幻想遊撃隊ブレイド・ダンサーズ

黒陽 光

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第一章『戦う少年少女たちの儚き青春』

Int.02:弥勒寺一真と綾崎瀬那①

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 ――――今から四十年前、この世界に振ってきたのは神でも悪魔でも、まして世界の終わりを告げる恐怖の大王でも無く。物言わぬ侵略者たちだった。
 "幻魔げんま"と、奴らはそう呼ばれている。地球上の六箇所に落下した巣、"幻基巣げんきそう"から無尽蔵に湧き出る侵略者。コミュニケーションは取れず、その意図は未だ掴めないまま。種の存亡を掛けただ戦うことのみが、人類が唯一許された彼ら"幻魔"への接触手段だった。
 世界各国軍の文字通り死力を尽くした奮戦と、身長8mの人型ロボット兵器"TAMSタムス"の開発が功を奏し、人類は辛うじて六箇所の幻基巣の内二ヶ所を破壊することに成功した。だが幻魔の勢いは衰えるどころか寧ろ増す一方で、辛うじて得た勝利も虚しく、人類はただただ防戦一方のまま、追い詰められ続けている……。
 幻魔が訪れる前の世界なら、きっとSF小説の題材にでもなっていたのかもしれない。巨大ロボット兵器が群れを成し異星人と戦うだなんて、まるでお伽話だ。
 しかし、これはこの世界にとっての紛れもない事実である。そんなお伽話めいたことの為に、今までにどれだけの人間が犠牲になったことか。その数は計り知れず、いつしか人々はその数を数えることすらやめていた。
 そんな幻魔に対抗出来る、最大にして最強の陸上兵器・TAMS。それに乗り込む将来有望なパイロット候補生を育て上げるのが各地に存在する士官学校であり、中でもここ、国防陸軍・京都士官学校は名門の一つに数えられる内の一つだ。既存の公立高校をそのまま徴用する形で出来上がった訓練施設だが、その規模は大きい。
 そんな京都士官学校の、徴用した高校校舎の二階にある談話室。そこに弥勒寺一真は連れて来られていた。
「――――つまり、案内された弥勒寺が部屋に入ったところ、全裸の綾崎と鉢合わせしてしまったと」
 一真の対面にある革張りのソファに座る指導教官・西條舞依にしじょう まいはコトの顛末を大方聞き終えると、煙草を吹かしながら至極面倒くさそうに一言で纏めた。
「完全に事故だな、それは」
「ですよね」
「――――しかし、西條教官っ!」
 参った顔で同意する一真の横で立ち上がり、血相を変えて西條に異議を申し立てるこの少女こそが、一真が先程寮の部屋で出くわしてしまったあの少女だ。名前は綾崎瀬那あやさき せな。長い髪を今は頭の後ろでポニー・テール風に紐で纏めていて、訓練生用の学生服じみたブレザーと短いチェック柄のスカートを身に纏っている。
「なんだ、何か不満でもあるのか、綾崎訓練生」
「事故であることは認めましょう。ですが、教官! そもそも男子と同室であるなど、常識的に考えられないことでありましょうて!」
 顔を真っ赤にした綾崎の申し立てに「……ま、そうかもしれんが」と西條は一度同意の色を見せるが、
「しかし、こちらとしても余裕はないのだ。ただでさえ今期の男子訓練生は少ない上、殆どが実家通いだ。なのに弥勒寺にだけ個室を割り当てていては、幾ら寮があっても足りはしない」
 と、綾崎の異議をバッサリと切り捨ててしまう。
「ですが!」と反論する綾崎。「ならば、何故事前にお教え頂けなかった!?」
「んー、まあ直前まで決まってなかったからな」
「決まってなかった……?」
 反芻するように言う綾崎に「ああ」と西條は頷き、
「決まったのは今日の朝、弥勒寺がここに到着してからだ。誰を同室にして犠牲にするか最後まで悩んだんだが、結局は綾崎、お前に決まった」
「なら、何故それを先に!」
「いや、一応事前にお前の部屋に行ったんだが、生憎留守だったからな」
「っ、それは……!」
 言葉を詰まらせ、綾崎はそれ以上の反論をやめた。実は彼女、一真が部屋に入ってくる少し前まで朝の自主トレーニングに出ていて、丁度あの時は汗を流しシャワーを出た直後だったのだ。だから、あんな姿だったというワケだ。
「お前とは境遇も何処か似ている男だ、相性は悪くないと思ってな……。
 ――――とにかく、そういうことだ。弥勒寺? お前も異論は無いな?」
「は、はあ……。ありませんけど」
 とはいえ、無いと言えば嘘になるかもしれない。何せ年頃の男女が一つ屋根の下に住むってことで、一体全体どんな間違いが起こってしまうか分かったものではない。無論、一真もそこまで野獣ではないのでその気は全くないのだが、しかし人間どこでどう転ぶか分かったものじゃない。本音を言えば、一真としても一人部屋の方が何かと気を遣う必要が無いから、ありがたいのだ。
 だが、学校側に余裕があまりないのもまた事実だ。まして近年では、長きに渡る徴兵の影響かパイロット候補生は女子の割合が昔に比べて多くなったと聞く。ただでさえ女子分で部屋が圧迫されているのに、たかが男一人の為に寮の部屋一つを潰すわけにもいかないのも、また現実なのだ。
 だから一真としては、最終的にその特例じみた決定に依存は無かった。無いのだが、問題は肝心のルームメイトの方なワケであり……。
「……」
 チラリ、と横に立つ綾崎の方を覗き見る。彼女は仁王立ちで立ち尽くしたまま、目の前の西條と暫くの間視線だけを交わし合っていた。
「…………了解しました、西條教官」
 やがて、彼女も渋々といった様子で寮の件を了承する。横で一真が小さくホッと胸をなで下ろしていると、それに気付いてか気付かずかニヤッと小さく口元を歪ませた西條が「なら、話はこれで終わりだ」と二人に告げてきた。
「用が済んだのなら、二人ともさっさと寮に戻れ。明日はお待ちかねの入学式だからな。朝から早いぞ?」
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