【R18/完結】私のことは忘れてください〜できそこないの魔女は俺様な侯爵令息に溺愛される〜

河津ミネ

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三章 呪いと祝福

9.-2

 アホガンシア王が去り、ひとり残されたプリムラはただ嘆き悲しみ続けた。
 それなのにアロガンシア王はプリムラの呪いの力を恐れたのか、プリムラの魔女の力を奪うために屈強な男たちを彼女の元に送り込んだ。
 送り込まれた男たちはかの国の者たちで、プリムラの呪いの力で故郷を奪われ、アロガンシアの捕虜にされた者たちだっま。
 恨みをこめて襲いかかる男たちに、プリムラは必死に逃げ惑う。

『いや! なぜ? なぜ、私がこんな目に……!』

 魔女の力でなんとか逃げ出すことはできたものの、ボロボロの身体でプリムラはひとり涙を流す。

『お願いだから……もう私のことは忘れて……。私のことは放っておいて……。お願い……お願いよ、あなた……』

 アロガンシア王から執拗に送られてくる追手に弱り果てながら、プリムラは悲痛な声をあげる。
 しかし魔女であるプリムラは、例えその魔力が黒く染まろうと心優しき者であることは変わらず、アロガンシア王を呪うことなどできなかった。

『私のことを忘れて欲しい。そして忘れたい。何もかもすべて。あなたを愛していたから、それが正しいことなのだと信じていたから、多くの人を傷つけその命を奪ったのに。その報いがこれだなんて……。私のしてしまったことを忘れたい。愚かな私を忘れたい。忘れたい。忘れてしまいたい。あの人を愛したことを忘れたい……』

 プリムラは自らを呪うように、呪いの言葉を吐き続けた。 

『あなたをまだ愛していることを、忘れてしまいたい……』

 プリムラの嘆きに呼応するように、ネックレスの石が強く光り輝きだした。
 途端にプリムラの呪いが暴走を始め、身体中から黒い呪いが吹き出していく。

 プリムラの呪いは黒く濃いもやとなり、プリムラの制御を失い一気に広がった。

『いやぁ! やめてっ! もう誰も傷つけたくないの! 私はもう誰も呪いたくない!!』

 プリムラの呪いは石の力で強められ、それがプリムラ自身を呪い、呪われたプリムラはまた呪いを吐き続ける。

 プリムラの呪いは自分自身を呪い、それだけでは足りずにあふれ出した呪いがアロガンシア王を呪い、さらにネックレスの周辺に漂い続けた。
 それはプリムラの身体が朽ち果てたあとも続いた。
 ネックレスの石が呪いの依代となり、プリムラの呪いを取り込んで増やしてはまた吐き続ける。

 呪いの依代が、ただそれだけを永遠にくり返す。

(古の魔女プリムラ……あなたは本当は誰も呪いたくなんてなかったのね……)

 ただあふれた呪いは、アロガンシア王家への忘却の呪いとして受け継がれてしまった。

「……」

「……フィア」

 どこが遠いところでソフィアの名前を呼ぶ声がする。

(あぁ、戻らなければ)

 でもその前に――ソフィアは縮こまってすすり泣くプリムラに手を伸ばす。
 身体はとうに朽ち果てて、それでもなお哀しみに包まれて泣くプリムラ。
 小さくなって震えるプリムラは、自身の呪いに囚われて動けなくなってしまった彼女の哀しい想いの塊。

 その願いを叶えてあげたかった。

(プリムラさん、私が代わりにあなたの呪いを引き受けます。だからもうこれ以上、自分を呪わないで……)

 プリムラの周りに泥のようにこびりつく呪いを身の内に移しながら、ソフィアの意識はゆっくりと浮上していった。
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