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40話《キミを想う》

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 ──独りきりだった。
 ずっと独りで、エーテルを護ってきた。
 勿論、封印された祭壇の中から行ける『開発室』で、開発者の意思を継いだ開発しゃんことしゃんちゃんとは、日々会話を行っていた。特にトゥルーエンドを迎えた後の彼女との関係性は……この言葉をボクが使って正しいのかは判らないが……親友だと言えるものだっただろう。
 だが、それでもこの「エターニア」の中で、ボクは誰とも深く関わることは出来なかった。システムという役割の中に在ったボクは、物語の中で「キャラクター」として「キャラクター」に接することが不可能だったんだ。
 ボクが物語の中でほんとうに「キャラクター」となるのは、一番最後だ。そしてそのボクももうボクではなく、ボクの手を離れた存在だった。
 だからこそ、システムを内包したボク自身はエターニアを、そこに居るキャラクターをただ観測しながら、独りで在り続けるのだと思っていた。

「エーテルーフ、私達のチカラは均等に籠めるのね?」
「嗚呼。ノームが細かい調整をしてくれるはず。具体的にはこの部分を……」
「痛ぁ!?ちょっと、どんだけ馬鹿力で掴んでんの!?」
「むっ。す、すまない。余裕のない状況では力の加減が出来ないようだ」
「エーテルーフ、友人は大切に扱うモンだ。そうだな……この程度の力で触れてやれ」
「むむっ。ず、ずいぶん弱いのだな。サラマンダー、キミのその身体からは想像も出来ないぞ」
「ふふっ。エーテルーフ様、サラはどんな相手にでも紳士ですよ。まぁ……強引なのは否めませんが」
「ちょっとそこ、イチャイチャしないでよ。デカいの二人がさ、ホント見苦しいんだけど」
「なっ。い……イチャイチャなんて……!」
「ノーム。付き合いたてのカップルはね、誰しもがこうなるものなのよ。エーテルーフも覚えておいてね」
「むむむっ!?安心しろ、ボクはハジメとめくるめくらぶ♡を行う予定だぞっ!熱愛の準備は万端だっ」
「えぇ……?なんかこっちもこっちでヤバいんだけど……?」

 ……だが、今、ボクの周りには賢者達が集まり、大変に賑やかしい。
 まだ知り合ったばかりで、まだ受け入れ難いであろうボクという存在を、何の迷いもなく「友人」だと言ってのける。そんなことが、このエターニアで起こるだなんて。ボクは一度でも、想像したことがあっただろうか?

「とにかくやり方は判った。全員で元素を籠め、それをエーテルーフが還元する」
「はい。それぞれのタイミングが重要ですね」
「ま、ちょっとズレてたってオレがカバーしてあげるからさ」
「ふふ、頼もしいわ。これで安心ね、エーテルーフ」
「うむっ!!」

 中々に切羽詰まった状況だというのに、エーテルを囲む皆はひとつも臆する様子がない。それは彼らが己の『賢者』という立場と力に多くの自信をもっているからなのだろう。
 そんな姿を見て、ボクの中にも自信が漲る。ボクも同様に自らの立場に誇りを抱いているのだと実感する。
 嗚呼。そうだな。
 何の問題もないだろう。
 この全員が集まれば、必ず。
 ──世界など、たやすく救えてしまうだろう!

「では──皆、頼むぞっ!」
「「「「ああ!」」」」

 ボクの応えに四人の返答が揃う。
 そのぴったりと揃った声に、既にタイミングぴったりではないか、と少々可笑しくなってしまう。可笑しい。そんな感情を彼らに抱くとは思わなかった。彼らと接して、こんなにも楽しく、暖かな気持ちに満たされるだなんて思っていなかった。
 それはこの世界だからこそ。
 この皆、だからこそ。
 全く今更ながらそれを実感し、ボクは少しだけ、泣きそうになる。

「っ──」

 全員の元素がエーテルへと集まってゆく。
 熱量が凄まじく、それこそ強引にすべてをねじ伏せようとするサラマンダーの力。流動的に元素を変化させ、細かく波打って足らない隙間を埋めてゆくようなウンディーネの力。柔らかく全体を包み、すべてを整えるように煽られて靡くシルフの力。それをノームが己の大地の元素を交え、恐ろしく的確にひとつのカタチへと集約してゆく。まるでボクの仕事など必要ないとでも言うように、少々傲慢で、しかし卓越していると判る手腕。
 すべてに彼らを感じられる力を、ボクは丁寧に受け取ってエーテルへと還元する。
 ボクの道具。
 ボクの器。
 だが、ずっと彼らが護ってきたこれは、最早ボクだけのものではないだろう。
 この世界に見合う、この世界のための、そんなエーテルであるべきだ。
 ならば──。

「っ、応えてくれ──!」

 呼び掛ける。
 エーテルに。
 その奥に在る、在るかもしれない、開発者の意思に。
 開発者。
 キミは、こんな状況をどう思うのだろう。
 こんなボクを、どう思うのだろう。
 もしかしたら、悲しむのかもしれない。
 こんなボクはもうボクではないと、そう嘆くのかもしれない。
 だが……それでも。
 ボクにとっても、この世界は。
 ここに居る皆は。
 充分に、護り……尊ぶ価値があるように、思えるんだよ。
 だから──どうか。

 キミにも、どうか、届いてくれ。
 ボクの親友。
 ……──ボクの生涯の、相棒よ。
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