レッドストーン - 魔王から頂いた加護が最強過ぎるので、冒険者になって無双してもいいだろうか -

花京院 光

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第二章「魔石編」

第四十一話「賢者の杖」

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 師匠との魔法訓練は『レッサーデーモンとの楽しい遠足』よりも遥かに過激なものだった。魔力が枯渇するまでファイアの魔法を永遠と打ち続け、体内から魔力が枯渇すればシュルスクの果実から作られたマナポーションを飲む。

 魔力の回復を待ちながら師匠と剣の訓練を行い、魔力が回復した頃に再びファイアの魔法の練習を始める。こうして剣と魔法の訓練を交互に行い、深夜まで訓練を続けると、俺は疲れ果てて森の中で意識を失った。

 早朝に師匠に叩き起こされ、例の楽しい遠足に出発する。ボロ雑巾の様になった体にムチを打ち、百キロ近い師匠を担いで森を逃げまとう。朝の地獄の様な一時間が終わると、それからすぐに体力を回復させるために大量の食事を摂取する。

 そんな生活が二ヶ月続いたある日の事、俺はついに師匠から新たな魔法を教わった。ファイアの魔法の上位魔法である、ファイアボルトとファイアジャベリンだ。ファイアボルトは火の魔力から矢を作り、対象を射抜く攻撃魔法。ファイアジャベリンは炎の槍を作り上げる魔法だ。

 この二ヶ月間、魔力を効率良く鍛えるために、複雑な魔法は一切使用せず、ファイアの魔法だけを使い続けてきた。炎の矢を作る魔法の練習は非常に面白く、師匠と共に森に入って、スライムやゴブリン等の魔物相手に使用し、魔法の精度を徹底的に上げた。ファイアジャベリンは作り上げる事に苦労したが、一度覚えてしまえばすぐに炎の槍を作れる様になった。

 森にはスケルトンやブラックウルフが生息しており、師匠が魔物を誘き出すための魔法陣を描くと、無数の魔物が一斉に俺を取り囲んだ。上空にはレッサーデーモンが、地上にはスライムやスケルトン、ブラックウルフが集まり、一斉に襲い掛かってきた。俺はそんな魔物をファイアジャベリンやファイアボルトを使用して狩り続けた。

 魔法訓練では魔剣を使った攻撃は禁止されており、大量の魔物に追われながら、魔法だけを使って森を逃げる。全ての魔物を狩り尽くすまで訓練が終わる事は無く、一日で五百体以上の魔物を狩る事もあった。

 これだけ魔物を狩っても、この広い森にはまだ数多くの魔物が生息しているのだとか。師匠がいつか賢者の杖を託す価値がある相手を見つけた時、徹底的に鍛えるために、森に無数の魔物を放ち、数を増やす様に魔物が育ちやすい環境を作ったのだとか。

 師匠と出会ってから六ヶ月間、どれだけ苦しくてもフローラの事を想い続け、死ぬ気で師匠の訓練を耐え抜いた。俺のレベルは110まで上昇し、六ヶ月前とは比べ物にならない程、全身の筋肉も増えた。体は魔力は満ち溢れており、手を森に向けて炎を放つだけで、辺り一面の森を消滅させられる程の魔力を身に付けた。

「ラインハルト。今日はついにアイゼンシュタインに戻る日だな……」
「そうですね……師匠と別れるのは寂しいですが、早くフローラに会いたいです……」
「うむ。この世界では六ヶ月、しかし、元の世界に戻れば六時間しか経過していない。逞しく成長したラインハルトの姿に、周りの人間は驚くだろうな。ラインハルトはよく私の訓練に耐えた……私はラインハルトを誇りに思うよ」
「何度も逃げ出したいと思いましたよ。ですが、国王陛下の事やフローラの事を思い出せば、辛い訓練にも耐えられました」
「賢者の試練に耐えた者はラインハルトだけだ。自分自身を誇りに思うが良い。さて、当初の約束通り、賢者の杖を渡そうじゃないの」

 師匠は地面に魔法陣を描き、魔法を唱えると、魔法陣は辺りに強い光を放った。瞬間、魔法陣の中からは神々しい杖が現れた。白金から作られた金属製の短い杖の先端にはクリスタルが嵌っており、クリスタルの中には美しい聖属性の光が灯っている。杖が放つ魔力を体に浴びると、何とも言えない感動を覚えた。

 六ヶ月間耐えて、俺はついにフローラのために最高の杖を用意する事が出来た。メテオストームの様な最強の攻撃魔法を使用出来る師匠が、歴史に名を残したいにしえの賢者が俺を認めてくれ、自身の杖を託してくれるのだ。こんなに嬉しい事はない。

「これでお別れだ、ラインハルトよ。姫と共に世界を守り続けるのだぞ。お前にはその力がある!」
「師匠が居ない生活なんて……想像も出来ませんよ。別れたくありません……」
「何を言っているんだ。今の私は幻影なのだ。私は既にこの世界には存在しない。ラインハルトよ。今後ケットシー族と出会ったら、どうか可愛がってやってくれ。私だと思ってな」
「はい……師匠!」

 師匠は満面の笑みを浮かべ、賢者の杖を俺に差し出すと、俺は師匠を抱きしめた。自然と涙が流れ、何度も師匠の頬に接吻をした。師匠は柔和な笑みを浮かべ、最後に俺の額に口づけをすると、まるで光が消える様に師匠の体は消滅した……。

 強い喪失感を覚えながら、涙を堪えて杖を握ると、俺は次の瞬間、魔法道具屋に居た。久しぶりに会うレーネさんは愕然とした表情で俺を見つめ、店主のブラントさんは俺の肩に手を置いた。

「賢者の杖を手に入れたんだね。六時間。賢者の世界で六ヶ月もの訓練を積んだ訳だ」
「はい。お久しぶりです、ブラントさん、レーネさん」
「ラインハルト様。六時間ぶりに再開した訳だけど、以前とは比べ物にならないほど成長したのですね。体からは神聖な魔力がほとばしっている……それに、強い火の力を感じます。賢者様から火属性の魔法を教わったのですね!」
「はい! ファイアボルトとファイアジャベリンを教えて貰いました」
「基本的な魔法ですが、それ以外には教わらなかったのですか?」
「そうですね。師匠はメテオストームを見せてくれましたが、他の魔法は学びませんでした。体力づくりと魔力の強化を中心に、六ヶ月の時を過ごしました」
「全く……レーネが連れてきた騎士が、伝説の賢者から杖を授かるとは。ラインハルト、お前は誠に偉大な事を成し遂げた。どれほど優れた魔術師でも、賢者の試練に一時間も耐えられた者は居ないのだから……」
「一時間というと一ヶ月ですか。確かに、あの訓練は魔術師では耐えられないでしょうね……」

 魔法だけを学んできた魔術師なら、『レッサーデーモンとの楽しい遠足』には耐えられる筈もない。師匠と過ごした時を思い出すと、自然と涙が流れてくる。六ヶ月の間、訓練は厳しかったが、師匠の優しさのお陰で耐え抜く事が出来たからだ。

 確か師匠は『ケットシーと出会ったら可愛がってくれ』と言っていたな。いつかケットシーと出会った時には、師匠から受けた恩を返そう。師匠の話によると、ケットシーは希少な種族で、生息数が非常に少ないらしい。

 賢者の杖を握り、愛する姫のために用意した髪留めを持つ。六ヶ月も掛かってしまったが、フローラのための最高の贈り物を用意出来た。ついに最愛の姫に再開出来るのだ。彼女の事を想うだけで胸が高鳴る。この六ヶ月間、毎日フローラの事を思っていた。自分自身がどれだけ深く彼女を愛しているか、師匠と過ごした時間に再確認出来た。

「ラインハルト様。そろそろ城に向かいましょうか!」
「そうですね。それではブラントさん、私達はアイゼンシュタイン城に向かいます」
「またいつでも来るんだよ」

 ブラントさんは俺達を見送ってくれ、俺は店の入り口で待っていたヴォルフと再開した。ヴォルフは暫く俺を見つめた後、何度も俺の匂いを嗅いだ。あまりにも俺の姿が変わったから、別人だと思っているのだろうか? それからヴォルフは巨大な舌で俺の頬を舐め、何度も頬ずりをした。

 師匠も毎晩眠る時には何度も頬ずりをしていたな。急に彼女の事が愛おしくなり、俺はもっと師匠の事を知りたいと思った。時間がある時に書店に行って、賢者ジル・ガウスについて調べてみようか。

 俺はヴォルフとレーネさんと共に冒険者区を歩き、久しぶりにレッドストーンに戻ってきた。フローラは既に城に向かう支度を済ませたのか、美しい深緑色のドレスを身に纏っている。ダリウスとロビンは俺を見るや否や、愕然とした表情を浮かべた。

「ラインハルトだよね……? 朝とは魔力の雰囲気が随分違う気がするよ」
「ああ。この短い時間の間に色々あったんだよ」
「体も大きくなってる気がする! ラインハルトってこんなに体格良かったかな? ダリウス」
「うんん。朝とは明らかに違う気がする。こんなに強烈な魔力は持っていなかったし。ラインハルトはついにアイゼンシュタインで最強の冒険者になったんだ! こんなに強い魔力は感じた事もないよ」

 ダリウスとロビンは俺の体を触りながら微笑んでいる。賢者の元で修行を積んでいた事は後で話すとしよう。この場で話せば賢者の杖を手に入れた事をフローラにも知られてしまうからな。

「フローラ。早速城に向かおうか」
「ラインハルト……? 本当に私のラインハルトなの? 何だか体から感じる魔力の波長が違う気がするの……」
「俺だよ。ラインハルト・フォン・イェーガー。フローラを守る騎士さ」
「そうだよね。私ったら何を馬鹿な事を言っているのかしら。だけど、朝より強い火の魔力を感じる。この魔力の強さはヴォルフやタウロスをも遥かに上回っている気がする……」
「種明かしは後だよ。フローラ、本当に会いたかった」

 俺はフローラを強く抱きしめると、彼女は俺の頬に何度も接吻をした。銀色に輝く美しい髪を撫で、久しぶりのフローラとの再開に、俺の目には自然と涙が浮かんだ。フローラに見つからない様に涙を拭うと、レーネさんがそんな様子を見て微笑んだ。

「六時間ですものね、ラインハルト様……」
「レーネさん。それはまだ秘密ですよ」
「そうですね。陛下の前で報告するべきでしょう。ラインハルト様は本当に偉業を成し遂げました……」

 久しぶりのフローラとの再開に感激しながらも、俺達はギルドを出た……。
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