると、右手からは雷撃が放たれた。瞬間、俺は魔剣での水平切りを放ち、フローラの雷撃を切り裂いた。魔剣に強い衝撃を感じ、手には痺れが残る。まるで父の剣を受けた様だ。これがフローラの魔法か……。実際に受けてみると、改めてフローラの強さを実感する。
それからフローラは左手に聖属性の魔力を込めた。金色の光が手を包むと、フローラは左手を頭上高く掲げた。空中には球状の魔力の球が浮いている。闇属性に対して絶大な効果がある聖属性の攻撃魔法、ホーリーだ。
フローラが聖属性の球を放つと、俺は魔剣を垂直に振り下ろして魔力の球を切り裂いた。球は空中で破裂すると、辺りに金色の光を放って消滅した。幻想的な魔法だ。闇属性を持たない者にとっては全く効果が無い。タウロスが拍手をすると、大広間からは熱狂的な歓声が上がった。
国王陛下は涙を流しながらフローラを抱きしめた。フローラに対して魔法の練習を許可しなかった事を何度も謝罪し、フローラの実力を褒めちぎった。それから城の兵士が、新たに騎士になった俺と剣を交えてみたいと呟くと、陛下は悪ノリをして兵士と俺の模擬戦を提案した。
「どうだろうか、イェーガー殿。自身の実力をこの場で兵士に示してみては」
「そうですね。私がフローラを守れる事を証明してみせます」
五人の兵士が名乗り出た。フローラが幼い頃から護衛を担当していた熟練の剣士なのだとか。レベルは40以上。兵士達の中には、魔王の家系に生まれた俺を信用していない者も居るのだろう。幼い頃からフローラを守りながら生きてきた兵士にとっては、俺はフローラを任せられる人物なのか、実際に剣を交えて確認したいと思っているのだろう。
「我々はフローラ様が幼い頃から、命を賭けてフローラ様をお守りしていました。今回の暗殺者襲撃事件でフローラ様が誘拐されたと聞き、私達はイェーガー様の実力に疑問を抱きました。果たして暗殺者に仲間を誘拐される様な男が、騎士の称号を受ける程の人間なのかと」
確かにフローラを誘拐されたのは俺の失態ではあるが、そもそも、王国を防衛する兵士や衛兵が暗殺者の侵入を防げなかったから、今回の襲撃事件が起きたのだ。一般の市民である俺に責任を負わせるつもりなのだろうか。
背の高い四十代程の熟練の剣士達が木剣を持つと、俺の足元に木剣を投げた。レベルが離れた兵士相手に、魔装を装備した状態で木剣まで使えば勝負にならないだろう。
「武器は必要ありませんよ」
「なんだと? 素手で我々に勝てると思っているのか!」
「馬鹿な……! 陛下、これは我々を愚弄する行為です!」
「たとえ騎士の称号を持つ者でも、レベル40以上の剣士を五人相手にして、素手で戦える訳が無いだろう!」
兵士達が吼えると、国王陛下は笑みを浮かべて俺を見つめた。『自分の力で兵士の信頼を勝ち取ってみろ』という事だろう。俺は陛下に跪いて勝利を誓うと、兵士達が襲い掛かってきた。
身長が二メートル近い大男が、二本の木剣で高速の連撃を放ってきた。剣速はかなり早いが、剣に魔力を感じない。やはり幻獣のタウロスや魔王、ヴォルフガングと訓練をしてきたからか、格下の人間の攻撃では脅威すら感じない。本当に強い者を前にした時は、自分の生命の危機を感じる。全ての力を出し切らなければ命が尽きると感じるのだ。
次々と放たれる攻撃を回避し、右手に魔力を込めて突きを放つ。大男は二本の木剣を交差させて俺の突きを防いだが、木製の武器で俺の拳を防ぐ事は不可能。俺の拳は木剣を粉々に砕き、大男の腹部を捉えると、大男は大広間の端まで吹き飛んだ。大男は壁に激突すると、力なく地面に倒れた。
四人の兵士は俺の攻撃に警戒して距離を取り、木剣での突きを放ってきたが、俺は兵士の剣を左手で受け、右足に魔力を込めて兵士の頭部を蹴り飛ばした。兵士は一撃で気を失って倒れると、残る三人の兵士は恐れおののいた表情を浮かべ、ゆっくりと後退を始めた。自分から喧嘩を仕掛けておきながら後退するとは……。
俺は一瞬で兵士の懐に飛び込むと、魔力を込めた手刀で木剣を砕き、兵士の腹部に突きを放って吹き飛ばした。この程度で実力で兵士としての仕事が成り立つのだろうか? 日常的に魔物と戦闘を行っている、町の衛兵の方が遥かに強いのではないだろうか。残る二人の兵士を蹴りで仕留めると、ユグドラシルのメンバーは嵐の様な歓声を上げた。
「見事! ブラッドソードの暗殺者を追い詰め、我が娘を救ってくれた救世主! 皆の者、ラインハルト・フォン・イェーガーは魔王ではない。アイゼンシュタインの騎士だ! 私が全幅の信頼を置くイェーガー殿を疑う行為は、私自身を疑う行為である! 報酬すら受け取らず、五ヶ月もの間夜警を続け、ついにはアンドレア毒殺事件の真犯人までも追い詰めた、偉大なる冒険者だ! 皆の者、アイゼンシュタインの騎士に盛大な拍手を!」
兵士達はやっと俺を認めてくれたのか、力なく立ち上がると、俺に握手を求めた。兵士達と固い握手をすると、大広間からは熱狂的な拍手が沸き起こった……。
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第六代魔王、ヴォルフガング・イェーガーは、大陸の支配から一週間後、勇者と剣を交えた際に大怪我を負い、ハース大陸の最南部に位置する森林に逃げ込んだ。その後、自力で魔王城を建て、細々と暮らしていた時に母と出会った。俺が生まれてすぐに母は病で命を落とし、俺は父と共に魔王城で暮らし始めた。
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「フローラがエレオノーレを魔法で吹き飛ばしたというのは本当か? イェーガー殿」
「はい、陛下。それは見事な攻撃魔法でした。一撃でエレオノーレさんを吹き飛ばしたのですから」
「フローラが魔法を学び始めたと聞いた時、私は腰を抜かしたよ。目が見えないフローラは魔法を相手に当てる事は出来ないと思っていた。しかし、回復魔法と攻撃魔法に適正を持っていたとは……」
「陛下。フローラの魔法能力は非常に高いです。たとえ目が見えないとしても、確実に相手を捉える事が出来ます」
「どうだろうか、フローラ。一度私に魔法を見せてくれないか?」
「え? 今この場で魔法を披露するのですか?」
「うむ。イェーガー殿、フローラの魔法を受けてみてくれるかな?」
陛下はシュルスクの果実酒を飲みながら微笑むと、ユグドラシルのメンバーがフローラを励ました。城を出るまで魔法の使用を許可されなかったフローラが実力を披露する機会が来たのだ、きっと緊張しているのだろう。俺は立ち上がって大広間の隅まで移動し、魔剣を抜いた。流石に武器も持たずにフローラの強烈な攻撃魔法を受け止める事は出来ない。
フローラはゆっくりと大広間の隅に移動すると、城の兵士達が集まってきた。彼女は右手に魔力を込めると、強い雷が発生した。目も見えないのに魔法を当てられるのかと、フローラを疑う声も聞こえる。だが俺はフローラの強さを知っている。フローラが魔法を外す事はない。誰よりも早く魔物を見つけ出し、的確に雷撃を放つ圧倒的な魔法のセンスを持っている。
魔剣に魔力を込めて構える、フローラの攻撃を受けるのは初めてかもしれないな。フローラは優しく微笑むと、右手に爆発的な雷の魔力を溜めた。もしかして本気で魔法を撃つつもりなのだろうか? きっと国王陛下に自分の力を知って貰いたいのだろう。
フローラが右手を俺に向けると、右手からは雷撃が放たれた。瞬間、俺は魔剣での水平切りを放ち、フローラの雷撃を切り裂いた。魔剣に強い衝撃を感じ、手には痺れが残る。まるで父の剣を受けた様だ。これがフローラの魔法か……。実際に受けてみると、改めてフローラの強さを実感する。
それからフローラは左手に聖属性の魔力を込めた。金色の光が手を包むと、フローラは左手を頭上高く掲げた。空中には球状の魔力の球が浮いている。闇属性に対して絶大な効果がある聖属性の攻撃魔法、ホーリーだ。
フローラが聖属性の球を放つと、俺は魔剣を垂直に振り下ろして魔力の球を切り裂いた。球は空中で破裂すると、辺りに金色の光を放って消滅した。幻想的な魔法だ。闇属性を持たない者にとっては全く効果が無い。タウロスが拍手をすると、大広間からは熱狂的な歓声が上がった。
国王陛下は涙を流しながらフローラを抱きしめた。フローラに対して魔法の練習を許可しなかった事を何度も謝罪し、フローラの実力を褒めちぎった。それから城の兵士が、新たに騎士になった俺と剣を交えてみたいと呟くと、陛下は悪ノリをして兵士と俺の模擬戦を提案した。
「どうだろうか、イェーガー殿。自身の実力をこの場で兵士に示してみては」
「そうですね。私がフローラを守れる事を証明してみせます」
五人の兵士が名乗り出た。フローラが幼い頃から護衛を担当していた熟練の剣士なのだとか。レベルは40以上。兵士達の中には、魔王の家系に生まれた俺を信用していない者も居るのだろう。幼い頃からフローラを守りながら生きてきた兵士にとっては、俺はフローラを任せられる人物なのか、実際に剣を交えて確認したいと思っているのだろう。
「我々はフローラ様が幼い頃から、命を賭けてフローラ様をお守りしていました。今回の暗殺者襲撃事件でフローラ様が誘拐されたと聞き、私達はイェーガー様の実力に疑問を抱きました。果たして暗殺者に仲間を誘拐される様な男が、騎士の称号を受ける程の人間なのかと」
確かにフローラを誘拐されたのは俺の失態ではあるが、そもそも、王国を防衛する兵士や衛兵が暗殺者の侵入を防げなかったから、今回の襲撃事件が起きたのだ。一般の市民である俺に責任を負わせるつもりなのだろうか。
背の高い四十代程の熟練の剣士達が木剣を持つと、俺の足元に木剣を投げた。レベルが離れた兵士相手に、魔装を装備した状態で木剣まで使えば勝負にならないだろう。
「武器は必要ありませんよ」
「なんだと? 素手で我々に勝てると思っているのか!」
「馬鹿な……! 陛下、これは我々を愚弄する行為です!」
「たとえ騎士の称号を持つ者でも、レベル40以上の剣士を五人相手にして、素手で戦える訳が無いだろう!」
兵士達が吼えると、国王陛下は笑みを浮かべて俺を見つめた。『自分の力で兵士の信頼を勝ち取ってみろ』という事だろう。俺は陛下に跪いて勝利を誓うと、兵士達が襲い掛かってきた。
身長が二メートル近い大男が、二本の木剣で高速の連撃を放ってきた。剣速はかなり早いが、剣に魔力を感じない。やはり幻獣のタウロスや魔王、ヴォルフガングと訓練をしてきたからか、格下の人間の攻撃では脅威すら感じない。本当に強い者を前にした時は、自分の生命の危機を感じる。全ての力を出し切らなければ命が尽きると感じるのだ。
次々と放たれる攻撃を回避し、右手に魔力を込めて突きを放つ。大男は二本の木剣を交差させて俺の突きを防いだが、木製の武器で俺の拳を防ぐ事は不可能。俺の拳は木剣を粉々に砕き、大男の腹部を捉えると、大男は大広間の端まで吹き飛んだ。大男は壁に激突すると、力なく地面に倒れた。
四人の兵士は俺の攻撃に警戒して距離を取り、木剣での突きを放ってきたが、俺は兵士の剣を左手で受け、右足に魔力を込めて兵士の頭部を蹴り飛ばした。兵士は一撃で気を失って倒れると、残る三人の兵士は恐れおののいた表情を浮かべ、ゆっくりと後退を始めた。自分から喧嘩を仕掛けておきながら後退するとは……。
俺は一瞬で兵士の懐に飛び込むと、魔力を込めた手刀で木剣を砕き、兵士の腹部に突きを放って吹き飛ばした。この程度で実力で兵士としての仕事が成り立つのだろうか? 日常的に魔物と戦闘を行っている、町の衛兵の方が遥かに強いのではないだろうか。残る二人の兵士を蹴りで仕留めると、ユグドラシルのメンバーは嵐の様な歓声を上げた。
「見事! ブラッドソードの暗殺者を追い詰め、我が娘を救ってくれた救世主! 皆の者、ラインハルト・フォン・イェーガーは魔王ではない。アイゼンシュタインの騎士だ! 私が全幅の信頼を置くイェーガー殿を疑う行為は、私自身を疑う行為である! 報酬すら受け取らず、五ヶ月もの間夜警を続け、ついにはアンドレア毒殺事件の真犯人までも追い詰めた、偉大なる冒険者だ! 皆の者、アイゼンシュタインの騎士に盛大な拍手を!」
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