エージェント・サイファー

黒陽 光

文字の大きさ
37 / 88
Execute.02:巴里より愛を込めて -From Paris with Love-

/02-20

しおりを挟む
『駄目だ、屋敷に敵が詰めかけて来てる。ターゲットは部屋から動いていないけれど、接敵は免れない!』
「こうなっちまった以上、織り込み済みだ!」
 ノエルと二人で階段を駆け上がり、零士は拳銃片手に三階の廊下へと躍り出る。
『後ろだ零士、三秒で三人と接触!』
 インカムから聞こえてくるミリィの声へ機敏に反応し、零士はバッとロングコートの裾を派手に靡かせながら振り向いた。
 そうすれば、キッカリ三秒後にグローバル・ディフェンス社の警備員が姿を現す。奴らが零士の姿を認め、拳銃を構え発砲するよりも早く、零士のPx4ストームが火を噴いた。
 ド派手な銃声とともに、撃ち放たれた強装の9mmパラベラム・ホロー・ポイント弾に抉られ、三人の男たちがほぼ同時のタイミングでバタリと倒れ伏す。狙いは正確ながら、零士の射撃は異様なまでに素早かったのだ。反撃の隙を与えないままに撃ち倒せば、零士はニヤリと口角を釣り上げる。
『お代わりが来る! ノエル、零士のカヴァーを!』
「もうやってるよ!」
 そんな風に零士が発砲するのとほぼ同じタイミングで、ノエルもまた彼と背中合わせになり。反対側の曲がり角から現れた二人に向け、左手一本で構えたマニューリン・MR73をブッ放す。そちらの警備員はサブ・マシーンガンを携行していたが、それを構える間もなくノエルの撃ち放った強力な.357マグナム弾に吹っ飛ばされていた。
「どうかな、レディに背中を護られる気分は?」
 更に追加で現れた二人を続けざまにMR73で吹っ飛ばしながら、背中を合わせる零士の方にチラリと振り返ったノエルが言う。
「悪くない気分だ。第一、俺としては女の子の方が信用できるって考えだからな」
 それに不敵な笑みで応じる零士もまた、Px4から繰り出す神速の連射で、増援の四人を射殺していた。
「……そういうところだよ、ホントに」
「何だって?」
「何でもないよ、それより」
「突破が先決、だろ?」
 高度な訓練を受けているグローバル・ディフェンス社の警備員相手にしながらも、これだけの余裕を見せる辺り、零士はともかくノエルの方もかなりの実力のようだ。流石にシャーリィの眼鏡に適っただけあって、ノエルもまた良い意味でマトモではないらしい。
『……よし、ひとまずは片付いた。九〇秒ぐらいは接敵の危険はないと思う。二人とも、今の内に移動してくれ』
 そして派手ながら一瞬だった銃撃戦に一段落が付けば、ミリィの安堵した声が聞こえてきて。それにノエルが「了解だよ」とインカムに向けて囁き返しているのを尻目に、零士は彼女が撃ち倒した方の骸《むくろ》へと歩み寄っていた。
「レイ、何してるの」
 足元の死骸の傍にしゃがみ込む零士の背中を怪訝に思い、MR73の弾を入れ替えながらでノエルが問う。そんな彼女の足元にカランカラン、と金色の細長い空薬莢が落ちれば、零士は「これだ」と死骸から剥ぎ取った何かをノエルに見せつけてきた。
「使える物は使う、有り難く頂戴しておくのさ」
 そう言って零士がノエルに見せつけるのは、ドイツ製のサブ・マシーンガンだ。MP5K-PDW。小柄で扱いやすく、信頼の置ける近代的な獲物だ。
「なるほどね」
 ノエルが頷きながら.357マグナムの補弾を済ませ、開いていたシリンダーをMR73に戻したタイミングで。零士は「ほらよ」と言って、手にしていたそのMP5K-PDWを彼女に向かって唐突に投げてきた。
「っとっと!?」
 飛んで来たそれを、ノエルは慌てて受け取る。取り落としそうになるものの、何とか受け止めることに成功した。
「もうっ、いきなり投げないでよ!?」
「悪い悪い」
「悪いじゃなくて……わわっ!?」
 と、続けて零士がMP5用の、9mmパラベラム弾が充填された三〇連発の弾倉を幾つも投げてくるものだから、ノエルはまた慌てふためいてそれを受け取る。全部何とか掴み取った彼女が「あのねえ……」と肩を竦めるのは、疲れからだろうか。それとも、零士に対する呆れからだろうか。
「それでノエル、肝心の使い方は?」
「MP5だよね? なら、一通りは」
「だったら問題なし、だ」
 頷くノエルに零士はニヤリと笑みを返しながら、ベネリM4の自動ショットガンを片手に立ち上がった。12ゲージ径のショットシェルを使う、イタリア製の名銃だ。これもまた死骸から剥ぎ取った物だろうことは、考えるまでもなく明らかだった。
『用は済んだかい? なら早めにその場から離れてくれ。階下から敵が大挙して押し寄せてきている』
「了解だ」と、零士がインカムに向けて頷き返す。
「ノエル、急ごう。出来る限りドンパチにならないことを祈りたいが」
「どう考えたってそうはならないことが、辛いところだね」
「全くだよ、泣かせる話だぜ」
 二人はそれぞれの拳銃を一旦収め、奪い取った自動ショットガンとサブ・マシーンガンを手にまた走り出す。ターゲットの二人、ジルベール・シャンペーニュとベアトリス・ブランシャールが待ち構える応接間までは、まだまだ道のりは遠そうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

処理中です...