SIX RULES

黒陽 光

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第六条(上):この五ヶ条を破らなければならなくなった時は――――

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「ッ――――!!」
 ウォードッグの右腕が反動で大きく上方へ跳ね上がり、トンプソン・アンコールから超強力な.30-06スプリングフィールド弾が撃ち放たれる数瞬前。ハリーはここぞとばかりに意を決し、傷付いた身体に鞭打って渾身のちからを振り絞り、瓦礫を振り払いながらバネのように飛び上がれば、そのまま寝転がっていたその場から大きく飛び退いた。
 そうしてハリーが飛び退いた途端、つい今の今までハリーが寝転がっていた辺りの床に.30-06弾頭が激突し、床材を大きく抉り飛ばした。本当に抉り飛ばしたという表現が適切なぐらい、例えるならば恐竜の巨大な爪に抉られたかのように巨大な傷跡が、一瞬にして床に刻まれる。
(っぶねえ……!)
 飛び退いた先で再び転がり、吹き飛んだ床の無残な姿を横目でチラリと見ながら、ハリーは改めて戦慄し。そして、ウォードッグの持つトンプソン・アンコールと、そこから撃ち放たれる.30-06スプリングフィールド弾の威力を思い知った。
 やはりどう考えても、あの威力にスーツの防弾ライニングが耐えられるとは思えない。もし仮に奇跡的に貫通しなかったとしても、スーツ越しに伝わる衝撃力だけで致命傷になりかねないだろう。
(とすると、一発たりとて貰うワケにはいかない)
 先程のように、スーツのちからで無理矢理に耐えきることは出来ないというワケだ。一撃でも貰えば、そこで即終了。仮に息があったとしても、後はウォードッグに嬲り殺しにされるだけなのは眼に見えている。
(……つまり、いつも通りってことか)
 しかし、ハリーは決してその事実に臆することはしなかった。どのみち、いつもそうだ。防弾仕様のスーツを着ている今日が特別というだけで、普段の戦いでは一撃でも貰えばそれで即終了に等しい。一撃も貰ってはいけないと言えば難しそうに聞こえるが、要はいつも通りにやれば良いというだけだ。
 大丈夫だ、お前なら出来る。状況が普段通りに戻っただけだ。あんなデカブツに、お前が負けるものか――――。
 己に言い聞かせるように胸の内で繰り返し反芻しながら、己自身を鼓舞しつつハリーは転がった格好から立ち上がる。
「ヘッヘッヘッヘッ……!」
 しかし、その隙にウォードッグはこちらの部屋にやって来ていて。手元でトンプソン・アンコールの銃身を折れば、吐き出した空薬莢の代わりに次の.30-06弾のカートリッジを装填していた。ガチャン、と手首のスナップを利かせ片手で銃身を振り戻し、撃鉄を起こし再びハリーの方に目掛けて構える。
「やべぇっ!?」
 慌ててハリーが立ち上がりその場から飛び退けば、また.30-06スプリングフィールド弾が空を切った。空を切った巨大な弾頭が、ハリーの背後にあった液晶テレビを粉々に吹き飛ばす。
(どうする、どうする……!?)
 次々とウォードッグの手からもてあそぶように放たれる一撃を避けながら、ハリーは必死に思考を駆け巡らせた。しかしその間にも壁は背後に近くなり、後が無くなってくる。
 この場に銃の一挺でも転がっていればまだ対処は可能なのだが、生憎とバックアップ用の拳銃まで向こうの部屋に落としてしまっている。後に残るのはナイフのみといった状況で、飛び道具は一つたりとて手元に無い……!
「……ん?」
 待てよ、飛び道具――――?
 ハッとして、ハリーは途端にニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
(あるじゃないか。飛び道具なら、まだ持ち合わせがあるじゃないか……!)
 ハリーはニヤリとして、ウォードッグの次の一発を避けた後で床にしゃがみ込む。
「へヘッ……!」
 そんなハリーの目論見もいざ知らず、ウォードッグは相変わらずの笑顔を浮かべながらトンプソン・アンコールを再装填。撃鉄を起こしたソイツの銃口を、再びハリーに向けようとして――――。
「うらぁっ!!」
 そうして引鉄を絞ろうとした途端、足首でキラリと煌めいたハリーの左手が突然閃き――――。気付けばトンプソン・アンコールは何か硬いモノをぶつけられていて、思わず手を滑らせたウォードッグの右手の中から激しく滑り吹っ飛んでしまう。
 ウォードッグの手から抜け落ちたトンプソン・アンコールは、そのまま空き部屋のガラス窓を突き破ってベランダの向こう側へと落ちていく。何事かと眼を見開いたウォードッグがハリーの手の中に見たのは――――電灯の灯りの下で怪しく煌めく、短いダガー・ナイフだった。
「……油断禁物だぜ、犬っころ」
 絶句するウォードッグを前にして、しゃがみ込むハリーが不敵な笑みを浮かべる。その左手の中には、右足首の鞘から抜き取った二本目のガーバー・マークⅠダガー・ナイフが収まっていた。
 ハリーは、土壇場で思い出したのだ。自分が足首に投げナイフとしてコイツを隠し持っていたことを。故にしゃがみ込み、左手で左足首に隠していた奴を抜きざまに投擲してやった、というワケだ。
 そしてハリーの目論見通り、投げつけたナイフはウォードッグの持っていたトンプソン・アンコールへ綺麗に命中し、しかもベランダの向こう側にまで吹っ飛んでいくというオマケ付きでウォードッグの手から放すことに成功したのだ。本当は右手首を狙ったつもりだったのだが、まあ結果オーライといった所だろう。
「やるじゃねェか」
 己のリーサル・ウェポンであるトンプソン・アンコールを吹き飛ばされたウォードッグは不敵に笑うハリーを見下ろしながら、歯噛みするどころか寧ろそんな勝算の言葉すら投げ掛けてきた。ハリーに対する本心からの敬意を、言葉の端に滲ませながら。
 そんなウォードッグの反応を見て、奴が何処までも純粋な戦士だとハリーは痛感し、そしてある種羨ましくも思っていた。己の絶対的優位をあんなしょうもない一撃で崩されたとあっては、普通は怒り狂うか動揺するかのどちらかだろう。しかし眼前に立つウォードッグは、寧ろ五分五分に戻った今の状況を楽しんでいるようにも見えた。
「純粋だよ、貴様は」
 本心からの言葉を喋りながら、ハリーがシュッと左手を閃かせる。
「そういうお前も、俺と同類だろォ?」
 額目掛けて飛んで来た二本目のガーバー・マークⅠのブレードを、右の人差し指と中指で挟み、まるで小さな真剣白刃取りのように直前で受け止めながら、ウォードッグもまたニヤけた顔で言葉を返す。彼の放り捨てたマークⅠが、カランコロンと音を立てて床に転がる。
「……かもな」
 フッと小さく笑みを浮かべながら、ハリーはそんなウォードッグの言葉に頷けば立ち上がり。そしてズボンのポケットから引っ張り出した愛用の飛び出しナイフ、ベンチメイド・9050AFOのブレードをバチンと展開すれば、グリップを握り締めた左手で順手に構えた。
「お前みてェな奴と戦えるなんざ、俺ァ幸せ者かもなァ」
 そんなことを独り言みたいに言いながら、ウォードッグもまた大柄なナイフを右手で順手に抜き放つ。ケイバー社製のUSMCファイティング・ナイフ。古典的なスタイルの、由緒正しい戦闘用ナイフだ。
 二人、互いに最後の武器であるナイフを構えながら、ジリジリと睨み合い間合いを取り合う。ウォードッグも、そしてハリーですらも。互いに睨み合いながら、何処か自然と笑みを浮かべてしまっていることに気付かないまま、ナイフを構え二人の男が睨み合う。
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