レッドストーン - 魔王から頂いた加護が最強過ぎるので、冒険者になって無双してもいいだろうか -

花京院 光

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第二章「魔石編」

第五十話「騎士の力」

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 まるで岩場の様な、ゴツゴツとした大きな岩に囲まれる四階層は、三階層とは比べ物にならない程の強い魔力が流れている。この場で大規模な戦闘があったのだろう、岩には血が飛び散っており、生臭い匂いが充満している。

 冒険者の衣服が地面に散乱しており、服にはギルドの紋章が入っている。クリステルの説明によると、ファルケンハインの勇者、ルーカス・ゲーレンがマスターを務める、冒険者ギルド・ティルヴィングの紋章なのだとか。

 ファルケンハインで最もメンバーが多い冒険者ギルドで、所属する冒険者は四百人を超えるのだとか。レベル50を超える高レベルの冒険者も多く、集団での魔物討伐を得意とするギルドらしい。

「服の数だけを見ても、二十人は死んでいるだろう。一体この空間にどんな魔物が潜んでいるのだろうか」
「魔物の死骸が無いのが不思議ね。冒険者と魔物が交戦して、冒険者だけが命を落としたのかしら」
「先を進めば答えが分かるだろうね。この空間だけを見て判断するなら、魔物の襲撃を受けたローゼマリー王女のパーティーは、冒険者を盾にして、仲間を失いながらも下層を目指したという事になる」
「自分の妹がそんな卑劣な戦い方をしているなんて……何だか悲しくなってくるわ」
「もしそうだとするなら、勇者や大魔術師が戦わずに逃げ出す程の魔物が巣食っているという事になる。四階層の攻略は案外骨が折れるかもしれないね」
「ラインハルト。四階層に巣食う魔物も全て討伐するつもり?」
「勿論だよ、フローラ。ダンジョンの攻略に挑戦するのは俺達とローゼマリー王女のパーティーだけじゃないんだ。力の無い、低レベルの冒険者が俺達の後からダンジョンに入った時に、悪質な魔物が潜んでいたら危ないだろう?」

 ファルケンハイン王国の中央区に突如出現した古代のダンジョン。ダンジョンは国が認可したパーティーしか立ち入る事は出来ないが、勇者や大魔術師が戦闘を避ける程の魔物が存在するのだ。俺達の後にダンジョン攻略を始めるパーティーが、安全に生きて戻れる様に、悪質な魔物は仕留めなければならない。

 先発のパーティーが魔物を殲滅しながら下層を目指していたなら、俺達はやりやすかったのだが、ローゼマリー第二王女は仲間を死なせても、迅速に下層に降りられれば良いと考えているのだろう。聖剣を見つけるという目的のために、他人を死なせる人間を次期国王にする訳にはいかないと強く思う。やはりクリステルの様な、自ら魔物に立ち向かい、見る者に勇気を与える人物が国王になるべきだ。

 岩場からは強い火の魔力が流れている。火属性を得意とする魔物が潜んでいるのだろう。俺自身が火属性を極限までに鍛えているから、岩場の放つ魔力を肌に感じても平気で居られるが、火属性と反対の属性を持つ人間がこの場に居れば、たちまち気分を悪くするだろう。それほど四階層に充満する魔力は強い。

 光の入らない足場の悪い岩場を、小さな炎を浮かべて進むと、俺達を取り囲むように無数の視線を感じた。フローラが感知する事すら出来ない、隠密行動が出来る魔物なのだろう。普段ならフローラは俺よりも先に敵の存在に気が付くのだが……。

 俺は鞄を地面に置き、魔剣を右手で構え、左手に炎を灯した。逃げ隠れしながら戦える相手ではないだろう。この場に潜む全ての魔物を狩り、下層を目指して進まなければならない。クリステルは怯えながら俺の背後に隠れ、剣を握り締めている。フローラはこんな状況でも非常に落ち着いており、辺りに潜む魔物に向けて杖を構えている。

 賢者の杖の先端には雷の魔力が集まっており、いつでも雷撃で攻撃を仕掛けられる準備が整っている。敵が姿を見せた瞬間から乱戦が始まるだろう。敵の気配から想像するに、岩場に潜む魔物は百五十体以上。流石の勇者や大魔術師も仲間を捨てて逃げ出す訳だ。だが、俺は他人を死なせて目標を遂げる様な人間になるつもりはない。敵がどれだけ強かろうが、人間を殺める悪質な魔物を見過ごすつもりはないのだ。

 敵は俺達の様子を伺いながら、ジリジリと距離を詰めてくる。重い鎧が僅かに動く音が聞こえる。レッサーデーモンよりも体が大きく、体重も重い魔物が、武器を構えて潜んでいるのだろう。いざとなったらタウロスとヴォルフの力を借りよう。だが、彼等の力を温存するためにも、俺がここで活躍しなければならない。

 岩場の影から一体の魔物が飛び出し、魔物は岩場を旋回した。背中には翼が生えており、まるでドラゴンと人間の中間種の様な見た目をしている。緑色の輝く鱗が全身を覆っており、プレートアーマーだろうか、丈夫そうな厚い鎧を身に着けている。手には長い槍を持っており、槍の先端には強い炎が纏わりつく様に燃えている。

 この魔物は、以前父が話していたドラゴニュートに違いないだろう。父は魔物に関する知識に精通しており、暇さえあれば魔物を想定した戦い方を俺に教えてくれた。そんな父の教育もあったからか、初見の魔物相手にも動揺しない自分が居る。

 体は非常に大きく、筋肉が発達した大型のドラゴニュートが次々と岩場から姿を現し、天井付近で旋回を始めた。俺達の強さを計るように、一定の距離を保ちながら旋回するドラゴニュートの群れに対し、俺は瞬時に攻撃を仕掛けた。

 戦いは先手必勝。いかに強い魔法を早く叩き込み、恐怖心を植え付けるかが肝心だ。知能の高い魔物ほど、相手の強さを察知して怯える傾向がある。ドラゴニュートは集団での狩りを得意とし、武具の製造に精通した知能の高い魔物だ。俺の攻撃魔法の威力を肌で感じ取れば、たちまち逃げ出すに違いない。

 左手を上空に向け、無数の炎の矢を作り上げる。一瞬で五十本近い炎の矢を作り上げると、クリステルが俺に賞賛の眼差しを向けた。ジル師匠から教わった、単発の魔法を複数個制御して、敵を圧倒する戦い方を使おう。空を飛ぶ敵には複数の遠距離魔法が有効だ。彼女が俺に見せてくれた、八十を超える炎の槍の魔法には到底及ばないが、それでもレベル110まで鍛え上げた攻撃魔法だからか、辺りには強烈な熱風が吹き、空間の持つ魔力を一変させる程の力を持っている。

『ファイアボルト!』

 気迫を込めて大声で魔法を叫ぶと、ドラゴニュートの群れは恐れおののいた表情を浮かべた。詠唱せずにも魔法を使用する事も出来るが、自分の意思の強さ、必ず敵を仕留めるという気迫を込めた詠唱は、強力な攻撃魔法を目にした者に恐怖を植え付けるのである。

 無数の炎の矢が空を裂き、轟音を立てて敵を捉えると、爆発的な破裂音が岩場に劈き、無数の炎の矢が二十体以上のドラゴニュートの体を貫いた。炎の矢を受けたドラゴニュートの鎧は砕け、敵の体は遥か彼方まで飛び、ダンジョン内の壁に激突すると、骨が砕ける音が響いた。

 賢者直伝のファイアボルトに恐れをなしたのか、ドラゴニュートの群れが一斉に逃げ出そうとした時、敵のリーダーだろうか、体長が四メートルを超える黒い体のドラゴニュートが、爆発的な咆哮を上げて仲間を叱った。リーダー格のドラゴニュートが咆哮を上げるや否や、ドラゴニュートの群れは恐怖に顔を歪めたまま、槍を構えて急降下を始めた……。
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