レッドストーン - 魔王から頂いた加護が最強過ぎるので、冒険者になって無双してもいいだろうか -

花京院 光

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第二章「魔石編」

第四十七話「ダンジョン」

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 冬のダンジョンはファルケンハインの町よりも若干暖かく、ジメジメした空気に乗って魔物の魔力を感じる。小さな炎を宙に浮かせ、石造りの階段を照らしながらゆっくりと降りる。左手でフローラの手を握り、右手で魔剣を持つ。

 父の遺品である魔剣・ヴォルフガングは通常の剣よりも遥かに軽く、形状はロングソードだが、魔力を込めれば込める程、高速で振れる優れた武器だ。ローゼマリー第二王女は既にダンジョンの十二階層まで攻略を終えているが、兵士の話によると、ダンジョンに巣食う魔物は非常に繁殖力が高く、魔物を根絶やしにしなければすぐにダンジョンから溢れ出してしまうのだとか。

 ローゼマリー王女が率いるパーティーに追い付くためには、通路を塞ぐ魔物だけを狩り、最短ルートを見つけて地下に潜り続ければ良いのだが、俺は冒険者なのだから、市民を襲う可能性のある魔物を放置する訳にはいかない。

「ラインハルト。私はこの戦いで妹に負ける訳にはいかないの。なるべく急いで最深部を目指しましょう」
「そうしたいところだけど。俺とフローラは民を守る冒険者だから、ダンジョンに巣食う魔物を見過ごして下層を目指す訳にはいかないんだよ」
「それなら、全ての魔物を狩りながら進むつもり? とてもじゃないけど不可能よ」
「クリステル。国王陛下は聖剣を手に入れる事よりも、ダンジョンに巣食う魔物を殲滅する事を望んでいると思うんだ。確かに、ローゼマリー王女に追い付くには、俺達の前に立ちはだかる魔物を狩れば良い。魔物を放置したまま下層を目指す事だって出来る。だけど、それはファルケンハインの民のためにはならないと思うんだ」
「そうね。私もラインハルトと同じ考えだわ。クリステル。問題の本質を見失わないようにね。かつての勇者は、ダンジョン内に巣食う魔物を封印するために、聖剣を最深部に刺した。聖剣の持つ力が失われたという事は、ダンジョン内から魔物が溢れ出す可能性が在るという事。確かに、聖剣の入手だけを目標とするなら、ラインハルトの力があればすぐにローゼマリー王女に追いつく事は出来るでしょう。しかし、それは真にこの王国に住む民の事を考えた行動ではないでしょう」

 後方から剣を構えて付いてくるクリステルが、不安げな表情を浮かべて俺を見た。勿論、彼女の気持ちは理解出来るが、いにしえの勇者がダンジョンを封印した理由も考えてダンジョン攻略に挑まなければならない。魔物を無視して聖剣を手に入れ、城に帰還する事は容易いだろうが、それではダンジョンに入る意味がない。

 国王陛下は、二人の姉妹の力を試している訳ではなく、民を守るために最善の行動を取れるかどうかを判断しているのだと、俺とフローラは予測しているのだ。

「それもそうね……だけど、私は決して負けたくないの。六週間という時間を失い、勇者や大魔術師をローゼマリーに取られたからか、私は毎日焦りを感じている……」
「大丈夫。相手が勇者だろうが、大魔術師だろうが、こちらには賢者の素質を持つフローラが居るんだ。それに、幻獣のタウロスや幻魔獣のヴォルフだって居るだろう? あまり心配しなくても良いよ。聖剣だけを見つける事が目的ではないんだ。かつての勇者がダンジョンを封印した意味を考え、ダンジョン内に生息する魔物が地上に出て市民を襲わない様に、下層に進みながら全ての魔物を狩らなければならないんだ」
「そうよね。よく考えてみたら、聖剣自体は既に力を失っているのだから、聖剣を先に手に入れる事には特別な意味はないのね。ただ、ダンジョンの攻略という競争の勝敗はお父様が私達の力を判断する材料にはなるけど、それがファルケンハインの民のためになる訳ではないからね」
「そういう事だと思うよ。クリステル、君はわざわざ俺を誘いにアイゼンシュタインまで来てくれたんだ。俺が必ず君を勝たせてあげるよ。レッドドラゴンの討伐の機会をくれたのだからね」

 俺はクリステルに微笑みかけると、彼女の表情は明るくなった。小さな炎を宙に浮かべ、闇を晴らしながら長い階段を降りると、俺達はついに最初の魔物を発見した。一階層は闇属性の魔物の巣になっているのか、体格の良いスケルトンの集団が獲物を探して徘徊している。

 やはりローゼマリー王女は、後続のパーティーの事も考えずに、必要最低限の戦闘だけを行い、下層を目指している様だ。ローゼマリー第二王女はまだ幼いからか、国王陛下が出した王位継承の条件に隠された真意を理解していないのだろう。

 ダンジョン内の魔物を封印する力を持っていた聖剣は既に力を失っているのだ。魔物を残したまま下層に進むとは……。王国に住む民の安全を心から思うなら、決して魔物を放置したまま下層に降りたりはしないだろう。

 三十体程のスケルトンのパーティーは、俺達の姿を確認するや否や、一斉に武器を構えて襲い掛かってきた。狭いアーチ状の通路には、武器を持つスケルトンがうごめいており、知能の低いスケルトンは、我先にと押し合いへし合い、通路内を窮屈そうに進んでいる。

 フローラは俺の手を離すと、ベルトに挟んでいた賢者の杖を引き抜き、スケルトンの群れに向けた。サンダーの魔法を唱えると、強烈な雷が杖の先端から発生し、雷撃はスケルトンの群れを一撃で吹き飛ばし、白骨の体は木っ端微塵に砕け散った。

「スケルトン程度ならサンダーの魔法だけで十分だわ。ラインハルトの体力を温存するためにも、この階の魔物は全て私が狩るわ」
「ありがとう。フローラ」

 こうしてフローラの一階層攻略作戦が始まった。俺とクリステルが一階層に潜む魔物を誘き出し、広いダンジョン内を駆け回ってフローラの元に魔物を誘導する。魔物を一箇所に集めてから、フローラのサンダーの魔法で一網打尽にするのだ。こうすればパーティーの魔力と体力を温存しつつ、一階層に潜んでいる魔物を狩る事が出来る。

 一階層と二階層はスケルトンの巣になっており、俺達は順調に一階層と二階層のスケルトンを殲滅する事が出来た。魔力の総量が多いフローラは、まだまだ魔力に余裕があるのか、この調子で三階層にも進もうと提案した。

 目も見えず、ダンジョン内の様子も知る事が出来ないというのに、フローラは魔物との戦闘を楽しんでいる。レッドドラゴンを討伐し、レッドストーンを入手するのも時間の問題だからか、早く下層に進みたいという焦る気持ちを抑える事に手間取っている様だ。

 スケルトンが使用していた武器や防具の中には、過去の時代の高価な物もある様だが、食料を担いでいるだけでも負担が大きいので、特に価値のありそうな物だけを選んで、予備の武器として持つ事にした。

 オリハルコン製だろうか、希少な金属から作られた美しいグラディウスを見つけたので、俺は予備の武器としてグラディウスを持つ事にした。グラディウスは両刃の短い片手剣だが、重量も軽く、使い勝手も良い。

 二階層のスケルトンを全て狩り終えると、俺達はダンジョン内で遅い昼食を摂る事にした。重い鞄を苔むした地面に降ろし、ジメジメしたダンジョンの通路でパンとチーズを齧る。愛する姫をこの様な薄汚い空間に入れる事は本意ではないが、背に腹は代えられない。クリステルはやはり王女として育ったからか、ダンジョンの通路に座る事も無く、装備が汚れる事を嫌って、立ったまま食事を摂り始めた。

 フローラは冒険者として、野営や外での食事に慣れているからか、魔装が汚れる事も気にせず、地面に座り込んで上品にパンを食べている。空腹を満たすために簡単に食事を摂ると、クリステルが俺の代わりに鞄を持つと言ったので、試しに鞄を渡してみると、彼女は持ち上げる事すら出来なかった。

「こんなに重い鞄を持ちながら、スケルトンをおびき寄せていたなんて! ラインハルトって本当に体力があるわね」
「幼い頃から父の訓練を受けて育ったからね。それに、賢者の試練ではこの鞄の二倍近く重たいものを担いで走っていたんだよ」
「私が賢者の試練を受けていたら、一日で逃げ出していたに違いないわ。ラインハルト。私も三階層からはウォーターキャノンの魔法で敵を討伐するわ」
「ありがとう。それじゃ俺はもう暫く楽をさせて貰うよ」
「ラインハルトは一番レベルが高いのだから、最も強い敵と遭遇した時に、全ての力を出せるように温存していて欲しいの」

 クリステルがそう言うと、フローラは満足気に頷いた。フローラもクリステルも、俺の力を温存するために自ら魔物と戦ってくれるのだ。彼女達をサポートしながら、下層を目指して進もう。

 俺達は昼食を手早く済ませると、三階層に続く階段を降り始めた……。
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