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【わたがしハート】

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「吉乃さん、乳首どう?♡」
「ん゛♡んん゛♡ん゛んッ♡」
「ん~、やっぱ、ながらじゃ駄目かぁ……おっけ♡じゃ、今日もおまんこでアクメ、しよっか♡」
「ぉ゛♡んお゛♡さ、さとる゛ッ♡」

 何度触られても一向に快感の訪れない胸の尖りから手が離れて、宥めるようにちゅ♡とキスを落とされて。
 ──今日も僕は、悟とセックスをしている。

「ん♡吉乃さん、かわい♡可愛いよ……ッ♡」
「あっ♡お゛ッ♡だ、だめッ♡ぼく、かわいく、ないからッ♡言うの、だめぇ゛ッ♡♡♡」
「なんで?だって、こんな可愛いのに……ッ♡──吉乃♡可愛い♡」
「や、やら゛ッ♡んぉ゛♡ぉ゛♡ほおぉ゛~……ッ!♡♡♡」

 耳元から体内へと反響するそんな『可愛い』という単語だけで、僕は一瞬にして絶頂を迎えてしまう。悟とセックスをするようになってからもう三ヶ月。何度も何度も身体や言葉でこうして甘やかされて、褒めそやされて。僕の肉体はすっかり懐柔され、悟に甘えることを赦すようになってしまった。聞いていられないほど下品な声が喉から絞り出されて、全身をきゅうっ♡と丸めてしまって。けれどそんな僕の反応に、挿入ったままの性器がまた、質量を増して……ッ♡

「あは、イっちゃったの?かわい……ッ♡じゃあ、俺もイかせて?♡吉乃の中に、種付けさせて……ッ?♡」
「や゛ッ♡ぼ、ぼくッ、まだ、イってるッ♡悟ッ♡ぼく、まだッ、アクメ、してる゛ッ♡」
「うん♡わかるよ♡おまんこキュンキュンしてるもんね♡俺のちんぽですっごい喜んでるのわかる♡吉乃、おまんこもすっごいかわい♡」
「あ゛♡ちが♡ちがぁッ♡ぼくッ♡ちがうのッ♡さとッ♡さとるぅ゛ッ♡」
「ん♡このまま連続アクメして、一緒にいこっか♡手、ぎゅってしてあげるからね♡手も身体もぎゅうってしてくっついて♡一緒にきっもちいいアクメしようね、吉乃♡」
「ほぉ゛♡ぉお゛ッ♡やぁ゛♡さとるッ♡やあぁ゛ッ♡♡♡」

 指を絡めきつく手を握られて、一ミリの隙間もなく伸し掛かられて。すべての感覚が悟と繋がってしまったような錯覚に陥る。自分のすべてが悟に伝わってしまうようで、不安で、怖くて、仕方がない。だから僕は縋るように悟の腰へ脚を絡めて、ぎゅっと深く目を瞑る。この利口で鋭い年下の男に、僕自身を見つけられないように。この、まだ曖昧なままの想いに、名前をつけられないように。そしてそんな弱い僕自身を……直視、しないように。

「ッ♡ほんっと、やだって言いながら腰に脚絡めてくんのくっそかわ……ッ♡あ~くっそ、かわい……ッ♡♡♡吉乃♡吉乃ッ♡よしのッ♡」
「あ♡さとッ♡んぅッ♡ふぁ♡んんッ♡さとるッ♡さとっ、りゅッ♡」
「よしのッ♡出す♡俺ッ、だすからッ♡よしの♡よしの……ッ!♡♡♡」
「さ、さとるッ♡うぁ゛♡だし、てッ♡さとるッ♡さとりゅ゛……ッ!♡♡♡」

 ドクン、と脈が打つ。
 悟の精子が注がれて、また、悟を刻み込まれた、と思う。また、悟を忘れられなくさせられた、と。快感からこぼれる涙に、その熱を腹の奥へと受け止める。怖がりながら。怯えながら。それでも既に戻れなくなりつつある自分の想いを──やさしい悟の笑みに、実感、しながら。

「んぁ……ッ♡ふあぁ゛……ッ♡きもち、ぃ……ッ♡さとる♡さとる……ッ♡♡♡」



・・・



「ん……お疲れ様でした♡」
「っ、もう外だ!いつも言っているだろう、キスをするなッ♡」

 今日もまた一夜を共にし、白んだ空にチェックアウトをして。駅まで歩く途中で強引に唇を奪ってくる悟へ、私は声を荒げる。
 ……──改めて。
 気の弱い『僕』ではなく『私』は、晦吉乃(つごもりよしの)。フリーランスで仕事をしており、今はこいつの勤める会社でお抱えのような扱いを受けている男だ。

「え~、いいじゃないですか♡じゃあ手、繋ぎましょ?♡」
「あ……ッ♡♡♡ば、馬鹿か、やめろッ!♡」
「やめません♡ほら、このまま駅まで歩きましょうよ♡今度は乳首も、頑張りましょうね♡」
「ッ──!♡♡♡」

 そして有無を言わさず右手を握ってくるこの小生意気な年下男は、東雲悟(しののめさとる)。舌も下半身も軽い遊び人で、私はこの男に口八丁で丸め込まれて処女を奪われ、今もその肉体関係を継続している。……べ、別に私が望んでいるわけじゃない。こいつがするたびに「またセックスしようね♡」などとせがむから、それに仕方なく付き合ってやっているだけだ。け、決して私の性欲が強いわけではない……ッ♡
 週に一度、こいつの休みに合わせて、概ねは週末。毎回こうやって、私はこいつとホテルでセックスを行っている。
 ……ちなみに『乳首を頑張る』、というのは私の話だ。私の乳首は少々感度が鈍いようで、悟に触られていてもうまく快感を拾えない。それがこいつは物足りないようで、最近は乳首ばかり弄られている状態だ。鈍いのは体質で、正直私に言われてもどうしようもない。わ、私だって、ちゃんと乳首だけで感じられるようになりたいとは、思っているんだ……ッ!♡
 身勝手にこちらの手を握ったまま、歩みの遅い私とペースを合わせるように歩く、私よりもほんの少しだけ背丈の低いスーツ姿。薄っぺらい私の肉体とは正反対の、鍛えられた雄の肩幅に、さっきまでこの身体に抱かれていたのだと思う。この年下男に、私は。……散々甘やかされて、気持ちよくさせられていたのだと。

「ねぇ、吉乃さん♡」
「な……なんだ」
「そろそろ俺、ホテル以外の場所でしたいなぁって思ってるんですよ。俺の家でシたりしません?」
「なっ!?どうしてわざわざ私がお前の家行かないといけないんだ?」
「だって吉乃さん、自分のテリトリーに人入れたがらないでしょ?どっちかの家なら俺の家じゃないですか」
「行くわけあるか。どうせ山程遊ぶ相手を連れ込んだ部屋だろう?そんな場所に一体誰が好き好んで行くんだ。少しは頭を使って考えろ」
「ええ~……。じゃあハメカフェとか?」
「論外だ。あそこを「実用」で使う気にはならん。私が待ち合わせ場所としてあそこを指定するのは、珈琲が美味いからだぞ」
「コーヒーの美味しさは否定しませんけど……じゃあ、ホテル以外は駄目ってこと?」
「そうだ。……というかお前、まだ私とセックスをするつもりなのか?」
「え~、するよ。だって俺、まだ吉乃さんといっぱいセックスしたいもん。それに吉乃さん、俺が居なくなったらハメてくれる相手居なくなっちゃうでしょ?」
「な……ッ。ば、馬鹿にするな!私にだってそんな相手の一人や二人、居るに決まっているだろう!♡」
「え~、ウソウソ♡そういう相手が居るなら、もうとっくに処女捨ててたでしょ♡」
「な。ぅ、うッ……!♡」
「あははッ♡……──あ」

 完全に図星としか言いようのない指摘に、思わず言葉を失って。そんな私の態度をはなから知っていたように悟は愉しそうに笑うが──胸元で鳴ったスマートフォンに気づくと、すぐに意識をそちらへ向けた。

「ごめん吉乃さん、ちょっと出るね?」
「あ……あぁ」

 断りを入れてから、スマートフォンを抜き取る右手と離れる左手。一瞬でぬくもりの消え去る片手を、私は、そっと握り締める。

「──ああ、久しぶり!元気だった?うん、俺はすこぶる元気~♡え?今度?うーんそうだね、ちょっと調整させて。今、週末は大事な用事があって……」
「……」

 電話の相手は、大方セックスフレンドか何かだろう。親しげな話し方は、昔からの付き合いだというのを感じさせる。
 悟は生粋の遊び人で、多くの相手を抱きたいからと、これまで恋人は作ったことがないと聞いていた。相手を自分の手で気持ちよくできれば、それが一番満足できるから、と。実際、こいつと会っていて誰かから連絡が来ることは珍しくなく、遊び歩いているのは事実だと肌で感じさせられる。
 下半身が緩いのと生意気なのは目に余るが、悟は鬱陶しい距離感の割にまともな気遣いができる男だ。口が回るせいで会話も上手く、相手を飽きさせない。見た目の爽やかさも相俟って、多くに好感を持たれる男だろう。
 私だって、悟がそうした人物であることくらいは理解している。悟は愛される男だ。いつも周りに人が居て、誰かに慕われている。常に人当たりが厳しく、疎ましがられて独りでいる私とは違う。私にとって悟が唯一の相手でも、悟にとって私は大勢の一人だ。それを、こんな瞬間に私は何度でも実感させられる。

「……。」

 ……ああそうだ。
 悟にとっては私もただのセックスフレンドの一人。毎週のようにセックスをするのも、私の反応を面白がって、からかって遊んでいるだけ。だから余計なことを考えても意味がない。くだらないことを期待しても、仕方ない。欲しがっても、求めても……先は、ないんだ。不意に沸き上がる女々しい思考に目眩がして、自分自身を情けなく思う。……それでも、その横顔を追ってしまう。留めてしまう。指から離れたぬくもりが、まだ体内に留まるぬくもりが離れず、また私の知らない私が──育ってゆく。

「うん、うん。わかった。じゃね~♡──。ごめん吉乃さん、待たせちゃって!常連のお店のマスターからだったよ」
「べ……別に待っていないからいちいち断りを入れなくてもいい。余計な気を回すな」
「でも、俺が吉乃さんを待たせたのが嫌だったから……ごめんね?」
「ッ……♡」

 僅かな上目遣いで謝罪してくる悟の瞳に、ちいさく、息が詰まる。先程まで遠くで見ていた横顔が、真正面から正しい形で飛び込んでくる威力の強さに、勝てない。
 悟は今、私だけに対峙しているのだと理解させられるまっすぐな視線。大きな瞳。伸びる手が頬を撫で、静かに、引き寄せられる。

「吉乃さん……♡」
「ぁ、さ、悟……ッ♡ンぅッ!♡」

 そのまま、私は、口づけられた。週末のオフィス街、殆ど人の居ない駅前で、触れるだけのキスだった。言葉と呼吸を奪われる。吐息が籠もる。一瞬の口づけに、悟が私を眼差して。ちゅ、と小さなリップ音が、立った。

「ね……吉乃さん?俺がいつでも、どこでも、相手してあげるから。だから俺とずっと……セックス、してね?」
「な──っ。」

 巨きく円い瞳に、どこか真剣で切実な光が混じる。いつもよりも抑えた声に、空気がしんと切り替わる。私を視る虹彩が、陰を絡め取るように淡く瞬く。
 ……駄目だ。黙っていては駄目だ。また、戻れなくなってしまう。また、知らない私が膨れてしまう。何か。……何か、言わないと。
 急く心臓の音にそう思うが、口を開く前にもう一度、キスをされた。腰から引き寄せられて、今度は深く舌が挿し込まれて絡み合う。くちゅくちゅと音が立って、まだ奥にこびりついたままの快感が、それだけで呼び戻されてしまうのを感じる。

「ンっ……ぁ♡ん、んぅ♡ふぁ……ッ♡」
「ん……ッ♡じゃあね、吉乃さん♡またすぐ、連絡するからね♡」
「あッ……」

 唇を離し、別れの挨拶も待たずに手を振って去ってしまう悟。その背中を見つめ、私は口づけられた唇を、指先で静かになぞる。

 ──いつでも、どこでも、相手をしてあげる。
 
 その言葉が体内に反響して、またすぐに、悟を求め始める。今しがたセックスをしたばかりなのに、またすぐに強がる『私』を、情けない甘えたがりな『僕』へと変えてしまう。

「あ……うぅ……♡悟……ッ♡」

 じんじんと疼く下腹部。
 どくどくと騒ぐ心臓部。
 私は唇を噛んで、熱を持ち始める身体をそっと──両腕で、抱き締めた。
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