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41.すれ違い-2
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全身で怒りを表すジークベルトになんとか追いつきながら、クラリスはどうしてここまでジークベルトが怒っているのかがわからなかった。
ジークベルトの執務室まで向かう途中、何度か第三騎士団の騎士らが話しかけようとしてきたが、ジークベルトの恐ろしい雰囲気に気圧されて皆ためらって止める。
ようやくジークベルトの執務室に到着すると、クラリスはドアに押しつけられるようにしてその太い腕で囲われた。
ジークベルトが恐ろしい顔をしてクラリスを見下ろしている。
「あ、あの……?」
「さっきアイツが言ってた話ってなんだ?」
アイツとはヴェルディの事だろう。
ヴェルディの言ったことを説明するためには、シュトラール殿下から結婚相手を紹介すると言われたことも言わなくてはならないと思いクラリスは言い淀む。
これでジークベルトから結婚相手を紹介されるようなことになったら耐えられない。
「あの、団長には関係ない話です」
「俺には言えないってことか!?」
ジークベルトはドアを押さえている腕に額をグッと押し付けて舌打ちをした。
見上げれば鼻の上にいくつもシワをよせてクラリスをにらんでいる。
「あの、団長……?」
「おまえの身体からアイツの魔力があふれている」
「それは、だって、ヴェルディの魔力をもらったからで」
ギロリとクラリスをにらむジークベルトの目がわずかに血走って見える。
ただ魔力を与えられただけなのに、どうしてここまで怒られなければならないのか。
ジークベルトの邪魔をしたくないと思ったのは、そんなに悪いことだったのだろうか。
「アイツに身体を触れさせたのか?」
「え? えっと、はい」
「どうして」
「どうしてって、そうしなければ魔力を与えられないって言われて」
「おまえは誰でもいいのか!? それともアイツだからか……」
「え?」
ただお腹に少し触れさせただけで、ここまで一方的に責められる理由がわからない。
ジークベルトはヴェルディを少し悪く考えすぎているのではないか。
多少口が悪くて意地の悪いところもあるが、根は悪い人ではない。
クラリスはジークベルトになんとかわかってもらおうと必死に説明をした。
「あの、ヴェルディの腕は確かですし、そんな酷いことはしません。それにヴェルディの魔力をもらえば、団長と離れても平気になるって聞いて」
「……そんなに俺と離れたかったのか?」
ジークベルトの責めるような口調に、クラリスは納得がいかず言い返した。
「どうしてそうなるんですか! 私はそんなこと一言も言ってません」
「アイツの魔力をもらうっていうのは、そういう事だろう!」
「だって私がヴェルディに魔力をもらえれば、団長もエンデ討伐に行けるじゃないですか! それの何が悪いんですか!?」
「だからって、アイツはずっとおまえに『反魅了』の魔法をかけていたんだぞ!」
「それは王命だからで、ヴェルディのせいじゃありません!」
「アイツをかばうのか?」
「ヴェルディに酷いことをさせたのは王家の人たちです。そんなにヴェルディを嫌わなくたっていいじゃないですか……って、きゃあ!」
クラリスが話している途中に、ジークベルトが拳でダンとドアを叩いた。
二人の言い合う声とドアを叩く音は部屋の外にも漏れ聞こえているようで、ドアの外がなんだか騒がしい気配がする。
ジークベルトは絞り出すようにして声を出した。
「おまえはアイツに触れられても嫌じゃないのか?」
「え? それは別に」
ジークベルトはグッと喉を鳴らしクラリスを囲い込んでいた身体をゆっくりと離した。
「つまりそれがおまえの答えってことか」
「え? えっと、それはどういう意味ですか?」
呻き声と共に壁に叩きつけられていた拳がギュッと握り込まれ、クラリスを見つめる黒い目がなぜか悲しげに見える。
ジークベルトの怒りは治まったようだが、何も解決した気がしない。
「じゃあ勝手にしろ」
「団長! 団長ってば!!」
「俺のことを団長って呼ぶな!」
ジークベルトはクラリスから目を逸らすと、もう目を合わせてくれなかった。
「そこをどいてくれ。まだ明日の準備があるから行ってくる」
ジークベルトは目を伏せたまま、クラリスにドアの前からどくように告げた。
クラリスがドアの前から動くと、ジークベルトはドアを開けて外に出ていく。
「おまえら! 何やってる!!」
ドアの外には中の様子を伺っていた第三騎士団の騎士たちがいたようで、ジークベルトが怒鳴って彼らを追い払う。
後ろ手にドアを閉めながら、ジークベルトはクラリスに言い捨てた。
「そんなにアイツがいいなら、アイツの所に行けばいい」
「え、なんでそうなるんですか……あっ!」
クラリスの返事を聞くことなく、執務室のドアは無情にも閉められてしまった。
執務室に一人取り残されたクラリスは呆然とその場に立ち尽くす。
「ジーク……どうして?」
クラリスの緑の目から大粒の涙があふれてくる。
ヴェルディに魔力をもらったから、二人が離れても身体はもう痛まないはずなのに。
クラリスの胸はまるでズタズタに引き裂かれてしまったように痛み、ただ一人で涙を流し続けるのだった。
ジークベルトの執務室まで向かう途中、何度か第三騎士団の騎士らが話しかけようとしてきたが、ジークベルトの恐ろしい雰囲気に気圧されて皆ためらって止める。
ようやくジークベルトの執務室に到着すると、クラリスはドアに押しつけられるようにしてその太い腕で囲われた。
ジークベルトが恐ろしい顔をしてクラリスを見下ろしている。
「あ、あの……?」
「さっきアイツが言ってた話ってなんだ?」
アイツとはヴェルディの事だろう。
ヴェルディの言ったことを説明するためには、シュトラール殿下から結婚相手を紹介すると言われたことも言わなくてはならないと思いクラリスは言い淀む。
これでジークベルトから結婚相手を紹介されるようなことになったら耐えられない。
「あの、団長には関係ない話です」
「俺には言えないってことか!?」
ジークベルトはドアを押さえている腕に額をグッと押し付けて舌打ちをした。
見上げれば鼻の上にいくつもシワをよせてクラリスをにらんでいる。
「あの、団長……?」
「おまえの身体からアイツの魔力があふれている」
「それは、だって、ヴェルディの魔力をもらったからで」
ギロリとクラリスをにらむジークベルトの目がわずかに血走って見える。
ただ魔力を与えられただけなのに、どうしてここまで怒られなければならないのか。
ジークベルトの邪魔をしたくないと思ったのは、そんなに悪いことだったのだろうか。
「アイツに身体を触れさせたのか?」
「え? えっと、はい」
「どうして」
「どうしてって、そうしなければ魔力を与えられないって言われて」
「おまえは誰でもいいのか!? それともアイツだからか……」
「え?」
ただお腹に少し触れさせただけで、ここまで一方的に責められる理由がわからない。
ジークベルトはヴェルディを少し悪く考えすぎているのではないか。
多少口が悪くて意地の悪いところもあるが、根は悪い人ではない。
クラリスはジークベルトになんとかわかってもらおうと必死に説明をした。
「あの、ヴェルディの腕は確かですし、そんな酷いことはしません。それにヴェルディの魔力をもらえば、団長と離れても平気になるって聞いて」
「……そんなに俺と離れたかったのか?」
ジークベルトの責めるような口調に、クラリスは納得がいかず言い返した。
「どうしてそうなるんですか! 私はそんなこと一言も言ってません」
「アイツの魔力をもらうっていうのは、そういう事だろう!」
「だって私がヴェルディに魔力をもらえれば、団長もエンデ討伐に行けるじゃないですか! それの何が悪いんですか!?」
「だからって、アイツはずっとおまえに『反魅了』の魔法をかけていたんだぞ!」
「それは王命だからで、ヴェルディのせいじゃありません!」
「アイツをかばうのか?」
「ヴェルディに酷いことをさせたのは王家の人たちです。そんなにヴェルディを嫌わなくたっていいじゃないですか……って、きゃあ!」
クラリスが話している途中に、ジークベルトが拳でダンとドアを叩いた。
二人の言い合う声とドアを叩く音は部屋の外にも漏れ聞こえているようで、ドアの外がなんだか騒がしい気配がする。
ジークベルトは絞り出すようにして声を出した。
「おまえはアイツに触れられても嫌じゃないのか?」
「え? それは別に」
ジークベルトはグッと喉を鳴らしクラリスを囲い込んでいた身体をゆっくりと離した。
「つまりそれがおまえの答えってことか」
「え? えっと、それはどういう意味ですか?」
呻き声と共に壁に叩きつけられていた拳がギュッと握り込まれ、クラリスを見つめる黒い目がなぜか悲しげに見える。
ジークベルトの怒りは治まったようだが、何も解決した気がしない。
「じゃあ勝手にしろ」
「団長! 団長ってば!!」
「俺のことを団長って呼ぶな!」
ジークベルトはクラリスから目を逸らすと、もう目を合わせてくれなかった。
「そこをどいてくれ。まだ明日の準備があるから行ってくる」
ジークベルトは目を伏せたまま、クラリスにドアの前からどくように告げた。
クラリスがドアの前から動くと、ジークベルトはドアを開けて外に出ていく。
「おまえら! 何やってる!!」
ドアの外には中の様子を伺っていた第三騎士団の騎士たちがいたようで、ジークベルトが怒鳴って彼らを追い払う。
後ろ手にドアを閉めながら、ジークベルトはクラリスに言い捨てた。
「そんなにアイツがいいなら、アイツの所に行けばいい」
「え、なんでそうなるんですか……あっ!」
クラリスの返事を聞くことなく、執務室のドアは無情にも閉められてしまった。
執務室に一人取り残されたクラリスは呆然とその場に立ち尽くす。
「ジーク……どうして?」
クラリスの緑の目から大粒の涙があふれてくる。
ヴェルディに魔力をもらったから、二人が離れても身体はもう痛まないはずなのに。
クラリスの胸はまるでズタズタに引き裂かれてしまったように痛み、ただ一人で涙を流し続けるのだった。
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