モナムール

葵樹 楓

文字の大きさ
26 / 33

囚われの身

しおりを挟む
彼女にはその光景が頭に焼き付いてしまった。

 そこから先は、あまり記憶がハッキリしていない。

 なにか叫んだような気もするし、何もできなかったような気もする。

 ただ、その瞬間が、どんなに時間が経っても忘れられず、ハッキリと残ってしまっていた。

 彼女がようやく正気に戻った時には、両手首に手枷がはめられていた。


 あの後、エンメルトが呆然とするマシェリーの腕を取って、引きずるように走った。

 息が上がるのも忘れて、ただ何も考えずに走ったようだ。一本の道が、かなり長く感じられた。

 森を抜けると、そこには多くの兵士と馬車が置かれており、二人は何の弁明もする余地もなく、鉄格子のはまった馬車のなかに放り込まれた。

 その兵士たちは、サヘラベート家に従属しているものらしい。狼たちの猛攻を受けて、攻めあぐねた者たちのようだ。

「私たちは屋敷から逃げてきただけだ! 何故このような仕打ちを受けなければならない!」

「サヘラベート様が戻られていない。それに、森の奥深くで伯爵夫人様が亡くなられていたそうだ。誰が犯人なのかもわからない」

「犯人だと? 狼に決まっているだろう、そんなもの!」

 エンメルトがそう訴えるも、兵士たちはまるで機械のように機敏に動くだけで、彼の話を聞こうともしない。エンメルトの隣で呆然としている彼女は、魂が抜けてしまったかのように座り込んでいた。

 その様子を見、彼も共に黙り込んだ。

 今はただ、神に祈ることしかできることはない。

 結局、その日は流星のように時間が流れるばかりだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

処理中です...