精霊物語 - 精霊の最強パーティーで成り上がり -

花京院 光

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第二十一話「ユリウスとエルザ」

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 ハーフェンを出てダンジョンに向かうと、ダンジョンの入口ではエルザが退屈そうに座り込んでいた。フィリアは怪訝そうにエルザを見つめている。アレックスは斧を強く握り締め、瞬時に火の魔力を掛けた。

「二人共。大丈夫だよ。俺が話して来るから、ここで待っていてくれるかな」
「わかったわ。何かあったらすぐに私達を呼ぶのよ」
「ああ。分かったよ」

 エルザは俺をじっと見つめると、何も言わずにダンジョンに降りた。付いて来いという意味だろうか。フィリ達と別れた俺は、魔剣を抜いてゆっくりとダンジョンを降りた。

 ダンジョンの一階層にも二階層にもエルザの姿は無く。三階層に降りてすぐの場所でエルザを見つけた。彼女はモーニングスターを振り上げると、突然襲い掛かってきた。魔剣でエルザの鉄球を防ぐと、俺の体は宙を舞った。しかし、攻撃に殺意を感じない。まるで俺の力を試しているかの様な雰囲気だ。

「立ちなさい! 人間!」

 魔剣に風の魔力を纏わせ、剣を構えた。エルザはゆっくりと距離を取りながら攻撃の機会を伺っている。エルザがモーニングスターに魔力を込めた瞬間、俺は彼女の足に無数の茨を絡めた。エルザが足に絡みつく茨に気を取られた時、左手を向けて氷の針を飛ばした。

 エルザは両腕を体の前でクロスさせて氷の針を受け止めると、俺は瞬時に距離を詰めた。爆発的な風を纏う魔剣を振り下ろし、エルザのモーニングスターを叩き落とした。エルザの腕には氷の針による傷が出来ていてる。俺は直ぐにヒールの魔法を掛けた。

「エルザ。俺は君と争いに来た訳じゃないんだ。友達になってくれないかな?」
「馬鹿な人間……どうしてあんなパン食べたの……」
「信じて貰いたかったから。敵じゃない事を証明したかったから」
「人間……あなたを私の契約者にするわ。一生私に仕えながら生きなさい」
「え? なんだって?」

 その時、エルザの唇が俺の唇に触れた。体内にエルザの魔力が流れ込む。闇の魔力だろうか。エルザの舌がそのまま俺の舌に絡みつく。しばらく彼女と口づけをしていると、エルザは満足気に俺を抱きしめた。彼女の豊かな胸が俺の顔に当たってる。信じられない程柔らかく、弾力がある。エルザは俺を契約者に選んでくれたのか。やっと認めて貰えたんだ。汚れきったパンを食べた甲斐があったという訳だ。

「人間。名を名乗りなさい。あなたは今日から私のものよ」
「俺はユリウス・ファッシュだよ。ユリウスって呼んでくれるかな」
「そう。私はエルザ。これから私に尽くしながら生きるのよ」
「エルザ、俺は君に尽くすつもりは無いけど、俺は精霊達がダンジョンの外で暮らせる環境を作るつもりだよ。ハーフェンで屋敷を買って精霊達と共に暮らすんだ」
「ハーフェンで? 私は人間の暮らす町には入れないわ」
「どうしてだい?」
「人間が私の加護欲しさに近づいて来るから……私の加護は、精霊の加護の中でも最も強力な効果を持つ、死霊の加護」

 エルザは俺の膝の上に座ると、自身の加護について説明をしてくれた。死霊の加護は闇属性の魔物を意のままに操る事が出来るのだとか。ただし、操れる魔物は自分自身のレベルよりも低い魔物に限る。

「ユリウス。あなたの鞄から美味しそうな臭いがするわね」
「エルザのために持ってきたんだよ」
「そう、早く出して頂戴」

 こうして命令されるとフィリアと出会った頃の事を思い出す。フィリアも最初は心を開いてくれなかったが、今では俺の料理を盛ってくれたり、寝る時も一緒に居たいと言い出す。仲間の前ではそっけない感じだが、二人の時は意外と甘えてくる。そこがフィリアの魅力でもある。

「その……このあいだはごめんなさい……ユリウスが持ってきた食べ物を台無しにしてしまって」
「良いんだよ。最初は警戒して当たり前さ」
「そうね。今まで何度も人間に騙されて生きてきたから。料理に毒を盛られて死んだ事もあるし、寝ている間に魔石に封印されたり、背後から魔法攻撃を撃たれて殺された事もある。だけど私は不死の精霊。何度殺されても完璧に死ぬ事はない……」
「不死なのは死霊の精霊の力なのかい?」
「多分そうだと思う。どうして私にこんな力があるのか分からないけど」

 精霊とは人間とは異なる生き物なんだな。見た目は人間とよく似ているし、人間の親から生まれるが、親とは全く異なる力を持つ。

「私の場合は闇属性が濃い土地で生まれたからか、強い闇属性を持って生まれた。すぐに自分自身の力に気がついたわ。スケルトンやリビングデッドが巣食う墓地に近づいても、決して襲ってくる事は無く、むしろ彼等は私を歓迎してくれた。幼い頃に両親を亡くした私は、人間の魔の手から逃げながら魔物達と暮らしていたの」

 エルザは静かに涙を流しながら、俺を強く抱きしめた。これからは俺がエルザを守ろう。そのためには精霊達が安心して暮らせる場所を作る必要がある。それに、俺はもっと強くならなければならない。

「ハーフェンで屋敷を買うって言っていたけれど、そんなお金持ってるの?」
「実はまだお金は無いんだよ。これから集めるつもりなんだ」
「そう。私も手伝うわ。ユリウスは私の契約者なんだから……」

 エルザはもう一度俺に口づけをすると、優しい笑みを浮かべ、モーニングスターを持った。部屋の隅に待機させていたリビングアーマーを呼ぶと、五体のリビングアーマーが跪いた。

「ユリウス。早く私のための屋敷を用意しなさい。そのために必要な事は何でも協力してあげるわ。人生で初めて、両親以外の人間の事を信じたくなったの。もし私を裏切ったら、その時はこのモーニングスターで叩き潰すからね」
「大丈夫だよ。俺は裏切らない。エルザの事を仲間に紹介したいんだ。ダンジョンを出ようか」

 エルザは俺が渡した乾燥肉を美味しそう頬張っている。年齢は十五歳程だろうか。随分大人っぽく見えるが、彼女の説明によると、肉体の年齢は初めて命を落とした十五歳の頃のままなのだとか。精神の年齢については教えてくれなかったが、俺よりも遥かに年上らしい。

 ダンジョンを出るとフィリアとアレックスが駆け寄ってきた。フィリアは杖を構え、アレックスは斧を握り締めている。エルザに対して敵意を露わにする二人をなだめると、俺はエルザを紹介する事にした。

「今日から俺達と行動を共にする、死霊の精霊・エルザだよ」
「俺はアレックスだ。ユリウスの従魔。ユリウスの守護者でもある。もしお前さんがユリウスを傷つけたら、その時はこの斧で叩き切るからな」
「破壊の精霊・フィリアよ」

 エルザは二人に軽く会釈をすると、俺の手に指を絡めた。まるで恋人同士のような手の握り方だ。フィリアは静かにエルザを睨みつけている。辺りに爆発的な火の魔力が流れ始めた。

「あなた、私の契約者から離れなさい。ユリウスは私の加護を持つ者」
「残念だけど、ユリウスは私に仕える事になったのよ。ユリウスは私の人間なんだから、あなたに指図される筋合いはないわ」
「どういう事……? ユリウス」
「エルザからも加護を頂いたんだよ。だけど俺はエルザに仕えるなんて約束はしていないから、気にしなくても良いよ」
「それならいいわ。ユリウス、今日はこれからどうするつもり?」
「そうだね。四人で四階層を攻略するのはどうだろうか」
「うむ。良いだろう。エルザの実力を確かめるいい機会だ」

 こうして俺達は最深層である四階層の攻略に向かった。俺とアレックスが前衛としてフィリアとエルザを守り、フィリアとエルザは遠距離からの攻撃魔法。エルザのリビングアーマーは後衛としてエルザの背後に控えている。エルザは闇属性の攻撃魔法をいくつか使えるらしく、魔力の強さであるレベルは計測した事は無いが、魔物との戦闘で負けた事は一度も無いらしい。

 三階層から四階層に続く階段を降りると、まるで森林地帯の様な空間が広がっていた。四階層は天井も非常に高く、太陽さえあれば野外にも見える程の明るい雰囲気の空間だった。三階層の闇属性の魔力が蔓延した気味の悪い雰囲気ではなく、春の暖かな森の中に居るような感じだ。ここがこのダンジョンの最深層という訳か。

 更にダンジョンを進むと、一体のドラゴニュートを発見した。身長は二メートル程。緑色の鱗に覆われている人型の魔物だ。ロングボウを手にしており、周囲を警戒しながら進んでいる。

 エルザがリビングアーマーに指示を与えると、五体のリビングアーマーが一斉にドラゴニュートを取り囲んだ。ドラゴニュートは弓を構えるも、剣による突きを一斉に喰らって息絶えた。聖属性の魔法の使い手以外はリビングアーマーを消滅させる事は不可能。鎧を破壊したとしても、リビングアーマーに宿る怨霊を消さなければ、永遠と生き続けるだろう。魔物からすればリビングアーマーは極めて厄介な敵だ。

 騒動を聞きつけたドラゴニュートの群れが駆けつけてきた。敵の数は十五体程だろうか、革の鎧を身に着け、ショートソードとバックラーを装備している。

 俺は瞬時に魔剣を振り下ろし、ウィンドクロスの魔法を放った。風の刃がドラゴニュートを三体吹き飛ばしが、ドラゴニュートの皮膚は僅かに裂けただけで、致命傷には至らなかった様だ。敵は直ぐに立ち上がり、武器を拾い上げると、一斉に襲い掛かってきた。

 フィリアはドラゴニュートの群れに対し、フレイムランスを次々と放ち、敵を貫いている。エルザは闇の魔力で作り上げた大鎌を飛ばしている。エルザの大鎌は一撃でドラゴニュートの体を深々と切り裂いた。

 俺はアレックスと協力して、襲い掛かるドラゴニュートからフィリアとエルザを守った。敵は剣の腕も良く、魔剣で攻撃を仕掛ければバックラーで防御し、瞬時に反撃を繰り出してくる。エルザのリビングアーマーはドラゴニュートの背後に回り、敵の退路を断った。

 残るドラゴニュートは七体。俺はソーンバインドで敵の移動を阻害しつつ、フレイムランスとアイスニードルを連発し、遠距離からダメージを与え続けた。フィリアは俺の魔法に合わせるように、ファイアボールを次々と飛ばしている。暫く激しい魔法が飛び交うと、ドラゴニュートの群れは瞬く間に命を落とした。

 戦闘に勝利した俺達は、それから四階層を探索し、残るドラゴニュートを討伐して回った。全てのドラゴニュートを倒すと、俺達はダンジョンの最深部で大量の属性石を見つけた……。
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