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Execute.05:シチリアへようこそ -Welcome to Sicily-
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「はぁ……」
週末も明け、週も半ばといった水曜日の三限目。老教師がボソボソと喋る化学の授業を聞き流し、頬杖を突いて窓の外を上の空な顔でぼうっと眺める小雪が、何の気無しに小さな溜息をついていた。
その原因は、零士だ。昨日までは普通の顔をして学園に来ていたのに、今日になってからまた休み始めた。零士が風邪を引いただとかそういうことは、未だ嘗て聞いたことが無いのだが。しかし一度休み始めると期間が凄まじく長くなるのが零士だった。
休む期間は、一週間とかは当たり前。今までに小雪が覚えのある中で一番ひどかったのが、去年の秋頃だ。確か記憶が間違っていなければ、三週間近く零士は学園を休んでいた気がする。あんな休み方を割と高い頻度でやっていて、無事に単位を取れて進級できているのが本当に納得出来ない。
まあ、といっても本人の成績自体は悪くない。基本的には平均前後ぐらいな点数を定期テストの度に取ってくる彼だが、アレだけ休むわサボるわしている癖して、何故か英語教科だけは余裕の顔でほぼほぼ満点近い点数を取ってしまうのだけは、どうしても小雪は納得がいかなかった。尤もその代償としてか、古典科目の成績は散々なのだが……。
(零士が休むのはさ、いつものことだよ? でも……)
そう、小雪がこんなに憂鬱そうというか、心此処に在らずみたいな顔をしている最大の理由。それは決して零士がまた休み始めたからではなく、寧ろその後ろまでもが空席なことだった。
ノエルまで、休んでいるのだ。しかも、零士と全く同じタイミングで。
正直に言って、零士と一緒になって彼女までもが居ないのは寂しい。小雪にとって一番の話し相手は零士だが、ノエルはこれだけの付き合いの短さながら、その次によく話すぐらいの深い間柄になっていたのだ。
そうなったのにはきっと、お互いの心の内を曝け出し合ったことが一番大きな原因だとは思う。小雪が零士に対し密かに恋い焦がれているように、ノエルもまた、彼に対して並々ならぬ想いを募らせていることは、この間の一件でよく分かった。恋敵ではあるものの、だからこそ気兼ねなく話せている節もある。
とまあ、零士は元よりノエルもが小雪にとってはそんな存在だったから、実のところ今日は小雪、これでもかなり寂しい思いを募らせている。勿論他にも話し相手だとか友達とかは居るのだが、二人ほど気楽に話せる相手は他にないのだ。
……が、それよりも。小雪からしてみれば二人が居ないことへの寂しさもあるが、それ以上にこの奇妙なタイミングの一致を不審に思う心の方が大きかった。
(やっぱり、変だよねえ……同じ時期に休むだなんて)
偶然といえば、それで片付けられてしまう。片付けられてしまうのだが、小雪の心はどうしても、それを単なる偶然の一致として片付けたくなかった。
考えすぎなのかもしれない、とも思う。ノエル・アジャーニが現れたことと、零士に対する彼女の気持ちをハッキリと聞かされたこと。そのせいで、過剰に反応しているだけかも知れない。
でも、やっぱり小雪は変に思う心を止められないでいた。やっぱり変だと、二人の間に何かあるんじゃないかと。そういう思いが胸の奥でぐるぐると巡り巡って、堂々巡りを繰り返す。止めようとしても止められない。どうしようもないほどに、疑念の渦がぐるぐると。
「……ま、考えすぎても仕方ないんだけどさー」
考えすぎても仕方ない。そうは思い、ほんの小さく、言い聞かせるようにひとりごちても。やはり、渦巻く思いは止められないでいた。
こういう時は、いっそ次の四限目はサボってしまおうか。そんなことすら小雪は考えてしまう。零士とよくお昼を食べるあの場所、旧校舎の屋上なら、誰からも咎められることはない。幸いにして零士がくれたあそこの合鍵はいつでも持ち歩いているし、何なら今からでも行けるぐらいだ。
(零士も、ノエルちゃんも。早く顔出してくれないかな。寂しいよ、私ひとりっきりはさ……)
授業も上の空で、頬杖を突いて窓の外なんかを眺めながら。小雪は堂々巡りする思いに、ただただ溜息をつくだけしか出来ない。
そんな彼女の、憂鬱そうな双眸がぼうっと眺める先。窓の先には、点々と白い雲の浮かぶ蒼穹が広がっていた。青々とした色で、何処までも続いていくような蒼穹が。世界の何処へでも繋がる、そんな蒼が…………。
週末も明け、週も半ばといった水曜日の三限目。老教師がボソボソと喋る化学の授業を聞き流し、頬杖を突いて窓の外を上の空な顔でぼうっと眺める小雪が、何の気無しに小さな溜息をついていた。
その原因は、零士だ。昨日までは普通の顔をして学園に来ていたのに、今日になってからまた休み始めた。零士が風邪を引いただとかそういうことは、未だ嘗て聞いたことが無いのだが。しかし一度休み始めると期間が凄まじく長くなるのが零士だった。
休む期間は、一週間とかは当たり前。今までに小雪が覚えのある中で一番ひどかったのが、去年の秋頃だ。確か記憶が間違っていなければ、三週間近く零士は学園を休んでいた気がする。あんな休み方を割と高い頻度でやっていて、無事に単位を取れて進級できているのが本当に納得出来ない。
まあ、といっても本人の成績自体は悪くない。基本的には平均前後ぐらいな点数を定期テストの度に取ってくる彼だが、アレだけ休むわサボるわしている癖して、何故か英語教科だけは余裕の顔でほぼほぼ満点近い点数を取ってしまうのだけは、どうしても小雪は納得がいかなかった。尤もその代償としてか、古典科目の成績は散々なのだが……。
(零士が休むのはさ、いつものことだよ? でも……)
そう、小雪がこんなに憂鬱そうというか、心此処に在らずみたいな顔をしている最大の理由。それは決して零士がまた休み始めたからではなく、寧ろその後ろまでもが空席なことだった。
ノエルまで、休んでいるのだ。しかも、零士と全く同じタイミングで。
正直に言って、零士と一緒になって彼女までもが居ないのは寂しい。小雪にとって一番の話し相手は零士だが、ノエルはこれだけの付き合いの短さながら、その次によく話すぐらいの深い間柄になっていたのだ。
そうなったのにはきっと、お互いの心の内を曝け出し合ったことが一番大きな原因だとは思う。小雪が零士に対し密かに恋い焦がれているように、ノエルもまた、彼に対して並々ならぬ想いを募らせていることは、この間の一件でよく分かった。恋敵ではあるものの、だからこそ気兼ねなく話せている節もある。
とまあ、零士は元よりノエルもが小雪にとってはそんな存在だったから、実のところ今日は小雪、これでもかなり寂しい思いを募らせている。勿論他にも話し相手だとか友達とかは居るのだが、二人ほど気楽に話せる相手は他にないのだ。
……が、それよりも。小雪からしてみれば二人が居ないことへの寂しさもあるが、それ以上にこの奇妙なタイミングの一致を不審に思う心の方が大きかった。
(やっぱり、変だよねえ……同じ時期に休むだなんて)
偶然といえば、それで片付けられてしまう。片付けられてしまうのだが、小雪の心はどうしても、それを単なる偶然の一致として片付けたくなかった。
考えすぎなのかもしれない、とも思う。ノエル・アジャーニが現れたことと、零士に対する彼女の気持ちをハッキリと聞かされたこと。そのせいで、過剰に反応しているだけかも知れない。
でも、やっぱり小雪は変に思う心を止められないでいた。やっぱり変だと、二人の間に何かあるんじゃないかと。そういう思いが胸の奥でぐるぐると巡り巡って、堂々巡りを繰り返す。止めようとしても止められない。どうしようもないほどに、疑念の渦がぐるぐると。
「……ま、考えすぎても仕方ないんだけどさー」
考えすぎても仕方ない。そうは思い、ほんの小さく、言い聞かせるようにひとりごちても。やはり、渦巻く思いは止められないでいた。
こういう時は、いっそ次の四限目はサボってしまおうか。そんなことすら小雪は考えてしまう。零士とよくお昼を食べるあの場所、旧校舎の屋上なら、誰からも咎められることはない。幸いにして零士がくれたあそこの合鍵はいつでも持ち歩いているし、何なら今からでも行けるぐらいだ。
(零士も、ノエルちゃんも。早く顔出してくれないかな。寂しいよ、私ひとりっきりはさ……)
授業も上の空で、頬杖を突いて窓の外なんかを眺めながら。小雪は堂々巡りする思いに、ただただ溜息をつくだけしか出来ない。
そんな彼女の、憂鬱そうな双眸がぼうっと眺める先。窓の先には、点々と白い雲の浮かぶ蒼穹が広がっていた。青々とした色で、何処までも続いていくような蒼穹が。世界の何処へでも繋がる、そんな蒼が…………。
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