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第二章「魔石編」
第四十八話「王女の覚悟」
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苔むした石の階段を一歩ずつ慎重に降りると、そこには草原の様な空間が広がっていた。空気は一階層や二階層よりも遥かに綺麗で、背の低い草がダンジョン内に生い茂っている。大広間がいくつも連なる三階層は、一部屋ごとの面積が非常に広く、構造は単純だが、果てしなく続く大広間を進むのは骨が折れる。
ダンジョン内に咲く薄紫色の草や花は、強い地属性を持っており、この階には地属性を得意とする魔物の棲家になっている事が想像出来る。三階層に降りてから三十分程が経過したが、未だに敵の姿は無い。
魔物の数が比較的少ない階層なのだろうか、それとも、ローゼマリー王女のパーティーが魔物を狩り尽くしたのだろうか。暫く三階層の探索を続けると、俺達は背後からの視線を感じた。敵に背後を取られているのだろうか。
魔剣を握り締め、敵と一定の距離を取りながら大広間を進む。俺達が狭い通路に入った瞬間、背後から殺気が籠もった魔力を感じた。瞬間、クリステルのウォーターキャノンが炸裂した。巨大な水の球が魔物を捉えたのか、球が破裂する音と魔物の鳴き声が響いた。
まるで豚の様な鳴き声だ……。一体どんな魔物が俺達を尾行しているのだろうか。通路を戻ると、そこには豚の様な醜い顔をした人型の魔物が倒れていた。クリステルのウォーターキャノンで全身の骨を砕かれたのだろう、大広間の壁には魔物が激突した痕がついている。驚異的な威力だな……。
「魔獣のオークね。知能が低い人型の魔物で、地属性に特化している。アースウォールの様な防御魔法を得意とし、集団で人間を殺める悪質な魔物。まさかダンジョン内にオークが居るとは……」
俺は目の見えないフローラのために、オークの豚の様な顔を説明すると、彼女はオークから顔を背け、辺りを見渡した。彼女が突然周囲を見たわす時は、大抵敵が潜んでいる時だ。案の定、大広間に続く通路からは次々とオークが姿を現た。ロングソードを両手で構えるオークの集団にクリステルは震え上がり、怯えながら剣を両手で握り締めている。
敵の数は六十体ほどだろうか。賢者の試練で毎日数百体の魔物を狩り続けたからか、百体以下の魔物の集団では危機感すら感じない。ソニックブロー一発で全ての敵を蹴散らす事が出来るからだ。
そろそろ俺も戦うべきだろうか。魔獣相手に魔力を使うのは勿体ないので、魔剣だけで戦うとしよう。俺が魔剣を構えた瞬間、クリステルが静止した。
「やめて! 三階層の魔物は私が狩るの! ラインハルトやフローラの力を借りるだけの人間にはなりたくないの!」
「敵の数が多いけど、大丈夫……?」
「大丈夫よ、フローラ。私も一国の王女なのだから。オーク相手には引けは取らないわ!」
クリステルはそう叫ぶと、大広間の中央に立ち、オーク達を挑発した。クリステルが天井付近の水の柱をいくつも作り上げ、一斉に柱を落下させると、大広間にはオークが潰れる音が響いた。なんと残忍な魔法だろうか。圧死だけはしたくないものだな……。
クリステルはウォーターキャノンの魔法も使えるが、水の柱を作り出す魔法も使用出来る様だ。フローラの説明によると、ウォーターピラーという強力な攻撃魔法なのだとか。二メートル近い水の柱は、高速で落下すると、一撃でオークの体を叩き潰した。
オークの群れはクリステルの強力な魔法に狼狽しながらも、ロングソードを握り締めて攻撃を仕掛けた。やはりクリステルを危険に晒すわけにはいかない。彼女の実力を疑っている訳ではないが、クリステルがオークの集団に囲まれている光景を目の当たりにすると、傍観している自分に耐えられなくなったのだ。
オークの群れが次々とクリステルに斬りかかると、俺は魔剣を振り上げた。赤い魔力を込めて両手で魔剣を握り締めると、クリステルが叫んだ。
「やめて! 大丈夫よ、ラインハルト! 私が倒すって言ったでしょう……!」
オークのロングソードがクリステルの肩を貫き、背の高いオークがクリステルの背中を蹴り飛ばした。血を流しながら倒れるクリステルは、力なく剣を振り回し、辺りに強い水を飛ばして敵との距離を取っている。
クリステルの敗北は時間の問題だと思うが、フローラはクリステルの意思を尊重する事を選択したらしい。彼女はオークの群れに賢者の杖を向けながら待機している。命に関わる攻撃を受けたら助け舟を出そうと思っているのだろうか。
クリステルは息を切らしながら、白金の剣で次々とオークを切り裂き、敵が攻撃を仕掛けて来た瞬間には、水の柱を落として敵を叩き潰した。彼女の美しい見た目とは裏腹に、戦い方は俺よりも遥かに暴力的だ。
ウォーターピラーは見る者に恐怖心を植え付ける残忍な攻撃魔法だ。自分のすぐ隣に居る仲間を叩き潰されたオークは、大粒の涙を流しながら逃げ出すと、クリステルは敵の背中に深々と剣を刺した。
既に敵の数は二十体まで減っている。クリステルは全身から血を流しているが、倒れそうになりながらも、何度オークに切りつけられても、彼女が俺達に助けを求める事は無かった。涙を流しながら、血を流しながらも、敵の攻撃を受け止め、まるで火薬が炸裂するかの様な、爆発的なウォーターキャノンを次々と放ち、彼女はついに最後のオークにとどめを刺した……。
体中から血を流すクリステルを抱き上げ、魔物の気配がない大広間に移動し、クリステルを寝かせた。フローラがすぐにヒールの魔法を唱えると、賢者の杖からは美しい金色の光が流れ出した。光がクリステルの体を包み込むと、彼女の体に出来ていた無数の切り傷が一瞬で塞がった。
驚異的な回復力だな……。これがフローラの魔法か。フローラが回復魔法を使うところは殆ど見た事が無かった。俺もヴォルフもタウロスも、敵との戦闘で怪我をする事は少ないからだ。フローラもファルケンハインまでの旅の間、ひたすら魔法を鍛えてきたのだ。彼女の意思の強さを現す様に、優しくも力強い光がクリステルを包み込み、辺りを幻想的に照らした。
地下に居るにも拘らず、まるで夏の太陽の下に居る様な、心地の良い魔力を全身に受けると、高ぶっていた精神は落ち着き、体には活力が溢れた。これはジル師匠と同じ性質の魔力だ。やはりフローラは賢者の素質を持つ人間なのだな……。
生まれつき目が見えないという障害を持っている代わりに、彼女は自分の障害を退ける程の力と精神力を持っている。十七歳から魔法を学び始め、寝食を忘れて魔法の訓練を重ね、ついに他人を癒す力と幻魔獣の攻撃魔法を身に付けた。俺はそんな強い意思を持つフローラの事を誇りに思っている。やはりフローラが俺の理想の恋人なのだろう。
フローラはまるで聖女の様に、美しい笑みを浮かべてクリステルの頬に手を添えると、クリステルはフローラの手に何度も接吻をした。クリステルは涙を流しながら、オークとの戦闘を見守ってくれてありがとう、と俺達に言った。
クリステルがオークの剣で切られた時は、心臓が高鳴り、魔剣を持つ手は震え出した。クリステルを守りたい、目の前で行われている一方的な戦いを終わらせたいと願ったが、クリステルは見事、全てのオークを殲滅したのだ。俺はそんなクリステルを誇りに思う。
「素晴らしい戦いだったよ。クリステル」
「ありがとう。私を信じてくれてありがとう……」
「少しでもクリステルを疑った自分が恥ずかしいよ。俺は今まで自分の力で仲間を守ろうと必死になりすぎていたのかもしれないね……」
「そんな事はないわ。そこがラインハルトの長所なのよ。旅の間も私はラインハルトに守られていた。夜も眠らずに私を守ってくれていたでしょう? 私はラインハルトやフローラに守られるだけの女にはなりたくないの。将来、私がファルケンハインの王になった時、自らの力で民を守れる王になりたいから……」
「クリステルは偉大な王になれるわ。第三王女の私が言うのだから間違いないわ」
「ありがとう。フローラ、ラインハルト」
クリステルは静かに涙を流し、俺とフローラの手を握りながら眠りに就いた……。
ダンジョン内に咲く薄紫色の草や花は、強い地属性を持っており、この階には地属性を得意とする魔物の棲家になっている事が想像出来る。三階層に降りてから三十分程が経過したが、未だに敵の姿は無い。
魔物の数が比較的少ない階層なのだろうか、それとも、ローゼマリー王女のパーティーが魔物を狩り尽くしたのだろうか。暫く三階層の探索を続けると、俺達は背後からの視線を感じた。敵に背後を取られているのだろうか。
魔剣を握り締め、敵と一定の距離を取りながら大広間を進む。俺達が狭い通路に入った瞬間、背後から殺気が籠もった魔力を感じた。瞬間、クリステルのウォーターキャノンが炸裂した。巨大な水の球が魔物を捉えたのか、球が破裂する音と魔物の鳴き声が響いた。
まるで豚の様な鳴き声だ……。一体どんな魔物が俺達を尾行しているのだろうか。通路を戻ると、そこには豚の様な醜い顔をした人型の魔物が倒れていた。クリステルのウォーターキャノンで全身の骨を砕かれたのだろう、大広間の壁には魔物が激突した痕がついている。驚異的な威力だな……。
「魔獣のオークね。知能が低い人型の魔物で、地属性に特化している。アースウォールの様な防御魔法を得意とし、集団で人間を殺める悪質な魔物。まさかダンジョン内にオークが居るとは……」
俺は目の見えないフローラのために、オークの豚の様な顔を説明すると、彼女はオークから顔を背け、辺りを見渡した。彼女が突然周囲を見たわす時は、大抵敵が潜んでいる時だ。案の定、大広間に続く通路からは次々とオークが姿を現た。ロングソードを両手で構えるオークの集団にクリステルは震え上がり、怯えながら剣を両手で握り締めている。
敵の数は六十体ほどだろうか。賢者の試練で毎日数百体の魔物を狩り続けたからか、百体以下の魔物の集団では危機感すら感じない。ソニックブロー一発で全ての敵を蹴散らす事が出来るからだ。
そろそろ俺も戦うべきだろうか。魔獣相手に魔力を使うのは勿体ないので、魔剣だけで戦うとしよう。俺が魔剣を構えた瞬間、クリステルが静止した。
「やめて! 三階層の魔物は私が狩るの! ラインハルトやフローラの力を借りるだけの人間にはなりたくないの!」
「敵の数が多いけど、大丈夫……?」
「大丈夫よ、フローラ。私も一国の王女なのだから。オーク相手には引けは取らないわ!」
クリステルはそう叫ぶと、大広間の中央に立ち、オーク達を挑発した。クリステルが天井付近の水の柱をいくつも作り上げ、一斉に柱を落下させると、大広間にはオークが潰れる音が響いた。なんと残忍な魔法だろうか。圧死だけはしたくないものだな……。
クリステルはウォーターキャノンの魔法も使えるが、水の柱を作り出す魔法も使用出来る様だ。フローラの説明によると、ウォーターピラーという強力な攻撃魔法なのだとか。二メートル近い水の柱は、高速で落下すると、一撃でオークの体を叩き潰した。
オークの群れはクリステルの強力な魔法に狼狽しながらも、ロングソードを握り締めて攻撃を仕掛けた。やはりクリステルを危険に晒すわけにはいかない。彼女の実力を疑っている訳ではないが、クリステルがオークの集団に囲まれている光景を目の当たりにすると、傍観している自分に耐えられなくなったのだ。
オークの群れが次々とクリステルに斬りかかると、俺は魔剣を振り上げた。赤い魔力を込めて両手で魔剣を握り締めると、クリステルが叫んだ。
「やめて! 大丈夫よ、ラインハルト! 私が倒すって言ったでしょう……!」
オークのロングソードがクリステルの肩を貫き、背の高いオークがクリステルの背中を蹴り飛ばした。血を流しながら倒れるクリステルは、力なく剣を振り回し、辺りに強い水を飛ばして敵との距離を取っている。
クリステルの敗北は時間の問題だと思うが、フローラはクリステルの意思を尊重する事を選択したらしい。彼女はオークの群れに賢者の杖を向けながら待機している。命に関わる攻撃を受けたら助け舟を出そうと思っているのだろうか。
クリステルは息を切らしながら、白金の剣で次々とオークを切り裂き、敵が攻撃を仕掛けて来た瞬間には、水の柱を落として敵を叩き潰した。彼女の美しい見た目とは裏腹に、戦い方は俺よりも遥かに暴力的だ。
ウォーターピラーは見る者に恐怖心を植え付ける残忍な攻撃魔法だ。自分のすぐ隣に居る仲間を叩き潰されたオークは、大粒の涙を流しながら逃げ出すと、クリステルは敵の背中に深々と剣を刺した。
既に敵の数は二十体まで減っている。クリステルは全身から血を流しているが、倒れそうになりながらも、何度オークに切りつけられても、彼女が俺達に助けを求める事は無かった。涙を流しながら、血を流しながらも、敵の攻撃を受け止め、まるで火薬が炸裂するかの様な、爆発的なウォーターキャノンを次々と放ち、彼女はついに最後のオークにとどめを刺した……。
体中から血を流すクリステルを抱き上げ、魔物の気配がない大広間に移動し、クリステルを寝かせた。フローラがすぐにヒールの魔法を唱えると、賢者の杖からは美しい金色の光が流れ出した。光がクリステルの体を包み込むと、彼女の体に出来ていた無数の切り傷が一瞬で塞がった。
驚異的な回復力だな……。これがフローラの魔法か。フローラが回復魔法を使うところは殆ど見た事が無かった。俺もヴォルフもタウロスも、敵との戦闘で怪我をする事は少ないからだ。フローラもファルケンハインまでの旅の間、ひたすら魔法を鍛えてきたのだ。彼女の意思の強さを現す様に、優しくも力強い光がクリステルを包み込み、辺りを幻想的に照らした。
地下に居るにも拘らず、まるで夏の太陽の下に居る様な、心地の良い魔力を全身に受けると、高ぶっていた精神は落ち着き、体には活力が溢れた。これはジル師匠と同じ性質の魔力だ。やはりフローラは賢者の素質を持つ人間なのだな……。
生まれつき目が見えないという障害を持っている代わりに、彼女は自分の障害を退ける程の力と精神力を持っている。十七歳から魔法を学び始め、寝食を忘れて魔法の訓練を重ね、ついに他人を癒す力と幻魔獣の攻撃魔法を身に付けた。俺はそんな強い意思を持つフローラの事を誇りに思っている。やはりフローラが俺の理想の恋人なのだろう。
フローラはまるで聖女の様に、美しい笑みを浮かべてクリステルの頬に手を添えると、クリステルはフローラの手に何度も接吻をした。クリステルは涙を流しながら、オークとの戦闘を見守ってくれてありがとう、と俺達に言った。
クリステルがオークの剣で切られた時は、心臓が高鳴り、魔剣を持つ手は震え出した。クリステルを守りたい、目の前で行われている一方的な戦いを終わらせたいと願ったが、クリステルは見事、全てのオークを殲滅したのだ。俺はそんなクリステルを誇りに思う。
「素晴らしい戦いだったよ。クリステル」
「ありがとう。私を信じてくれてありがとう……」
「少しでもクリステルを疑った自分が恥ずかしいよ。俺は今まで自分の力で仲間を守ろうと必死になりすぎていたのかもしれないね……」
「そんな事はないわ。そこがラインハルトの長所なのよ。旅の間も私はラインハルトに守られていた。夜も眠らずに私を守ってくれていたでしょう? 私はラインハルトやフローラに守られるだけの女にはなりたくないの。将来、私がファルケンハインの王になった時、自らの力で民を守れる王になりたいから……」
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