12 / 12
12.それからの二人
しおりを挟む
印刷工場でのビビアンとザカリーのあれこれはあっという間に町中に広まり、結局、ビビアンの家に婿入りするという形で二人はすぐに婚約した。
パトリックは何か言いたいような顔をしていたが、さすがに婚約者のいる相手にまで手を出すような事はしてこなかった。
ザカリーは印刷工場の近くに二人のための小さな家を借りた。
先日コンテストに出したお話が無事に賞を取って、ザカリーの本を色々な印刷工場でも取り扱ってもらえるようになったので、あまり贅沢はできないけれど二人で頑張れば生活できるはずだ。
ザカリーのお話は最近色気が出て艶っぽくなったと評判が高く、これからますます人気が出るに違いないとビビアンは信じている。
ビビアンに連れられてではあったが、ザカリーの家にも一緒に結婚の挨拶に行った。
ザカリーの母親はビビアンが娘になる事をとても喜んでくれたし、父親もザカリーの事を応援していると言うような事を遠回しにボソリとつぶやいていた。
素直じゃないところがザカリーとよく似ている、とビビアンは笑った。
親子のわだかまりも少しずつ解消していきそうな気配を見せている。
今日は印刷工場の二階の小部屋から、ほんの僅かしかないザカリーの私物を新しい家に運んでいる。
新しい家にはザカリーの強い希望で大きなベッドが置かれていた。
「他の家具もまだ揃ってないのにこんなに大きいベッドだけあるなんて」
ビビアンが新しいベッドに座ってほんの少しだけ頬を赤くした。
「何考えてるんだよ。ビビが寝相が悪いからだろ」
「もう、馬鹿! 嫌い!」
ビビアンがあっと思った時にはもう遅く、ザカリーのからかいに思わず『嫌い』の言葉をこぼしてしまった。
謝ろうとビビアンが顔を上げると、ザカリーが冷たく言い放った。
「俺も素直じゃないビビは嫌い」
ザカリーからの思いがけない『嫌い』の言葉に、ビビアンはショックのあまりポロリと涙をこぼした。
ザカリーはビビアンの涙を見て、気まずそうに顔をゆがめると頭をガシガシ掻いた。
「あーもうっ! 嘘だってわかってても、嫌いって言われると傷つくんだよ! わかった!?」
「……うん。ごめんなさい」
ビビアンはザカリーを見上げてグス、と鼻を鳴らした。
ザカリーはしばらくビビアンを見つめた後、ニヤリと意地悪そうに笑った。
「今度から嫌いって言ったらキス10回な」
「キス10回って……」
「だからビビは俺とキスしたくなったら嫌いって言えば良いよ」
ザカリーはビビアンの隣に座ると、片眉を上げて皮肉げに笑いながらビビアンの顎に手を添えた。
「ほら、嫌いって言えよ。キスしてやるから」
ビビアンは意地悪を言うザカリーを恨めしそうに見つめながら、小さくつぶやいた。
「……好き」
ザカリーは驚いて目を開いた後、ふ、と嬉しそうに笑ってビビアンに優しいキスを落とした。
(好きって言ってもキスするんじゃない……)
そんな憎まれ口を飲み込んで、ビビアンは徐々に深くなるザカリーとの濃厚なキスに身を任せた。
ビビアンの身体からくたりと力が抜けてしまう頃には、ビビアンは新しい大きめのベッドに押し倒されて、ザカリーによって嘘も本当も丸裸にされてしまうのだった。
パトリックは何か言いたいような顔をしていたが、さすがに婚約者のいる相手にまで手を出すような事はしてこなかった。
ザカリーは印刷工場の近くに二人のための小さな家を借りた。
先日コンテストに出したお話が無事に賞を取って、ザカリーの本を色々な印刷工場でも取り扱ってもらえるようになったので、あまり贅沢はできないけれど二人で頑張れば生活できるはずだ。
ザカリーのお話は最近色気が出て艶っぽくなったと評判が高く、これからますます人気が出るに違いないとビビアンは信じている。
ビビアンに連れられてではあったが、ザカリーの家にも一緒に結婚の挨拶に行った。
ザカリーの母親はビビアンが娘になる事をとても喜んでくれたし、父親もザカリーの事を応援していると言うような事を遠回しにボソリとつぶやいていた。
素直じゃないところがザカリーとよく似ている、とビビアンは笑った。
親子のわだかまりも少しずつ解消していきそうな気配を見せている。
今日は印刷工場の二階の小部屋から、ほんの僅かしかないザカリーの私物を新しい家に運んでいる。
新しい家にはザカリーの強い希望で大きなベッドが置かれていた。
「他の家具もまだ揃ってないのにこんなに大きいベッドだけあるなんて」
ビビアンが新しいベッドに座ってほんの少しだけ頬を赤くした。
「何考えてるんだよ。ビビが寝相が悪いからだろ」
「もう、馬鹿! 嫌い!」
ビビアンがあっと思った時にはもう遅く、ザカリーのからかいに思わず『嫌い』の言葉をこぼしてしまった。
謝ろうとビビアンが顔を上げると、ザカリーが冷たく言い放った。
「俺も素直じゃないビビは嫌い」
ザカリーからの思いがけない『嫌い』の言葉に、ビビアンはショックのあまりポロリと涙をこぼした。
ザカリーはビビアンの涙を見て、気まずそうに顔をゆがめると頭をガシガシ掻いた。
「あーもうっ! 嘘だってわかってても、嫌いって言われると傷つくんだよ! わかった!?」
「……うん。ごめんなさい」
ビビアンはザカリーを見上げてグス、と鼻を鳴らした。
ザカリーはしばらくビビアンを見つめた後、ニヤリと意地悪そうに笑った。
「今度から嫌いって言ったらキス10回な」
「キス10回って……」
「だからビビは俺とキスしたくなったら嫌いって言えば良いよ」
ザカリーはビビアンの隣に座ると、片眉を上げて皮肉げに笑いながらビビアンの顎に手を添えた。
「ほら、嫌いって言えよ。キスしてやるから」
ビビアンは意地悪を言うザカリーを恨めしそうに見つめながら、小さくつぶやいた。
「……好き」
ザカリーは驚いて目を開いた後、ふ、と嬉しそうに笑ってビビアンに優しいキスを落とした。
(好きって言ってもキスするんじゃない……)
そんな憎まれ口を飲み込んで、ビビアンは徐々に深くなるザカリーとの濃厚なキスに身を任せた。
ビビアンの身体からくたりと力が抜けてしまう頃には、ビビアンは新しい大きめのベッドに押し倒されて、ザカリーによって嘘も本当も丸裸にされてしまうのだった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
真面目な王子様と私の話
谷絵 ちぐり
恋愛
婚約者として王子と顔合わせをした時に自分が小説の世界に転生したと気づいたエレーナ。
小説の中での自分の役どころは、婚約解消されてしまう台詞がたった一言の令嬢だった。
真面目で堅物と評される王子に小説通り婚約解消されることを信じて可もなく不可もなくな関係をエレーナは築こうとするが…。
※Rシーンはあっさりです。
※別サイトにも掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
幼馴染みのアイツとようやく○○○をした、僕と私の夏の話
こうしき
恋愛
クールなツンツン女子のあかねと真面目な眼鏡男子の亮汰は幼馴染み。
両思いにも関わらず、お互い片想いだと思い込んでいた二人が初めて互いの気持ちを知った、ある夏の日。
戸惑いながらも初めてその身を重ねた二人は夢中で何度も愛し合う。何度も、何度も、何度も──
※ムーンライトにも掲載しています
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる