SIX RULES

黒陽 光

文字の大きさ
72 / 108
第六条(上):この五ヶ条を破らなければならなくなった時は――――

/2

しおりを挟む
 そうしてユーリ・ヴァレンタインが着実に己の野望へ王手を打っていた頃、屋敷のある山の麓では。夜闇に包まれる空が東方よりまどろみ出すより手前の、まだまだ暗い深夜の暗闇をヘッド・ライトの強烈な光で切り裂きながら、獣道にも似た細い道の路肩に巨大な四輪駆動車が滑り込んでいた。
 闇夜に溶け込むような黒いボディをしたそれは、ミリィ・レイスの操るハマーH1だ。路肩に停まったそのハマーがエンジンを切ると、後部ドアから高級そうな黒いイタリアン・スーツに身を包んだ長身の男が外界へと脚を下ろす。
 ハリー・ムラサメだ。傷付いた満身創痍の身体に鞭打ち、全てに決着を付けるべく、伝説の殺し屋が再び姿を現したのだ。暗い夜闇に姿を紛れ込ませながら、しかしその鷹のように鋭い双眸を、僅かな月明かりの下で覗かせながら。
 ハリーは停まったハマーの後方に回ると後部ドアを開き、ラゲッジ・スペースに載せていた武器満載の黒いボストン・バッグを手繰り寄せる。するとおもむろにバッグを開き、無言のままで黙々と装備を次々に身に着けていった。
 主装備のSIG-516自動ライフルは胸の前に負い紐スリングで吊る形で吊るし、樹脂製の予備弾倉は左腰の前側にある弾倉ポーチへと収める。ショットガン用の予備弾が満載されたシェルホルダーを括り付けたベルトをスーツジャケットの下、ワイシャツの上から腹辺りに直接巻き付け、その後でハリーはTTIカスタムのベネリM4自動ショットガンを背中に背負う。全ての銃は身に着ける前に、ボルト・ハンドルなりスライドなりを引いて初弾を薬室に叩き込んでおいた。
 全ての武器弾薬類を身に着け、完全装備になったハリーの姿は威圧的の一言だった。身に纏うスーツも見た目こそアルマーニ辺りの高級イタリアン・スーツだが、これも内張りはセラミックと特殊繊維の複合材で作られた特殊防弾仕様。自動ライフル一挺に自動ショットガン一挺、拳銃二挺にナイフ三本と、そして大量の弾薬を背負ったハリーの格好は、正に人間武器庫と例えるのが相応しいだろう。
「…………ハリー」
 そうして、完全武装をしたハリーが無言のままにハマーの傍を離れようと山の方に向かって歩き出すと。すると数歩歩いたところで、ハマーの窓を開いたミリィ・レイスが肘を突き窓から軽く身を乗り出しながら、少し遠くなったハリーの背中にそっと呼びかけていた。
「どうした?」
 立ち止まり、首だけで振り返るハリー。そんな彼の姿を見たミリィは「ふっ……」と何故か小さく笑えば、懐から取り出したフィリップ・モーリスの煙草を咥える。
「くれぐれも、気を付けて」
 そのフィリップ・モーリスに火を点けながら、ミリィは小さく、呟くような声音でハリーに告げていた。
「……ああ」
 ハリーもフッと小さく笑い返し、そして後ろ手に振りながら再び歩き出した。ミリィの好きなフィリップ・モーリス銘柄の煙草から遠く漂う、控えめな紫煙の香りに鼻腔を微かにくすぐらせながら、男は最後の決戦の地へと赴いていく。
「…………」
 目指す先はただひとつ、この先にある"スタビリティ"のボス、ユーリ・ヴァレンタインの大邸宅だ。そこに今も囚われている和葉を救い出し、そして全てに決着を付ける……。
 今夜の戦いで、全てに決着が付く。
 確たる根拠は無いが、しかしハリーは心の何処かでそう確信していた。予感、と言っても良い。何がどう転んだところでこの夜、今から向こう数時間で何もかもにピリオドが打たれると、ハリーはそんな予感を胸に抱いていた。
 故に、男は独り歩き出す。進み往くその脚を止めることなく、ただ真っ直ぐに。最後の修羅場へ、熾烈な戦いの待ち受ける熱い鉄火場へと赴かんが為に…………。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...