レッドストーン - 魔王から頂いた加護が最強過ぎるので、冒険者になって無双してもいいだろうか -

花京院 光

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第二章「魔石編」

第三十七話「新たな仲間」

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 既に七個ものレッサーデーモンの召喚石を入手出来た。しかし、シュルスクの果実は見つからず、森を逃げながら敵と戦い続け、早くも三時間が経過した。急いでアイゼンシュタインに戻らなければ、フローラの誕生日パーティーに間に合わなくなる。絶体絶命の状態でも、フローラの事を思い出せば心が軽くなるのは、俺の愛の強さだろうか。こういう絶望的な状況でこそ、日頃の訓練の成果を発揮出来るのではないだろうか。

 身長が二メートル以上ものレッサーデーモンは、背後から俺の体を掴むと、翼を開いて飛び上がった。瞬く間に俺の体は宙に浮き、一気に地面から離れてしまった。まずい事になった……。まさか敵に持ち上げられる事になるとは。

 レッサーデーモンは気味の悪い笑みを浮かべ、俺を掴む手を離すと、俺は自分の死を予感した。このまま地面に激突すれば確実に命を落とす。何かこの最悪な状況から抜け出す方法は無いだろうか。俺は魔剣を手放し、両手を地面に向けた。両手に火の魔力を集め、落下の瞬間に地面に対して炎を放出する。

 俺の体は高速で落下を始めた。地面に激突する直前に、俺は両手から爆発的な炎を放出した。炎が地面に激突すると巨大な爆発が起こった。地面に激突する直前に体に爆風を浴びて落下速度を落とすと、俺は何とか地面に着地出来た。

 魔力を大幅に失い、魔剣も失ってしまった。強力な魔法を使用したからか、森の中で俺の居場所を探していたレッサーデーモンの群れが異変を察知し、一斉に飛び上がった。

 空には無数の黒い魔物がうごめいており、俺は自分の死を意識しながら、震える手で火の魔力を放出した。こうなれば魔力が枯渇するまで、ファイアの魔法を連発し、少しでも多くのレッサーデーモンを仕留めるまでだ。

 空中から降り注ぐ雨の様な槍を回避しながら、上空に向けて炎を放つ。巨大な炎の塊がレッサーデーモンを飲み込むと、レッサーデーモンは悍ましい呻き声を上げながら命を落とした。魔王の加護によって、討伐した魔物は死の瞬間に魔石化する。空から降る大小様々な魔石の中から、俺は召喚石を探して走り回った。

 レッサーデーモンが地面に投げた槍を拾い、地面に落ちている召喚石を集める。全部で二十もの召喚石が手に入った。無数の強化石が散らばっているが、拾っている余裕は無い。俺は懐に召喚石を忍ばせ、敵の攻撃を掻い潜りながら逃げ場を探した。

 既に夜を迎えたのか、暗闇の中で無数のレッサーデーモンがうごめいている。敵に見つからない様に森を逃げ続けると、俺は小さな洞窟を発見した。狭い洞窟には小さな液体状の魔物が巣食っていた。スライムか……。

 半透明で水色の体をしたスライムは、俺に対して水の球を飛ばして攻撃を仕掛けてきたが。敵の攻撃は魔装を纏う俺には通用せずに、魔装に付いた汚れを洗い流してくれた。俺はスライムを槍で叩き切り、魔法石と召喚石を集めて回った。

 スライムはステータスが低いからか、強化石を使用しても殆ど効果は無いようだ。スライムの召喚石が二つ、ウォーターの魔法石が一つ手に入った。喉が乾いていたので、俺は小さな魔法石を持って水を作り出した。大量の水分を飲むと、失われていた活力が戻り、神経が冴え渡った。

 何度かウォーターの魔法石を使った状態で魔法を練習すると、俺は水を作り出す魔法を習得した。攻撃魔法としての効果はないが、水があれば暫くは生きていけるだろう。それから俺は集めた召喚石を取り出した。レッサーデーモンの召喚石が二十、スライムの召喚石が二つ。そしてタウロスの召喚石が一つ。

 まずはタウロスを召喚して現在の状況を説明する事にしよう。俺はタウロスが眠る召喚石を持ち、魔力を込めてタウロスを召喚した。召喚で全ての魔力を使い果たして仕舞ったのか、俺は力を失って地面に倒れ込んだ。タウロスが目の前の空間から姿を現すと、彼は洞窟を見渡して唸った。

「なんだ? ここは随分汚い所だな。強い敵でも居るのか?」
「実は……」

 俺はタウロスに全てを説明した。フローラのための杖を探している事や賢者の試練の内容を話すと、彼は嬉しそうに目を輝かせた。

「というと、俺も賢者の試練を受けているという訳か。こいつは傑作だ。どんな強い魔物が出て来るか楽しみで仕方がない!」
「確かに楽しみなんだけど、外には無数のレッサーデーモンが居るんだ。魔剣を失い、魔力も使い果たしてしまった」
「うむ。暫くはこの洞窟で休んだ方が良さそうだな」
「二時間ほど休憩したら、レッサーデーモンを召喚して反撃を始めるよ。騎士たる者が、魔獣程度の魔物に追い詰められて洞窟に逃げ込むなんて、恥ずかしくて仕方がないからね」
「確かにな。こんなに情けないラインハルトは初めて見たぞ。しかし、それだけ敵の数が多く、強い者も居るという訳だな。今日は少しは楽しめそうだな……」

 彼は満足げに微笑むと、巨大なヘヴィアクスを地面に突き立て、俺の隣に腰を下ろした。やはり彼は頼りになる従魔だ。第五代魔王、ヴィンフリート・イェーガーの右腕でもあったタウロスが俺に力を貸してくれるのだ。この広い森でシュルスクの果実を見つけ、賢者が待つ家に戻る事など造作も無いだろう。

「それにしても、強化石を拾えなかったのは残念だったな。強化石があれば、新たに召喚するレッサーデーモンを強化出来たのだか……」
「確かにね。だけど、無数のレッサーデーモンが徘徊している森に戻り、強化石を集めるのは不可能だと思うんだ」
「それはそうだろうな。ラインハルト、スライムを召喚してみるのはどうだ? レッサーデーモンもスライム相手には攻撃を仕掛けて来ないだろう」
「確かに、敵か味方か判断出来ないだろうね。元々この森に生息している魔物なのだから。魔力は温存したいけど、スライムを召喚して強化石の回収を頼もうか」

 俺はスライムの召喚石を持ち、体内から魔力を掻き集めてスライムを召喚した。両手に乗る程の小さなスライムは、プルプルと揺れながら俺を見上げると、俺の肩に飛び乗って頬ずりをした。こんな状況じゃなければ可愛がってあげたのだが……。今は彼と遊んでいる時間も無い。

 それから俺はスライムに強化石の回収を頼むと、彼は静かに頷いて、楽しそうに洞窟を出た。俺の言葉を理解する程の知能は持っている様だが、果たして生まれたばかりの幼いスライムが強化石を回収し、洞窟に戻ってこられるだろうか。だが、今は彼だけが頼りだ。

 体の大きなタウロスが洞窟から出れば、確実にレッサーデーモンから目をつけられるだろう。スライム程度の魔物だからバレずに洞窟から出る事が出来たが、次に洞窟を出る時は、敵から発見される覚悟で行動を始めなければならない。

「ラインハルト。見張りは俺に任せておけ。暫く休むんだ」
「ありがとう。それじゃ俺は二時間ほど休ませて貰うよ」
「うむ」

 俺はゴツゴツした洞窟の地面に寝そべり、フローラの事を思い出しながら、まだ見ぬ賢者の杖を想像した。彼女のために最高の杖を手に入れると決めたのだから、なんとしてもこの試練を乗り越えてみせる。

 暫く仮眠を取っていると、タウロスが俺の肩を揺すった。タウロスは興奮が隠しきれない表情で俺を見つめると、スライムは体内に無数の召喚石を秘めた状態で洞窟に戻ってきた。液体状の体に強化石を一時的に取り込み、何百もある強化石を一度の往復で持ち帰ってきたのだ……。
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