SIX RULES

黒陽 光

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第六条(上):この五ヶ条を破らなければならなくなった時は――――

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 暗闇の中、三十分ほど掛けてハリーは麓から続く細い私道沿いに山を登り、そして遂にユーリ・ヴァレンタインの邸宅のすぐ傍まで忍び寄っていた。
「…………」
 道から少し外れた茂みの中、太い木に隠れたハリーは持ち込んだ小さな双眼鏡を使い、邸宅の様子を窺った。
 ――――この邸宅の概要自体は、出発前にミリィ・レイスの用意した衛星写真で概ねのことはハリーも把握している。
 山を切り開いて造成されたような広大な敷地の中、広すぎる庭が広がるその敷地の中央にポツン、と巨大な邸宅がそびえ立つのが、このユーリ・ヴァレンタイン邸の大まかな配置だ。しかし広大な敷地といってもその周囲は背の高い塀がぐるりと囲んでいて、高さこそ分からないもののほぼ確実に正門以外からでは侵入できないだろう、というのがミリィの見解だった。
「どうやら、その通りのようだな……」
 双眼鏡で邸宅の方を窺いながら、ハリーが小さくひとりごちる。確かにミリィの予想通りに塀の高さは尋常じゃないぐらいに高く、とても乗り越えられそうになかった。
「正面から突破するしかない、か」
 溜息交じりにハリーがまた独り言を呟くが、しかし正門も正門で、また面倒な雰囲気が漂っている。門の突破自体は簡単そうな雰囲気だが、しかし傭兵と思しきMP5-A5サブ・マシーンガンを携えた二人が門番として門の前に張り付いているのだ。
 一人ならば投げナイフで何とかなるかもしれないが、二人となるとどうしても仕留める前に騒がれてしまう。こちらの手元にはサイレンサーの着いた静かに始末できる武器は無いし、静かに内側へと潜り込むことは難しそうな雰囲気だ。
「こんなことなら、サイレンサー付きのをミリィに用意させるんだった」
 双眼鏡を仕舞いながらハリーが独り毒づくが、しかし今更になって無い物ねだりをしても仕方がない。こうなってしまった以上は、派手なら派手なりに上手く立ち回ろうとハリーは決意した。どのみち、この状況で静かに潜入というのは間違いなく不可能だ。
 そのまま茂みの中を息を殺しながら進み、ハリーは徐々に正門の方へと近寄っていく。確実に仕留められる距離まで、出来るだけ近づいておきたかった。
「…………」
 そして、ハリーは少しの時間を費やしながらも、正門のすぐ脇ぐらいまでの接近に成功した。息を殺して森の中に潜みながら、衛兵二人の荒削りな英語での会話に聞き耳を立てる。
「――――それにしても、分からんよなクライアントも」
「ユーリ・ヴァレンタインか?」
「そうそう、あのおっさんだよ。"スタビリティ"からの仕事だってんで喜んで請けて、さあ蓋を開けてみればこんな極東のド田舎で警備員ごっこだ。ワケが分かんねえぜ」
「警備員ごっこならまだマシさ。噂じゃあ、別の奴らはどこぞの学園一つを襲ったらしいぜ」
「マジでか?」
「多分、マジだと思うぜ。金払いは良いが、早めにトンズラした方が良さそうな雰囲気だ」
「だな……」
 どうやら、雇われた傭兵たちの中でもユーリ・ヴァレンタインに対する不信感が募っているようだった。当然といえば当然かもしれない。特に美代学園での一件に駆り出された連中からすれば、たまったものではないだろう。あの事件に参加していた傭兵の中にも比較的マトモな神経をした奴も居たはずだ。全員が全員、ウォードッグのような戦争中毒者というワケではないのだから。
 だが、如何なる事情があるにせよ、銃を持って前に立ちはだかる以上はハリーにとって彼らも他と同様に敵だ。あの二人には悪いが、此処で永遠の眠りに就いてもらうことにする。
 そう思うと、ハリーは胸の前から吊るしながら右手で銃把を握っていた自動ライフル、SIG-516のセレクタを親指で弾いた。セイフティからセミオートへと切り替え、そしてゆっくりと肩付けに構える。銃床に右頬を触れさせながら、T-2ドット・サイトの光点越しに手前の門番の頭へと狙いを付けた。
「――――!」
 瞬間、ハリーは引鉄を絞り発泡する。ターンと乾いた銃声が深夜の山中に木霊すると、側頭部を5.56mmの小口径・高速ライフル弾に撃ち抜かれたその門番は即死しながら、バタリと横倒しに斃れた。
 それから間髪入れずに、ハリーはもう一人の方にも二発を叩き込んで射殺する。バタリともう一度重い音が響いて二人目の死骸が斃れると、とりあえずの脅威は消え去った。
「少し狙いがズレてるな。まあ、ミリィの体格に合わせてあるから、仕方ないのか……」
 ひとりごちながら、ハリーはT-2ドット・サイトのエレヴェーション(上下)とウィンテージ(左右)の調整ノブをクリクリと弄って照準点を修正する。今撃ち放った三発の弾が、ハリーが思ったよりも少し斜め右方へと流れていった為だ。ハリーと体格が違いすぎるミリィ・レイスに合わせて照準が調整してあるから仕方のないことで、200m以内の近接戦程度ならほぼ問題ない。後は、戦いながら微調整をすれば良いだけだ。
 そうしてハリーがライフルの微調整をしていると、邸宅の内側が途端に騒がしくなってくる気配がこちらにまで伝わってきた。今の銃声で、流石に存在がバレたらしい。当然のことで、ハリーにとっても予測の範囲内だ。
「さて、と……」
 邸宅が騒がしくなる中、ハリーは足早に正門を潜り、敷地の内部へと潜り込んでいく。
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