SIX RULES

黒陽 光

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第四条:深追いはしない。

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「へっへっへ……」
「っ……」
 蹴破った扉を背に立ち、犬歯剥き出しの獰猛な笑顔を浮かべるウォードッグと、そして和葉を隠す祭壇を背に、ステンドグラス越しの光を浴びながらのハリーとが睨み合う。
 二人とも、どちらが先に仕掛けるかのタイミングを図っていて。そうしながらハリーは静かにSG553自動ライフルのセレクタを親指で弾きセミオートに合わせ、ウォードッグの方は背中に背負ったAKライフル――中国製コピー品・折り畳み銃床モデルの56-1式――を手元に手繰り寄せ、同じくセレクタをセミオートの位置まで押し下げれば、ボルトハンドルを左手でガシャッと派手に引く。
「…………」
 そうしながら、二人はただ黙って見合っていた。ハリーもウォードッグも、既に言葉を必要とはしない。ただ、互いを確実に殺せるタイミングを見極めようとしているだけだ。
 すると、開いた窓から教会の中に何匹かの鳩が迷い込んできた。白い翼をバタつかせながら入ってくると、祭壇の近くに降りて止まる。
 ガーン、ガーンと遠くで鐘の音が聞こえてくる。それに驚いた鳩がまた飛び立つのを合図にして――――二人は、全く同時のタイミングで仕掛けた。
「っ!」
「ヒャアッ」
 互い違いの方向に駆け出しながら、ハリーはSG553を、ウォードッグはAKライフルをブッ放す。5.56mm×45と7.62mm×39のライフル弾が互いに交錯し合い、二人の傍を掠めていく。
 タンタンタン、と気味良くも聞こえる軽快なペースで引鉄を絞り撃ち合いつつ、二人はそれぞれ教会内で対角線上になるよう、お互いに太い支柱の裏へと身を隠した。
「チィッ!」
 隠れながら膝立ちになり、その柱の陰から半身を出すようにしてハリーがSG553を構え、覗き込むT-2ドット・サイトの赤い光点を目印に狙いを定めながら撃ちまくる。セレクタは既に三点バーストに切り替えていたから、一度引鉄を引く度に三発が同時に撃ち放たれた。
 ハナから当てるつもりは無く、あくまでウォードッグをあの柱に釘付けにする為の射撃だ。だからこそ、ハリーは撃ちながら立ち上がり、柱から柱を移動するように、徐々に距離を詰めていく。
「ヒャハッ」
 と、ハリーのSG553に差さっていた二十連弾倉が底を尽きたタイミングを見計らい、今度はウォードッグが柱の陰から飛び出してきた。
 フルオートに切り替えたAKライフルをブッ放し、牽制代わりに弾をバラ撒きながらハリーの方に突進を仕掛けてくる。長い木造のベンチを軽く飛び越えながら、一瞬の内に奴は対岸の柱の陰から、教会の中央を走る赤絨毯の所まで迫っていた。
「早い……!」
 その巨体に見合わぬウォードッグの俊敏な動きに軽く舌を巻きつつ、速攻で弾倉交換を終えたハリーがそれに応戦する。するとウォードッグはスライディングするようにベンチの陰にドデカい身体を滑り込ませ、迫り来る5.56mm弾の猛攻から身を隠した。
(奴は、接近戦を仕掛ける気だ)
 再び三点バーストで牽制射撃を加えつつ後退しながら、ハリーはそう確信していた。
 ウォードッグの持つ中国製AKライフル、56-1式の特徴は折り畳み式の槍みたいな格好をしたスパイク銃剣が標準装備されていることにある。さっきチラッと見ただけだったが、こっちに突っ込んでくるウォードッグが構えていたAKライフルは、その銃剣が銃口から先に向かって起き上がっていたのだ。
 ともすれば、やはりウォードッグは接近戦を仕掛ける為にあんな大胆な距離の詰め方をしたのだろうと推測できる。だが、ハリーとしては御免だった。自分から突っ込んでくるということは、即ちそれだけ接近戦に自信があるということ。そんな奴の相手をするだなんて、勘弁して貰いたいところだ。
(だが、こっちの弾倉も多くは無い)
 そう思いながら、ハリーは再び初めの柱の裏に身を潜めた。空になった弾倉を足元に叩き落とし、尻ポケットから出した新たな弾倉を差し込む。
 これで、SG553用の弾倉は残り二つだ。後一回の弾倉交換をしてしまえば、それで終わりという計算。本来ならばそれでも弾倉四つ、合計八〇発の弾がある計算だから十分なのだが、相手があのウォードッグとなると些かの不安感を感じざるを得ない。
「隠れんぼかァ?」
 ともすれば、いつの間にか這って後退していたウォードッグが立ち上がり、再びこっちに向けて撃ちまくりながらの突進を仕掛けて来た。
「黙ってろ!」
 ハリーは再び膝立ちになって柱の裏から半身を乗り出し、応戦射撃開始。しかし、俊敏な動きで縦横無尽に駆け巡るウォードッグの身体をライフル弾が抉ることはない。
「チッ……!」
 そうしていれば、あっという間に弾が切れてしまう。素早く弾倉を放り捨て、尻ポケットから引っ張り出した最期の弾倉を叩き込み、下がりっぱなしのボルトハンドルを引いて再装填。そしてSG553を構え直すと――――。
「へっへっへっ……」
「な――――!?」
 ――――すぐ傍に、奴の凶暴な笑顔があった。
「シャアッ」
 弾倉交換の隙を突き、身を低くして一気に距離を詰めてきていたウォードッグは、屈んだ格好のままでここぞとばかりにAKライフルの銃剣をハリーに向かい突き出してきた。この時ハリーにとって不幸中の幸いだったのは、奴も弾を切らしていたのか、AKライフルを撃たなかったことだ……。
「うおっ!?」
 咄嗟の判断で後ろに飛び退くものの、しかしハリーの胸元を抉らんと銃剣の先端が迫る。半ば無意識で横倒しにし盾にしたSG553の機関部へ、突き出されたAKライフルのスパイク銃剣が思い切り突き刺さった。
「おっと」
 先端部分に重いSG553が深々と突き刺さったせいか、重心を崩してしまったウォードッグが一瞬だけよろめく。その隙を見逃さずハリーは後退し、そのまま駆け出して反対側の柱の裏に文字通り飛び込んだ。
「へヘッ、やるねェ」
 すると、ウォードッグは突き刺さったSG553ごとAKライフルを足元に投げ捨て、そして歓喜の笑みを浮かべる。
「今の一撃、避けられるたァ思わなかったぜ」
 姿を見失ったハリーに向かいそう語り掛けながら、ウォードッグは今度は両腰からドデカい拳銃を抜き、二挺拳銃の格好で構えてみせた。
「おいおい……」
 ハリーもハリーで柱の陰で尻餅を突きながら隠れつつ、腰に差したベレッタ・モデル92FSの自動拳銃を両手で抜き、二挺拳銃になりつつその様子をチラリと眺め、そして冷や汗を流していた。
 ――――奴が両手で抜き放った、銀色に光るステンレス・フレームのドデカいリヴォルヴァー式拳銃。アレはブラジル製のトーラス・レイジングブルに違いない。見たところ.44マグナム弾仕様だが、それでも強力なマグナム弾をブッ放す厄介な拳銃であることは間違いないのだ。
 だからこそ、ハリーは焦燥していた。あんなもの、一撃でも喰らえばひとたまりもない……。
「さァ、第二ラウンドと洒落込もうぜェ」
 白い羽を撒き散らす数羽の鳩が忙しなく飛び交う教会の中、獰猛な笑みを浮かべたウォードッグの手の中から、轟音と共にあまりに突然に強烈な火花が瞬いた。
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