SIX RULES

黒陽 光

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第六条(下):――――己が信ずる信条と正義に従い、確実に遂行せよ。

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「痛ててて……」
 一方その頃、リムジンの車内では倒れ込んでいた和葉がゆっくりと起き上がっていて。痛む頭を手で押さえていた。横滑りの末に急停止した際に頭でも打ったのか、小さく血が流れているのが分かる。
「来い!」
「ちょっ、何すんのよ!?」
「いいから、来るんだ!」
 そうしていれば、息つく間もなくヴァレンタインに片腕を掴まれながら車外へと引っ張り出される。抵抗する余裕も無く和葉は拘束されると、ヴァレンタインの手でこめかみに拳銃――シグ・ザウエルSP2022――を突き付けられた。
「…………」
 その傍らに、無言で立つジェーン・ブラント。彼女もまた両手の中にグロック18Cマシーン・ピストルを握っていて、リムジン越しの向こうに停まった黒のムルシエラゴ・ロードスターを睨んでいる。
 そうしていると、リムジンを挟んだ先に見えるムルシエラゴ・ロードスターの陰からも、男の影が這い出してくるのが見えた。スラッとした高級そうな黒いイタリアン・スーツを身に纏いながら、しかし何処か傷だらけな印象すら抱かせる、その男。満を持して現れたその男の姿を一目見るなり、感極まった和葉は知らず知らずの内に彼の名を叫んでいた。
「ハリーっ!!」
 ヴァレンタインとジェーン、そして和葉の前に、遂にハリー・ムラサメが現れたのだ。
「……和葉」
 こめかみに拳銃を突き付けられた和葉を見て、とりあえず彼女が今のところは無事であることにハリーは安堵し。そして同時に、彼女にSP2022の銃口を突き付けるヴァレンタインに激しい怒りを抱いていた。
「…………」
 EOTechの553ホログラフィック照準器を載せたM4A1自動ライフルの銃把を握る右手に、自然とちからが籠もっていくのが分かる。激しい怒りに身を震わせながら、ハリーは無言のままでM4A1の銃口をヴァレンタインへと向けた。
「彼女を放せ」
「放したら、どうなる?」と、ヴァレンタイン。「私を殺すのだろう」
「当然だ、貴様は生きて此処から帰さない」
「ハッ。なら誰が放すものかよ。それよりハリー・ムラサメ、貴様の方が圧倒的に不利な状況に置かれていること、分かっているのか?」
「不利なのはお前だ」ハリーが言い返す。「相手にしてるのが誰だか、分かって物を言ってるのか?」
「だが、数の上では我々の方が有利だ。それに、こちらには人質もある」
「…………」
 それを言われてしまえば、確かにその通りかもしれない。ハリーは小さく歯噛みした。
 こちらの武器は手持ちのM4A1自動カービン・ライフルに、背中に背負うSPAS-12自動ショットガン、そしてグロック34と豊富だ。だが向こうにはヴァレンタインの他に腕利きとされるジェーン・ブラントの姿もあるし、それよりも何よりも、和葉が人質に取られているのが痛すぎる。
(下手に、手出しはしにくい)
 ハリーの腕を以てすれば、このままヴァレンタインの眉間だけを正確に撃ち抜くことは造作も無いことだろう。しかし撃たれた後、脊椎反射で和葉に突き付けたSP2022の引鉄まで引かれては洒落にならない。奴が半分素人だからか、狙ってやっているのか、既にヴァレンタインの人差し指はSP2022の引鉄に触れている……。
『……ハリー、悪い知らせだ。応援の到着までは、まだまだかなり時間がかかる』
 しかもこのタイミングで、左耳のインカムから聞こえてくるのはミリィの、本当に悪い知らせだ。こんなもの、事実上の孤立無援宣言と変わらない。
「……待って、ユーリ」
 涼しい顔の下でハリーが焦っていると、しかしそんな折にヴァレンタインを制するようなことを言ったのは、意外や意外でジェーンだった。
「彼は私の獲物にしたいの。折角だから、サシで勝負を付けたい。手出ししないで欲しいわぁ」
「……ジェーン、本当に奴を片付けられるのか?」
 意外すぎるジェーンの言葉にヴァレンタインもまた困惑しながら訊くが、しかしジェーンは一歩も譲らぬといった様子で「面白いわ、やってみる」と、彼の方を振り向きながら片手のグロック18Cを掲げ、頷いてみせる。
「……好きにしろ。とにかく、何が何でも奴を殺すんだ」
「分かってるって」
 最後に小さくヴァレンタインの頬にキスをした後、ジェーンはひょいとリムジンを飛び越えて。そうして、グロック18Cの二挺拳銃でハリーの前に立ち塞がる。
「そういうことで、貴方の相手は私がすることになったわぁ」
「……そうか」
「あのリムジンは念入りの防弾仕様。ユーリもあのにも、流れ弾が当たる心配は無いわぁ」
「お互い、安心してり合えるってことだな」
「そういうことぉ」
 じりじりと睨み合いながら、ハリーはM4カービンを、ジェーンはグロック18Cの二挺拳銃をそれぞれ構え直す。
「貴方の噂は色々と聞いてるわぁ。一度、直接こうして手合わせしてみたかったのよねぇ」
「出来ることなら、女を殺すような真似はしたくないんだけどな」
「そうもいかないのが、現実って奴でしょぉ?」
「違いない……」
 そんな風に、ハリーがフッと微かに自嘲じみた笑みを浮かべる。
「…………」
「…………」
 そして、睨み合う二人。"スタビリティ"の首領ユーリ・ヴァレンタインを護る最後の砦たる彼女との、ジェーン・ブラントとの戦いの火蓋が、切って落とされようとしていた。
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