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第二章「魔石編」
第三十一話「追跡者と騎士」
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背後で悲鳴が聞こえた瞬間、急いで振り返ると王女の姿が無かった。確かに彼女の声が聞こえたのだが、一体何処に行ったのだろうか? まさか、何か事件にでも巻き込まれたのだろうか。彼女が居た辺りを探索してみると、地面にマントが落ちていた。胸元にはファルケンハイン王国の紋章だろうか、ドラゴンの刺繍が入っている。
「ラインハルト。もしかして誘拐されたんじゃない?」
「ああ。その可能性は高そうだね。護衛すら付けずに一人で歩いていたのだから……」
「何か手がかりはないかな?」
「このマント以外には何もなさそうだよ」
マントを残し、忽然と姿を消したファルケンハインの姫をどうやって探し出せば良いのだろうか。フローラの誕生日プレゼントを買うどころの話ではなくなったな。俺は急いで正門に向かい、マルクス・ドール衛兵長にファルケンハインの第一王女が姿を消したと伝えた。
ドール衛兵長が衛兵を集めると、俺は衛兵達に姫の人相や服装等を伝え、衛兵達はすぐに捜索を始めた。俺はダリウスに頼んでヴォルフを呼んできて貰うと、ヴォルフの背中に乗って町を走り始めた。この広いアイゼンシュタインの何処かに、姫を誘拐した人物が居る。ヴォルフはマントの匂いを頼りに町を走り出すと、一軒の家の前に立ち止まった。
ここは確か、第二王女がブラッドソードの暗殺者を匿っていた家だ。確か、冒険者ギルド・レーヴァテインとして申請がされている家。ダリウスに衛兵長を呼ぶようにと伝えると、彼は静かに頷いて飛び立った。
俺はヴォルフから降りて魔剣を握り、家の扉を蹴り開けた。一国の姫を誘拐するとは、この町にはまだ悪質な犯罪を行う者が居るのだな。暗闇の中から禍々しい魔力を感じると、ヴォルフが咄嗟に後退した。瞬時に防御の構えを取ると、闇の中からダガーが飛んできた。俺はダガーを魔剣で弾き、室内に飛び込んだ。
左手に火の球を作り上げて浮かせると、闇が晴れて犯人が姿が顕になった。革の軽装を纏った大男。身長は俺よりも高く、右手にはクレイモアだろうか、両刃の大剣を持っている。乱雑とした部屋の隅に、猿ぐつわを噛まされた第一王女が倒れていた。王女は大粒の涙を流しながら俺を見つめている。
「随分と早かったじゃないか。お前は何者だ? 王女の誘拐を邪魔するとは……」
「私はアイゼンシュタインの騎士。ラインハルト・フォン・イェーガーだ! 姫を返して貰おうか!」
「随分威勢の良い騎士だな。俺の計画の邪魔をする奴はここで死んで貰おうか!」
男はクレイモアを両手で構えると、目にも留まらぬ速度で垂直斬りを放った。俺は本能的に攻撃を受けずに後退した。クレイモアは床を砕き、辺りに強い魔力を散らした。それから男は懐に手を入れ、小さな魔石を幾つか取り出すと、魔石を宙に投げた。
『レッサーデーモン・召喚……』
男が召喚の言葉を呟いた瞬間、室内には長身のレッサーデーモンが姿を現した。召喚獣の数は五体。流石に敵が多すぎるな……。ヴォルフは体が大きすぎて家に入る事が出来ない。一人で五体のレッサーデーモンと、クレイモアを持つ男を仕留めなければならないのか。
レッサーデーモンは槍を持っており、俺を取り囲むと、一斉に槍の攻撃を仕掛けてきた。俺は敵の攻撃をしゃがんで回避し、左手に溜めた炎を放出してレッサーデーモンを燃やした。炎は二体のレッサーデーモンを燃やすと、レッサーデーモンは悍ましい叫び声を上げて命を落とした。残る三体のレッサーデーモンは、恐怖に顔を歪めて後退を始めた。召喚獣との信頼関係がないから、命を捨ててまで男のために戦おうとは思わないのだろう。
男はクレイモアでの突きを放ってきたが、俺は瞬時に魔剣で受け流し、男の足に蹴りを入れた。骨が砕ける鈍い音が室内に響くと、レッサーデーモンが一斉に逃げ出した。窓を突き破って外に飛び出したレッサーデーモンは、外で待機していたヴォルフによって切り裂かれた。俺が守る町で姫殿下を誘拐するとは、許せない男だ……。
男は姿勢を崩したまま、水平斬りを放ってきたが、俺は男の攻撃を後退して回避し、遠距離から炎を放って攻撃を仕掛けた。男は回避が間に合わないと悟ったのか、クレイモアを床に突き立て、炎から身を守った。火属性魔法の中でも最も基本的なファイアの魔法だが、魔力を大幅に強化したからか、爆発的な炎が男の体を燃やしている。
男は懐から魔導書を取り出すと、魔導書の上に手を置いて魔法を唱えた。瞬間、魔導書は辺りに強い光を放ち、男は忽然と姿を消した。転移魔法だろうか。姫殿下は相変わらず涙を流し続けている。俺は姫の猿ぐつわを取り、縄を切ると、姫は俺の胸に顔を埋めた。
「お怪我はありませんか? 姫殿下」
「ええ……助けてくれてありがとう。やはりここに来たのは正解だった……」
「姫殿下。どうして護衛も付けずに私の後を付けていたのですか……?」
「それは……貴方に会いたかったから! 貴方に倒して欲しい魔物が居るの!」
つり目気味の三白眼には涙が浮かんでおり、彼女は俺の頬に手を触れてじっと俺を見つめた。なんと美しい姫だろうか。フローラが居なければ、俺はクリステル姫殿下に恋をしていたかもしれないな。白く透き通った肌には埃が付いており、俺は姫殿下の頬に付いた埃を手で拭いた。彼女は顔を赤らめて視線を逸らすと、俺は姫を立たせた。
「それにしても、私に対して剣を向けたのは何故ですか? 姫殿下」
「貴方の力が知りたかったの。私が必要としている力を持っているのか。だけど貴方は私を守ってくれた……」
「王国を守る騎士として、町で犯罪が起これば解決するのは当然の事です。犯罪を未然に防げなかったのは、私の力不足です。姫殿下に怖い思いをさせてしまいましたね。申し訳ありませんでした……」
跪いて深々と頭を下げると、姫殿下は俺の頬に手を触れた。強気な態度とは裏腹に、随分優しい魔力を感じる。護衛すら付けずに、一人で国を出てアイゼンシュタインに来たのには、何か理由があるのだろう。
「ラインハルトとお呼びしても?」
「はい、姫殿下」
「私の事はクリステルと呼んで頂戴。貴方が居なければ、私は今頃命を落としていたでしょう。本当にありがとう……ラインハルト」
「お役に立てたなら光栄です。クリステル様」
「クリステルで良いわ。私はアイゼンシュタインに最強の冒険者が居ると聞いてファルケンハインを出たの。幻獣と幻魔獣を従える最強の冒険者が居るとね。まさかその冒険者が、アイゼンシュタインの騎士だったとは……」
「私は騎士でありながら、冒険者でもありますからね」
「ラインハルト。あなたにダンジョンの攻略を頼みたくて、私は一人でこの町に来たの」
クリステルが深刻そうに俺を見つめると、俺の心は高鳴った。ダンジョンか……。いつか挑戦してみたいとは思っていたが、一国の姫が冒険者の俺にダンジョンの攻略を依頼しに来るとは、何か攻略しなければならない理由でもあるのだろうか。
ドール衛兵長が駆け付けてくると、俺は衛兵長に犯人の人相や服装を伝えた。それから暫くドール衛兵長は室内を調べると、姫殿下に深々と頭を下げた。そして、護衛すら付けずに町を歩くのはお止め下さいと姫殿下に注意すると、クリステルは申し訳さなそうに謝罪した。
「ドール衛兵長。クリステル姫殿下がアイゼンシュタインに滞在している間は、私が姫殿下の護衛を務めますのでご安心を」
「そうですか……ラインハルト様が護衛をして下さるなら、私も安心して犯人の捜索を始められそうです」
ドール衛兵長は今回の事件を報告するために城に向かった。それから俺はクリステルと共に町を歩き始めた。ヴォルフは辺りを警戒するように見渡しながら、俺達の後方から付いて来ている。
「クリステル。そろそろダンジョンの事を教えて貰っても良いですか?」
「敬語も使わなくて良いわ。もっとラインハルトと仲良くなりたいから」
「分かったよ、クリステル。それで、護衛すら付けずに俺を尋ねて来たのは、何か理由があるのでしょう?」
「ええ。私の人生を左右するほど重要な事よ。実は一ヶ月ほど前に、ファルケンハインで古代のダンジョンが発見されたの。元々、ファルケンハインは迷宮都市とも呼ばれる、地下に複数のダンジョンがある都市なのだけど、新たに発見された古代のダンジョンで、幻獣のレッドドラゴンが生息しているという噂を聞いたの……」
レッドドラゴンか……。フローラの誕生日を迎える前に、思いがけない朗報が聞けて興奮している。すぐにでもフローラに報告をしたいが、まずは詳しく話を聞き、フローラのための髪留めを買わなければならない。魔法の杖は明日の朝に買う事にして、今日はまずクリステルからレッドドラゴンの情報を教えて貰い、彼女の滞在場所を探そう……。
「ラインハルト。もしかして誘拐されたんじゃない?」
「ああ。その可能性は高そうだね。護衛すら付けずに一人で歩いていたのだから……」
「何か手がかりはないかな?」
「このマント以外には何もなさそうだよ」
マントを残し、忽然と姿を消したファルケンハインの姫をどうやって探し出せば良いのだろうか。フローラの誕生日プレゼントを買うどころの話ではなくなったな。俺は急いで正門に向かい、マルクス・ドール衛兵長にファルケンハインの第一王女が姿を消したと伝えた。
ドール衛兵長が衛兵を集めると、俺は衛兵達に姫の人相や服装等を伝え、衛兵達はすぐに捜索を始めた。俺はダリウスに頼んでヴォルフを呼んできて貰うと、ヴォルフの背中に乗って町を走り始めた。この広いアイゼンシュタインの何処かに、姫を誘拐した人物が居る。ヴォルフはマントの匂いを頼りに町を走り出すと、一軒の家の前に立ち止まった。
ここは確か、第二王女がブラッドソードの暗殺者を匿っていた家だ。確か、冒険者ギルド・レーヴァテインとして申請がされている家。ダリウスに衛兵長を呼ぶようにと伝えると、彼は静かに頷いて飛び立った。
俺はヴォルフから降りて魔剣を握り、家の扉を蹴り開けた。一国の姫を誘拐するとは、この町にはまだ悪質な犯罪を行う者が居るのだな。暗闇の中から禍々しい魔力を感じると、ヴォルフが咄嗟に後退した。瞬時に防御の構えを取ると、闇の中からダガーが飛んできた。俺はダガーを魔剣で弾き、室内に飛び込んだ。
左手に火の球を作り上げて浮かせると、闇が晴れて犯人が姿が顕になった。革の軽装を纏った大男。身長は俺よりも高く、右手にはクレイモアだろうか、両刃の大剣を持っている。乱雑とした部屋の隅に、猿ぐつわを噛まされた第一王女が倒れていた。王女は大粒の涙を流しながら俺を見つめている。
「随分と早かったじゃないか。お前は何者だ? 王女の誘拐を邪魔するとは……」
「私はアイゼンシュタインの騎士。ラインハルト・フォン・イェーガーだ! 姫を返して貰おうか!」
「随分威勢の良い騎士だな。俺の計画の邪魔をする奴はここで死んで貰おうか!」
男はクレイモアを両手で構えると、目にも留まらぬ速度で垂直斬りを放った。俺は本能的に攻撃を受けずに後退した。クレイモアは床を砕き、辺りに強い魔力を散らした。それから男は懐に手を入れ、小さな魔石を幾つか取り出すと、魔石を宙に投げた。
『レッサーデーモン・召喚……』
男が召喚の言葉を呟いた瞬間、室内には長身のレッサーデーモンが姿を現した。召喚獣の数は五体。流石に敵が多すぎるな……。ヴォルフは体が大きすぎて家に入る事が出来ない。一人で五体のレッサーデーモンと、クレイモアを持つ男を仕留めなければならないのか。
レッサーデーモンは槍を持っており、俺を取り囲むと、一斉に槍の攻撃を仕掛けてきた。俺は敵の攻撃をしゃがんで回避し、左手に溜めた炎を放出してレッサーデーモンを燃やした。炎は二体のレッサーデーモンを燃やすと、レッサーデーモンは悍ましい叫び声を上げて命を落とした。残る三体のレッサーデーモンは、恐怖に顔を歪めて後退を始めた。召喚獣との信頼関係がないから、命を捨ててまで男のために戦おうとは思わないのだろう。
男はクレイモアでの突きを放ってきたが、俺は瞬時に魔剣で受け流し、男の足に蹴りを入れた。骨が砕ける鈍い音が室内に響くと、レッサーデーモンが一斉に逃げ出した。窓を突き破って外に飛び出したレッサーデーモンは、外で待機していたヴォルフによって切り裂かれた。俺が守る町で姫殿下を誘拐するとは、許せない男だ……。
男は姿勢を崩したまま、水平斬りを放ってきたが、俺は男の攻撃を後退して回避し、遠距離から炎を放って攻撃を仕掛けた。男は回避が間に合わないと悟ったのか、クレイモアを床に突き立て、炎から身を守った。火属性魔法の中でも最も基本的なファイアの魔法だが、魔力を大幅に強化したからか、爆発的な炎が男の体を燃やしている。
男は懐から魔導書を取り出すと、魔導書の上に手を置いて魔法を唱えた。瞬間、魔導書は辺りに強い光を放ち、男は忽然と姿を消した。転移魔法だろうか。姫殿下は相変わらず涙を流し続けている。俺は姫の猿ぐつわを取り、縄を切ると、姫は俺の胸に顔を埋めた。
「お怪我はありませんか? 姫殿下」
「ええ……助けてくれてありがとう。やはりここに来たのは正解だった……」
「姫殿下。どうして護衛も付けずに私の後を付けていたのですか……?」
「それは……貴方に会いたかったから! 貴方に倒して欲しい魔物が居るの!」
つり目気味の三白眼には涙が浮かんでおり、彼女は俺の頬に手を触れてじっと俺を見つめた。なんと美しい姫だろうか。フローラが居なければ、俺はクリステル姫殿下に恋をしていたかもしれないな。白く透き通った肌には埃が付いており、俺は姫殿下の頬に付いた埃を手で拭いた。彼女は顔を赤らめて視線を逸らすと、俺は姫を立たせた。
「それにしても、私に対して剣を向けたのは何故ですか? 姫殿下」
「貴方の力が知りたかったの。私が必要としている力を持っているのか。だけど貴方は私を守ってくれた……」
「王国を守る騎士として、町で犯罪が起これば解決するのは当然の事です。犯罪を未然に防げなかったのは、私の力不足です。姫殿下に怖い思いをさせてしまいましたね。申し訳ありませんでした……」
跪いて深々と頭を下げると、姫殿下は俺の頬に手を触れた。強気な態度とは裏腹に、随分優しい魔力を感じる。護衛すら付けずに、一人で国を出てアイゼンシュタインに来たのには、何か理由があるのだろう。
「ラインハルトとお呼びしても?」
「はい、姫殿下」
「私の事はクリステルと呼んで頂戴。貴方が居なければ、私は今頃命を落としていたでしょう。本当にありがとう……ラインハルト」
「お役に立てたなら光栄です。クリステル様」
「クリステルで良いわ。私はアイゼンシュタインに最強の冒険者が居ると聞いてファルケンハインを出たの。幻獣と幻魔獣を従える最強の冒険者が居るとね。まさかその冒険者が、アイゼンシュタインの騎士だったとは……」
「私は騎士でありながら、冒険者でもありますからね」
「ラインハルト。あなたにダンジョンの攻略を頼みたくて、私は一人でこの町に来たの」
クリステルが深刻そうに俺を見つめると、俺の心は高鳴った。ダンジョンか……。いつか挑戦してみたいとは思っていたが、一国の姫が冒険者の俺にダンジョンの攻略を依頼しに来るとは、何か攻略しなければならない理由でもあるのだろうか。
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「ドール衛兵長。クリステル姫殿下がアイゼンシュタインに滞在している間は、私が姫殿下の護衛を務めますのでご安心を」
「そうですか……ラインハルト様が護衛をして下さるなら、私も安心して犯人の捜索を始められそうです」
ドール衛兵長は今回の事件を報告するために城に向かった。それから俺はクリステルと共に町を歩き始めた。ヴォルフは辺りを警戒するように見渡しながら、俺達の後方から付いて来ている。
「クリステル。そろそろダンジョンの事を教えて貰っても良いですか?」
「敬語も使わなくて良いわ。もっとラインハルトと仲良くなりたいから」
「分かったよ、クリステル。それで、護衛すら付けずに俺を尋ねて来たのは、何か理由があるのでしょう?」
「ええ。私の人生を左右するほど重要な事よ。実は一ヶ月ほど前に、ファルケンハインで古代のダンジョンが発見されたの。元々、ファルケンハインは迷宮都市とも呼ばれる、地下に複数のダンジョンがある都市なのだけど、新たに発見された古代のダンジョンで、幻獣のレッドドラゴンが生息しているという噂を聞いたの……」
レッドドラゴンか……。フローラの誕生日を迎える前に、思いがけない朗報が聞けて興奮している。すぐにでもフローラに報告をしたいが、まずは詳しく話を聞き、フローラのための髪留めを買わなければならない。魔法の杖は明日の朝に買う事にして、今日はまずクリステルからレッドドラゴンの情報を教えて貰い、彼女の滞在場所を探そう……。
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