レッドストーン - 魔王から頂いた加護が最強過ぎるので、冒険者になって無双してもいいだろうか -

花京院 光

文字の大きさ
40 / 64
第二章「魔石編」

第四十話「賢者の実力」

しおりを挟む
 爆発的な熱風の中からは無数の炎の槍が生まれ、上空を漂う炎の槍は一斉に落下を始めた。上空に生まれた槍を見上げたレッサーデーモンは、慌てて逃げ出そうとしたが、目にも留まらぬ速度で降り注ぐ無数の炎の槍を避けきれず、体中に槍を浴びて命を落とした。

 魔法を作り上げる速度、威力、効果。全てが超一流だ。フローラの魔法が入門者の魔法の様に思える程の強さを持っている。フローラが得意とする攻撃魔法、サンダーの魔法の威力は確かに高いが、ジルさんがたった今使用した魔法は、フローラの雷とは比較にならない程の攻撃力だ。勿論、俺のソニックブローも彼女が放った無数の炎の槍の魔法の威力には到底及ばない。

「今の魔法はなんですか? 炎の槍を作る魔法ですか?」
「そうよ。炎の槍、ファイアジャベリンを同時に制御した魔法。全盛期は空を埋め尽くす程の槍を作れたんだけどね。今はせいぜい八十本ってところかしら」
「八十ですか? 単発の魔法を八十も同時に制御するなんて! これがジルさんの実力ですか……」
「まぁ、幻影の体での限界はこれくらいかしら。だけど、レッドドラゴンくらいなら杖一振りで消し去れるよ。幻獣程度の魔物には魔法一発もあれば十分さ」
「幻獣程度ですか……」
「ああ。本当に強いのは幻魔獣。人間を凌駕する魔法能力と、知能を持つ魔物さ。スケルトンキングやワイバーンなんかは全盛期の私でも苦戦する魔物だよ」

 俺も幻魔獣の従魔であるヴォルフを持つ人間だから理解出来るが、幻魔獣の強さは桁違いだ。人間よりも遥かに早い速度で成長し、瞬く間に魔法を習得する。幻獣のレッドドラゴン程度の相手に負ける訳にはいかないと思うが、ジルさんの予想によれば、古代のダンジョンで古くから生き延びてきたレッドドラゴンは、幻魔獣程度の強さを持っている可能性があるのだとか。

 地下に幽閉されて生きてきたレッドドラゴンは、長い年月を掛けて力を蓄えている可能性が高いらしく、通常のレッドドラゴンよりも遥かに強いと考えるのが自然なのだとか。それに、敵の正確な生息数も分からない。クリステルはファルケンハインの地下のダンジョンで、冒険者がレッドドラゴンを発見したと言っていたが、レッドドラゴンが群れで生息している可能性もある。

 あらゆる魔物の中でも最も長寿のドラゴン族。中でもレッドドラゴンは非常に獰猛で、集団で狩りを行う事を得意とする。日の入らない地下の空間に幽閉されたレッドドラゴンが地上に出れば、たちまちファルケンハインに住む人間を襲い、大陸の支配を始めるかもしれない。

「ドラゴン族の魔物が大陸を支配していた時代もあった。当時の人間はドラゴンから身を隠しながら生きていたのだとか。私が生まれるよりも遥かに昔の時代だけどね。魔物に大陸を支配されない様に、せいぜい頑張るんだね」
「随分他人事なんですね……ジルさん」
「そりゃそうさ。私はとうの昔に死んでいるんだからね。それに、私は賢者としてもう十分に働いた。だからラインハルト。あんたが騎士として大陸を救いなさい。私の全ての力を授けても良いと思っている。この六ヶ月間で全てを学びなさい」
「はい! ジルさん!」
「素直で宜しい。体力的には合格だが、これからは毎朝レッサーデーモンとの楽しい遠足を行う事にしようじゃないの」
「楽しい遠足? そんなに穏やかなものではありませんでしたが……」

 ジルさんは楽しそうに俺を見上げると、俺達は二人で森を歩きながら帰路についた。早朝から『レッサーデーモンとの楽しい遠足』を行い、午前中は座学をしながら失われた体力を回復させる事になった。そして、効率良く体を作るために、ジルさんは俺のためにタンパク質を中心とした料理を作ってくれる事になった。

 重力の魔法によって実際の体重よりも遥かに重くなったジルさんを背負い、一時間も森を走り続けたのだ、体中の筋肉が悲鳴を上げている。立っているだけでも足が震えている。なんと情けないのだろうか。これが国王陛下から騎士の称号を授かった冒険者の姿……。今の情けない姿は誰にも見られたくないな。俺はタウロスとの訓練で十分に肉体を鍛えたと思っていたが、まだまだ訓練が足りていなかった様だ。

 家に戻ってくると、俺は床に倒れ込んだ。既に体力は限界を迎えており、もう少しも体を動かす事も出来ないだろう。たった一時間の訓練で全ての力を使い果たして仕舞った。そんな様子をジルさんは微笑みながら見つめている。発言は厳しく、訓練の間は容赦なく俺を痛めつけてくるが、訓練が終わればとても気さくで一緒に居るだけで楽しくなるような人だ。それに、ケットシーという生き物はとても愛らしく、近くにいれば何度も俺に頬ずりをし、俺の膝の上で体を丸めて甘えてくる。これなら厳しい訓練も耐えられそうだ。

 暫くするとジルさんが料理を終えた。彼女は杖を振ると、部屋の中央には木製のテーブルが現れ、テーブルの上には大量の料理が並んだ。これは付近に生息する魔物の肉から作った料理なのだとか。皿には山盛りの肉が盛られており、ステーキや唐揚げ、それからシュルスクのスープにサラダ。そして極めつけは巨大なボウルに入ったスパゲッティだ。

「筋肉を増やすためには栄養は十分に摂っておく必要がある。さぁ、この食事を全て片付けるんだよ。ラインハルトは男なんだからこれくらい食べれるだろう?」
「これはあまりにも多すぎませんか?」
「百キロ近い私を背負って走ったんだ、体中の筋肉が傷ついているだろう。さぁ食べるんだよ。死ぬほど鍛えて大量の栄養を摂取すれば、その小さな体も短期間で爆発的に筋肉を増やす事が出来る。シュルスクのスープには、栄養の吸収を早める薬草を混ぜておいたからね」
「百キロ? 道理で死ぬほど重いと思いましたよ。毎日タウロスのヘヴィアクスを使って鍛えたきた私でも、投げ出したくなる程の重さでしたからね」
「うむ。食事をしながら私が魔法学について授業を行うからね。早速始めようじゃないの」

 それから俺は大量の食事を摂りつつも、ジルさんの魔法に関する授業を受けた。ジルさんの料理は美味しく、最初は古い時代の料理に感動しながら食事をしていたが、次第に大量の料理に吐き気を感じ始めた。これも筋肉を増やすためだと思いながら、永遠と栄養を胃に詰め込んだ。

 飽和状態までタンパク質や炭水化物を摂取すると、枯渇していた活力は徐々に回復を始め。魔力が体に満ち溢れた。歩くだけでも全身の筋肉が震えていたが、暫く休んだせいか、体力も回復したようだ。

「そろそろ外で魔法の訓練をしようじゃないの」
「魔法も教えて頂けるんですね!」
「勿論さ。体だけ鍛えても強くはなれないからね。まずは火属性の魔法から教えるよ。ラインハルトはファイアの魔法が使えるのだろう? 試しに一発ファイアの魔法を撃ってみなさい。実力を見てあげるよ」

 ファイアの魔法なら何度も練習してきたらから自信がある。ファイアとソニックブローだけを永遠と練習してきたのだから。両手を空に向けて精神を集中させる。体内の魔力を掻き集めて炎を作り上げると、辺りには強い熱風が吹き始めた。両手を包むように爆発的な炎が生まれると、俺は集めた魔力を放出した。

 巨大な炎の塊が空を裂き、静かな森に爆発音を轟かせると、炎が炸裂して辺りを燃やし尽くした。ジルさんは俺を見上げて微笑むと、上空に右手を向けて魔法を唱えた。

『メテオストーム!』

 ジルさんが魔法を唱えた瞬間、上空には無数の岩が出現し、岩に纏わりつく様に炎が燃え始めた。家よりも大きな岩の塊は、辺りに強烈な炎を散らしながら高速で落下を始めた。炎を纏う無数の岩が地面に落ちると、俺はバランスを失って膝をついた。地面を揺るがす程の強力な魔法に狼狽しながらも、何とか立ち上がると、岩が次々と地面に落下し、辺りには巨大な爆発音が響き続けた。

 ジルさんの偉大な魔法を目にしながら、俺は自分の魔法の弱さ、騎士としての弱さを実感した。メテオストームの様な強力な魔法が使えれば、幻獣は一撃で倒せると自信を持って発言出来る訳だ。遥かに昔に命を落とし、幻影の状態で使用した魔法が、これ程までの威力を持っているのだ。全盛期のジルさんなら一発の魔法で地面を割る事も出来たかもしれないな……。

「どうだね。これが本物の攻撃魔法さ。あんたのファイアの魔法はまだまだ未熟。そんな魔法で火属性のレッドドラゴンに挑めば、強烈なブレスを全身に浴びて一撃で命を落とすだろうね」
「とてつもない威力ですね。これが本物の攻撃魔法ですか……今までの私の魔法は一体なんだったのでしょうか」
「今の魔法はメテオという地属性と火属性の融合魔法を同時に使用したもの。メテオは単発でも十分な殺傷力を持つ魔法だが、同時に使用した方が遥かに威力が上がるんだ」
「流石です……賢者様。これからの訓練が楽しみで仕方がありません!」
「うむ。それでは訓練を始めようか。六ヶ月間ではメテオの様な高等な魔法を習得する事は出来ない。まずはファイアの魔法を学び、ファイアの魔法を応用したファイアジャベリンとファイアボルトを習得しようじゃないの」
「宜しくお願いします! ジル師匠……!」
「あら、師匠だなんて。なんだか随分久しぶりに聞く言葉だわ」

 師匠はモフモフした小さな手で顔を隠し、恥ずかしそうに俺を見上げると、俺は師匠の偉大さを初めて実感した。メテオストームか。騎士である俺にあの様な高等な魔法が習得出来るとは思えないが、少しでも師匠に近づくために、死ぬ気で訓練をしよう。

 それから俺と師匠の地獄のような魔法訓練が始まった……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。 しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。 絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。 一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。 これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...