22 / 108
第二条:仕事は正確に、完璧に遂行せよ。
/11
しおりを挟む
その頃、静寂に包まれていた美代学園の周囲は、何やら物々しい雰囲気が漂い始めていた。
学園の周囲に続々と集結する、多数の大型バンたち。ガラッと横開きのドアが開けば、中から出てくるのは完全武装をし、目出し帽(バラクラバ)で目元以外を覆い隠した連中だった。
彼らは全て、国際犯罪シンジケート"スタビリティ"が海外から寄せ集めた傭兵集団だった。戦闘服に防弾プレート・キャリア、外国製の質の良い自動ライフルなどで身を固めた彼らの格好は、傭兵というよりも何処かの軍隊と言われた方がしっくりくるような出で立ちだ。
しかしそんな彼らの中に、唯一目出し帽で顔を隠していない巨漢の姿があった。目元に黒の偏光レンズのサングラスを掛けた、黒い短髪のアジア人。この男こそ、"ウォードッグ"の異名を持つ香港出身の殺し屋、ジェフリー・ウェンだ。
物々しい格好で身を包む他の傭兵たちの中、ウォードッグだけは独り、ジーンズに黒いTシャツ、黒の革ジャケットとラフな格好だった。指の部分だけが無い革製の黒い指ぬきグローブで口元に咥えるラッキー・ストライクの煙草を摘まむ仕草は、最早ベテランの余裕すら漂わせている。
「……余裕だね、ウォードッグ」
すると、バンから降りてきたもう一人の女に、ウォードッグが後ろから声を掛けられた。
のそっとした動作でウォードッグが声のした方へと振り返れば、そこには随分と幼げな風貌をした少女が立っていた。
いや、少女と言うのは失礼か。幾ら顔立ちが幼かろうと、幾ら彼女が黒色を基調としたゴシック・ロリータめいた格好をしていても、今ウォードッグの見下ろす彼女は既に成人年齢をとうに過ぎているのだから。
「あァ? ――――なんだ、クララか」
「何だとは失礼じゃないか、ウォードッグ」
クララ、と呼ばれた彼女はウォードッグの雑な対応に軽く肩を竦めつつ、小さく後ろで結ったすみれ色の髪を揺らしながら不満げに言葉を返す。
「僕としては、君を褒めたつもりなんだけれどね」
呆れきった顔でウォードッグの顔を横目に見上げながら言う彼女、クララもまた、"スタビリティ"が海外から呼び寄せた殺し屋の一人だった。
とはいえ、顔立ちは比較的西洋的なものの、クララの顔はやはり日系のそれだった。こんな名前だが、ハーフか何かなのだろうか。一瞬だけウォードッグも気にはなったが、それを彼女に訊くことはしなかった。
「……相変わらず小っちぇなァ、お前」
ニィッと凶暴にも見える犬歯剥き出しの笑みを浮かべながら、クララを見下ろすウォードッグが言う。身長190センチ越えの巨漢なウォードッグと、140センチと少しぐらいしか無さそうなクララ。この二人が並び立つと、まるで大人と子供のようだった。
「ウォードッグ、その話は止しなって言ったじゃないか」
すると、クララは笑顔のまま。しかし氷のように冷え切った瞳を見上げるウォードッグに向けながらで冷ややかに言う。
「おお、怖い怖い……」
確かな殺気の籠もった視線を向けられると、ウォードッグは茶化しながらも思いのほかあっさりと身を引く。何せ此処に来てから一度、身長の件をクララに言って酷い目に遭っているのだ。ウォードッグとしても、仕事を前にした今、彼女と不用意に揉め事は起こしたくなかった。
「全く、君って奴は本当に……」
何か文句を言いたげに唸るクララの横を、多くの傭兵たちが忙しなく通り抜けていく。
ウォードッグとクララがそんなやり取りを交わしている間にも、別動の工作班によって学園周辺への妨害工作が始められていた。電話線に電線を切断し、更に随伴する指揮車両によって、広域への電波妨害を行う。こうすることによって、警察への通報を遅らせる狙いだ。
美代学園の周辺は田畑が多く、人家が極端に少ない。そんな環境下にあっては車通りも極端に少なく、今この時を以て、この美代学園は一種の陸の孤島と化したのだ。他でもない、"スタビリティ"の遣わせた傭兵たちの手によって。
「各員、好きに動けばいいよ」
一通りの妨害工作が終われば、作戦開始の指示を待つ完全装備の傭兵たちがクララと、そしてウォードッグの傍へと集まってくる。するとクララがそうやって、ある意味で適当とも取れる指示を下した。この現場での実質的な指揮権は、この二人に預けられていたのだ。
「僕とウォードッグは、こっちはこっちで好きにやらせて貰う。僕らの目的は荷物の速やかな回収だ、間違っても荷物を殺してしまわないように」
そう言いながら、クララは腰の小振りなホルスターに収めていた自前の拳銃を抜いた。ベレッタの古い自動拳銃、モデル70"ピューマ"だ。
弾倉を抜き、残弾を確認してから差し直し、それからホルスターに収め直す。こまめな残弾確認が、クララの癖だった。
「交戦規定は、ただひとつだけだ」
そうしてから、クララは気怠そうに、至極言いたく無さそうな雰囲気を醸し出しながら、小さな溜息と共に目の前に集結した傭兵たちに告げる。
「……交戦規定は、園崎和葉の確保。そして――――それ以外、全ての抹殺だ」
――――日常が非日常へと変わり、そして緩やだった平穏は音を立てて崩れ落ちる。
学園の周囲に続々と集結する、多数の大型バンたち。ガラッと横開きのドアが開けば、中から出てくるのは完全武装をし、目出し帽(バラクラバ)で目元以外を覆い隠した連中だった。
彼らは全て、国際犯罪シンジケート"スタビリティ"が海外から寄せ集めた傭兵集団だった。戦闘服に防弾プレート・キャリア、外国製の質の良い自動ライフルなどで身を固めた彼らの格好は、傭兵というよりも何処かの軍隊と言われた方がしっくりくるような出で立ちだ。
しかしそんな彼らの中に、唯一目出し帽で顔を隠していない巨漢の姿があった。目元に黒の偏光レンズのサングラスを掛けた、黒い短髪のアジア人。この男こそ、"ウォードッグ"の異名を持つ香港出身の殺し屋、ジェフリー・ウェンだ。
物々しい格好で身を包む他の傭兵たちの中、ウォードッグだけは独り、ジーンズに黒いTシャツ、黒の革ジャケットとラフな格好だった。指の部分だけが無い革製の黒い指ぬきグローブで口元に咥えるラッキー・ストライクの煙草を摘まむ仕草は、最早ベテランの余裕すら漂わせている。
「……余裕だね、ウォードッグ」
すると、バンから降りてきたもう一人の女に、ウォードッグが後ろから声を掛けられた。
のそっとした動作でウォードッグが声のした方へと振り返れば、そこには随分と幼げな風貌をした少女が立っていた。
いや、少女と言うのは失礼か。幾ら顔立ちが幼かろうと、幾ら彼女が黒色を基調としたゴシック・ロリータめいた格好をしていても、今ウォードッグの見下ろす彼女は既に成人年齢をとうに過ぎているのだから。
「あァ? ――――なんだ、クララか」
「何だとは失礼じゃないか、ウォードッグ」
クララ、と呼ばれた彼女はウォードッグの雑な対応に軽く肩を竦めつつ、小さく後ろで結ったすみれ色の髪を揺らしながら不満げに言葉を返す。
「僕としては、君を褒めたつもりなんだけれどね」
呆れきった顔でウォードッグの顔を横目に見上げながら言う彼女、クララもまた、"スタビリティ"が海外から呼び寄せた殺し屋の一人だった。
とはいえ、顔立ちは比較的西洋的なものの、クララの顔はやはり日系のそれだった。こんな名前だが、ハーフか何かなのだろうか。一瞬だけウォードッグも気にはなったが、それを彼女に訊くことはしなかった。
「……相変わらず小っちぇなァ、お前」
ニィッと凶暴にも見える犬歯剥き出しの笑みを浮かべながら、クララを見下ろすウォードッグが言う。身長190センチ越えの巨漢なウォードッグと、140センチと少しぐらいしか無さそうなクララ。この二人が並び立つと、まるで大人と子供のようだった。
「ウォードッグ、その話は止しなって言ったじゃないか」
すると、クララは笑顔のまま。しかし氷のように冷え切った瞳を見上げるウォードッグに向けながらで冷ややかに言う。
「おお、怖い怖い……」
確かな殺気の籠もった視線を向けられると、ウォードッグは茶化しながらも思いのほかあっさりと身を引く。何せ此処に来てから一度、身長の件をクララに言って酷い目に遭っているのだ。ウォードッグとしても、仕事を前にした今、彼女と不用意に揉め事は起こしたくなかった。
「全く、君って奴は本当に……」
何か文句を言いたげに唸るクララの横を、多くの傭兵たちが忙しなく通り抜けていく。
ウォードッグとクララがそんなやり取りを交わしている間にも、別動の工作班によって学園周辺への妨害工作が始められていた。電話線に電線を切断し、更に随伴する指揮車両によって、広域への電波妨害を行う。こうすることによって、警察への通報を遅らせる狙いだ。
美代学園の周辺は田畑が多く、人家が極端に少ない。そんな環境下にあっては車通りも極端に少なく、今この時を以て、この美代学園は一種の陸の孤島と化したのだ。他でもない、"スタビリティ"の遣わせた傭兵たちの手によって。
「各員、好きに動けばいいよ」
一通りの妨害工作が終われば、作戦開始の指示を待つ完全装備の傭兵たちがクララと、そしてウォードッグの傍へと集まってくる。するとクララがそうやって、ある意味で適当とも取れる指示を下した。この現場での実質的な指揮権は、この二人に預けられていたのだ。
「僕とウォードッグは、こっちはこっちで好きにやらせて貰う。僕らの目的は荷物の速やかな回収だ、間違っても荷物を殺してしまわないように」
そう言いながら、クララは腰の小振りなホルスターに収めていた自前の拳銃を抜いた。ベレッタの古い自動拳銃、モデル70"ピューマ"だ。
弾倉を抜き、残弾を確認してから差し直し、それからホルスターに収め直す。こまめな残弾確認が、クララの癖だった。
「交戦規定は、ただひとつだけだ」
そうしてから、クララは気怠そうに、至極言いたく無さそうな雰囲気を醸し出しながら、小さな溜息と共に目の前に集結した傭兵たちに告げる。
「……交戦規定は、園崎和葉の確保。そして――――それ以外、全ての抹殺だ」
――――日常が非日常へと変わり、そして緩やだった平穏は音を立てて崩れ落ちる。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる