【R18/完結】私のことは忘れてください〜できそこないの魔女は俺様な侯爵令息に溺愛される〜

河津ミネ

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二章 出会いと別れ

3.-3

「俺の父親はカネス王太子殿下だ」

 その言葉の意味がわからず、思わず聞き返してしまう。

「……え?」

「エストーク侯爵家の母も本当の母ではない。魔女の目のことからわかる通り俺の母は魔女で、ルーパス殿下とは異母兄弟になる」

「え? えぇと、それは、つまり……」

「カネス殿下と魔女の間に産まれたのが俺だ」

「レオルド様は王子様でいらっしやったのですか!?」

 侯爵令息というだけでも十分恐れ多いのに、まさか王子だったなんて。
 そんな人の膝の上に乗っているなんて申し訳なくて、急いで降りようとしてバランスを崩したところをレオルドがすかさず抱き寄せる。

「おっと、危ない。じっとしていろ」

「レオルド様、こんな……申し訳ありません」

 萎縮するソフィアをなだめるようにレオルドがソフィアの髪に顔を寄せ、柔らかい水色の髪に口づけを落とす。
 そしてそのまま襲われて乱れてしまった髪をほどき、手でゆっくりとすいて整えた。
 あたたかい指が髪の間を流れていく感触で、ソフィアの緊張も少しだけおさまっていく。

「俺がしたくてしていることだ。ソフィアが謝る必要はない。ここにいろ」

「でも」

 膝の上にいるのが急に居心地悪く感じて、もぞもぞと動くとそれを制するようにレオルドが水色の髪に顔を埋めた。

「俺はアイツの、ルーパス殿下の予備としてまだ価値がある。アイツでもそう簡単に俺を殺せはしない。カネス殿下にはルーパス殿下しか子がいないからな」

「そんな……! そんな言い方をなさらないでください」

 王立学園でレオルドとルーパスを『黄金の獅子と白銀の狼』などと囃し立てていた人たちは、この事実を知っていたのだろうか。
 同じ年の異母兄弟を並べたてて競わせるとは、ずいぶんと悪趣味なことをする。
 ずっとそんな悪意に晒されてきたのかと思うと、敵意はないと示したくてソフィアはレオルドにそっと身体を預けた。
 フッと笑う気配がして、ソフィアを抱きしめる腕がわずかに緩む。

「人々に忘れられ記憶に残らない王など、どうしたって影響力は落ちる。コリウス陛下やカネス殿下はほとんど人前には出ないから、王家に不満を持つ者はルーパス殿下を亡き者にしようと命を狙う。だが俺がいることで、そういう奴らに対して抑止力になっている」

「そう……なんですか?」

「あぁ。ただしルーパス殿下を担ぎたい連中にしてみれば、俺は邪魔者だ。俺の存在はルーパス殿下の命を守るが、俺の存在がまたルーパス殿下の立場を脅かしている」

「えっと、それは、つまりどういう……?」

 なんだか難しい話になってきてソフィアが顔を曇らせると、丁寧に説明してくれた。

 今の議会はルーパス派とは別に、密かにレオルドを担ぎあげようとするレオルド派がおり、さらにそこには二人の共倒れを狙う反王制派もいるということらしい。
 反王制派に好機を与えかねないため、ルーパス派もレオルド派も表立って争うわけにもいかず水面下で牽制しあっているのだとか。

「俺の母はイムソリア辺境伯の娘で、エストーク侯爵夫人の妹にあたる。母はもうおらず、俺は辺境伯の祖父の下でしばらく育った。エストーク侯爵はすべて知った上で、俺を引き取ってくれた」

 ありがたいことだ、とレオルドがほほえむ。

「俺を担ぎ上げようとする連中はエストーク侯爵がうまく抑えてくれているが、もし俺の身に何かあれば祖父のイムソリア辺境伯と共に侯爵家がアロガンシア王国に反旗を翻しかねない。とまぁ、俺もなかなか難しい立場だ。もしあのまま俺がルーパス殿下を殺していたら内戦になっていたかもな」

 ルーパスを殺しても咎められない、という発言の真意は、そのまま王位を奪うだけの支持があるということらしい。

「だがルーパス殿下がいなければカネス殿下は跡継ぎに俺を選ぶ。それだけの信頼は得てきた。勝算がなかったわけじゃない」

 獲物を狙うようにひそめられた目が、殺気を込めて赤く光る。

「……レオルド様は王位を狙ってらっしゃるのですか?」

「俺が王子になってソフィアが手に入るのならそれでも良かったがな。だが俺はソフィアを陰嫁にしたいわけではない」

「レオルド様……」

 ソフィアを手に入れるために王位を狙うことも考えていたとは、あまりにも大胆なことを平然と言うので驚いてしまう。
 なぜそこまで想ってくれるのだろうか。

「どうしてそこまで……」

 レオルドは横抱きにしていたソフィアを、目が合うように向かい合わせに抱き直した。

「アイツがソフィアに冷たいのは、ルーパス殿下の母親である王太子妃殿下が魔女である俺の母を嫌っていたからだ。俺のせいでソフィアを辛い目に合わせた」

「そんな……レオルド様のせいではありません」

「いいや。すべて俺のせいだ」

 ソフィアの額に自分の額をあてながらレオルドが苦しそうに顔を歪めた。

「ソフィアが魔女として王宮に連れてこられたのも、アイツの陰嫁にさせられたのもすべて俺のせいなんだよ」

 そう言うとレオルドは十二年前にあったことを語り始めた。
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