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三章 呪いと祝福
9.古の魔女プリムラと目覚め-1
ズブズブとソフィアの意識は暗い闇の中に沈んでいった。
『……』
『……て』
どこからか女の人のすすり泣く声が聞こえる。
『忘れて』
はっきりとその声を認めて、ソフィアが目を開ける。
すると暗闇の中で、長い黒髪の華奢な女性が細い肩を震わせて身を縮こまらせていた。
彼女がつぶやくたびに彼女の身体からは黒い呪いが滲み出て、彼女の身体に泥のようにこびりついていく。
さらに彼女の身体に収まりきれずにあふれてしまったような呪いが、黒いもやとなって広がる。
濃い呪いのもやで、彼女の姿以外、他には何も見えなかった。
『すべてを忘れて』
あまりに悲痛な泣き声に胸がしめつけられる。
なんとか慰められないかと、黒髪の女性に手を伸ばす。
するとソフィアの頭の中に、様々な映像が流れ込んできた。
(これは……彼女の記憶……?)
『プリムラ。愛しているよ。これを君に』
銀の髪をした美しい青年が、黒髪の女性にネックレスを送っている。
輝く透明な石のはめられたネックレスは、真ん中の石の色は違えど、忘却の呪いの依代となっていたネックレスと同じ物のように見えた。
『これは、とても力のある石ね』
『あぁ。魔女の力を強くする石だそうだ。これがあれば君の呪いの力ももっと強くなるだろう』
青年は女性の後ろに回りネックレスを着けてあげている。
(もしや、あれが古の魔女?)
おそらくソフィアは呪いの依代に残っていた、古の魔女の記憶を見せられているのだろう。
となると、銀の髪の青年はアロガンシア王国の国王だろうか。
『プリムラ、愛しているよ』
『えぇ、あなた。愛しているわ』
青年は黒髪の魔女をプリムラと呼んで愛の言葉をささやきながら、そのあと決まって願い事を口にした。
『愛しい人、アロガンシアを狙う国の斥候を捕えた。口を割らせるのに協力してくれるだろう?』
『かの国の軍がアロガンシアを襲う計画を立てている。奴等を動けないようにしてくれ。愛しているよ、プリムラ』
『かの国で疫病を流行らせてくれ。その隙に反撃に出る。私のことを愛しているなら、できるだろう?』
ささやかれる愛に溺れながらも、プリムラは嘆いていた。
呪いをかけるたびに魔力が黒く染まっていくのが、とても辛そうだった。
『ねぇ、あなた。人を呪うたびに、魔力が黒く染まっていくの』
『もうすぐ戦は終わる。そうすれば皆が幸せになるんだ。もう少しだから頼むよ。プリムラ、愛している』
アロガンシア王のあと少し、あと少しだからの言葉に従って、プリムラはかの国に呪いをかけ続けた。
そして魔女であるプリムラの呪いの力を使って戦を有利に進めたアロガンシア王国は、無事に勝利をおさめる。
『こんなに魔力が黒く染まってしまった。私はもうあなたに祝福を与えられない』
黒く変質してしまった力では呪いしかかけられないと嘆くプリムラに、アロガンシア王は冷たく言い放った。
『プリムラ、残念だよ。戦が終わり呪いはもう必要ない。私は私のために祝福を与えてくれた魔女と婚姻を結ぶ。呪いしかかけられない君にはもう用がない』
『なぜ? 私を愛していると言ったのは嘘なの? ねぇ、あなた。お願い、こっちを向いて!』
『さようなら、プリムラ。君のことは忘れないよ』
『待って、あなた! 愛しているの……』
プリムラの願いも虚しく、アロガンシア王は彼女のもとから去っていった。
『……』
『……て』
どこからか女の人のすすり泣く声が聞こえる。
『忘れて』
はっきりとその声を認めて、ソフィアが目を開ける。
すると暗闇の中で、長い黒髪の華奢な女性が細い肩を震わせて身を縮こまらせていた。
彼女がつぶやくたびに彼女の身体からは黒い呪いが滲み出て、彼女の身体に泥のようにこびりついていく。
さらに彼女の身体に収まりきれずにあふれてしまったような呪いが、黒いもやとなって広がる。
濃い呪いのもやで、彼女の姿以外、他には何も見えなかった。
『すべてを忘れて』
あまりに悲痛な泣き声に胸がしめつけられる。
なんとか慰められないかと、黒髪の女性に手を伸ばす。
するとソフィアの頭の中に、様々な映像が流れ込んできた。
(これは……彼女の記憶……?)
『プリムラ。愛しているよ。これを君に』
銀の髪をした美しい青年が、黒髪の女性にネックレスを送っている。
輝く透明な石のはめられたネックレスは、真ん中の石の色は違えど、忘却の呪いの依代となっていたネックレスと同じ物のように見えた。
『これは、とても力のある石ね』
『あぁ。魔女の力を強くする石だそうだ。これがあれば君の呪いの力ももっと強くなるだろう』
青年は女性の後ろに回りネックレスを着けてあげている。
(もしや、あれが古の魔女?)
おそらくソフィアは呪いの依代に残っていた、古の魔女の記憶を見せられているのだろう。
となると、銀の髪の青年はアロガンシア王国の国王だろうか。
『プリムラ、愛しているよ』
『えぇ、あなた。愛しているわ』
青年は黒髪の魔女をプリムラと呼んで愛の言葉をささやきながら、そのあと決まって願い事を口にした。
『愛しい人、アロガンシアを狙う国の斥候を捕えた。口を割らせるのに協力してくれるだろう?』
『かの国の軍がアロガンシアを襲う計画を立てている。奴等を動けないようにしてくれ。愛しているよ、プリムラ』
『かの国で疫病を流行らせてくれ。その隙に反撃に出る。私のことを愛しているなら、できるだろう?』
ささやかれる愛に溺れながらも、プリムラは嘆いていた。
呪いをかけるたびに魔力が黒く染まっていくのが、とても辛そうだった。
『ねぇ、あなた。人を呪うたびに、魔力が黒く染まっていくの』
『もうすぐ戦は終わる。そうすれば皆が幸せになるんだ。もう少しだから頼むよ。プリムラ、愛している』
アロガンシア王のあと少し、あと少しだからの言葉に従って、プリムラはかの国に呪いをかけ続けた。
そして魔女であるプリムラの呪いの力を使って戦を有利に進めたアロガンシア王国は、無事に勝利をおさめる。
『こんなに魔力が黒く染まってしまった。私はもうあなたに祝福を与えられない』
黒く変質してしまった力では呪いしかかけられないと嘆くプリムラに、アロガンシア王は冷たく言い放った。
『プリムラ、残念だよ。戦が終わり呪いはもう必要ない。私は私のために祝福を与えてくれた魔女と婚姻を結ぶ。呪いしかかけられない君にはもう用がない』
『なぜ? 私を愛していると言ったのは嘘なの? ねぇ、あなた。お願い、こっちを向いて!』
『さようなら、プリムラ。君のことは忘れないよ』
『待って、あなた! 愛しているの……』
プリムラの願いも虚しく、アロガンシア王は彼女のもとから去っていった。
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