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9.刻まれた紋様※-1
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壁にすがりついたまま、クラリスはずるずると床に座り込んだ。
すぐに頭の上から、後悔のにじむ重苦しい声が降ってくる。
「すまん」
見上げれば、暗く影になっていてもわかるくらいジークベルトの顔からは血の気が引いて真っ白になっていた。
そしてその表情だけで人を殺せてしまいそうなほど恐ろしく顔を歪めているが、その表情はしっかりして見えるので正気を取り戻したようだ。
なにか言わないとと思うのに、なにを言えばいいかわからず言葉が出てこない。
すると再び謝罪が降ってくる。
「すまん」
ジークベルトは鎮痛な面持ちのまま乱れた衣服を手早く整えた。
そして頭を抱えその場に座り込むと、岩のように丸まった巨体から唸り声が聞こえてくる。
「団長?」
「うぅ……。悪かった。俺はこのまま騎士団本部に自首する」
「え!?」
正気に戻ってくれたのはいいが、それではジークベルトが捕まってしまう。
「えっと、でも、あれはグラオーザの魔法のせいで」
「謝ってすむことじゃないが、ほんとにすまん」
思い止まらせようと声をかけるが、このまま今すぐにでも騎士団本部に自首してしまいそうな勢いで、まるで聞く耳を持たない。
おそらくジークベルトがこんなことをしたのはグラオーザの罠のせいだ。
そしてそれはクラリスがみすみす罠にかかるような真似をしたせいで、そうでなければジークベルトに魔法がかかることも無かっただろう。
こんなことでジークベルトを犯罪者にするわけにはいかない。
「団長!!」
床にうずくまった黒い岩がビクリと揺れる。
「私は大丈夫です」
ゆっくりと、ひとつひとつの言葉を切るように告げる。
するとジークベルトはようやく顔を上げ、クラリスを見た。
しかしすぐにくしゃりと強面を歪ませる。
「あ……」
自分の姿に視線をやれば、座り込んだクラリスのスカートはほとんどめくれ上がっており、白い太ももが丸見えだ。
さらにその足にはジークベルトの放ったものがべったりとこびり付いている。
あわててスカートの裾を引き下げていると、ジークベルトが着ていたシャツを素早く脱いでクラリスに差し出した。
「とりあえずこれを」
しかしいきなり目の前にジークベルトの裸が現れ、クラリスが思わず身体をこわばらせる。
するとジークベルトが怯んだように手を引っ込める。
「う、怖がらせてすまない」
「あ、いえ」
決してジークベルト自身がが恐かったわけではないが、ジークベルトは引き寄せたシャツを手の中で握りしめた。
「俺の服じゃ嫌だろう。どこかで着替えを調達してくる」
ジークベルトが勢いよく立ち上がった瞬間、クラリスの目がジークベルトの立派な腹筋を捉える。
「団長、待ってください! それ」
「ん?」
「団長のお腹に何かあります」
クラリスが指差した先の、ちょうどジークベルトのへその下あたりに、丸い複雑な紋がうっすらと刻まれていた。
「あ? なんだこれ?」
「元々あったわけじゃないんですか?」
「あぁ。こんなのさっきまでなかったぞ」
ジークベルトの腹にはぐるりと円状の複雑な紋様が刻まれており、よく見ると模様の一部が不自然に欠けている。
この紋様にクラリスは見覚えがあった。
「あれ? これ……」
「あ、おい、待て、触るな!」
クラリスがおそるおそる手を伸ばしてジークベルトに触れた瞬間、紋様がピンクに光りだしクラリスのお腹の奥もズクンと疼く。
「きゃっ!」
「うぐっ」
ジークベルトは前屈みになって崩れ落ちるようにその場にうずくまった。
「団長!」
「離れろ!」
「は、はい」
とはいえ、壁の前に座り込んでいたのでたいして離れることはできず、ジークベルトから距離を取るように横にずれる。
ジークベルトは先ほどのように肩で息をして苦しそうに呻きだした。
どうやらまた魔法が発動しているらしい。
(やっぱり! さっきの紋様、地面の罠のと似ていたもの。ということは……)
やはりジークベルトの様子がおかしいのはあの罠のせいなのだ。
「どうしよう……」
医官を呼びに行きたいが、今のクラリスの酷い格好で外に出たら騒ぎになりかねない。
それでジークベルトが捕まるようなことがあったら困る。
どうすれば良いかわからず頭を巡らせていると、ジークベルトがふらりと立ち上がりよろけてガンと壁にぶつかった。
「あ、団長!」
あわてて立ち上がり支えようとすると、ジークベルトが怒鳴る。
「俺に、近づくな!」
ビリビリと部屋の空気が揺れ、そのままジークベルトは棚や椅子にぶつかってなぎ倒しながら仮眠室へと向かう。
そして執務室の続き部屋である仮眠室に入ると、なかば倒れ込みながら部屋に備え付けのトイレに入り思いきりドアを閉めた。
「団長……?」
仮眠室の入り口で様子を見守っていたが、トイレの中からガンッと大きな音が聞こえた。
中で倒れていたら大変だとクラリスが駆けつける。
「団長! 大丈夫ですか?」
中からはガツンガツンぶつかる音と共に、ジークベルトがまた自分を慰めているらしい音がする。
しかし思うようにいかないようで、焦った声が聞こえた。
「クソッ!!」
(苦しそう……。きっと、さっきみたいに出さないと治らないのよね?)
そしておそらくだが、自分で慰めるだけではどうにもできないのではないだろうか。
中からは苦しそうな呻き声が絶え間なく聞こえてくる。
(なにか、なにか私にできることはない?)
医官を呼びにいくにしても、この姿のままというわけにはいかないだろう。
ひときわ大きい呻き声が聞こえてきて、クラリスの胸が締めつけられる。
(こんなのダメ! 団長が一人で苦しむなんて! 私のせいなのに!!)
クラリスは小さく深呼吸をすると、ジークベルトに声をかけた。
「団長」
「……ここはいいから、おまえは、早く……この部屋を出ろ」
「嫌です!」
そして胸の前でこぶしを握りこみながら、息をひとつ飲み込んだ。
「団長。さ、さっきの、また、やりますか?」
すぐに頭の上から、後悔のにじむ重苦しい声が降ってくる。
「すまん」
見上げれば、暗く影になっていてもわかるくらいジークベルトの顔からは血の気が引いて真っ白になっていた。
そしてその表情だけで人を殺せてしまいそうなほど恐ろしく顔を歪めているが、その表情はしっかりして見えるので正気を取り戻したようだ。
なにか言わないとと思うのに、なにを言えばいいかわからず言葉が出てこない。
すると再び謝罪が降ってくる。
「すまん」
ジークベルトは鎮痛な面持ちのまま乱れた衣服を手早く整えた。
そして頭を抱えその場に座り込むと、岩のように丸まった巨体から唸り声が聞こえてくる。
「団長?」
「うぅ……。悪かった。俺はこのまま騎士団本部に自首する」
「え!?」
正気に戻ってくれたのはいいが、それではジークベルトが捕まってしまう。
「えっと、でも、あれはグラオーザの魔法のせいで」
「謝ってすむことじゃないが、ほんとにすまん」
思い止まらせようと声をかけるが、このまま今すぐにでも騎士団本部に自首してしまいそうな勢いで、まるで聞く耳を持たない。
おそらくジークベルトがこんなことをしたのはグラオーザの罠のせいだ。
そしてそれはクラリスがみすみす罠にかかるような真似をしたせいで、そうでなければジークベルトに魔法がかかることも無かっただろう。
こんなことでジークベルトを犯罪者にするわけにはいかない。
「団長!!」
床にうずくまった黒い岩がビクリと揺れる。
「私は大丈夫です」
ゆっくりと、ひとつひとつの言葉を切るように告げる。
するとジークベルトはようやく顔を上げ、クラリスを見た。
しかしすぐにくしゃりと強面を歪ませる。
「あ……」
自分の姿に視線をやれば、座り込んだクラリスのスカートはほとんどめくれ上がっており、白い太ももが丸見えだ。
さらにその足にはジークベルトの放ったものがべったりとこびり付いている。
あわててスカートの裾を引き下げていると、ジークベルトが着ていたシャツを素早く脱いでクラリスに差し出した。
「とりあえずこれを」
しかしいきなり目の前にジークベルトの裸が現れ、クラリスが思わず身体をこわばらせる。
するとジークベルトが怯んだように手を引っ込める。
「う、怖がらせてすまない」
「あ、いえ」
決してジークベルト自身がが恐かったわけではないが、ジークベルトは引き寄せたシャツを手の中で握りしめた。
「俺の服じゃ嫌だろう。どこかで着替えを調達してくる」
ジークベルトが勢いよく立ち上がった瞬間、クラリスの目がジークベルトの立派な腹筋を捉える。
「団長、待ってください! それ」
「ん?」
「団長のお腹に何かあります」
クラリスが指差した先の、ちょうどジークベルトのへその下あたりに、丸い複雑な紋がうっすらと刻まれていた。
「あ? なんだこれ?」
「元々あったわけじゃないんですか?」
「あぁ。こんなのさっきまでなかったぞ」
ジークベルトの腹にはぐるりと円状の複雑な紋様が刻まれており、よく見ると模様の一部が不自然に欠けている。
この紋様にクラリスは見覚えがあった。
「あれ? これ……」
「あ、おい、待て、触るな!」
クラリスがおそるおそる手を伸ばしてジークベルトに触れた瞬間、紋様がピンクに光りだしクラリスのお腹の奥もズクンと疼く。
「きゃっ!」
「うぐっ」
ジークベルトは前屈みになって崩れ落ちるようにその場にうずくまった。
「団長!」
「離れろ!」
「は、はい」
とはいえ、壁の前に座り込んでいたのでたいして離れることはできず、ジークベルトから距離を取るように横にずれる。
ジークベルトは先ほどのように肩で息をして苦しそうに呻きだした。
どうやらまた魔法が発動しているらしい。
(やっぱり! さっきの紋様、地面の罠のと似ていたもの。ということは……)
やはりジークベルトの様子がおかしいのはあの罠のせいなのだ。
「どうしよう……」
医官を呼びに行きたいが、今のクラリスの酷い格好で外に出たら騒ぎになりかねない。
それでジークベルトが捕まるようなことがあったら困る。
どうすれば良いかわからず頭を巡らせていると、ジークベルトがふらりと立ち上がりよろけてガンと壁にぶつかった。
「あ、団長!」
あわてて立ち上がり支えようとすると、ジークベルトが怒鳴る。
「俺に、近づくな!」
ビリビリと部屋の空気が揺れ、そのままジークベルトは棚や椅子にぶつかってなぎ倒しながら仮眠室へと向かう。
そして執務室の続き部屋である仮眠室に入ると、なかば倒れ込みながら部屋に備え付けのトイレに入り思いきりドアを閉めた。
「団長……?」
仮眠室の入り口で様子を見守っていたが、トイレの中からガンッと大きな音が聞こえた。
中で倒れていたら大変だとクラリスが駆けつける。
「団長! 大丈夫ですか?」
中からはガツンガツンぶつかる音と共に、ジークベルトがまた自分を慰めているらしい音がする。
しかし思うようにいかないようで、焦った声が聞こえた。
「クソッ!!」
(苦しそう……。きっと、さっきみたいに出さないと治らないのよね?)
そしておそらくだが、自分で慰めるだけではどうにもできないのではないだろうか。
中からは苦しそうな呻き声が絶え間なく聞こえてくる。
(なにか、なにか私にできることはない?)
医官を呼びにいくにしても、この姿のままというわけにはいかないだろう。
ひときわ大きい呻き声が聞こえてきて、クラリスの胸が締めつけられる。
(こんなのダメ! 団長が一人で苦しむなんて! 私のせいなのに!!)
クラリスは小さく深呼吸をすると、ジークベルトに声をかけた。
「団長」
「……ここはいいから、おまえは、早く……この部屋を出ろ」
「嫌です!」
そして胸の前でこぶしを握りこみながら、息をひとつ飲み込んだ。
「団長。さ、さっきの、また、やりますか?」
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