幻想遊撃隊ブレイド・ダンサーズ

黒陽 光

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第一章『戦う少年少女たちの儚き青春』

Int.20:虚構空間、少年は幻影の戦場へ⑤

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『――――訓練終了。よくやったぞ、東谷。それに弥勒寺も』
「はぁ……っ!」
 その後、残った霧香機と一真機は、なんとか仮想幻魔の殲滅に成功。モニタに薄白いもや・・が掛かり、中央に"訓練終了"の文字が浮かび上がると同時に聞こえる西條の無線を聞いて、一真はドッと疲れに押され溜息まじりに軽く項垂れた。
「よく頑張ったな、一真」
「ああ……」
 後ろから飛んでくる瀬那のねぎらいの言葉に、一真はやはり疲れた声で返答をする。
「良いとこは全部、霧香に持って行かれちまったけどな……。俺なんて、ついて行くので必死だった」
 敵陣の中へ飛び込んでいった霧香の≪新月≫。あの動きを思い出すと…………今でもゾッとする。
 右手に突撃機関砲、左手に対艦刀という格好で側面から敵集団を喰い破る形で突撃していった霧香機が、単機でバッタバッタと敵をなぎ倒していく光景が、今でも瞼の裏に焼き付いている。身体の小さいソルジャー種は意にも介さず≪新月≫の足に踏み潰され、迫るグラップルは舞踊でも舞うみたく踊る霧香機の対艦刀で切り刻まれ、遠距離から撃ちまくってくるアーチャー種たちはその合間に機関砲で撃ち倒されていく……。
 本当に、あの時の霧香機の動きはおかしかった。あれだけの殺戮の嵐を繰り広げているというのに、その嵐の中心に立つ≪新月≫の動きは手先や足運び一つとっても繊細で、本当に舞踊を踊るみたいに流麗でみやびていた。一真はそんな霧香の背中について行くのに必死だっただけで、精々霧香の討ち漏らした僅かな連中をすり潰したに過ぎない。あれだけ居た群れの大半は、その殆どを彼女が始末したと言ってもいいだろう。
「それでも、だ。其方は初めてにしては、本当によくやったと思うぞ。あの霧香について行っただけでも、私からすれば十分すぎる程にセンスがあると見える」
(あの、霧香に……?)
 ねぎらってくれる瀬那の言葉に少し引っかかる節を覚えた一真だったが、しかし疲れからかそれを気にする余裕も無く、一真はただ「あ、ああ。そう言って貰えると、疲れ甲斐があるってもんかな」とだけを、疲れた顔で瀬那に言った。
『では一番機から三番機、次は後ろの順番だ。操縦権を前席から後席に回す』
「一番機・綾崎、心得た」
『にっ、二番機・壬生谷! 了解ですっ!』
『三番機・レーヴェンス、了解……。はぁ、酷い目に遭ったわ』
『だからさステラちゃん、悪かったって』
『白井、アンタはもう喋らない! それとその呼び方! 誰がステラちゃんよっ!』
『ひえっ……』
 視界の端に網膜投影される苛立った顔のステラと、精根尽き果てたような表情をした白井とのやり取りを眺めつつ、やはり疲れの色が抜けない一真は小さく笑みを浮かべる。あれでいてこの二人、意外に相性が良かったりするのだろうか?
「いや、それはない」
「ん? 一真よ、何か申したか?」
「いんや、何でもないよ」
 一真の呟いた独り言に反応する瀬那を適当にいなし、一真は今まで固く握っていた操縦桿から手を離した。パイロット・スーツのグローブに包まれていた自分の両手が、グローブの下でかなりの手汗をじっとりと滲ませている。手の甲で額の汗を拭いながら、一真はドッと身体をシートにもたれ掛からせた。
『後席パイロット諸君、機体操作を渡す。前席二人と馬鹿一人は疲れてる所悪いが、相棒の様子がおかしければすぐに報告し、非常停止スウィッチを入れろ。遠慮は要らん』
『ちょ、ちょっと西條教官んん!? 馬鹿一人って、馬鹿ってもしかして俺のコトですかぁ!?』
『白井、お前以外に誰が居る? 撃墜判定の死因が転倒からの袋叩きなんて初めて見たぞ』
『ひどぅい! 事実だけどっ!』
 ……なんというか、白井は底抜けにポジティヴな性格というか、なんというか。見方次第では完全な阿呆だが、角度を変えればアレはアレでああいう強みなのかもしれない。
 なんてことを、西條と白井の妙なやり取りを聞きながら一真は思っていた。アレだけ悲惨な結果でもここまで騒がしく出来るのなら、ある意味打たれ強い奴なのか。
 そう思っていると、白井は『……まあ』と言って、
『習熟度合いの問題、だろうな。私がオペレータ席から見てる限り、筋は悪くない。後は慣れと練習だぞ、白井』
『ほっ、ホントっスかぁ!? 嬉しいなあ、あははは』
『ま、前代未聞の死因であることには変わりないがな』
『うう、それを言わないで貰いたいっスよぉ』
 ははは、なんて笑いながら、コロコロと表情を変える白井を眺める西條は『こほん』と軽く咳払いをして話の方向性を元に戻すと、軽くニヤけていた顔付きを元に戻した。
『では、後席に操縦権限を委譲する。01綾崎、02壬生谷、03レーヴェンス、ユー・ハヴ・コントロール』
「一番機・綾崎、アイ・ハヴ・コントロール」
『に、二番機・壬生谷! アイ・ハヴ・コントロールっ!』
『……三番機・レーヴェンス、アイ・ハヴ・コントロール。いつでもいけるわ』
 そうして、"01"~"03"までの各シミュレータの操縦権限が、前席の一真たちから瀬那ら後席に座る面々に移される。
「……瀬那」
 操縦桿を握り締める瀬那の方へ軽く振り向きながら、一真が彼女に呼びかける。
「ん、どうした」
 視界の端に直接、そして網膜投影されて見える瀬那の顔は、平静を装っていてもやはり何処かに緊張の色が見え隠れしていた。
「俺にだって出来たんだ。瀬那にだって出来るさ」
 それを分かっていたから、一真は瀬那に向けてそう言った。網膜投影のウィンドウでなく、直接後ろの瀬那と眼を合わせて。
「……うむ」
 こくっ、と深く頷く瀬那。
「一真よ」
「ん?」
「……ありがとう。少しばかり、妙な気がほぐれた」
 そう言う瀬那の顔から、今までの変な緊張の色は完全に抜けていた。いつもの凛とした、確固たる自信に満ち溢れた瀬那の顔に戻っている。
「ああ、存分に暴れてやれ」
 そんな瀬那の顔を見て、思わず一真も小さく笑みを浮かべてしまう。そうすると、再び白一色に戻っていたシミュレータの半天周シームレス・モニタに、先程と同じ緑溢れる平野の景色が戻ってきた。
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