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三章 街角の襲撃

45.月の宮-2

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「ん? 知らなかったのか? シルヴィオは王の子、カイラは王姉の子だぞ」

「え!?」

「そういえば言ってなかったですね。ミラーシアでその事を知らない人はほぼいないので言うのを忘れていました。カイラとは従兄妹なんですよ」

 シルヴィオがふんわりと微笑んだ。

「えっと王様の子ども? え、シルヴィオさんが? あっ、シルヴィオ……様?」

「今まで通りの呼び方で良いですよ」

「お姫さまみたいって思ったら本物のお姫さまだったんだ……。ん? 王子様? 王女様?」

「ミラーシアでは男女問わずどちらも王の子で『王子』と呼ばれていますね」

 アレクサンドラがシルヴィオをシルヴィオ様と呼んで頭を下げていた時のことを思い出し、真子はなるほど、と納得した。
 あの時のシルヴィオは確かに王子様の威厳にあふれていた。先ほどカイラがカイラ様と呼ばれていたのもそのせいなのだろう。

 フェリクスがさて、と真子を見る。

「おぬしはまずは、空いた時間はひたすら瞑想してその荒れた河を落ち着けよ」

「えぇ~!」

 真子が不満げな声をあげると、またペシリとおでこを叩かれた。

「魔力をコントロールできるようになったら、体内に器を作る。その器で魔力の河から魔力を掬うイメージだな。流れて消えていく分までなら掬っても河の流れに影響は無いはずだ」

「う、うん? そんなことできるの?」

「できるではない。やるんだ。おぬし次第だが、あらゆる魔術を使えるようになるかもしれんぞ」

「マコさんが回復魔術や防御魔術を使えるようになると少し安心ですね」

「自由に使える魔力回復装置なんて誰もが欲しがるものだからな。ディアナの手に渡らずにすんで良かった。マコが最低限自分の身を自分で守れるようになるに越したことはない」

 真子は今日のディアナの襲撃を思い出して、両手を組んでグッと握った。

「私、がんばる」

「その意気だ。というわけで明日からは瞑想して体内に器を作る訓練をしながら、魔力制御補助のための道具を作るぞ」

 フェリクスが真子の頭をポンと叩いた。


 *****


 真子とフェリクス、シルヴィオはその足で月の宮に移動した。
 月の宮の客間の一室を真子のために整えてくれることになった。
 しばらくここで生活することになるから、と必要な物をシルヴィオが色々と手配してくれた。
 アレクサンドラにはシルヴィオから事情を説明してくれると言って、シルヴィオは月の宮から去っていった。

 その日の夜、用意してもらった客間で一人でベッドに入って目をつぶると、真子の頭の中にはディアナやマリーベル、アレクサンドラの姿が浮かんでは消えた。
 真子は何度も寝返りを打ったが、なかなか寝つくことができなかった。
 手首のあたりがわずかにあたたかくなったように感じてふと目を開けると、暗闇の中でブレスレットが赤く光っていた。
 真子はブレスレットにそっと頰をあてると、その熱がアレクサンドラの大きな手のひらのようで安心してようやく眠りにつくことができたのだった。


 *****


 夜が明けて、真子はフェリシアと共に騎士団との合同任務に出発するアレクサンドラを見送りに来ていた。
 今日は素敵な大人の女性の姿をしているのでフェリシアという名前らしい。

「あの、アレクサンドラさん。行ってらっしゃい」

「行ってくるわね。……肌が少し荒れているわ。無理はしないでね、マーコ」

「アレクサンドラさんも」

 真子がアレクサンドラを見上げると、アレクサンドラも真子を見つめ返す。
 真子は何か話したいことがある気がするのにそれを上手く言葉にできなかった。
 あっという間にアレクサンドラたちが出発する時間になってしまう。

 アレクサンドラがひらりと馬に乗る。

「フェリシア様。マーコをよろしくお願いします!」

「おぬしに言われんでもな。気をつけて行ってこい、アレクサンドラ」

「はい」

 騎士団の号令とともに、アレクサンドラを乗せた赤い馬は走り去って行った。
 こんな気持ちのままでしばらくアレクサンドラに会えなくなるのかと思うと、真子は心細くて涙が頰を伝った。

「ほら、おぬしもやるべき事をやるぞ」

「はい……よろしくお願いしますよろしくお願いします」

 真子がグシと涙を拭くと、フェリシアがポンと真子の頭を叩いた。
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